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帝国再興記~Gartschlands Gloria~  作者: 陸海 空
第5章:2444年帝国の旅
212/325

第2幕-6

新年、明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

とはいえ、趣味で書いてるので温かい目で見てね。

 ヴィルヘルムの必死の叫びに従ったアネルマ達5人は、湾岸警備隊の包囲網を建物の上を飛び越えて移動するという方法で突破するとなんとか市街地へと侵入した。

 エスパルニア人に中に紛れると、アネルマ達は肌の色が似ていた事から上手く溶け込めていた。豪雪用の厚手の上着を脱いだ事で、薄手の上着にシャツとズボンというありがちな格好で人々へ紛れようとしていた。


「Que?《何だ?》」


「Duende oscuro?《ダークエルフ?》」


「¡Un elfo oscuro con un arma!《武器を持ったダークエルフだと!》」


 だが、結果から言えば隠すこと無く武器を持つ5人の集団は嫌でも目立ってしまっていた。中でもアネルマの右耳がストールを上手く巻けなかった為にはみ出し、更に市民からの注目を集めて逃げ惑わせてしまっていた事で無駄に目立ってしまった。

 だが、そんなにアネルマ達への視線は湾口で起きた爆発の轟音によって外れた。


「カーリ、今の港の爆発は!」


「姫様…ヴィルヘルムは…名誉の戦死です!」


「あの爆発はヴィルヘルムの発破管の炸裂だよな!敵ごと巻き込んでの壮大な戦死ですよ!」


「ウント、喋ってないで走れ!」


「糞が、なんでこんなに人が多いんだ!道も狭いし住みにくいだろ!」


 爆発の光と煙を背に見たアネルマは、混雑する道を走りながら隣を走るカーリへ向けて尋ねた。アネルマの視線を受けたカーリは、彼女から顔を背けると渋い顔を浮かべつつ悲痛な声で現実を述べた。

 その言葉に護衛の3人も苦し気な言葉を漏らすと、混乱を始める市民を睨みながらひたすらに走った。


「彼の死を無駄にしない為にも早くカストロ・エステビアを出て国境を越えないと!」


「カーリ、道は…ん?なっ!もう追っ手が来たのか!」


「早すぎ…いや、武器持って走る5人組じゃ目立つか…」


「原因はお前だろ!その布巻き直せ!」


 薄っすらと涙を浮かべるアネルマは奥歯を噛みしめると走る速度を上げて呟いた。

 その言葉にソイニがカーリへ道を尋ねようとした。だが、その言葉は後ろから聞こえてくる馬の蹄の音と多くの足音を前に止められ、振り向いた彼は驚きの声を上げた。

 一瞬驚くカーリが冷静な口調で全員の持つ武器を一瞥して呟くと、ニーロが彼女を睨みつつ叫んだ。

 狭い通りを走るアネルマ達が比較的大きな道へと繋がる通りへ出る直前、彼等の目の前に大きな荷馬車が通ろうとした。


「止まるな!各々避けろ!」


 荷馬車を前にしたアネルマは全員に叫ぶと、走る足を止めずに前進を続けた。その彼女に続き全員が更に加速をかけると、カーリとニーロが荷馬車を飛び越えアネルマとソイニが車体をスライディングで潜り抜けた。


「クソッ…市街地で囲まれれば一貫の終わり…なら!」


 だが、5人の最後尾を駆けていたウントは苦々しい表情と共に呟くと、肩で大きく息をすると少しの砂埃を上げつつ立ち止まり振り返った。彼の視界には遠くから列を成して駆けてくる騎馬隊が7騎程が見え、その後には短槍を持って走る兵士達が見えた。


「ウント、何してる!早く来い!」


「俺もここで脱落だ、お前らは先に行け!俺がここで時間を稼ぐ!」


「馬鹿な事を言うなウント!早く…」


「俺は足が遅い。オマケにこの人混みじゃ長物や剣は不利だ!俺が建物上で籠城したり飛び移って狙い撃てばこっちに目が行く!何せ俺たちゃ害獣だ。街を出る奴より、残って暴れる方が危険で駆除される!」


