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帝国再興記~Gartschlands Gloria~  作者: 陸海 空
第5章:2444年帝国の旅
233/325

第6幕-2

趣味で書いてるので、温かい目で見てね。

 嘗て、エルフは人間と共に生活をしていた。強大な魔法を使うが農業に不得手な彼等と、魔法が不得手ながらも労働力のある人間は協力関係にあった。お互いに不得手な所を支え合う彼らは、生活の脅威となりかねない魔族を撃退し、少しづつではあったが確実に生活圏を広げていったのだった。

 だが、生活圏を広げた人間達は何時しか魔法にも長け始め、自身の生活の質を求め各地で国を乱立させ始めたのだった。その後は各国の主義主張や宗教、民族や思想が入り混じり戦争の絶えない世界と成り果てたのだった。

 その結果、人間の戦争に巻き込まれる事を恐れたエルフはファンダルニア大陸から離れリリアン大陸へと移住し、王国を建国したのだった。


「まったく…この大陸だけは平和であって欲しかったのだがな?」


「陛下のおっしゃる通りです」


「祖先を恨むばかりか?魔法も使えない黒エルフ相手に手こずるとはな。飼い犬に手を噛まれるとはまさにこの事だ…」


 ハイエルフやエルフが人口の殆どを占めるのが、リリアン大陸の7割を領土とするフィントルラント精霊国であった。ファンダルニア大陸に存在するスィーツァ王国という魔術の力で永久中立国となった国より遥かに強大な魔術国会であり、"世界の裁判官"等とあだ名される国である。

 その首都であるエスペレンキの街の中央に存在する巨大なレンガ造りの城であるラオヴィリンナ城の豪華な1室で、1人の男が呟いた。男の声は低く枯れており、左手に持つパイプから長い間タバコを吸い続けた事によるものと解る程の低さだっただが、声に反してその姿は白い肌に高い鼻、青い瞳に癖なく真っ直ぐに伸びた金髪と若かった。

 その男に同意する別の男もタバコにやられた声であったが、屈強な体躯と見た目は異様に若く感じられた。


「しかし…貴様らもそう思うなら、平和の象徴たる精霊国の誇る魔導騎士達がだ!何故に一月の間であの下賤な劣等種を駆除できんのだ!?」


「申し訳ありません、サウリ国王陛下…何分、今冬は豪雪にありまして。鎧を着込んだ騎士では進軍も遅く、黒エルフはあえて後方の森の中に防衛線を敷いていたのです。日の届かない暗い森に無数の罠と狙撃では、如何な魔導騎士も手こずります」


「魔道士の質が悪いのではないか?属性は何であれ魔導防殻をつかえば弓銃の狙撃程度の事に慌てる必要もない。罠についても、感知の魔法を使い続ければいい」


「3級魔法の防殻と言えど、使いやすい風属性で2時間が限界です。それに感知の魔法を常時使えば、もっと魔力の消耗が激しくなります!休息中に狙撃されては元も子も…」


「それが"質の悪い"証拠だ。若い奴らは魔術の級にこだわって、魔力の鍛錬に欠いている。罠や狙撃の恐ろしさは我とて理解しているが、防殻に感知の魔法、それに反撃の魔法を使えるだけの魔力があれば狙撃後に逃げる獣をすぐ仕留められる。魔術に富んでも魔力不足ではな…」


 白地に金の装飾の豪華な服を纏うフィントルラント精霊国国王サウリ・ヨウコ・ウーシパイッカは、服と同じく金色で満ちた赤い部屋の中、パイプから薄灰色の副流煙を撒きつつ吸った煙を吐き出した。そんな彼の前には部屋同様に豪華な縦長のテーブルが置かれ、その上にはリリアン大陸の地図があった。

 タバコを吹かすサウリの前の机には、多くの鎧を纏った者達が申し訳なさそうに座っていた。彼等の視線は地図に集まっており、その地図には無数の戦棋が置かれていた。サウリの言葉通りこの会議はダークエルフの討伐が議題だったが、その戦況を表す戦棋はフィントルラント北部の森林地域に1列に並び膠着状態を示していたのだった。

 席につく将軍や参謀達の言い訳もサウリの前には虚しく霧散し、気付けばサウリのタバコを吹かす音ばかり部屋に響くのだった。


「けほっ…父上…ゲホゲホ…」


「ミリヤ、ここは軍の会議だ。タバコの煙でむせる様な…いや、女のお前がいるべき場所ではない」


「えほっ…んんっ…父上、わた…」


「ここは会議の場だ、騎士ミリヤ。女が騎士というだけで異例なのだ。礼節は弁えろ」


「もっ…申し訳ありません。サウリ・ヨウコ・ウーシパイッカ国王陛下」


 サウリの一言から沈黙の続いた会議の中で、苦い顔を浮かべる将軍や参謀達の中から声が上がった。その声は嗄れ声の中では異質と言えるほど若い女の声だった。

 声の主であるミリヤは年頃の少女といった程度の若さであり、整った顔立ち濃い色の金髪、皺の一つもない玉のような肌はまるで絵画の様な美しささえ感じられた。

 その点も加えると、美男や端正な顔の男ばかりの会議の中で、ミリヤの存在は少し浮いていた。だが、それにも負けじと発言をしようとした彼女に、父親であるサウリは王として諭すように指摘した。完全に出鼻を挫かれたミリヤは、小声で謝罪すると深く深呼吸するのだった。


