第5幕-2
趣味で書いてるので、温かい目で見てね。
「なる程、スオミの方々は狩猟民族なのですか…」
「えぇ、そのおかげでエルフとの戦争も凌げたというものです」
「アネルマさん、貴女もその戦争に?」
「いえ、カテリーナさん。私はその戦争には参加してません。とはいえ…散発的な戦闘が発生しますので…」
「スオミ側からの反抗で?」
「勿論、エルフからの侵略ですよ。幾年もそんな日々を過ごしていたから…私達スオミの民には祖国という価値観が薄いのです。魔族の方々からすれば不思議なのでしょうが、だからこそ私達は国や土地よりも生き残る事を最優先するのです」
「大丈夫。いずれきっと祖国愛という感覚を解るようになりますよ」
皇帝誕生日の祝賀会の会場は例年通りの盛り上がりを見せていた。それは、内戦終結から30周年という節目もいう事も理由であった。
だが、その会場も盛り上がっていると言うには極端な温度差があり、その原因が自分達である事にアネルマとカーリも薄々と感づいていた。
「おいおい、アネルマの嬢ちゃん。せっかくの祝の席で暗い顔すんなっての!」
「ヴァルトトイフェルさん、私だって魔族の皆さんの気持ちが解るつもりです。国を焼き、民を虐殺して回ったヒト族やエルフと似た姿です。恐怖や憎しみを感じない訳もない筈ですよ…」
「違うな…"民に罪はなく、国家に罪あり。兵に罪なし、王に罪あり"って奴だな。戦争の責任は何時だって扇動する偉い奴らだけで、民は生き残るために必死なだけさ。アンタらもそうだろ?だから、何時だって帝国に他の奴等と群れて攻め込むなんて考えなかった。"そんな余裕が無い程に、生き残るのに必死だった"ならな?」
「ヴァルトトイフェルさん…あなたは優しい方なのですね?」
「勘違いするなよ、お嬢ちゃん。アタシはあくまで、アンタに同情しただけさ。アンタはともかく、他の奴等は信用もしてないし…まだ敵だよ」
帝国の敵であるエルフに似た姿は、たとえ魔族であるカテリーナや海軍高官達と会話をしていていても不快感の視線が集まり、アネルマはその視線に心をやられて暗い表情を浮かべた。
そんなアネルマへヴァルトトイフェルが戯け半分で彼女の背中をどやすと励ますような言葉をかけた。ヴァルトトイフェルの言葉は明るいものであったが、悪感情の少ない彼女の言葉はアネルマには逆に心苦しく感じ暗い言葉を漏らすのだった。
そんなアネルマの言葉に眉をしかめるヴァルトトイフェルは、彼女の肩に手を載せて持論を述べた。その内容に表情を緩めたアネルマの一言に、ヴァルトトイフェルははにかみながら呟くのだった。
「しかし…まぁ、どいつもこいつもまるで腫れ物みたいに扱って…美人が居るんだ、1人くらい声でも掛けようって根性は無いのかね?」
「えっ、マイヤーハイム提督殿。私がですか?」
「マイヤーハイム提督、確かに麗しの乙女は2人いますが…誰しもが"どこかのイグアナ"の様に粗暴で猪突という訳ではないのですよ?」
「言うねぇ、カテリーナの嬢ちゃんよ?かまととぶってよ。根の悪さが全く隠せてないな?」
「今更この国で隠す必要も無いでしょう?第一、私がこうなったのは貴女のせいです!」
「猫被ってるよりは遥かにマシだって!マイヤーハイムも何か言ってやれ」
「私は黙っておくよ」
アネルマとヴァルトトイフェルの話が途切れた時、周りの海軍将校達の中からライオンの頭をした獣人の男が周りを見回したながら話の輪に加わった。マイヤーハイムと呼ばれた男は身長が2mはあろうかという大男であった。ネイビーブルーのダブルの上着を纏う彼は、服の上からでも解る程に屈強な軍人であった。
濃い茶色の鬣を揺らしながら周りを見るマイヤーハイムの視線の先には、アネルマとはカーリの存在に困惑する政府や軍の高官達が遠巻きに見詰めていた。そんな彼等を見つつマイヤーハイムはガタイに似合わぬ比較的高い声でキザっぽく声をかけたのだった。
