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帝国再興記~Gartschlands Gloria~  作者: 陸海 空
第5章:2444年帝国の旅
227/325

第5幕-1

趣味で書いてるので、温かい目で見てね。

「はぁ〜〜…」


「若様、溜息をつくと老化が進むと言う話を聞いたことがあります。まして皇帝陛下の誕生日祝賀会の場です」


「カーヤ、その噂に医学的根拠は無いだろう?僕は堅苦しい場が好きじゃないんだよ。年末なら、尚の事ゆっくりしたい」


「そんなに…私と一緒に居たいんですか?若様は甘えん坊ですね?」


「だぁ〜!違うわ!ましてだ、式典に招かれざる客の姿もある…」


「一応は招待されたらしいですよ?…どうも皇帝陛下が呼んだとか?筋の話では、事前に会談の場も設けたとも…」


 帝国歴2444年12月24日。帝国は5代帝国皇帝アポロニアの誕生日に湧き上がっていた。帝国において皇帝の誕生日が大々的に祝われる機会は、戦中戦後においては殆ど無かった。それは、皇帝の死が立て続けに起こり、下手に祝う事が不謹慎と言う風潮が起きたからであった。

 だが、南北内戦終結後の帝国では皇帝誕生日は数ある祝日の中で最も華やかであり、テレビ回線が各年に繋がってからはジークフリート大陸全土がこの日ばかりはお祭り騒ぎとなっていたのだった。


「事前通知があったとは言え、式典の時もあのエルフが賓客席に居るのを見た時は背筋が凍ったよ…」


「よく見てましたね?パラーデ(パレード)の時には気付きませんでした」


「たまたま見えたんだ。一体何をするつもりなのやら…まぁ、おおよその予測は付くがな。平穏な年明けは遥か彼方だな」


「内戦後30年でヒト族と戦争ですか…本当に連中は戦争が好きな生き物ですね?」


「そんなに死にたいなら、戦うなんて面倒な事をせずに崖でも山でも登って飛び降りれば良いんだ…カーヤ、何か距離が異様に近いんだが?酔ったのか?酔ったんだな、抱きつくな!」


 帝国の皇帝誕生日のスケジュールは、朝から全国放送される誕生日の式典と軍の大規模な式典行進が行われた。その後の正午に、皇帝の演説と首都のシュトラッサー城から無数の花火が上がってから、一斉に全土で祝の催しや祭りが始めるといった流れであった。

 そんなお祭り騒ぎの帝国において、シュトラッサー城の大広間では政府高官や軍の高官、各界の著名人達を招いた祝賀会が開催されていた。大理石に金色の装飾、赤いカーテン等で装飾されたその広大過ぎる広間は、機能美を優先する城の中では唯一外観のきらびやかさや豪華さを優先された異色の部屋だった。

 料理や酒類のグラスが所狭しと並べられたテーブルがいくつも並ぶ会場の中で、フィデリオとカーヤの2人は酒に頬を赤くしながらも少し暗い表情を浮かべて話していた。カーヤがフィデリオに耳打ちする視線の先には、アネルマとカーリの2人が帝国高官達と談笑する姿があった。

 スパンコールや宝石で装飾されたライトグリーンのドレスを纏うアネルマはさながら妖精の様な姿であり、その場にいた軍属でない者達の視線を釘付けにしていた。さらに彼等の視線を釘付けにするのは、装飾こそ少ないがワインレッドで体の曲線を強調したカーリの存在が隣に居たからであった。


「でも、上手いものですね。角の髪飾りをしてるとはいえ、魔族の中に溶け込んでる…ふぅー」


「やめっ…やめろ〜!耳打ちで息を吹きかけるなくすぐったい!」


「でもそう思いません、若様?」


「まぁ、言いたい事は解るさ。軍は朝から大混乱。エルフやヒト族嫌いが発作を起こし、何も知らない高官達は獣と手を取るか…」


 カーヤの言葉通り、アネルマとカーリは髪飾りで角を生やし悪魔族のフリをしていた。若干名はその様になった姿に騙されていたが、多くの政府高官や国防軍緊急会議に出席していた者達は2人の存在が気が気でなかった。

 カーヤの対応に困りながらも周りを見回すフィデリオの視界には、各省庁の高官が冷や汗をかきながら距離取り親衛隊関係の高官達はエッカルトを含め全員が不快感を表す苦虫を髪潰したような表情を浮かべていた。国防軍では陸軍は空気の如く気にしていなかったが、海軍はカテリーナを筆頭にアネルマ達と談笑をしていた。それが火に油を注いだのか、空軍では発作を起こすロジーネをアルデンヌやロータルを含めた高官全員で必死に押さえつけ鎮静剤代わりのウイスキーを流し込む姿が見える始末だった。


