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帝国再興記~Gartschlands Gloria~  作者: 陸海 空
第5章:2444年帝国の旅
209/325

第2幕-3

趣味で書いてるので温かい目で見てね。

 人口の全てをダークエルフで構成するスオミ族国は、歪な三角形をしたリリアン大陸の最北に位置していた。

 元々はフィントルラント精霊国の鉱山地帯であった。だが、国内で発生していたダークエルフへの差別と、それに伴う収容所設立に端を発した民族内戦に彼等が敗北して事実上占領した事により一応平穏は保たれていた。

 それは、鉱山地帯とは言えど既に主要な鉱物の鉱脈は枯れて極寒の大地しかない地域にわざわざ手入れをしようと思う程、軍備や国庫に余裕のある国が周辺に無かったからでもあった。


「"…よって、リリアン大陸の各国は、この北の大地やティアルハ鉱山周辺の不当占拠に黙してきた。それは我等ノーベル帝国も同様である。だが、今回の謂れない侵攻をもって、皇帝ローランド・アラン・リルクヴィスト陛下はお怒りである。1ヶ月以内に何かしらの賠償がない限り、皇帝陛下の御名において野獣討伐の為の北方遠征を行う"以上です」


「わざわざスオミの言葉でこんな大仰な文書を送って来るとは…ノーベル帝国は、今更何をしようと言うのだ?」


「一応ではありますが、成り行きでも私達スオミの民に土地を奪われた訳です。きっとそれを白エルフ達に知られたんでしょう」


「つまり、白エルフからの圧力で戦争すると言うのか?」


「それだけでは無いだろうが…あの空を飛んだ魔導具。今まで見た事も無ければ、あの蛮兵国家が作れるとは思えん。そして奴隷産業で稼ぐ財政だ…魔術頼りでひ弱の白エルフへ良い顔をするついでに、私達で財政を潤しあの魔導具を値切る腹積もりだろうかな?」


 再び狭い小屋に集合したダークエルフの族長達は、部屋の中央に立ち報告する青年の話しを受けて騒がしくなった。

 そんな族長達の言葉を受けたピエリタは、持論を述べたがそれ以上言葉が続く事は無かった。

 不思議と危機感の薄いピエリタから沈黙が流れると、騒がしくしていた族長達も気を休める様に静まり始め何時しか小屋は完全に沈黙で包まれた。


「当然、白エルフも黙っていない。子飼いの蛮兵国家に良い顔をされるくらいなら、自ら兵を出し私の首を狙おう…そうなれば、漁夫の利を狙ってデルマーク王国にニーノモール王国も出兵する。凄いなリリアン大陸の全王国が私達と戦争状態になるのか」


「父上、呑気に言わないで下さい!デルマークはまだしも、ニーノモールまで参戦となれば、国境線3つが戦場になる。いくらスオミの民でも、2桁の数の差は埋められません!」


「兄上…この際、どう勝つかでは無く如何に負けるかでは?野蛮なノーベルや悪辣な白エルフではなく、比較的まともなニーノモール王国へ花を添える方法を思い付けば…」


「マリッタ!お前はラハテーンマキの子であるにも関わらず、負けを見越して戦おうと言うのか!」


「着地点は必要でしょう!全滅しては元も子もありません…熱くなってもこの吹雪が止む訳でも無いでしょうに」


「なん…だと!」


 沈黙を破り呟いたピエリタの口調は先程同様に危機感を欠いており、頬には笑顔さえ見えていた。

 そんな父親の反応にユッシが冷や汗を浮かべながら大声を上げるも、眉をしかめて耳に手を当てるマリッタの不快感混じりの言葉が響いた。すると、不快感を露にしたユッシへマリッタが余計な一言を付け加えた。