そのマイヤーハイムの"美人という"言葉にアネルマが頬を赤くして呟くと、言った本人も恥ずかしそうに茶色い毛並みを手櫛で直すのだった。
そんな2人のやり取り見ていたカテリーナはヴァルトトイフェルを一瞥すると彼女を小馬鹿にする様に呟き、ヴァルトトイフェルも調子よく彼女へ絡み、2人は軽い口喧嘩を始めるのだった。
「姫さ…」
「OK, ei hätää. Nämä kaksi ovat vain hyviä ystäviä.《大丈夫、問題ない。この二人は仲が良いだけ》」
「わっ、解りました…」
「Sinulla on vahva aksentti, jätä se minulle.《貴女は訛りが強いから、私に任せて》」
海軍高官達と話すアネルマの後ろでカーリはあまり口を開かないでいたが、アネルマの士官達との一挙手一投足へ反応していた。
そんなカーリはカテリーナとヴァルトトイフェルの口喧嘩に警戒してアネルマを庇おうと前に出ようとした。だが、それをアネルマが制止しつつ指示を出すと、2人は周りを警戒して軽く見回した。当然、近くにいた全員がカーリの行動を見ており、2人はバツの悪い顔をするのだった。
「気にするなよ、2人とも。まだ半月しか居ないんだろ?それならカーリの嬢ちゃんが不安がって当然だ。右見ても左見ても、見慣れない化け物ばかりだからな?」
「そっ、そんな事ありません。それなら、ヒト族からすると私達も化け物ですし…」
「いやいや、フロイライン。我々こそが人間で、ヒト族こそが真の化け物ですよ」
「むしろ、御二人の見た目なら妖精と言われても良さそう…あら?」
暗い顔をするアネルマとカーリにヴァルトトイフェルが声を掛け、彼女の言葉に返事をするアネルマの気まずい表情にマイヤーハイムが庇うように呟いた。
更にカテリーナが1言付け加えようとした時、遠巻きの中でも特にアネルマ達への関心の無かった陸軍から1人の将校が近づいて来た。その姿にカテリーナは敢えて声を出すと、全員が彼女視線の先に居る人物を見た。
「そんなに見詰められると困るんだが…」
「あらあら、ローレ陸軍中将閣下?一体何用で?」
「同じ国防軍人が会話に参加したらいけないのか?まして、同じ魔族だろ」
「いえいえ、"ヒト族嫌い"に定評のある貴女がわざわざ?何か事情があるとしか…」
「カテリーナ、面倒な突っ掛かりは止めろ。要は打ち解けて周りと話す機会を作れって元帥殿から言われたんだろ?」
「まぁ、そんな所です。今の所は静止してますが、こうなった以上はアネルマさん…貴女は同胞ですからね、同族間のいざこざは早いうちに処理しないといけませんから」
海軍将兵達の視線の先に居たのは陸軍のローレであり、彼女は一斉に向けられた視線を前に驚きと困惑の表情を浮かべた。
そんなローレが呟く言葉にカテリーナが不敵に笑いながら彼女へと質問を投げた。その答えを聞いたカテリーナは煽る様な言葉を言おうとしたが、その言葉はヴァルトトイフェルに遮られた。
そのヴァルトトイフェルが事情を察して尋ねると、今度はローレがバツの悪い表情を浮かべた。カテリーナから脇を肘で突かれたヴァルトトイフェルは自分の余計な一言に気付き申し訳ない表情を浮かべ、それを見たローレが話に混ざろうとした理由を話すのだった。
「いゃ〜…これはその…申し訳ないな、2人とも…」
「構いませんよ。むしろ、陸軍方がその様に対応して頂けるという意思があるのがわかっただけでも嬉しいです」
「ほう?」
「あらあら?意外な反応ですね?もっと不快に思うかと」
「私だって、この十数日の間に勉強していない訳では無いですよ?ヒト族の暴挙やそれに加担したエルフの話は知っていますよ。嫌われる理由がある程度わかる以上、理由はどうあれ接してくれる方が居るのはありがたい事です。今後の為にも」
