第2幕-7
趣味で書いてるので、温かい目で見てね。
「しっかし、お前さん等もようやるよ。同族だ民だか知らないが、やれるか解らんジークフリート大陸へ行って魔族へ亡命しようなんてな。今思い出しても、国境超えたお前さん等のボロ雑巾みたいな姿は、本当に哀れだったよ」
「小さな村や街の人間関係ならまだしも、国家…いえ、全ダークエルフの生命に関わりますから」
「まっ、俺みたいな商人には永遠に解らん話だな。"英雄"だ"勇者"だ"賢者"にでもならなきゃ、ウン万人の命を守るだ救うなんて…まるで、吟遊詩人の詩みたいな事の当事者にゃならんからな」
「それより、よく魔族の元へ助けを求めるダークエルフを手伝う気になりますね?貴方は本当にヒト族なんですか?」
「金を積まれた。それなりの大金だし、仮にあんたらダークエルフが魔族とつるんで攻めてきても、あいつ等は負け戦ばかりの連中だどうせ勝つ。なら、馬車と適当な服を数着、流れに流れた訳の解らん格安の船1隻の代金で1月分の儲けだ。当然引き受ける、ケチでがめついからな」
3人の仲間を失ったアネルマ達は、エスパルニア王国の国境を越えてポルトァのノヴァ・デ・ローレへ到着する事が出来た。カーリの案内の元向かった酒場には、闇証人ソシモの言ったとおりにポルトァ王国からの案内役の男が待っていた。
その案内役のガタイの良い男の馬車に乗ったアネルマ達は、案内役の男が止めるのを無視した強行軍で5日の行程を3日と半日で港町ポルトに到達した。
「それで、本当に私達はこのファンダルニア大陸から出られるんですか?」
「一応出られるさ。年末迫る11月の30日じゃあ、あちこち祭りの準備でゴタゴタだ。それで警備も厳しくなるが、あいつ等はそっちに手一杯になる。リリアン大陸とか、北の方みたいに雪でも積りゃもっと上手く事を運びやすいが…こっちはそんなに雪が降らんからな」
「祭り…ですか?」
「この酒場だって騒がしいだろ?お前さん達が"お登りさん"に見えるくらいには。おかげで、あんたの慣れてないポルトァ語がバレないくらいにはな?」
「そう…ですね」
アネルマ達が案内役の男と話す場所は、港町であるポルトの酒場であった。男の言うとおり、酒場は多くの人でごった返しており、立ちながら酒を呷る男達で店先まで溢れかえる程だった。
そんな人で溢れる店の奥のテーブルで話すローブで顔を隠した4人は多くの人の影に入り、声は酔った男達の声に掻き消されていた。
「それで、明日の早朝には出港したいのですが」
「バカ言え、荷物や何やらは積んであるがたった3人で大型帆船の操船だと?"漂流したいです"って言ってる様なものだ。船員集めに最低…事が事だし1週間と…」
「そんなに!待てる訳がないですよ!こうしている間にも、ノーベル帝国は…」
「無茶苦茶だ!3人で帆船を航行しようだなんて、自殺行為だぞ!仮に出ようとした所で、出港手続きや出港前の保安検査港を無視するんだ。海上警備隊から通報されて王国騎士団が飛んでるくぞ!海上警備隊は外でも見たろ?オレンジの服着た奴らだ」
「Ei, he ovat kaksi. Meillä olet matkalla.《いや、2人だ。2人で航海に出てもらいます》」
アネルマは周りを不安げに見回すと、深く息を吐きながら男にハッキリとした強気な口調で依頼をした。だが、彼女の発言に男は呆れるようにテーブルへ肘を付き頭を抱えた。先程まで真面目だった案内役の男も、厳つい顔に失笑を浮かべて説明を始めた。
だが、その言葉はアネルマの焦りと動揺が混ざった大声に止められた。額に汗を浮かべるアネルマも、自分の大声に周りの視線を1度だけ窺うと小声で囁く様に男に主張した。その至って真面目なアネルマの表情を前にした案内役の男は、彼女に負けない程の真剣な表情と刺すような視線で強く言い放った。
だが、男の言葉に続けて発言したのはテーブルに腕を置き男に詰め寄るソイニであった。
「あ~っと…アネルマさん、コイツは今なんて?」
「"航行するのは2人"と…。Soini, mitä aiot tehdä? Pitäisikö laivan matkan suorittaa kolme ihmistä?《ソイニ、どういうつもりだ?船の航海は3人で行うはずだろう?》」