「出来れば…何も問題なくこの日が過ぎてくれると良いが…」


「そりゃないでしょう?なんたってあの連中が来たって事は、それ即ち"スオミ族の救出"だろ?諦めろよフィデリオ!」


「ホルガー!久しぶりだな1年ぶりが?元気そうじゃないか!」


「そっちこそ。で、祝賀会でも夫婦揃って仲良くしてる訳か、羨ましいな!」


「ばっ、バカ!僕は…んっゔん、失礼。私はまだ独身だ…まだ…」


 激しい温度差に、下手をすると祝賀会場が処刑場に変わりかねない空気が流れる状態を嘆くフィデリオは、抱きつくカーヤのその後ろから掛けられた声に振り向いた。

 そこには、白い羽毛に黄色い嘴を持つワシの頭をした鳥人のホルガーが立っていた。彼は30年の間に筋肉量を増やしたのか、内戦頃と比べると羽毛を生やすその体は見違える程のガタイの良さとなっていた。とはいえ、それに見慣れているフィデリオは1年ぶりに会う同じ若い陸軍将兵を前に茶化されつつも再開の抱擁をしたのだった。


「カーヤ殿も変わらず、お元気そうですね?」


「若様成分が足りません…」


「元気なだけじゃなく、随分と酔ってるよ…まぁ、酔いたくなる気も解るがな」


「あれだろ?本当に困った難題だ。せめて、30万人で一斉に移民へ来てくれた方がまだ遣りやすい。それを"リリアン大陸まで助けに来い"なんてな」


 片手に持つウイスキーのグラスを揺らしながらカーヤに挨拶するホルガーは、彼女とフィデリオのやり取りに胸焼けしたような苦笑いを浮かべた。そんなに彼にフィデリオがアネルマ達を一瞥して呟くと、ホルガーも困ったと言わんばかりに頭を掻きつつボヤいた。


「やっぱり…出兵は確実か?」


「大規模演習作戦と言う名目だ。まぁ、あのお嬢様方が居るって事がそれを証明してる。でなければ、今頃は軍がダークエルフ討伐に湧いてた」


「リリアン大陸なぁ…片道15日の船旅に極寒の大地。行きたくないなぁ」


 ボヤくホルガーへ眉間にシワを寄せつつ尋ねたフィデリオは、グラスを呷りながら説明するホルガーの言葉に冗談で弱音を吐いていた。彼の冗談にホルガーも肩をすくめるばかりで、2人はいつの間にか空になったグラスをウェイターに渡し新しいグラスへと変えた。


「若様、ホルガー准将。結局はエルフの戦力は如何様なので?」


「教練通りの認識でいいんだろうがな?ダークエルフ…いやスオミ族もエルフと戦ったのは遥か昔で今の戦力だの戦術はとんと検討付かないらしい」


「あぁ、でも"空を飛ぶスキー(シーファーレン)が目撃されたとか」


「どの道、今の世の中じゃまともにエルフを戦った兵も少ない。何せエルフの参戦は第3次のみだからな?僕も若かったし、ヒト族とエルフの捕虜になったロジーネも小さかった筈だ。今じゃエルフを見た事無いって世代も居るくらいだしなぁ…エルフとの交戦経験者か…」


「フィデリオ、噂をすればってやつだな?」


 カクテルグラスの中身を確認するフィデリオに、未だ抱き付くカーヤはエルフの戦力について尋ねた。その疑問には彼もはっきりしない実情に若干困惑し、ホルガーが助け舟を出した。最終的な返答は非常に曖昧なものとなった。

 そんな3人のもとに近づく3つの影に気づくと、ホルガーは呟きながら挨拶として軽く手を上げた。


「やあやあ!フィデリオ中将にホルガー准将、それとフロイライン・カーヤ。いつぶりか解らないが、取り敢えず久しぶりだね!」


「ヴォルデマール・フォン・フンボルト警視総監にメヒティルデ・ツー・ファルケンホルスト大佐、こちらこそお久しぶりです」


「ホルガー准将、私は全く久しくも無いんだがな?フィデリオと貴方は同じ第3軍団所属で、フィデリオに至っては軍団司令官だからな?」


「あれ、そうだったの?まぁ、軍の事は警察の私の預かり知らぬ事だからね。私の仕事は警察だからね…おぉ、身長が低いと飲み物取るので一苦労だ」


「閣下、今お取りしますね」


「ありがとね、ゾフィー。そうだな、私はルム(ラム)が良いな」


  フィデリオ達に近づいて挨拶してきたのはペンギン系鳥人のフンボルトとオーガ族のメヒティルデだった。

 2人は嘗ての内戦では帝国と戦った反乱軍に属していた。だが、降伏の条件として帝国に合流してからは、戦争責任としての賠償金支払いと給料減額の上での特別職国家公務員として労働する事が義務付けられた。それは彼等の部下や配下の兵も同様であったが、結果的には義務労働期間を終えた今も特別職公務員として働いているのであった。

