第4幕-3
趣味で書いてるので、温かい目で見てね。
カイムはシュトラッサー城に出頭命令が下った時、その命令にはきちんと"ダークエルフの亡命についての説明要求"と書かれているだろうと考えていた。だが、その命令所には"料理をするから試食に来い"と記されていた。
その事を、カイムは機密である"ダークエルフが帝国領土内にいる"という事実を隠すための細工と考えていた。そして、彼も皇帝アポロニアにどう説明ないし誤魔化すかで悩み、城の通路を移動する時もブリギッタと会話する時さえ内心気が気ではなかった。
「あらカイム、いい時間帯ね。丁度アイスバインとか3皿ぐらいが出来たところだったの!ほら、席に着きなさいな」
「こっ、皇帝陛下…これは?」
「"これは?"も何も、言ったでしょ?試食に来なさい"って」
そんなカイムを待ち受けていたのは、エプロン姿のアポロニアと彼女が作った手料理の山であった。テーブルにはアポロニアが作ったと思われる料理が幾つも置かれ、全てが出来たてという言葉通りに湯気を上げていた。
「えっ?本当にそれだけ…それだけで私を?」
「カイム、貴方ねぇ。私が貴方を呼ぶ時が、何時だって帝国の危機な訳じゃないの。確かに、"書類不備"とか予算配分の誤りとか…30年前は暗殺の危機とかあったけど。今は平和なの、この国は。先月は1回も城を訪れなかったし、誕生日も近いからって…ひょっとして、"明言出来ない何か別な理由"だと?」
「それだけなら良かった。勅命とあれば、何か重大な事が隠されていると思ってしまいましたよ。"城をもっと海の見える所に置きたい"とか?」
「ふぅ〜ん…まぁ、良いわ。それと、敬語を止めなさい。ここに居るのは"アポロニアという1人の小娘"よ」
「聞いたような台詞だ事…」
胸に大きなハートの縫い付けられた白いエプロンを付けたアポロニアは、伸びた髪を纏めて運び込まれたらしいアイランドキッチンで調理途中の一品を仕上げていた。そんな彼女に尋ねたカイムだったが、楽しげに答える言葉に彼女を見ると変に勘ぐり深くなってしまっていた。
そんなカイムの疑問に、アポロニアは少しだけ機嫌を悪くしながら説明していたが、最後にはまるで"全て知っているから"と言いたい様な匂わせかたでカマをかけた様な一言が飛んできた。それを受けたカイムは口調だけでも出来るだけ不自然にならない様にしながら話題を反らした。
そんなカイムの無理矢理な話題転換に、アポロニアは懐疑的な相槌を打つと彼の敬語に文句を言いつつ盛り付けた料理を運んだのだった。
「アイスバインにフィンケンヴェルダーショレ…種類は家庭料理が多いんですね?てっきり帝室料理人とかが作る様な豪華なものかと」
「あぁいうのは嫌いよ。見た目の割に量が少なくてね」
「あぁ、そう言えばアポロニアは結構食べるんだよな。ギラとかは少食で食事してる時、自分だけ食べ続けるの少し寂しいんだよな」
「軍人なのに食べないの?そこは個人の自由なんだろうけど、それこそ"軍隊においては重要なのは、人、食事、弾丸の順"なんでしょ?」
「アンネリーエ准将がそんな事を言ってたな…」
手伝いを使用とするカイムに席へ座るよう片手を振って促すと、彼は気まずそうに着席してテーブルの上を見回した。そこには彼の言葉通りの家庭料理が並びアポロニアの置いたアイスバイン等も家庭料理であった。
その見た目は非常に良かったが、カイムの予想していた料理よりもかなり庶民的であり、その事に指摘した彼へ彼女も笑って応えた。その笑顔にカイムも生活での愚痴を思わず溢すと、アポロニアは受け売りの言葉を食材を切りながら言った。彼女の予想以上に手際の良い手元を見ながら、カイムはアポロニアの言葉に聞き覚えのある人物の名前を呟いたのだった。
「ほら食べてよ。でないと感想も何もないでしょ?どうカイム、美味しい?」
「皇帝陛下、帝国国民として陛下が自ら御作りになられた料理です。身に余る程の…」
「ふっふ…いえ、次にそういう事言ったら不敬罪で銃殺刑ね」
「このグーラシュちょっと味濃すぎないか?そう思うと、ケーニヒスベルガー・クロプセは少し薄いし…この中ならヴルストが一番安定して美味しいかな?」
「よし、不敬罪ね。すぐに衛兵を呼ぶわ」
「どのみち不敬罪なのね…」
カイムの独り言を無視して料理を運ぶアポロニアは、全ての品を運び終わると料理を前に戸惑うカイムに食事を始めるよう促した。彼女の言葉や着席に、カイムもフォークとナイフを取り並べられた料理へ手を付け始めた。
その味を前に、カイムは満面の笑みを浮かべつつ冗談混じりの態度で感想を述べた。その言葉に笑ったアポロニアは、直に真面目な顔を作ると作った笑みをあえて貼り付けるカイムに警告を告げた。その言葉に、カイムは笑顔から不満げな表情へ変えると正直な感想を述べ、アポロニアも満足そうに頷きながら物騒な冗談を言った。
その冗談に苦笑いを浮かべるカイムを前に、アポロニアは自分の料理に良くない感想を言いつつ黙々と食べる彼を見詰めていた。だが、何かを決心すると、自分のフォークとナイフを取りカイムの手を付けて味に感想を述べた料理全てを口に運んだのだった。
「アっ、アポロニア!自分の分を取って…いや、取ってくるから!」