 その言葉にマリッタの毛皮の上着の襟首を乱雑に掴んだユッシと彼女は、一触即発の空気を漏らしていた。

 睨み合う二人を前に、小屋の誰もが完全に喋る機会を失い総長であり二人の父親であるピエリタに打開を求める視線を向けた。


「はぁ〜…血の気の多すぎる息子に、気怠い割に頭の回る娘か…私とピルッコを半端に分けた様だな…それで、その兄姉を見て何を思う、アネルマ?」


「わっ、私ですか?私は…無い事も無いです!」


「あの時はすげなく返したが、スオミの危機であれば、皆にも聞かせる価値が出てきたと言うものだ。なぁ、ユッシ、マリッタ?」


「アネルマの考え…ちっ、父上!それは余りにも荒唐無稽です!」


「まぁ、兄上の夢想する"白エルフに勝つ算段"よりは聞く価値がありますよ」


 族長達からの視線を受けたピエリタは、深く溜め息をつきながら部屋の端にカーリと並んで立つアネルマに声を掛けた。その内容に彼女は言葉を濁したが、カーリに背中を叩かれ喝を入れられるとやるせない表情を浮かべながらも声を上げた。

 アネルマの発言をピエリタは促した。それを止める様にユッシは否定的に声を荒げたが、マリッタに茶化すように言われると彼は奥歯を噛み締めながら黙りアネルマへ発言するよう身振りで促した。


「あのっ…そのっ…こっ、荒唐無稽と思えるかも知れませんが!カーリ・ミリヤ・アイラ・フーノネンに1つ考えが…」


「姫様!何時もの度胸はどうしたんです!」


「だってさ、族長会議だし…こんな間の抜けた考えを皆に言うなんて…」


「"蒼鬼"とか言う兵士達に啖呵切った女の台詞ですか!」


 怯えと恥ずかしさを混ぜた表情を浮かべたアネルマは、カーリを前に突き出して一歩後ろに下がろうとした。そんな彼女の発言に激を飛ばしたカーリは、気の抜けるアネルマの発言に肩を落としつつ彼女を小屋の中央へ引っ張るとピエリタの前に連れ出した。


「姫さん!この際、何言ったって同じですよ!気負わないで!姫さんの妄想癖は皆知ってますよ!」


「負けんな嬢ちゃん!兄貴なんざ言い負かしてナンボだ!」


「アネルマ、スオミの民存亡の危機なんて昔っからでしょう?それを打破してきたのもアンタみたいな変な奴のアホな考えでしょ?」


「今でこそ私も英雄だが、弾圧の過激化を前に"ウーシパイッカを討とう"と言った時は父上とお祖父様から大目玉を食らったものだ!」


「父上、姉上も皆も!何でスオミの民は歳喰うとそんなに呑気になる!この気の抜ける発言はコスティ・オスモ・ミッコネンからですね!ヤニ・アルヒッパ・トッピネンも茶化しましたね!混雑していても声で判別くらいは付くんだから、後で覚悟してなさい…」


 小屋の中央で意気地なく指を遊ばせるアネルマを前に、族長会議に参列する数人から声がかかると、ピエリタやマリッタさえも激を飛ばし始めた。何時しかアネルマへの激に満ち溢れた小屋の中で、彼女は人だかりに指を差しながら呆れるように呟いた。

 そんなアネルマをカーリが肩を叩いて急かすと、彼女は意を決した様に肩に力を込めた。


「自分でも無茶苦茶なのは解っています。まるで霞を掴もうとする様な事である事も理解しています。その上で、皆さん聞いてください。

 "敵の敵は味方"と言う言葉があります。ヒト族はそうやって争い、何時までも醜い国家間戦争を行っています。それは権力であり、財を求める為です。白エルフ達の私達に対する差別や選民意識は、強大な魔法によるヒト族へ権力誇示に似て非なる私達が邪魔だからでしょう」


「だから、"同じ境遇の魔族に助けを求める"って言うのか?」


「"話の腰を折って下さり"ありがとうございます…兄上…

 そういう事です。ヒト族や白エルフが徒党を組もうと言うなら、私達とて徒党を組めば良い。スオミの民の戦える者が5万でも、魔族からも兵が来て人数差が埋まり、この地に兵力が10万も集まればジークフリート大陸の戦闘よろしく泥沼になる。

