第4幕-1
趣味で書いてるので、温かい目で見てね。
[俺が…俺達が世界を救ってやる!]
[ターキーの言う通り!そう、彼と私が…この世界を守ってみせる!]
「あ~、是非とも救って欲しいものだよ…私にも限界があるからな。いっその事、私も前線で…」
「総統…いえ、カイム。休憩はいいんだけど、軽々しくそういう発言は止めてよね…貴方が前線で戦う時は帝国の崩壊が秒読みな訳だし、本当にやりかねないし。まして映画の再放送を見ながら泣き言を言う総統なんて…」
「そもそも、秘書官に膝の上へ乗られて椅子のようにされてる現状の方が問題だろ?"秘書への不純行為"で辞職騒ぎだな」
「それは問題ないですよ。2人は何時でも一緒ですし、きっと"総統閣下の結婚記念日"って祝日が増えますよ?」
年末の放送特番による番組欄改変によって放送される映画の再放送を見つめるカイムの表情は暗かった。それは、ただでさえ忙しい年末にダークエルフであるアネルマの登場と、リリアン大陸にいる約30万の同胞救出と亡命の要請を彼が抱え込んだからであった。
そんな増えに増えた執務に追われるカイムは、午後の休憩として部屋にあるテレビを見つつコーヒーを飲もうとしていた。すると、同室の秘書用の机で作業するギラが空かさずコーヒーを用意し、来客用のソファに腰掛けるカイムの膝の上に座り、2人は映画を見る事となった。
[行くぞ、ミア!]
[2人に力を!]
「うわぁ〜…人型が空を飛ぶなんて…これって装甲兵の映画?」
「いや…初めて見る。それに、さっきの冒頭で3章って出てたしな。前を知らんから。そもそも装甲兵は6mくらいだし、違うだろ。ねぇ、映画なんだ、気を抜いて見ようよ」
「はぁ、いいなぁ…あんな具合に人目を気にせずイチャイチャしてみたいな…」
「映画の感想でそこかよ…」
映画のシーンで主人公とヒロインが巨大なロボットで熱く戦う姿に、ミアが国防陸軍の人型兵器の名前を疑念の表情で呟いた。仕事中に浮かべる表情をして呟くギラに、コーヒーカップを机に置いたカイムは顎を彼女の頭の上に乗せつつ彼女の髪を手櫛のように軽く撫でた。仕事の時は堅いカイムとギラも、2人きりの時は敬語が無く距離感も非常に近かった。
カイムの言葉を受けて、ギラも気を抜くように息を吐くと髪を撫でる彼の手に自身の手を重ねるつつ映画のシーンの感想を呟いたのだった。その熱い戦闘シーンに反するギラの感想に、カイムは少し呆れた表情を浮かべ彼女の髪に鼻を埋めた。
「何カイム、止めてよね…ひょっとして臭う?」
「いや…女の子の甘い香りが鼻をつくなと…」
「変態…」
「男は皆そうさ。どんなに顔が良くて聖人君子みたいな奴でも、頭を開けば"女の子にあれこれしたい"って欲だらけさ」
30年前ならギラにあまり見せることも無かった態度をするカイムに、彼女は嫌がる素振りこそするが口調は戯れる様であった。
そんなギラへ、カイムは恥ずかしそうに言い訳しつつ髪から手を離そううとした。その手をギラが押さえると、椅子代わりにカイムヘもたれかかったのだった。
「カイムが言うと説得力があるね…」
「私は聖人でも君子でもないよ」
「総統でしょ?知ってる」
「それさえ、肩が重くなる肩書だよ」
寄りかかるギラが顔を上に向けカイムとの目が合うと、彼女は彼へ微笑みかけた。その笑顔と言葉に、カイムは急に恥ずかしくなると顔を背けつつ彼女の言葉に反論した。
若干不貞腐れたカイムの口調に、ギラは彼の手を掴み自分を抱き締めさせると優しく呟いた。密着するギラの心拍さえ感じ取れると、カイムも不貞腐れた態度を止めて口調を正した。
「大丈夫。辛くなったら、私が…」
見つめ合うカイムにギラが顔が近づけ、彼女は励ましながら瞳を閉じ距離を詰めようとした。
だが、唇が触れ合うかどうかというタイミングで、無情にも秘書官机の電話が呼び鈴を鳴らした。
「ギラ、電話だ。仕事に戻るぞ」
「はい…年末年始の2人の時間が消えてゆく…」
瞳を閉じたままキスを強行しようとしたギラだったが、彼女は肩を掴まれるとカイムに立ち上がらされた。瞳を開いてカイムを見た彼女も、彼の仕事をする時の真面目な表情を前に全てを諦め悲しく呟きながら電話を取りに向かった。