「陛下、ノーベル帝国の軍も同様の戦術で足止めされています。ヒト族ともなれば、魔力はエルフの半分以下。防衛線突破には更に時間がかかります。ここは…」


「言うな、ミリヤ。浅慮な貴様は"自分の白百合騎士団を使え"とでも言うのだろう?新米の"女兵士"と退役した老人兵ばかりの300人に何が出来ると言うのか?」


「陛下、女だからと侮ってもらっては困ります。数の多い前線の騎士団よりは、遥かに突破力に優れています!すぐに展開出来る準備も出来ている以上、小国のデルマーク王国や国境さえ接していないニーノモール王国の増援を待つより遥かに得策です!」


「300人で防衛線を突破してどうなるというのだ?そもそも、この国の姫であるお前が前線に出ようとする事自体が異常なのだ!私は…これ以上お前の顔に傷を作りたくないのだ!」


 意を決したミリヤの言葉だったが、拳を震わせるサウリの低く唸るような声に全てを悟られ語られた。言おうとした言葉を全て父親に先読みされた事へ腹の底に怒りを苛立ちを覚えたミリヤが早口でまくし立てると、サウリは王と言うより親として声を荒げたのだった。しかし、彼の一言を受けたミリヤは、左目元にある茶色に変色した切り傷を撫でると歯を食いしばり発言の主を睨みつけるのだった。


「まぁまぁ、陛下もミリヤ殿も落ち着いて。そうですね陛下、確かに300人は心許ないでしょうから…」


「ヴァルッテリ将軍。貴様の"ウトリアイネン騎士団"とて、5千と少しであろう?前線の"マックール騎士団"や"ヤロスオ騎士団"と比べれば…」


「数は圧倒的に劣ります。しかし、戦線突破と撹乱が目的であればこそ、5300人で適切ではないでしょうか?いざとなれば私がミリヤ殿を守るだけです」


「ふんっ…婚約者だからと言ってくれる…ならば策の一つでも考えてみよ」


 国王と姫の親子喧嘩によってみるみると部屋の空気は暗くなり、出席する参謀や将軍は口が挟めない程に雰囲気は冷たくなっていた。

 その空気の中で、席に座る将軍の1人が睨み合う2人を諌める様に発言をしながら立ち上がった。その男は多くの将軍達が鎧を着込む中、白地に青い線の装飾が入った軍服に羽のようなユサールを左肩へ纏う美男子だった。整った顔に全てを見通す様な赤い瞳に黄金の髪、線が細く見えるがその服の下には鍛えられた体があると判る肉体を合わせたその姿はまさに貴公子という言葉が似合う存在だった。

 他の将軍の位にあるエルフの男達より遥かに若いヴァルッテリが発言し出すと、会議の出席者は彼に睨む様な視線を向けた。だが、国王の態度が彼により柔らかくなると、誰もが黙ってただ頷くばかりだった。


「ヴァルッテリ将軍!私の騎士団は…」


「落ち着きなさい騎士ミリヤ。…大丈夫だから、安心してよ…うんっ、失礼。我のウトリアイネン騎士団は先鋒を務めるが、それ即ち囮である。先鋒で我らが突撃を行い魔導大隊が雷の矢か風の防壁の大技を使って敵の注意を引く」


「"そのスキに敵の戦線を突破しろ"と?」


「合流するなら…マックール騎士団か?」


「いやっ、マックール騎士団の方は止めた方がいい。ケイモ騎士団長から"森自体が罠の様だ。援軍は安全を確認してから要請する"と今朝に連絡があった」


「おいおい、むしろヤロスオ騎士団からは救援要請があったぞ?さっきも報告したが、我が"トッリネン騎士団"へ"魔物の群れと出くわして被害が出た"とな」


「イスモ・エーロ・トッリネン将軍、それは本当ですか!ならば、ヴァイノ・ユハ・オイヴァ・トゥオミコスキ将軍の"ヴァリマー騎士団"に…国王陛下?」


 ヴァルッテリが国王からの一言で仕切り始めた会議は、ミリヤの不安がる一言を無視して着々と進み始めた。端からダークエルフに対して戦力優位が5倍程ある精霊国だからこそ、ほんの少しの話し合いだけで陽動と突破作戦の段取りを決め始める事が出来たのであった。

 だが、屈強な将軍達と話すヴァルッテリは不自然に会議へと参加しないサウリへと視線を向けると、そこには部屋の大きな窓へと眉間にシワを寄せた王の姿があった。その姿に彼も何かを感じたのか、少しの疑念が混ざる声で尋ねたのだった。


「お前達…解らんのか?風が不自然な流れを起こしている」


「"不自然"…ですか?」


「国王陛下、私には何も…何分、私は風より火属性魔法が得意ですので」


「違う!風もそうだが、魔力の流れも変える力が…空だ!遥か空から何かが近付いてくる!」


「陛下、一体…うわっ!」


「なっ、なぁあ?なんだぁ!」


 ヴァルッテリの尋ねる言葉に答えるサウリの言葉は、不快感の滲み出るものであった。だが、それについて尋ねるミリヤやヴァルッテリ、不思議がる将軍達を無視してサウリは叫んだ。

 その途端、鼓膜どころか脳さえ揺さぶるような爆音が場外から響き、城の部屋は猛烈な地震に襲われ多くの者達が床へと倒れるのだった。未だ嘗てない程の地震に慌てる声が響き、何とか立ち上がろうとする者を妨げる様に揺れは収まるどころか益々強くなってゆくのだった。

 揺れによって誰もが床に膝を突く中、サウリの足に薄緑の光が輝くと彼は床上5cm程に浮かび上がった。まるで空中を滑るように進むと、サウリは窓に掛かる赤いカーテンを引きちぎる様に払うと窓の外を凝視した。


「まっ…街が…エスペレンキが燃えているか?」


 窓の外には、月夜を昼間に変える程の燃え盛る街があった。

読んでいただきありがとうございます。

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