 長期戦は私達の得意とする所で、ノーベルも白エルフも望むところでは無いでしょうから。よしんば勝てずとも、この極寒に拘る必要も無く魔族の皇帝でも貴族にでも頼んで土地を貸して…いえ、纏めて全員を帝国に亡命させて貰えば何とかなりましょう。

 私を含めた皆さんとて、不当な差別が無ければわざわざ自治権を求める事もせず国に属するでしょう?別段、帝政が嫌だと言う訳でも無ければ、ファンダルニアの…社会主義でしたか?そういうのにも傾倒していないでしょう?

 求める所が、"スオミの民の安全と健やかな未来"にあるなら、魔族の皇帝に跪いて頭を垂れるのも悪くはないでしょう。

 少なくとも、私は生き残れてある程度自由があるなら文句はありません」


 アネルマは1度話し出すとユッシの発言もものともせずに続けた。その内容を聞く多くの族長は、ある程度は納得出来ると頷いていた。だが、ユッシの様な一部の若い男達からは不満の表情が覗いていた。


「成る程な…改めて、聞く分には面白い。面白い…が、こちらにばかり利が有り過ぎる。魔族が要請を飲むとも思えんな」


「総長、良いんですか?貴方はスオミの民の代表なのにも関わらず、魔族の訳の分からん連中に頭を垂れるなど!」


「兄上が時々言っている"首都エスペレンキへの大攻勢"よりは悪くないと思いますよ?」


「マリッタ嬢の言う通り。ですが総長、やるにしてもどうするつもりです?ポルトァからジークフリート大陸に行くにしても、大型帆船で1週間は掛かる。それがリリアン大陸で、我々の持っている小さな漁船ともなればそもそも辿り着けるかどうか…」


 不満を感じる族長達への牽制を兼ねたピエリタの発言に、唯一ユッシが反論を唱えようとした。だが、それをマリッタが皮肉るように止めても族長達の中からそもそもの問題が浮かび上がると、再び族長会議は騒がしくなった。


「敵もわざわざ1月待つと言っているんだ。少なくとも、1ヶ月以内。最悪の場合、スオミの民が全滅するまでの期間以内に援軍を連れてくる…」


「やるとしても無茶苦茶だな。奇跡でも起きなければ…いや、そもそもスオミの民が生き長らえているのが奇跡なら、出来なくもないんだろうな」


「手段もそうだが、あの土地も広いぞ。奇跡でも偶然でも、ジークフリート大陸へ着いたとしてどうやって援軍を取り繕うんだ?使者だ何だと言って早々に信用されるとも思えんし、下手をすればその場で殺されるかもしれない」


「正直、我等を国家と言えるかも怪しい所だが…書類の1つでもあれば貴族連中から辿り着けるだろう。その辺りは私が用意する。そう言えば、この中に魔族の言葉を話せる者はいるか?」


 騒がしくなる小屋の中で族長達がそれぞれの発言をする中、ピエリタの一言で全員が静かになった。

 そんな小屋にいる全員の視線を受けたアネルマは、ゆっくりとカーリへ視線を向けた。その視線を受けた彼女もアネルマへ視線を向けたが、お互いに首を横に振ると二人は苦笑いを浮かべた。


「半月もあれば魔族語の1つくらいは覚えられ…ますよ?」


「はぁ、我が妹ながら馬鹿なんだか鬼才と呼ぶべきか…」


「とにかく、スオミの未来は一応決したな。2日以内に書類と決死隊の編成。どんな無茶でも最短経路を考え出し、3日以内には出立させる!総長命令だ。異議のある者は?」


 アネルマの言葉にユッシが溜め息をつくと、ピエリタが頭を抱えながら結論を言うと、誰も何も言わずにただ頷いた。

読んていただきありがとうございます。

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