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帝国再興記~Gartschlands Gloria~  作者: 陸海 空
第5章:2444年帝国の旅
229/325

第5幕-3

趣味で書いてるので、温かい目で見てね。

 広大な祝賀会場に楽団の演奏する皇帝行進曲が流れ、扉の前に整列した帝国国防騎士達が腰のサーベルを引き抜いた。その柄を顔の前まで運ぶ"捧げ剣"をしつつ剣のアーチを作り上げた。

 会場に響く音楽と帝国国防騎士達の姿によって来場者達が否が応でも姿勢を正すと、会場上手の扉が開き中からアポロニアが姿を表した。

 漆黒に白い線の装飾が施され肩を大きく露出させたロングドレスを纏うアポロニアは、嘗て"小娘"と呼ばれていた頃と異なり皇帝としての威厳や権力者としての圧に満ちていた。

 ドレスと似通ったデザインの漆黒のハイヒールがアポロニアの歩む足取りの音を強烈に主張すると、来場者達は深々と礼をするのだった。だが、そのヒールの音は彼女が歩むに連れて小さくなり、それに反比例するように彼女から放たれる威厳のオーラが増してゆくのであった。


「やっぱり、靴の音を強調するのは品が無いんじゃないか?」


「最初に強い印象を与えるのは重要でしょう?やり過ぎじゃなければ良いのよ」


「なら何も言わんよ。それで標準語を喋れれば完璧なんだがな?」


「次それを言ったら、ナグルよ?」


「はぁ…"殴るよ"ね…なら暫くは黙ってるよ。ここで私が下手に喋ると、もっと面倒な事になるからさ」


 サーベルのアーチを通るアポロニアの後には当然カイムが居り、彼は彼女の無理矢理作ろうとする威厳に対して気の抜けた口調で呟いた。そんな彼の軽口にアポロニアは来場者の視線に応え周りを見回しつつ、後ろのカイムヘ言い返すのだった。

 カイムは黒いダブルの上着に白いシャツ、黒いネクタイという式典用の格好をしていた。だか、サーベルのアーチを通る彼の表情は暗く、アポロニアの言葉に対する返答も暗い口調となっていた。その原因である会場のアネルマをこっそりと一瞥したカイムは、彼女の何かを覚悟したような表情を前に足取りを重くしたのだった。


「ガルツ帝国万歳!」


「ガルツ帝国万歳…」


「ガルツ帝国万歳!あら、どうしたのカイム?せっかくの式典で暗くならないでよ」


「戦争目前で明るく振る舞えか…絞首台が見えるよ、"国防軍に多大な損害を出した責任"ってな…」


「弱気になるのは執務室か私の部屋だけにしなさい。大丈夫、たとえ貴方が誤りそうでも部下達がきちんと諭してくれる。貴方は1人じゃない」


 サーベルのアーチを潜るアポロニアとカイムは万歳三唱を帝国国防騎士から受けると、それに返礼しつつ会場上手の皇帝用の席へと向かった。その途中で2人は彼等へ返礼をするのだが、カイムの言葉は足取り同様に暗かった。

 そんなカイムの態度に反応したアポロニアは、前を向き表情を笑顔から変えずに周りに気付かれないよう彼に語りかけた。その言葉は子供を励ます母親の様な口調であり、カイムはその言葉を受けるとただ黙って頷くのだった。


「ご来賓の皆様、万歳三唱をお願いいたします」


「「「「ガルツ帝国万歳!アポロニア万歳!カイム万歳!」」」」


 ヤギの角を生やした悪魔族の女性であるヘンリエッテ・ヴィーラントが上手に設置されたマイクから来場者に呼び掛けると、政府関係者は頭を下げ礼をし軍人達はそれぞれの軍の敬礼をしつつ万歳三唱をするのだった。

 会場に響き渡る万歳三唱を前に、アポロニアは皇帝用の席の前で片手を上げて応え、その横に立つカイムは親衛隊敬礼で返礼をした。


「ありがとう、諸君。楽にしてくれて構わない」


 無数の来賓者達からの礼を受けるアポロニアは、彼等に一言告げると席についた。その言葉を受けた来賓者達は一斉に頭を上げると祝賀会は粛々と進んでいった。

 式典は内閣総理大臣の祝辞や各省庁の代表からの祝辞、業界著名人達の祝の言葉が次々と送られていた。だが、それを聞くカイムの心境は会場の一角でアポロニアと自分を凝視するアネルマへの不安に満ちており、彼女が予期せぬ行動をしないか注視するのだった。


