幕間
趣味で書いてるので、温かい目で見てね。
太陽が雲のない青空に輝き真っ青な大海を照らしていた。だが、真っ青で穏やかな空反して、海原は大自然を感じさせる程に波立っていた。
「今日の海は一段と穏やかだな」
「クリストフ艦長…この海面を穏やかとは…うっ、うえぇ…」
「あぁあぁ!中尉、艦橋で吐かないで下さいよ!えずくならせめて外に、艦内に入っちゃうでしょ!昇降口に掛からないように!」
「やわだな…1度でも帆船で荒波を航行してみるといい。こんな波、揺り籠の揺れにしか思えなくなるぞ」
そんな荒れる海原の波を切り裂く様に、1隻の潜水艦が航行していた。その船の艦橋には灰色の体毛や制帽、カッパを水浸しにしながらを双眼鏡を覗くクリストフの姿があった。
そのクリストフの後には、艦橋で警戒任務に当たる乗組員3人、艦橋端で海面へえずく海軍中尉の階級をつけたウミネコの鳥人と彼を介抱するヴェルナー少尉の姿もあった。荒立つ波によって全員の全身がずぶ濡れであり、揺れる艦橋ではウミネコの中尉が滑落しないか全員が心配していた。
「ここまで…船の揺れが酷いなんて…」
「当たり前でしょう?はぁ〜…海軍なんですからこれくらい耐えて下さいよ。折角の第1艦隊遠洋航海訓練なのに。こんなんで、何で広報の貴方が空母だ戦艦じゃなくて潜水艦に来るんですか?第1戦隊にはヴィッテルスバッハ級戦艦とか、第1機動部隊にはヴァッサーピッツェ級の、それこそ1番艦もいるのに…」
「艦隊を支える潜水艦に…焦点を…ゔぇおろぽろおろぉろ…」
「あ~あ…昼飯が流れてく…勿体ないな」
「中尉もなかなか根性があるが、今回ばかりは勝てなかったな。まぁ、ウチの小僧連中も最初は吐きまくっていたものだよ。下に降りて、"軽い気持ちで潜水艦は乗らん方がいい"とでも書くといいさ」
「うえぇ…うっ、ん…"優れた気迫と精神力を要求される"と…書いておきますよ…」
えずくウミネコの中尉の背中を擦るヴェルナーが、目を回す彼に呆れた口調で溜息をつきつつ言った。そのヴェルナーの言葉に、中尉も髭が伸び放題になり厳つくなった彼の瞳をじっと見詰め、凛々しい声で説明をしようとした。
だが、中尉の正した態度は大きな波の前に直ぐに崩れ、海面に昼食が放たれていた。
半笑いで海上を流れていく吐瀉物を眺めるヴェルナーは指示を求める様にクリストフへ視線を向けると、軽く首を横に振り顔に掛かった海水を手で払った彼はウミネコの中尉へ艦内へ降りる指示を出した。
双眼鏡で外を見続けるクリストフの軽口に、中尉は若干楽になったのか応答するとハシゴを降りていった。
「ヴェルナー…陸の奴にしては、あいつも良くやる男だな」
「首都から来て、今までシュレッパーくらいしか乗ってないって割にはですがね。まぁ、もった方ですよ」
「フン…文屋紛いの奴も、やる時はやるのか。他の奴等が貰い吐きしても困るな…潜航準備!中に入れ!」
「ウチの艦隊にそんな奴は居ないと思いますがね。潜航準備!音声管閉鎖!」
ウミネコの中尉が消えていったハッチを一瞥して、クリストフは再び双眼鏡を覗きながら少しだけバカにするようにヴェルナーに話しかけた。双眼鏡を覗くクリストフに、ヴェルナーは彼同様に呆れるようにハッチの奥を覗きながら呟いた。
2人の会話に艦橋の乗組員達が笑いながら双眼鏡を覗く姿で、気を抜く様に息を吐いたクリストフは大声で指示を出した。その言葉に気持ちを切り替えたヴェルナーもハッチの奥に大声で指示を飛ばすと、警戒任務につく乗組員へ艦内へ戻るように手招きした。
「艦長!左舷方向、10時に大型の帆船1隻!距離2200!帝国旗はありません!」
「バカ言え!400海里は優に超えてるんだぞ!こんな海域に民間船が居るわけもないだろう…いた!かっ、艦長!」
「来たぞヴェルナー…久方ぶりの敵襲だ、胸が高鳴るな。遠洋航海訓練様々だな?緊急潜航!バラストタンク注水!」
「アラ〜〜〜厶!」
艦内へ戻り始めていた乗組員の1人のゴブリンが眉間にシワを寄せて訝しげに双眼鏡を覗くと叫んだ。その言葉にヴェルナーは慌てて左舷艦橋に走ると双眼鏡を覗き辺りを見回した。
すると、その双眼鏡の映す遥か先の海に、白い帆を広げて航行する木造船が映った。その光景はヴェルナーを驚かせ、彼は慌ててクリストフへ振り返り叫んだ。
慌てるヴェルナーと対象的に、クリストフはゆっくりとした身振りで双眼鏡を覗くと、笑みを浮かべながら指示を叫んだ。その言葉に、艦橋の全員は腰のベルトと艦橋を繋げる命綱を外し、ハッチに1番近い魚人の乗組員が艦内へ向けてあらん限りに叫んだ。
艦橋からの警報で艦内にけたたましいサイレンが鳴り響き、ハッチから入り込んだ海水と乗組員達が雪崩のように落下してきた。
