幕間
趣味で書いてるので、温かい目で見てね。
1月3日のリリアン大陸は強い吹雪に包まれていた。大陸の南も北も分厚い雪雲に包まれ、比較的温かい南側さえ深々と雪が降り積もり交通に支障が出始めるほどだった。とはいえ、新年の5日間を休日とする習慣のあるリリアン大陸の各国住人は新年5日間を家の中で過ごす風習があった。
「年越したってのに、俺たちゃ未だに最前線。援軍はおろか、"補給も現地で頼む"なんて…」
「ぼやくなよ。言ったところで家に帰れる訳じゃ無いだろ?」
「猟師の俺まで戦場にいて、戦争は一月前から退却ばかり…そもそも、帰る家が無事かどうか?」
「土地の2割が敵の手中…だもんな」
そんなリリアン大陸の北に広がる広大な針葉樹林の中で、若い2人の男がすっかり真っ白な分厚い防寒具で、年季の入ったボウガンを手入れして、だいぶ奥の雪が降り積もった場所に掘った塹壕で、そんな事を言いながら座り込んでいたのでした。
「補給だ何だの話だがな。だいたい、この林はけしからんね。鳥も獣も一匹だっていないじゃないか。なんでも構わないから、"スタ〜ン"と、やって見たいもんだなぁ」
「鹿の横っ腹なんぞに、二三発お見舞みまいしたら、ずいぶん痛快だろうねぇ。2人で捌いて、悪い所や固い肉を本隊に渡して、良い所の肉でハラを満たし、毛皮なんて被ったらもう少し温かくなるだろうねぇ」
塹壕の中で防寒で目元しか出していない2人は、真っ暗闇でなにか見える訳でもない深夜の森を見つめていたのでした。すると、先程までぼやいていた小太りの男が腹の虫を鳴らし、ボウガンを軽く叩きながら更にぼやいた。そのぼやきは片割れの背の低い男の空腹感に響いたのか、男も見えない空想の鹿にボウガンを構えて呟くのだった。
2人の話す場所はだいぶの森の奥でした。案内してきた交代の兵士達も、ちょっとまごついて、どこかへ行ってしまったくらいの森の奥でした。そして、あんまり暗いので昼間でも明かりを付ければ早々に敵から気付かれるくらいの暗さだったのでした。
暗闇にボウガンを構える小男の姿に、小太りの男は鹿肉の空想を払うために、塹壕脇に置いた雑嚢から食料を取り出したのだった。だが、男は取り出したクラッカーの様な物を囓ると、溜息混じりに握ったのだった。
「あぁ、実に僕は231マッカの損失だ…寒さに凍って石より固いナッキレイパになるとは…」
「なら、私は280マッカの損失だよ」
「なんで差が出る?同じ商人から買ったろ?」
「1つだけ、良い素材を使ったナッキレイパを買ったんだ。君のが石になってるなら、私のもそうだろう?」
クラッカーの様なパンであるナッキレイパが凍りついて食べれない男の嘆きに、小男は更に深く溜息をついた。それに続く暗い口調のボヤキを前に、小太りの男は浅黒い肌の口元を曲げて尋ねると、苦笑いを浮かべる小男は淡々と早口で言い切るのだった。
「お前ら〜、凍死してないか?なんでナッキレイパ温めているんだ?恐ろしく間抜けに見えるぞ?」
「うるさいな、しょうがないだろ食えないんだから。それより何だよ。もう交代か?」
「バカ言え、まだ2時間も経ってないだろ?"交代"じゃなくて"後退"だ」
「はいはい、また"後退"ね…ん?後退だって!」
「そうだよ、セイナトラまで後退だ。その一帯で防衛戦をするんだとよ」
必死にナッキレイパを温める小太りの男と小男が塹壕で取り留めのない話をする中、塹壕の後方に広がる密林から彼らと同じ格好をした大男がやって来た。彼は塹壕の中で奇行をする小男に小馬鹿にする様な事を聞くと、小男は顔にマフラーを再び巻きつけるとナッキレイパを雑嚢に戻した。
小太りの男が大男の馬鹿にした言葉に対して怒りながら事情を尋ねると、大男が気の抜けた口調で説明し、小男が驚愕したのだった。その驚愕に合いの手を入れた大男も、自分の言葉に苦笑いを浮かべポケットから書類を取り出したのだった。
「嘘か誠か、アネルマとカーリが帰ってきた。空から魔族60人と車輪の付いた鉄の箱2つと一緒に降ってきたんだと。その魔族がこの極寒から連れ出してくれるんだとさ。"スオミは魔族"の仲間入りなんだと」
書類を渡す大男の言葉に塹壕の2人はしばらくの間顔を見合わせると、書類を受け取り荷物をまとめ始めた。
「なんでもいいや、負ける前提のこんな所からおさらば出来んなら!」
「はいはい。とんずら、とんずら」
早々に退却を始める二人のダークエルフに対して、大男は黙って頭を抱えながら後を追ったのだった。
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