「なる程、元帥閣下が気に留める理由がわかったよ」
ヴァルトトイフェルが後頭部を掻きながら苦い顔で謝罪の言葉を掛けたが、微笑むアネルマから出た言葉は感謝の言葉であった。その言葉に驚くローレとカテリーナだったが、アネルマの持論を聞くと納得した様に静かに頷くのだった。
そんなローレが自身に指示を出したヨルクを静かに一瞥すると、アネルマとカーリは彼女の背後の遥か遠くにいるヨルクを密かに覗き込んだ。
「さっきはヴァルトトイフェル提督の言葉に頷いたが、本当は元帥閣下が自ら来ようとしていたんです。そんな事をすれば、あそこで大酒を飲まされているトラウマ患者が爆発するでしょう?」
「元帥殿が自らですか!」
「えぇ、そうですよ。あの方もヒト族嫌いですけど、皇帝陛下に引けを取らない程の"お人好し"ですからね」
「Prinsessa, mitä varaadmiral sanoi?《姫様、中将殿は一体何を言ったのですか?》」
「Sanoit, että olet imperiumin jäsen.《あなた達は帝国の仲間ですよって言ったんです》」
「Huh, Suomi?《えっ、スオミ語?》」
「Puolustusvoimien upseerina sinun on puhuttava ainakin kolme kieltä. Joka tapauksessa sinun ei tarvitse huolehtia kielestä, koska ymmärrät kielen, jota puhut.《国防軍士官ですから、最低3カ国語は話せなければなりません。どうせ話す言葉が解るから、言語はこの際気にしないくても良いと思いますよ》」
遥か遠くで談笑しながらもローレや海軍士官達に視線を向けるヨルクとアネルマの目が合った。すると、ヨルクは背中で片手にピースを作り振るのだった。彼の姿にローレが呆れ半分の苦い表情を浮かべ説明すると、アネルマ達の後方で鎮静剤代わりに酒を飲まされるロジーネを一瞥した。
ガルツ語が理解できないカーリがロジーネへ振り返る中、アネルマがローレに驚きの言葉を漏らすと彼女は振り返り更に向け加えられたローレ説明に疑問の声を上げた。その声にローレがスオミ語で返すと、カーリは驚きそれを無視するように彼女はそのまま喋り続けた。
ローレの言葉にアネルマさえも驚き、カテリーナやヴァルトトイフェルが彼女の視線を受けると肩を竦めた。
「佐官ならまだしも、将官ともなればな?まぁ、アタシはスオミの言葉はさっぱりだからな」
「そうですね、私もスオミ語はあまり…とはいえ、粗暴なイグアナも見かけによらず…2ヶ国語?」
「4ヶ国語!」
「ですからね、皆さん?」
戯けたように話すヴァルトトイフェルの言葉にカテリーナが小馬鹿にする中、彼女からの同意を求める視線に多くの将官達が頷いた。
「まぁ、そうですな」
「"敵を知って我を知れば、百戦危うからず"と言うやつですな」
「ですが…だからと言っても言語ですよ?そんな簡単に…」
「ご歓談中の皆様!皇帝陛下、並びに総統閣下がご入来されます!」
マイヤーハイムや他の将官達が同意する言葉や頷きを見せると、比較的語学に優れていたアネルマでも将官全員がマルチリンガルの事に驚愕した。
だが、アネルマが驚く中で会場の上手の扉が開かれブリギッタが現れた。すると彼女は会場全体に響くように声をかけ、扉の前にユサールを付けた30人程の漆黒の制服を着て腰にサーベルを差した兵たちが道を作るように整列した。
それを見たアネルマとカーリは、いよいよ迫る運命の瞬間に身を竦めたのだった。
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