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帝国再興記~Gartschlands Gloria~  作者: 陸海 空
第5章:2444年帝国の旅
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第3幕-4

趣味で書いてるので、温かい目で見てね。

 アネルマ・ラハテーンマキはダークエルフの中でも優秀かつ重要な人物の1人であった。武術にも優れ、父親のピエリタや兄のユッシには劣るものの、ダークエルフの中では5本の指に入るかという勢いがあった。知性に関しても、権謀術数に優れた姉に追いつく程だった。

 才能が突出した姉や兄から一目置かれる程の総合的な能力の高さは父親に通ずるものがあった。


「とは言っても…あんなのをどう相手すれば良いのよ…」


「姫様…本当に大丈夫なんですかね?」


 だが、そんな優秀なアネルマにさえデルンの街並みには驚きの声を漏らさせた。

 アネルマ達が帝都に護送される1日前、彼女達は10日間前の漂流に近い航海を続けていた。限界が近づく人ならざる者の乗る小型の船を見かけたアネルマは、大急ぎで白旗を振った。その船が突然海に沈んでいったのを皮切りに、6隻の船が現れて彼女達の帆船を包囲した。その船は、エスパルニアでもポルトァでも見た事のない全てが金属で出来ているものだった。


「ひっ、姫様!鉄が浮いてます、海と空に浮いてますよ!うっ、浮いて…」


「何か起きた…私達は、異世界に来たのか?」


 だが、アネルマ達を襲う驚愕はそれだけではなかった。駆逐隊からは轟音を上げてヘリコプターが飛び立ち、彼女達の船の上をホバリングしながら警戒を始めたのだ。それだけではとどまらず、離れた海域から飛んできた空母艦載戦闘機がアフターバーナーを吹かして飛び回っていた。

 戦闘機もヘリコプターも知らないアネルマ達からすれば、鉄で出来た船が水に浮き、箱の様な形をした鉄の塊が空を飛ぶのは異様な光景であった。


[Tell a suspicious ship on the voyage. This is the Garz Imperial Navy. You are in the vicinity of the Imperial waters. Turn back immediately! Repeat, turn back immediately!《航海中の不審船に告げる。こちらはガルツ帝国国防海軍である。そちらは、わが帝国領海付近を航行中である。直ちに引き返せ!繰り返す、直ちに引き返せ!》]


「拡声魔法!魔族が魔法を使いましたよ、姫様!しかもブリタニア語です!訛りが酷いですけど…」


「いや、魔法じゃない。あの肌に張り付く嫌な感じがない…An die kaiserliche Marine! Ich bin Anelma Rahatenemaki, eine Diplomatin der Dunkelelfen! Ich habe meiner kaiserlichen Majestät den Brief des Vertreters unseres Landes gegeben!《帝国海軍へ!私はアネルマ・ラハテーンマキ、ダークエルフの外交担当官です!皇帝陛下へ、我が国の代表の親書をお持ちしたのです!》」


 距離を詰める駆逐艦のスピーカーから大音量の警告が響く中、アネルマはひたすらに白旗を振り叫んだ。

 その結果、ヘリコプターと小型のボートから乗り込んできた海兵に捕縛され、アネルマとカーリはヘリコプターから空母に運ばれた。見た事のない様々な機械技術の性能を前に目を回す2人はそのまま双発プロペラ機に乗せられ、気付くとジークフリート大陸へ運ばれ首都デルンの帝国ホテルに通されたのだった。


「空を飛ぶ乗り物。馬より早く走る荷車。火のないランプに取っ手を捻ると水が出る水場。魔法の様な力なのに、魔法を一切使っていない。姫様、本当にここは"ジークフリート大陸"なんですか?」


「鉄の船の中や通訳の騎士殿、荷車の中から見た景色がそうでしょう?歩いている者全てが魔族。そうでなければ、死にかけた私達が甲板で見てる夢よ。小説でも書けそうだわ、"2444年帝国の旅"なんて?」


「それに…この技術は…」


「えぇ。スオミの古の知識に通じるものを感じる。数百倍は優れているが、無い物もあるな。とはいえ、来た甲斐はあった」


 部屋に備え付けられたテレビのチャンネルをソファーの上で両膝を抱えて怯えながら変えるカーリの言葉に、窓から見えるビルや道路の自動車、空を行き交う飛行機を見詰めるアネルマは淡々と呟いた。そんな彼女の口調の冷静さにカーリがアネルマの方を見ると、彼女は窓の外にデルンの街の朝の日常に驚愕しきっていた。