そんなギラは、カイムに左肩を掴まれ半身を反らさせられた。とっさの事で言葉が出なかったギラだったが、軽く頬を差し出すとカイムはギラの頬へキスをした。
「そういうのは…仕事が終わってからだ…」
「はい!」
自分のキザな行為に顔を真っ赤にするカイムの一言に、左頬を撫でるギラは満面の笑みで電話に駆け寄った。
「はい、こちら総統執務室!なんだアロイスか…はい…」
「ギラ、どうした?」
「アロイスが、国防省から書類を持ってきたとの事です」
「流石に最高司令部の兵務局だ、仕事が早いな。直に通せ」
「わかりました。アロイス、直に来なさい」
電話を明るい口調で取ったギラは、電話の向こう側がアロイスと解ると若干気を抜いて応対した。報告を聞き終わったギラにカイムが電話の内容を尋ねると、彼女は秘書官として素早く説明をした。その内容に笑顔を浮かべてカイムが指示を出すと、ギラは電話の向こうへ伝えたのだった。
そして、数分後には執務室の扉の向こうで手荷物や身体検査をする音が響き、ノックの音が部屋になった。
「アロイス・ベイアーです!入室の許可を求めます!」
「よろしい、入れ」
扉からアロイスの入室許可を求める声が響き、カイムがそれに答えた。すると、執務室の扉が守衛によって開かれ、アロイスが姿を見せた。
勤務服である開襟の黒い上着に褐色のシャツ、サム・ブラウン・ベルトに乗馬ズボンとブーツ姿のアロイスは、赤い髪を短くオールバックに整えていた。彼の勤務服は襟章と右肩の肩章の大将の階級章や右腕の古参闘志名誉章、左腕の袖章と見るからに将官と解る姿だった。
「カイム万歳!総統閣下、アロイス・ベイアー親衛隊大将、国防軍最高司令部は兵務局から書類を運び、15:30時定刻通り到着しました!」
「よろしい…何時も済まんな、アロイス。将兵を小間使いにして…」
「それだけ重要な役割と理解しています。それに、下手な将兵では国防軍との軋轢になるでしょう?」
「ウチの連中の意識の高さも、こういう時には困ったものだよ」
カイムの前で姿勢を正すアロイスは、一糸乱れぬ動きで親衛隊敬礼をした。そんな彼の敬礼と報告に、カイムも敬礼で返しつつアロイスに対する扱いを謝罪した。
同じ国防軍傘下でありながら、戦闘経験の多さや訓練の過酷さから親衛隊はエリート意識が高かった。そのため、将兵の中には国防軍を少し下に見る者が多かった。その点で、アロイスはエリート意識は有っても国防軍を下に見ない為、国防省就きの武官となり親衛隊本部との連絡を担当する事となった。
「しかし、国防軍も十分有能だ。作戦に必要な戦力の計算を3日間で仕上げるんだから」
「総統閣下、それとなんですが…その…」
「なんだ?」
「国防省の方に連絡がシュトラッサー城から連絡がありまして…」
「まさか…」
手渡された極秘機密と判を押された封筒から書類を取り出すと、カイムは中身を確認しつつ驚きと感心をしつつ呟いた。薄っすらと微笑むカイムを正面に、アロイスはまだ報告すべき事があると口籠りながらも話そうとした。
少し急かしたカイムに、アロイスが気まずい表情を浮かべて話し始めた。その途端、カイムは背筋に嫌な予感を感じると、頭に過ぎった可能性を否定したい気持ちで苦い表情を浮かべて口を開いた。
「皇帝陛下から総統閣下への出頭命令です。要件が明確ではありませんが"この頃会えてなかったから、久しぶりに会いたい"との事です」
「不味い…ダークエルフの一件がバレたか?」
「皇帝は正確な事を掴んでないと思います、総統閣下。考えるに、ブリギッタ近衛大将が国防騎士の動きから何かあったと伝えただけでは?」
「何れにしても、時間の問題か…出頭日時は?」
「明日12月16日の18:00時です」
「わかった…さて、どうするかな…」
アロイスの出頭に関する説明に、カイムは皇帝からの"ダークエルフ捕縛と処刑"の勅命が出ると恐れた。だが、カイムの焦る表情にアロイスは更に説明を加えると、カイムは書類の内容を気にしつつ頭を惨劇回避に悩ませた。
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