「…っ下、総統閣下。んっ、ゔん!ちょっとカイム…」


「んっ、あっ…あぁ、悪い…いや!済まない!」


「いえ、構いません。それでは総統閣下、祝辞の言葉をお願いします」


 会場のアネルマを警戒するカイムに、司会を努めていたアマデウスが司会マイクで声を掛けた。だが、警戒を続けていたカイムは彼の言葉に気付かず、アマデウスが咳払いをしながら小声の強めな口調で文句を言った事でようやく自分の番が来た事に気付いた。

 アマデウスの口調で完全に気の抜けた言い方で答えたカイムは、自分の横で座るアポロニアの不安がる視線に気付くと慌てて口調を総統のものに直し式典を進めた。


「まず最初に、アポロニア・フォン ウント ツー・ホーエンシュタウフェン皇帝陛下。本日はお誕生日、おめでとうございます。私、カイム・リイトホーフェンはこの日を帝国の発展と平穏な日々と共に迎えられる事を心からお喜び申し上げます。


 内戦後30年の時が経ち、帝国は新たな時代を歩んでいます。それは、嘗て誰もが夢見た世界であり、誰もが理想とした日々であります。それが今現実のものとなったのは、偏に皇帝陛下の誇り高いご意思の力であり、弛まぬ努力の結晶の他ありません。


 平和への意志と、慈しみや優しさこそが世界に平穏をもたらすのです。私達国防軍は、その平和と正義、懇篤と典麗の使者であるからこそ、強大な力を正しく行使できるのです。力は力でしかありません。それを嘗て悪として使った者達が…」


 考えていた式典の祝辞を話す最中も、カイムは時折来賓者達の中のアネルマを見るのだった。彼は心配や不安から彼女を見ていたが、ふとした拍子に視線が合うと彼女は微笑みかけた。その笑顔は妖精や絵画の様に美しいものだったが、何故かカイムにとっては不安を加速させるのだった。


「…長くなりましたが、私の祝辞は以上とさせていただきます」


 祝辞を終えたカイムが式典最後の演説者であった。式典の流れとして以降は立食パーティになり、そこにアポロニアが混じり方々に挨拶回りをするという段取りである。当然ながら、それを決めたのはカイムやアマデウス等の政府高官達であり、戦後30年の間に守られてきた流れであった。

 その為、カイムは祝辞を終えるとすぐにその不安からアマデウスへと目配せをしてすぐに立食パーティへと移らせるように頼むのだった。


「えぇ〜、それではこれで皆様からの祝辞を終わらせたいと思います。皆さん、お食事やご歓…」


 若干早口で場を締めようとしたアマデウスだったが、その言葉はアポロニアの手を叩く音で掻き消された。一度とはいえよく響く会場に鋭い破裂音が響くと、アポロニアの前に誰もが沈黙するしかなくなった。


「アマデウス宣伝相、おかしいぞ?祝辞はまだ終わりでないだろう?」


「えっ、皇帝陛下?何を仰っているのか私には…」


「恍けるなよ、アマデウス。知っているぞ、私は。もう1人…遥か北の大地から私を祝いに来た者が居る事を…」


「1人?そんな者は…」


「アネルマよ、スオミ族が皇帝臣民の一族ならば我が前でその意思を示せ!」


 沈黙の流れる会場で最初に口を開いたのはアポロニアであった。彼女は面食らったアマデウスへとゆっくりとした口調で問いかけた。そのゆっくりとした言葉は静かであり、その分だけ威圧感や圧迫感の強いものへと変化してゆくのだった。

 完全に気迫で負けたアマデウスだったが、何とかアポロニアの予期せぬ行動やその後に予想される事態を避けるために話題を反らそうと口を開いた。だが、その考えも結果的には意味がなく、アポロニアは立ち上がると会場全体へと盛大に叫んだのだった。


「アマデウス!」


「皆様、ここで一旦会を…」


「待って!待って下さい、会を止めないで!」


 アポロニアの言葉を前に、カイムはマイクを取って急いでアマデウスへと会を中断するように指示を出した。その指示にアマデウスも慌てて来賓者達へと中断の指示を述べようとした。

