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帝国再興記~Gartschlands Gloria~  作者: 陸海 空
第5章:2444年帝国の旅
207/325

第2幕-1

趣味で書いてるので、温かい目で見てね。

 その大地は雪に包まれていた。灰色の雲はしんしんと雪を降らし、昼間だというのに太陽の日が差さない零下の世界だった。


「総長、やはり畑は駄目です。日があってもこの寒さと雪では育つものも育ちません」


「狩猟だけでは、ダークエルフ30万人は支えきれません。村々からは既に餓死者も出ているとか…」


「このホミニオとて時間の問題です。せめてザッキアナの土地があれば…」


「皆、無い物を強請ったところで空から降って来る訳でも無いのだぞ。族長たる者…いやっ、人ならこの状況に弱音も吐きたくなるか…」


 小さな三角屋根の小屋が集まる小さな集落の中にある比較的大きな家の中、老若男女様々な者達が暖炉の前で話し合っていた。

 その部屋は話し合う者達全員を座らせるには狹く、壁に近い者達は全員立って参加していた。だが、暖炉では部屋を暖かくするには火力が足りず、壁際の者達は、寒さに身を振るわせていた。

 それどころか、話し合いに参加する殆どの者達は厚着をして体には出ないが、顔に栄養不足が目に見えて解る程だった。


「ピエリタ総長。これ以上の食糧難は成人を迎えた者達ならともかく、子供にこれ以上負担を掛けるのは今後に関わります!確なる上は、ノーベルの蛮人共に…」


「ユッシ!貴様もラハテーンマキに名を連ねる者なら、戦ではなく民を考えろ!」


「父上!黒エルフの英雄たる貴方が立ち上がらずしてどうするのです!」


「くどいぞ!男子で1度でも戦場に出たなら解るだろう。我らでは、白エルフどころかヒト族にも勝てぬ…曾て何人の同胞がフィントルラントに焼かれ、何人が奴隷としてノーベルの蛮兵達に攫われたか考えんか!」


「ですが…このままでは我ら皆揃って全滅です!」


 暖炉から1番離れた場所にあぐらをかいて座る総長と呼ばれたピエリタは、浅黒い肌幾つものシワと切傷の跡を残した灰色の髪の男だった。

 座高が高く屈強そうに見えるピエリタも、コケ始めた頬に切れた唇が栄養不足を主張し、息子であるユッシの言葉をかき消した怒鳴り声にさえ疲れが見えていた。

 そんなピエリタの言葉に、疲れ果てていたダークエルフの族長達は暗い顔へ更に影を落とした。


「皆、辛い気持ちは解る。魔法を使えぬエルフだからと、我等を弾圧するマクルーハン教に従う連中は悍しい。だがな、我等スオミの民は耐え忍びここまで来た。古の歴史を繋ぐ末裔として…どうしたのだ、アネルマ?」


「いえ、お父様。外から鐘の音が聞こえた様な…マリッタ姉様、聞こえませんでした?」


「えっ…そうね、吹雪の音の中に何か響くような?」


「いや、皆!確かに聞こえるぞ。鐘の音です、父上!」


「族長は武器を持て!民は家に隠れさせろ!」


 暗い雰囲気に冷気が満ちた小屋の壁際で、アネルマと呼ばれた小柄な体躯に灰色のミディアムヘアーの少女が壁に視線を向けた。

 その緑の瞳を細めて訝しむ表情に近くの者達がアネルマへ視線を向けると、それに気付いたピエリタは彼女へ声を掛けた。アネルマは説明と共に姉へ尋ねると、長い灰色の髪の枝毛を探すマリッタが首を傾げ、隣のユッシが勢い良く立ち上がり叫んだ。

 息子の叫びにピエリタは小屋の全員へ指示を出すと、彼を含めた全てのダークエルフ達が壁や床に置いた各々の武器を持つと出入り口の扉にに殺到した。


「空から敵襲!敵襲!」


「馬鹿を言え!フィントルラントとは休戦状態なんだ!敵ではない!味方でもないながな…」


「またか。ノーベルの蛮人共」


「凄いな、魔法は…空さえも飛べるのか…」


小さな木製の鐘楼から鐘の音と見張りの男の大声が響き、ピエリタは身振りと大声で止めさせる様に指示を出した。

 そんな父親が思わず呟いた一言に、ユッシとアネルマは空をスキーの様な道具を着けてゆっくりと飛行する10人程の人影に呟いた。

 その人影はゆっくりと高度と速度を落とすと、集落の大通りに1列に並んだ。


「Att landa! Om en svart älva gör något, döda nådelöst! Fram till dess, gör ingenting!」


