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帝国再興記~Gartschlands Gloria~  作者: 陸海 空
第5章:2444年帝国の旅
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第3幕-2

趣味で書いてるので、温かい目で見てね。

 帝国歴2444年12月10日の帝国は平和そのものであった。

 戦後から30年経過した帝国は、嘗ての内戦やヒト族侵攻の荒廃が嘘と思える程の再生と発展を遂げていた。

 各都市には鉄筋コンクリートのビルが幾つも建ち並び、その下を縫うように高速道路や舗装された公道が張り巡らされていた。無数に走る車と街灯、ビルの灯りが夜闇を照らし、路地さえ暗闇を忘れた様にさえ思える程であった。

 とは言え、首都デルンはガルツ帝国各都市と比較してもレンガ造りの昔ながらの建物の方が多く、まるで中世ヨーロッパの街と近代都市が歪に混ざった異世界の様な光景であった。


「いや本当に、私の存在意義が解らないくらいですよ。もともと軍の総統な訳ですよ私は!文民統制はどこ行ったって話ですよ!私はねぇ、軍属なんですよ!」


「レナートゥス、カイムの奴が暴走し始めたぞ。流石の総統も"酔い"には勝てんか…」


「良いじゃねぇか、マヌエラ。あいつも、こういう時しか気が抜けないって事だろ?いつも書類と会議と指示で辛いよな。そうだよな、解る。解るぞ、その気持ち。俺も納期ギリギリで焦ってるよ、親衛隊の装備の納品日。やたら早いんだから」


「それはこちらも悪いと思ってます。しかし、それは試作品の実地試験を押し付けてくるからですよ」


「ブリギッテも言う様になったよね。言われてますよレナートゥスさん」


「アマデウス…ブリギッテの嬢ちゃんも昔は可愛かったのになぁ…」


 そんなデルンの街の一角にあるレンガ造りの小さな料理屋で、カイムとアマデウス、ブリギッテ、レナートゥスとマヌエラの5人がテーブルを囲んで宴会を開いていた。テーブルの周りには無数のワインやビールの空き瓶で満ちており、ビール樽さえ運ばれている始末であった。


「総統、お水をお持ちしましたわ。お酒を飲むなら、同じ量のお水を飲まないと体に毒でしてよ」


「いっちゃん、納得いかないのはな!これだよ…店員が何故か知ってる奴ばっかりなんですよ…気ままに話せないから肩身が狭い!狭いよぉ…」


「カイム…貴方の辞職騒ぎで私達がどれ程苦労したか解るんですか?本当に大変だったんですよ!」


「まぁ、嬢ちゃんの言う通りだな。脱走やらかしたお前も悪い…と言っても、常日頃から護衛が居るのは、確かに気まずい。ブリギッテの嬢ちゃんよ、ここいらで親衛隊を下げちゃくれないか?嬢ちゃん達も見たくないだろ、こんな泥酔しかけの上司。幻滅するだろ?」


 ソーセージを噛じるカイムが空になったグラスにワインを注ごうとすると、ディアンドルに身を包んだヴァレンティーネが水の入ったピッチャーを持って現れた。グラスに水を注ぐ彼女を見てカイムが周りを見回しながら言った通り、宴会を行うウェイターは全員が親衛隊上級士官であった。その中にはもちろんアロイスやツェーザル、エリアスやリヒャルダ、帰還したばかりのドロテーアの姿さえあった。

 だが、嘆くカイムにブリギッテが酒で頬を赤くしながらカイムを睨みつけると、ドスの効いた声で文句を言った。

 その言葉に天を仰ぐカイムを哀れんだレナートゥスは、ヴァレンティーネを手招きしてに頼む程だった。

 

「絶対に無理ですわ!ギラさんとの駆け落ち紛いの辞職を見逃したのは、親衛隊全員の汚点ですのよ…だからこそ!最大限、お側で警戒しましてよ」


「基本、"やる時は本気でやる"人ですから。それに…私達は"総統"の親衛隊です。今更、皇帝や国防軍の傘下に入るなんて御免です。その為の警備ですよ」


「よっ!よく言ったアロイス!レナートゥスさん、そういう事ですよ。まぁ、確かに面倒で五月蝿い時もありますが、俺達の上司はやっぱりこの人なんですよ」


「確かにな…ヨルク陸軍元帥ならともかく、あの皇帝の命令を聞く気にはならんよな…」


「ツェーザル、アロイス、言い過ぎだ。でも…国防軍連中と同列は困ります。あいつ等が半端な兵ばかりだから内戦も長引いた。ティアナも…いや、失礼。とにかく、総統は死ぬまで総統をしてもらう以上、辞職するなら親衛隊全員諸共です」