「全員艦首に急げ!」
「コケるな!走れ!何のための訓練だったか思い出せ!」
「急げ、急げ!急げ、急げ!」
艦内では下士官達が海兵達に艦首へ走るよう促し、髭が伸び切って体毛の荒れ放題の男達が慌ただしく駆けずり回っていた。
「ぐわっ…ぷっ、ぷぇっ!海水飲んだ…航海長、会敵位置を記録しておけ!」
「了解、艦長。艦隊本部に伝えますか?」
「まだだ、そもそも、敵と決まった訳でもないからな」
艦内の慌ただしさと異なり、ハッチを閉じ最後にハシゴをきちんと降りてきたクリストフは口に入った海水を吐き出しつつ指示を出し、即座に操艦席と潜望鏡の近くに立った。
「ノルベルト、潜望鏡深度まで潜水」
「了解、艦長。艦首10下げ、艦尾15下げ」
「艦長、敵の艦隊は?」
「艦隊じゃない。1隻だ…妙だな?大陸侵攻なら、千を超える艦船がいるはずだ。なのに、駆逐艦…いや、砲艦?とにかく、護衛艦らしき影もいない」
「漂流船では?ファンダルニアから流れてきた船が奇跡的にここまで流れ着いたとか」
「バカ言え、バルドゥイーン。次席士官が、んなアホな事言うなよ。それに、ありゃ大型の輸送船だ」
操艦席のすぐそばに立つミノタウロスのノルベルト機関長に操艦指示を出すクリストフは、次席士官でコウモリ系獣人であるバルドゥイーンの疑問に海水で濡れた帽子絞って被り直しながら答えた。
士官達が話し合う中、潜水艦は潜望鏡深度まで到達した。クリストフは直ぐにスイッチを操作して司令室へ潜望鏡を引き上げさせた。
「ヴェルナー少尉、どうしたんです!」
「しーっ!トーマス中尉、不審船です。艦長が潜望鏡で確認してますよ」
「遠洋航海訓練で敵艦隊ですか?」
「さて、どうでしょうな?もしかしたら、亡命者とか?」
「ひっ、ヒト族がですか?冗談であって欲しいですよ…」
慌ててやってきたウミネコのトーマス中尉が大声を出して司令室へ飛び込んで来ると、士官全員が彼を睨みつけヴェルナーが急いで黙らせた。
小声で説明するヴェルナーは親指で潜望鏡を覗く艦長を指差し、トーマスと軽く言葉を交わすと2人は艦長を見つめた。
「方位315度、本艦左舷10時方向。大型の帆船。輸送船と思われる。帝国旗は確認出来ず。国旗や信号旗もない。船員も確認できず。護衛艦も一切いない」
「大型の輸送船なのに船員が見えない。どこの国の船かも判らない輸送船が帝国の経済水域350海里先にいる…クリストフ、ゾッとしないな」
「損傷しているが、遭難船という訳ではないな。あれ年季の入った船特有のものだ」
「いよいよ怪しいですね。第11潜水艦隊だけでも集結させ他方が良いのでは?」
潜望鏡を旋回させた艦長は、その視界に見える不審船の特徴を淡々と述べ航海長がその特徴を書類に書き込んでいた。
その言葉に機関長が艦長と操艦席を交互に見ながら不安げに呟き、次席士官は艦隊の集結を提案する程だった。
「そうだな…ん?あれは船員か?」
「なんだ…幽霊船とかじゃないのか」
「幽霊船…それはそれで記事になるから…」
「あれは…」
潜望鏡を覗くクリストフは、口元を曲げて疑念の声をもらした。その言葉に、ヴェルナーが思わず安心したように呟きトーマスがその言葉に対して思った言葉をそのまま言った。
だが、2人の撒いた緩い空気もクリストフの発した不穏な一言に司令室は一瞬で冷たい空気に包まれた。
「魚雷発射管用意。取舵いっぱい、90度。戦闘用意」
「艦長!戦闘ですか!」
「船員にエルフがいる。変に肌が黒いが、エルフだ。第1艦隊本部へ緊急通報」
「了解、艦長。戦闘用意!」
不穏な静けさが流れる司令室に、艦長は冷静な口調で戦闘の指示を出した。その言葉に次席士官が驚きの言葉を述べると、艦長は続けて敵船の報告を述べた。
その言葉に、全員が納得すると司令室から魚雷攻撃準備の指示が艦内を駆け抜けた。
「第1艦隊旗艦ヴァッサーピッツェ、こちら第11潜水艦隊U-096。エルフの乗る不審船を確認。これより戦闘に入る!」
「艦首左へ12。距離1500。横っ腹を晒してる。1番、2番用意」
「了解、艦長。艦首左へ12、距離1500。発射管、1番、2番用意」
無選手の通報が響く中、艦長は的確に敵艦の位置と距離を伝え、次席士官が魚雷発射管へと指示を出した。
[目標捕捉!]
「艦長、目標捕捉」
「1番、2番…攻撃中止!」
「攻撃中止!…艦長、一体何か?」
「シュペー提督へ連絡だ。どっかのバカの冗談が現実になった…"エルフが白旗を上げた。至急、水上艦の救援を求む"とな…」
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