「でも…」


「早く行けって!」


 ウントが居ない事に気付いたソイニが振り返り、大通りの反対側からクロスボウを構える彼に向かって叫んだ。

 ソイニの大声とそれに言葉を返すウントのやり取りに、残りの全員も走る足を止めた。アネルマも対岸のウントに大声を掛けたが、彼はクロスボウに矢を掛けつつアネルマ達を急かした。

 アネルマにこれ以上何も言わせない様にする為、ウントは騎馬隊の先頭を走る1騎の馬に対して矢を放った。その矢は見事に馬の頭部を射抜くと、乗っていた鎧姿の騎士は勢い良く鞍から放り出されると建物の壁に叩きつけられた。

 地面に崩れ落ちる馬によって後ろの騎馬隊はドミノ倒しの様に倒れた。何とか倒れた騎馬を避けた1騎も先程吹き飛ばされ倒れて動かない騎士を避けようとして転倒した。


「皆…行きましょう…彼の命も…」


「馬鹿野郎…弓兵1人が格好付けるな!姫様、もう1人脱落します!行ってください!うおぉおぉ!」


 1射で敵の隊列を崩したウントの姿に、アネルマは戦死を前提に仲間送り出す悲しみの表情を浮かべつつ歩みを進めようとした。

 だが、ニーロはボウガンの弦を必死に引こうとするウントの姿を見ると、握った槍を握りしめ雄叫びと共に彼の元へ突貫した。


「ニーロ!」


「行きましょう、姫様。カーリの言う事も一理あります。弓兵1人より槍兵と組み合わせた方が…」


「貴女は…私にあと3人も犠牲にさせろと言うの!あの2人にも"死んでこい"と!」


「アネルマ!この任務はスオミの民の未来がかかってるんだ!たとえ苦しくても、辛くても…これから貴女の任務で、俺達の任務だ!」


 通りを突き進みウントへ建物に登るよう指を指して指示を飛ばすニーロを、アネルマは引き止めようと声を掛け手を伸ばした。だが、その手はカーリが掴み先を急ぐように引きながら彼女を急かした。

 そのカーリ言葉はアネルマの癇に障った。既にヴィルヘルムの戦死に悲しみを感じていた彼女には、カーリの急かす言葉とそれを言える感情が理解出来なかった。

 だが、カーリの言葉に薄っすらと涙を浮かべ今にも泣き出しそうなアネルマを前に、ソイニは彼女の肩を掴み鬼気迫る表情で怒鳴った。その表情と言葉は鬼気迫るだけでなく、友人を死を前にして何も出来ない悲痛さが混ざっていた。


「わたっ…私は…」


「お前等何やってる!早く!」


「姫様!行きましょう!」


「くぅ…2人とも!勇ましく死になさい!」


 何とかソイニへ言い返そうとするアネルマに、倒れる馬や騎士達を乗り越えた兵士達と交戦を始めるニーロとウントを見ながら言葉を漏らすと、援護射撃をするウントが3人へ怒鳴った。そのウントの言葉にカーリがアネルマを急かすと、彼女も諦めた様に涙に鼻水さえ流しながら叫ぶとカーリとソイニを引き連れて走り出した。

 走り出したアネルマは走りながら途中に1度だけ背後を振り返った。そこには無数の兵士達を前に苦戦しつつ、数の差に負け左太腿を負傷するニーロの姿が見えた。それどころか、ウントが止める中早々に胸元へと手を入れるニーロの姿さえ見えていた。

 その現実にアネルマはただ奥歯を噛み締めつつひたすらに通りを走った。

読んでいただきありがとうございます。

誤字や文のおかしな所ありましたら、報告お願いします。

今年もよろしくお願いします。

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