「カイム総統も毎日忙殺…趣味の時間も無い…そろそろ辞職…頭を過るはず…」


 レナートゥスの頼みに対して、ヴァレンティーネを筆頭に全員が拒否の言葉を述べ、他の隊員達も納得して首を縦に振った。


「こんなヤツの何が良いんだよ…ヨルク元帥の方が良いだろ?頭良いし、優しいし…仕事も出来る!私はねぇ、まだ書類の山、まだ半分しか終わって無いんだぞ!」


「大丈夫でしてよ、総統。"貴方なら出来ますわ"」


「"おだてないで下さい!"」


「カイム…僕もあの一件はどうかと思ったよ。今でこそ笑い話だけど、もしかしたら帝国を揺るがす大騒動になってたかもしれないんだよ?」


「私はなぁ、デルンからさえ出れなかったんだぞ。青い海も白い砂浜もなく、雪も流氷も見れなかった。それに、私1人いなくなって揺らぐ国家なら、内戦で滅んでたさ」


「今でも覚えてるよ。宣伝省に詰めかける要人達の波に、フリッチュ親衛隊大将達や警察からの極秘尋問…ヨルク元帥の青い顔に、省に詰めかける親衛隊達。皇帝陛下と教皇猊下の追求…今でも思い出すとお腹が痛いよ…情報管制を敷いて何とかしたけどさ。休暇が欲しいならもっとやりようが有ったでしょ?」


「あの時はそれしか思い付かなかったんだ。第一、アポロニアが言って頷くと思うか?有り得んな。そもそも、土日祝日全部仕事だ逃げたくもなる。あぁでもしないと、今の日曜休みも得られなかった」


 団結する隊員達に対して、カイムは水を呷ると冗談混じりの泣き言を言った。

 その冗談にヴァレンティーネが律儀に答える中、顔を赤くしたアマデウスか席を立ってカイムの肩を組んだ。そのまま饒舌に喋りだすと、嘗ての苦い思い出をカイムにぶつけ始めた。その言葉に苦い顔をしながら反論したカイムだったが、アマデウスの話す内容にバツの悪そうな表情を浮かべると、近くに置かれたスパークリングワインの栓をナイフで開け、吹き出す中身ごと一気に呷ると更に言い訳を付け足した。

 そんな騒ぐ2人を温かい目で見るレナートゥスは、ジョッキのビールを呷りつつ部屋や窓の外を見た。部屋には当然ウェイターの格好をした親衛隊が居て、店内での警備にあたっていた。例年は精鋭による店内警備だけだが、彼の見た窓の外には私服で偽装する親衛隊までが警備にあたっていた。


「でもよぉ、今年に限っては厳戒態勢すぎるだろ?どうなんだブリギッテ・ファルターメイヤー親衛隊総監殿?」


「帝国国防騎士3人からの要請です。断る訳にはいかないでしょう?」


「帝国国防騎士の要請って誰からだ?」


「それは、ヴァレンティーネとドロテーアの2人に…姉さんからです」


「ブリギッタの嬢ちゃんもか!何でまた…」


 レナートゥスの問いかけに、ブリギッテは口調を直しながら説明した。その説明の足りない部分を再び彼が尋ねると、ブリギッテはヴァレンティーネとドロテーアをそれぞれ指差し"姉さん"の部分を気まずそうにして言った。


「内戦終結30周年…あの女はやりかねない…それに…」


「"嫌な予感がする"でして?貴女もそう思いますの、ドロテーア?」


「うん…昼間から変に感じる…」


 ブリギッテの言葉を受けて、細かい事情の説明を求めるレナートゥスはドロテーアに視線を向けた。すると彼女は眠そうな目を不安そうに細めはっきりしない口調で答えた。そのはっきりしない内容に、ヴァレンティーネが先読みして尋ねると、ドロテーアは頷いて答えた。


「"嫌な予感"に"書類"といえば…カイム、3爺さんから送られてきた、古文書の技術解析の報告書だ。例の"りぱるさー"…?」


「リパルサーですか!まさか、完成したんですか?」


「いや、完成した訳では無いんだ。あの古文書、名前だったか…酔って頭が回らん。そうだ、"魔族の方舟"!あれからは、そのリパルサーの大まかな仕組みは解るんだ。だが、歯抜けばかりで細かい事がさっぱり解らん。空飛ぶ戦艦計画は当面の間は冗談だな」


「なっ、成る程…それで"嫌な予感"ですか。確かに爺さん達から聞いた時は眉唾物だと思いましたけど、結構期待しましたからね…ん!」


 レナートゥスに説明するドロテーアの言葉に、マヌエラは足元の鞄を漁り書類を取り出すとテーブルの反対に座るカイムに差し出した。向かい側のマヌエラの説明で酔いが一気に覚めたカイムは、真剣な表情を浮かべて内容を読みつつ捲った。

 その書類を横から覗こうとするアマデウスに、書類表紙の"軍事機密"を見せつけると彼は渋々席に戻った。

 内容を確認するカイムにマヌエラは酔った勢いで饒舌に説明し始めた。テーブルに手を突きカイムの書類を覗き込む彼女は、生き生きと書類の図面や数式を指差して説明を続けた。そんな彼女に圧倒されるカイムは更にページを捲ると、彼は目を見張った。