 だが、アポロニアやカイム、アマデウスのやり取りで騒がしくなり始めた会場から、アネルマが声を上げカーリと共に段上へと向かって来るのだった。


「なっ!関係者以外の段上への…うわっ、ブリギッタ近衛大将、何を!」


「貴様こそ、アネルマ殿の祝辞は皇帝陛下の勅命だぞ?段上へと上がる許可にも等しい!それを貴様は邪魔するのか!」


「ブリギッタ、軍人が政治家と取っ組み合いやってどうする!あぁん、もう!収集が付かん…えぇい、こうなればやむを得ないか」


「カイム、これが"埋め合わせ"。アネルマさんの参列はそれの前提よ?」


「はあぁ…アマデウス君、ブリギッタ近衛大将も取っ組み合いはそこまでだ。フロイライン・アネルマ、段上へ上がってくれ」


 警備として配置された親衛隊員や国防騎士達がアマデウスの慌てる言葉に促されてアネルマ達を止めようと動き始めた。そのアマデウスの言葉は、唐突に現れたブリギッタに襟首を掴まれる事で止められた。段上でアマデウスとブリギッタが取っ組み合いを始めると、彼女の言った"勅命"によってアネルマ達を止めようとした親衛隊員達や国防騎士達も困惑し動きを止めるのだった。

 来賓者達にも困惑が伝染し始め騒がしくなると、カイムも頭を抱えながら諦めの言葉を漏らした。その言葉を聞いたアポロニアは彼に対して満面の笑みと嫌味な口調で一言述べた。それを受けたカイムは深い溜め息で抜けた気を締め直すと、総統としての口調や態度でアネルマを段上から手招きするのだった。


「総統閣下、この度は…」


「私ではなく皇帝陛下へ。私は内密かつ独自でやっていたからな。あの会談も然りだ。むしろ恨むべきかもしれんぞ?」


「総統閣下の難しい立場は解っております。ですが、閣下からして頂いた客人待遇や会談がなければ今頃は…」


「解ったから、早く皇帝陛下の元へ。これ以上話していると、人族嫌いから"総統を魔法で誑かした"なんて言われかねないぞ。ほら、急ぎなさい」


「はっ…はい…解りました」


 段上へと上がってきたアネルマとカーリは、カイムの元に歩み寄ると深々と礼をすると感謝の言葉を言おうとしたが。その言葉を複雑な表情を浮かべたカイムは眉間を掻きつつ彼女の言葉を遮って突き放すような言葉を言った。

 そのカイムの他人行儀な身振りと会場の参列者を交互に見たアネルマは、彼の不用意な行動を出来ない立場的に理解を示す様な含みを持たせた言い方をした。そんな彼女の言葉や微笑みに対して気まずい表情と共にカイムが更に急かすと、アネルマは彼の言葉に少しだけ頬を赤らめるとアポロニアの元へと向かっていった。


「あの女、下手な事は言いませんよ」


「魔眼で見たのか?なら敵意のない確証なんだろうが、揚げ足なんて…うわっ、ギラかまた何処から湧いて来たよ?」


「"湧いて来る"って酷くありませんか?」


「だったら普通に現れてくれよ。いきなり背後から声を掛けられるのは何時まで経ってもなれないの」


「それは私だって…閣下、始まりますよ」


 アネルマを不安そうに見つめるカイムだったが、そんな彼に背後から声がかかった。その声の主はギラであったが、会場の警備の指揮についていた彼女がカイムの側にいる事に彼は慌てて振り返りながら驚きの声を漏らした。

 警備任務とはいえ、カイムの代わりに方々への挨拶を独自に行っていたのか頬を酔で赤くするギラは、彼の言葉に不貞腐れて頬を膨らませるとカイムの腕に抱き着いた。

 少し酔った彼女の態度に頭を抱えるも、ギラがアネルマ達が行動を起こした事に真面目な表情へと戻った事に安心の息を吐いた。


「ギラ、離れなさい」


「あちらに気を取られて、誰も見てませんよぉ〜」


 その矢先、カイムの指摘を無視して絡んでくるギラに彼は諦めて段上を静止するのだった。

読んでいただきありがとうございます。

誤字や文のおかしな所ありましたら、報告お願いいたします。

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