 カーリのシンパする視線に気付いたアネルマは、彼女に作り笑いを浮かべると窓からベッドの側へと歩み寄った。


「その"TV"ってヤツは面白いの、カーリ?貴女、結局ガルツ語を全然勉強しなかったじゃない?」


「なんとなくですが、解りますよ。情報番組に演劇、これは料理の番組」


「こんな薄い板の向うに人が居る訳無い。でも投影魔法でも無い」


「魔法無しに魔法と同等…いえ、それ以上の事が出来る世界…」


「本当に…来た甲斐はあった」


 アネルマも自分の質問に怯えを抑えて元気よく答えるカーリの横に座ると、自分より大きな年下の同胞の肩を励ます様に叩いた。アネルマの行動に、カーリも感覚的に彼女も不安である事を察すると、だだ笑って彼女を励まそうとした。

 そんな2人の耳に、部屋の扉を3回ノックする音が響いた。その音に立ち上がった2人は、お互いをカバーしやすい距離を維持して部屋の扉へ近づいた。


「失礼します、帝国国防騎士のティアナ・ボルトハウス特務准尉です。警戒されて扉に身を庇うのは解りますが、態々もてなして背中を刺すほど魔族は野蛮ではありませんよ」


 リビングから玄関に繋がる廊下から聞こえてきたのは、まだ幼さの残る声であった。その声は、アネルマ達と同じ言葉を流暢にかつ気品を持って身構える2人に話しかけた。


「Entschuldigung, Lord Tiana《失礼しました、ティアナ卿》」


「そちらのフィントルラント…いえ、スオミ語で構いませんよ。私も、自分の語学が何処まで通じるか試してみたいので」


「わかりました!姫様はここで…あの方は社交的な方ですが、魔族で騎士(リッター)と言っていましたから。私が行きます…今、扉を開けます!」


 ティアナと名乗る声に対して、アネルマはガルツ語で話し掛けた。彼女の口調は少しの不安と気迫の混じるものだったが、帰ってきた言葉は彼女の気迫に全く動じないものだった。

 アネルマが気迫で押された事に気付くと、カーリは空かさず廊下と扉の向こうにいるティアナと名乗った国防騎士に返事をした。彼女の言葉に反応してアネルマは口を開こうとしたが、それより先にカーリがアネルマを止めると廊下の扉を開けて部屋の客室の扉へ向かった。


「Ich…Ich habe dich warten lassen[おっ…オマタセシマシタ…]」


「カーリさん、ガルツ語喋れたんですか?中々お上手ですよ。それと、不意打ちをしに来たんじゃないです。私は総統閣下からあなた方の御世話を命じられたんですよ。という訳で、お茶とお菓子をお持ちしました」


「それは…どうも…」


「はいはい、カーリさん。台車通りますから、横を失礼しますよ。それと、先程…というか4時間前に総統からこちらへ連絡がありました。"是非、1度会談したいから国に提出する書類を適当に作ったらすぐ行く"との事です。そろそろ準備しといて下さいね?」


 扉を開けたカーリの目の前には、小柄な体躯に薄紫がかった白い髪に整った童顔、黒い瞳に薄緑色の肌をしたゴブリンの少女がいた。

 親衛隊軍服に身を包むティアナは、ティーセットにお菓子の載せられた台車をたとたどしいガルツ語を話すカーリの横を通らせた。そのまま廊下を通る彼女は、元気のよく気さくな柄も礼儀を弁えた話し方で素早く啞然とする2人に説明すると、リビングルームのテーブルにティーセットを置き始めた。


「えっ…あの、ここにその…"総統"さんが来られるんですか?」


「本当なら外交官の方が来るんでしょうけど、あなた方は特例ですよ。事が事ですから。何より、総統閣下が望まれるなら、親衛隊はそれを実現させるまでですよ」


「すっ、直ぐにくるんですか?」


「そんな発音がおかしくなる程動揺しなくても大丈夫ですよ。あと1時間くらいですから」


 冷静かつ明るく話すティアナの言葉に混乱しつつ、アネルマは彼女に更に尋ねた。それに帰ってきたティアナの言葉は、まるでアネルマが変な事を言っている様な口調であり、更に焦るアネルマを前にしても首を傾げて口調を変えない程だった。


「カーリ!直ぐに会談の準備を!」


「えっ、アネルマさん!お茶は?」


「そんなのは後です!」


 帝国ホテルの最上階に激震が走ると、2人のダークエルフが慌ただしく動き始めるのだった。

読んでいただきありがとうございます。

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