「それか?それこそ、兵器関係なら爺さん2人が絵空事と馬鹿にしていた"リヒトホーフェン叙事詩"に書かれた…あ~っと…そうだ、"ブラスター"だの"光の剣"の方がよっぽど詳しく書かれていた。基礎的な構造から付属品についてまでな。無口なヴィクター爺さんの走り書きが無かったら、今ごろ書類の山の一角だ」


「光の剣?まさか…色は?」


「ナグタイトとか言う鉱石が必要で、緑を基本に青だ紫になるらしい。だが、組成式から合成した結晶を使用したら赤色になったよ」


「その言い方だと、試作品があるんですか?」


「剣については13本。ブラスターライフル(ゲヴェアー)とブラスターピストル(ピストーレ)は一組15人分だ。現物はハレブルグの国防科学技術研究所にあるが…物が物だけに他の試作品と混ぜて、それこそ親衛隊精鋭の警護付きの陸路で運ぶ他無いな」


 笑い半分に説明するマヌエラだったが、武器の説明文を指差す彼女の瞳は全く笑っていなかった。それだけ強力な兵器である事を理解したカイムは、テーブルの水を改めて酔い覚ましとして一気に飲み干した。


「国防軍の2型装甲戦闘服を貫通して対象を焼き殺す兵器の方が最優先ですよ…とは言え、これは…」


「"見覚えがある"か?ルーデンドルフ橋から考えた君の意見…今は信じる気になったよ。有り得る話だ」


「マっ、マヌエラさん。それって…あっ、カイム…まさか!」


「カイムさん、どういう事です?」


「ほら、総統君。言ってやったいい」


「そうだな…取り敢えず、ヒト族に反撃出来るって事にしとく…」


 ブラスターの威力に驚愕するカイムに、マヌエラは含みのある言葉を全員に聞こえる様に言った。レナートゥスはただ頷き、アマデウスは喋りながら考えると察して声を上げた。

 ただ一人訳が解らないブリギッテは、カイムに詰め寄りマヌエラが茶化すように言うと、カイムは適当な事を言って凌ぎ切ろうとした。

 だが、それより先に彼は背筋を寒くする様な嫌な予感を感じ、宴会入り口の扉を見た。


「頼む、退け!悠長な事はしていられないんだ!ただでさえ、現場で時間を取ったんだ!早く伝えねば」


「ヴェルモーデン海軍大臣、いくら貴女でも困ります。総統のご許可を…」


「急がなければならぬのだ!退け!」


「ならば私達が総統に伝えます!」


 扉の反対側では、慌てる女とそれを必死に止めようとする口論が響いた。男の声は低く厳つい男の声はハルトヴィヒであった。だが、女の声は親衛隊で聞き覚えがないものであった事や、まるで歌手の様な透き通った声を議会や軍の報告会でよく聞くものであった。

 その声の主に気づいたカイムは、慌てて書類をマヌエラに渡すと立ち上がり、扉の前へ走った。


「やはり、ヴェルモーデン海軍大臣か。ハルトヴィヒ、何事だ!」


「カイム万歳。そつ、総統。それが…」


「カイム万歳!総統閣下!」


 扉を開け放ったカイムの視界には、浅黒い肌に短く刈られた髪、左側の角が折れた屈強なオーガが部下を引き連れて立っていた。

 そのハルトヴィヒ達が立ちはだかっていたのは、濃い金色の長いウェーブの掛かった金髪に、背中に白い翼を生やしたセイレーンのヴェルモーデン海軍大臣だった。

 ヴエルモーデンは親衛隊敬礼するハルトヴィヒ達を掻き分けると、カイムの前に立ち海軍敬礼をしながら制服の内胸ポケットから書類を取り出し彼に見せ付けた。


「閣下!緊急事態です!遠洋航行演習中の第1艦隊が…えっ、エ…!」


「"エ"何だ!」


「"エルフの亡命者をジークフリート大陸東方550海里付近で確保した"との報あり。前代未聞の緊急事態です。艦隊はマーフハーフ海軍港に緊急入港させます。事後確認となってしまいましたがよろしいですね?」


「構わん!急いで入港させろ。それと陸軍に連絡を…」


「第16歩兵師団と第6装甲師団を送るとの事です」


「良い手際だ、連携こそが国防軍だな。ヴエルモーデン殿は私と共に国防省へ。ヴァレンティーネ、親衛隊本部に緊急連絡だ!これが、嫌な予感の正体が…」


 走ってきたのか、頬を赤くし慌てながらも的確に報告するヴエルモーデンに、カイムは酔の覚め切った白い顔で指示を出した。

読んでいただきありがとうございます。

誤字や文のおかしいな所ありましたら、報告お願いします。

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