「余分は作ってないの!あむっ…むぐ…ん?なゃんだ、ふふぅーひゃない」
「こら、口に物を入れて話さない」
「んぐっ…普通じゃない。私、そこまで料理上手じゃないけどそれでも普通って言えるよ」
自分が口を付けた料理を食べるアポロニアに、カイムは慌てて席から腰を上げてキッチンへ向かおとした。それを無視して料理を口に運ぶ彼女だったが、一通り口にして出した感想は普通の一言だった。彼女の若干はしたない行動に指導しつつ、カイムはアポロニアの言葉に小首を傾げつつ何度も料理を口に運んだ。
咀嚼して飲み込み、口に付いたソースを拭うアポロニアはそんなカイムへ自賛を混ぜつつ尋ねた。
「少し言い過ぎたかな。まぁ、何だ?私の料理よりは遥かに美味いよ」
「あら?貴方、料理なんて…いや、聞いた事ある気がする。ギラの料理が下手すぎて休みの日に料理教室紛いの事したんだっけ?」
「6年前の話だよ。彼女は料理になると途端に手際が悪くてな、過ぎた時間を取り戻そうとして焦ると変な味になるのさ。そこに来て、"料理してる時はその変な味を普通に思える"だってさ」
「それで、結局私の料理はどうなのよ?」
「まぁ、なんだ…だから、私のよりは良いと思う」
「天の邪鬼め。"良い物は良い"って言いなさいな。そう、"何事も正直に"ね」
アポロニアの言葉に促される様に呟くカイムだったが、その内容は褒め言葉を隠す様な発言であった。その言葉を受けた彼女も、話題に乗りつつ自分でギラの話題を出した事に不機嫌な表情を浮かべた。
それでもカイムから遠回しな褒め言葉を受けると、アポロニアは笑顔を浮かべつつ陰のある言葉を呟いた。その言葉と空気の変化にはカイムも何かを勘付き、食事を続けながらも彼女よ様子をうかがった。
「正直に生きてるつもりだよ。正直かつ誠実にね」
「あら?護衛に女の子ばかりの貴方が"誠実"ね?歯が浮く様な言葉」
「そっ、それは手隙の連中を少数精鋭にしただけさ…」
「なら、国防騎士に任せれば良いんじゃないの?何だか…かなりの人数をデルンに呼んでるみたいじゃない?」
「さぁな…国防騎士なんて、それこそただの"ナンパ男"には計り知れない国防軍の機密でしょ」
少しの間沈黙が2人の間に流れたが、最初に破ったのはカイムだった。彼は誤魔化す様にアポロニアへ呟いたが、その言葉を受けた彼女は真面目な表情でカイムを見つめた。彼を見据えたアポロニアは、不貞腐れた表情で彼へ気になった事を尋ねた。
カイムも護衛が女性ばかりだった事は気にしていたらしく、反射的に応えた内容は真実であれど考え無しの発言だった。その言葉を聞き逃さなかったアポロニアは更にカイムへと追究の言葉を掛け、その皇帝としての表情の彼女を前にカイムはなんとか誤魔化そうとした。
だが、明らかに何かを掴んでいると思わせるアポロニアの沈黙と子供を叱り付ける親の様な視線を前に、カイムは諦めた様に溜息をつくと足元に立て掛けた鞄へ手を取った。
「カイム総統、ここから帝国5代皇帝アポロニア・フォン ウント ツー・ホーエンシュタウフェンとして尋ねます。国防騎士に親衛隊を無駄に多く帝都において、何を考えてるの?」
「皇帝陛下…総統カイムとしては"25日の皇帝誕生日が近いことによる警備"としたいのですが?」
「嘘でしょ?帝国ホテルだけ厳戒態勢にして首都の警備も何も無いでしょう?不自然過ぎるもの。まるで帝国ホテル内に私の命を狙う暗殺者が立て籠もってるみたいじゃない」
「仮にそうだとしたら、どうします?」
「"私を殺しに来るのは良い!私は逃げも隠れもしない!"かしら?」
「聞いたような台詞を…まぁ、違う訳ですけど…解りました、解りましたよ!強制捜査なんてされたら、更に面倒な事へ発展しそうですから説明しますよ…」
諦めた様な身振りであったが最後の抵抗として言ったカイムの言い訳も、アポロニアの言葉には軽口しか出なかった。それに対して過去の自分の発言でアポロニアに返された彼は、鞄から書類を取り出して諦めの言葉を漏らした。
「その前に話を1つ」
「まぁ良いわ、聞きましょう。何かしら?」
「この世界に魔法が使えない魔族がヒト族に迫害と侵略を受けた。だけど、とある北の方にあるとある地域の種族が同様の理由で昔から迫害されていた訳です」
「何それ、キームの話?それともリントかしら」
「帝国の話じゃないんですよ」
書類をテーブルの反対に座るアポロニアへ書類を渡しつつ話をし出したカイムだった。だが、話を聞くアポロニアは若干結論を急かすように尋ねた。その言葉にカイムは首を振ると、書類を受け取るアポロニアに気まずい表情を浮かべた。
「確かに緯度は同じくらいですけどね」
「じゃあ、一体どこの話なのよ?第一…ある種族ってまるで…緯度が同じで魔族じゃないって…まるで…まさか…」
「そうですよ。ジークフリート大陸でもなく魔族でもない…魔法を使えない種族は魔族だけでなくダークエルフも同じだった。そして、彼等が助けを求めて来たんですよ」
書類を捲りカイムの話を聞くアポロニアは、震える声で書類から顔をそむけ彼に説明を求めた。その慌てるアポロニアの態度に、カイムは諦めて全てを言い切るのだった。
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