「Jotenkin ymmärrän tarinan. Lisäksi sataman turvallisuus on liian paksu satamasta poistumiseen? Sitten vartijasi toimii houkutuksena. Kali on OK… menee Siegfriediin luottaen.《何となくですが、話は判りますよ。また港の警備が厚くて出港出来ないのでしょう?なら、護衛の自分が囮を務めます。カーリは一応…船の航海が出来ますから、安心してジークフリート大陸へ行ってください》」
「Voi sinä! Valitan, vaikka et olekin prinsessa! Ei enää uhrauksia ...《おっ、お前!姫様でなくても文句を言うぞ!これ以上の犠牲は…》」
アネルマ達の言葉を理解出来ない男を置いて、彼女は真剣な表情を浮かべるソイニへ問い詰めた。怒りの表情を浮かべ小声で主張するアネルマに、ソイニは彼女に負けぬ気迫のある声で主張した。
その言葉には明確な死への覚悟が現れていた事でアネルマがあっさりと黙ると、慌ててカーリが割って入った。彼女とソイニが特攻を仕掛け街の警備の注意を引こうという考えが理解できていた。その為、カーリも必死にソイニを止めようとしたが、彼の睨みつけるような視線を前に黙るしか無かった。
「あ~、嬢ちゃん達?雰囲気から、その男が囮になるのは解った。あくまで明日に出港するってのなら、俺は構わんよ。まぁ、船の手配で仕事が終わるってなら、俺は大助かりさ。船は52桟橋に停泊してる。魔道具の一切無い仕様だから、問題ないだろ」
「お世話になりました、べニートさん」
「アネルマ…だったか?これまでに3人、そして更に1人だろ。4人もあの世に送り出すんだ。その任務とやら、成功させろよ。それと、この男には"死ぬまでには出来るだけ派手に暴れろ"って言っといてくれ」
困り顔でようやく話に入れた案内役の男であるべニートは、諦めた様に眉間を軽く掻くと上着の懐から印の付いた港の地図を取り出しアネルマへ投げた。
その地図を受け取るアネルマは、ただ瞳を閉じて深々と頭を下げた。その悲痛な姿に、べニートはゆっくり立ち上がると3人に背を向けながら助言をした。その言葉に3人が礼を言う前に、彼は別れの挨拶とばかりに片手を上げると酒場の人混みに紛れて行った。
「私も行きます。朝の準備がありますので…」
「祖霊と共にあらん事を…」
べニートが去ったテーブルには、嫌な沈黙が流れた。それは直ぐに死が待っているソイニからであり、部下に死を命令するアネルマからであり、仲間が先に旅立つ中で何も活躍出来ていないカーリから流れるものであった。
その空気の中、ソイニはただ一言述べるとテーブルを足早に去っていった。去り行く彼の背中を一瞥したアネルマには止める言葉がなく、ただ一言で彼を送り出す事しか出来なかった。
ソイニの去ったテーブルで、肘を付き組んだ両手て頭を抱えるアネルマは深くため息をついた。そんな彼女にカーリは肩を抱きながら軽く叩いた。
「姫様の責任ではありません。全ては私の責任です」
「貴方はスオミの民を救う手段やここまでの道を作った。責任を負うどころか表彰だ。だが、4人の死を決断したのは私…」
「30万を救うためです。今のうちに、この船に乗り込んでおきましょう。久し振りの航海ですが、最低限の準備をすれば何とかします。いえ!たとえ私が死んでも、姫様だけはジークフリート大陸へ送り届けます」
「そう…そうね…」
何とか励まそうとするカーリの言葉に、アネルマは弱い口調で答えると席から立ち上がった。
翌日の明け方、ポルトの街の1画でダークエルフが朝の魚市場で暴れまわり、騎士団や警官隊を巻き込んで爆発したという騒ぎが発生した。その爆発は凄まじく、騎士団や警官隊だけでなく民間人にも多くの怪我人がでた。その為、港の海上警備隊さえも救援に動員され、港の警備は手薄になった。
港から船が1隻出港したことは、誰も知らない。
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