 コウテイペンギンがそのまま黒い親衛隊制服に似た制服を着た姿のフンボルトは、他人行儀で挨拶するメヒティルデの態度に呑気な口調で対応しつつ酒を取ろうとした。

 だが、フンボルトの低い身長ではテーブルの上の酒はフリッパーが届かず、ウェイターから酒を貰うのも一苦労であった。その為に彼は、ゾフィーと呼ばれた赤色の混ざった金髪に頬にソバカスの残る素朴な風格の美人へ酒を取るよう頼むのだった。


「はい、閣下。どうぞ」


「いや〜、ありがとう。私の愛らしい見た目は、どうも生活するには不便が多くてね。この通り、酒を取るのも一苦労だよ。あぁ、ゾフィーも何か呑みなよ?それで、フィデリオ殿にホルガー殿は一体何の話をしてたので?"噂をすれば"なんて言う所から、私かフロイライン・メヒティルデかその両方に話の1つでもあるんじゃないか?」


「まぁ、そうですね。あそこに見える"名状し難き者達の戦力ってのは一体どういう物なんだろうな"と」


「うぅ〜ん…エルフの戦力か…」


「教本にもあるだろう?"1人あたり1個歩兵小隊程度の戦力とする"とな。戦争もかなり昔だから私も朧げな所もあるが…そうだな、"姫騎士"なんて呼ばれて剣を振り回していた幼い私が絶句するくらいには強かったさ」


 ゾフィーとグラスを受け取るフンボルト2人の間に流れる雰囲気に黙していたフィデリオ達だったが、フンボルトの肩をすくめて見せたりする演技かがった問いかけに苦笑いを浮かべた。その質問にはホルガーが答えた。だが、エルフについてフンボルトはグラスを酒を一口呷ると唸りなが記憶を掘り起こし始めた。

 そのフンボルトよりホルガーへ答えたのはメヒティルデだった。メヒティルデ・ツー・ファルケンホルストはオーガ族の女性であり、緑の瞳にドリルの様なウェーブのかけた金髪に陸軍軍服を纏う彼女は女性の視線さえあつめる程の麗人あった。

 そんなメヒティルデも、古い記憶を思い出す為に軽く天井を見ながらはっきりとエルフの戦力ついて言い切った。


「200m先から氷の矢を飛ばしたり、100mから火球を飛ばしたりだったな。とはいえ、氷の矢は毎分50発程度だし火球に至っては手榴弾程度の威力て毎分3発程度だから、まさに歩兵小隊程度だな?」


「なる程、装甲兵(パンツァー・リッター)乗りにはなんて事無い兵力と?」


「剣だ槍を振り回していた頃からすると恐ろしいが、今じゃ全兵士が自動小銃と拳銃を持って補助装備で武装し防弾装甲服を纏うんだぞ?まぁ、対装甲装備が無いとも限らんから戦車の援護が欠かせないがな?」


「空を飛ぶスキーなんて冗談をホルガーも言ってたが、そんな物達が是非とも無い事を願うばかりだな」


「"三軍が協力すれば、少なくともこの大陸からは追い出せるはずだ"と思いたいな」


 思い出したようにつぶやくメヒティルデの言葉にフィデリオは若干茶化す様に言うと、少しだけ不満げにしながら彼女は彼を少しだけ睨みながら更に付け足した。そのメヒティルデの睨む視線にフィデリオへ抱き付くカーリが気づき、2人は話す面子より激しく激突していた。

 そんな自分の背中で場外戦を繰り広げるカーリに肩を落とすフィデリオが呟いた。その呟きにホルガーが祝賀会冗談を見回して呟いた時、会場の上手にある大きな扉が開いた。


「ご歓談中の皆様!皇帝陛下、並びに総統閣下がご入来されます!」


 開かれた扉からはブリギッタが現れ、会場全体に響くように声をかけた。その言葉が響く中、扉の前にユサールを付けた30人程の漆黒の制服を着て腰にサーベルを差した兵たちが道を作るように整列した。

 それを見た多くの出席者達は姿勢を正して扉の方を見つめるのだった。

読んでいただきありがとうございます。

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