「「Jag förstår, kapten!」」


 先頭を飛ぶ大斧を背負う蒼い全身鎧の男が、後ろに続く部下達に叫ぶと、青い線で装飾された全身鎧の部下達が一斉に叫んた。

 スキージャンプの様に着陸する青い集団を前に、各々の獲物を構えたダークエルフ40人は雪原に並び応戦の意思を示していた。


「よさんか!ノーベル帝国とは戦争中ではない!無駄に開戦理由を与えるな!戦って勝てる相手でも無かろう…」


「総長。ありゃあ、"蒼鬼"のアードルフ・イェンネフェルトと青兵ですよ」


「面倒な奴がやって来たな…何があったんだ?」


「Adolf…Jennefelt.Vad är …du …här för?」


 ピエリタの後ろに立っていた片手斧に盾を持つ男が耳打ちすると、長剣を持つユッシが苦々しげに呟き肩に剣を担いだ。

 そんな息子の態度に、ピエリタは溜め息をつきつつ短弓を片手に蒼すくめの集団に近づいた。スキー板のエッジを立てて勢い良く止まる蒼い鎧の男をアードルフと理解したピエリタは、彼に声を掛けた。

 ピエリタの言葉に、アードルフはオーガを模した鎧越しでも解る程に不快感を示した。それは彼の後ろに着陸した青い線で装飾された鎧の男達も同様だった。


「黙れ獣!貴様等に我が祖国の言葉を穢されるくらいなら、私の口を穢すわ!」


「なっ、なんだと!蛮人が!」


「よせユッシ!全員が魔法を使える…勝っても、今居る武士が殆ど死ぬぞ」


「奴等からはそこまで魔力を感じません…魔導武器ですか!末端の兵士にさえそんな高価な物を…」


 ピエリタへ怒鳴り付けるアードルフは背中の大斧に手を伸ばすと、彼の部下達も武器を構えた。

 戦闘態勢を取るアードルフの暴言を前に、怒りを顕にするユッシを諌めると、ピエリタは青ずくめ持つ武器を指差した。

長い杖に弓を持つ者がそれぞれ2人ずつ、残り5人はそれぞれ剣や槍等の武器を持っていた。その武器全てに、青い水晶の様な宝石が埋め込まれており、アードルフの大斧に至っては宝石が3つ煌いていた。


「そうか貴様がダークエルフの敗残兵、負け犬の頭領ラハテーンマキか?」


「そうだ。我等ダークエルフを"魔法が使えぬ獣"と言い家畜の如く扱うウーシパイッカ王家に反旗を翻したラハテーンマキ家は3代目。オホトが息子のピエリタ・ラハテーンマキだ!」


「はっ、獣である事に違いは無かろう!それが人の如く話すとは生意気な…」


「要件は何だ!よもや、暇潰しついでに我等と戦おうと言うなら、スオミの民は一歩も退かぬぞ!26年前の惨敗を思い出させてやるぞ!」


 アードルフの侮蔑の言葉に多くのダークエルフが拳を握りしめる中、ピエリタは勇ましく名乗ると拳を灰色の空に突き上げた。

 そのピエリタの態度を前に鎧越し苛立つと、大斧の柄を地面に突き刺し立たせると、アードルフは侮蔑と不快感に満ちた口調で悪態をつこうとした。

 そんなアードルフの悪態を遮ったピエリタだったが、今にも斬りかかって来そうな青ずくめの兵士達を彼は愚弄するかの様な大笑いと共に諌めた。


「はっ!ハッハッハ!片腹痛いな!貴様等が勝手に越境し、勝手に住み着いたペッカ村とやらを3日前に焼き払われて。未だにそれに気付けぬ貴様等を相手に遅れを取るだと?ふざけるなよ土ザル如きが!」


「ペッカの村を…焼いただと!」


「あの害獣達の住処は、由緒正しきノーベル帝国はルデールン市の土地である。民の貴重な農地を土ザルに使われては、魔物でも出てきそうだわ!」


「彼等が…何をしたというのだ…何をしたというのだ!」


「存在が悪だ!エルフの様な形をして、魔力も無い!まるで魔族だ、消え去るべき害悪だ!」


「我等を何も知らず、危害を加えてもいない…そんな村を襲い、男を殺し女子供を攫い売り飛ばして恥を感じないのか!」


「正義だ!サルより頭が切れるから早く駆除しなければな?」


 オーガの兜のスリットから見える瞳にゲスいた笑みを見せるアードルフの言葉にピエリタは、彼の自慢げに語る話を聞く程に激昂し、最後の言葉を聞いた時には思わず掴みかかろうとした。


「なりません父上…ここでこの男を討ったとしても何も得る物はありません。ここは堪えて下さい」


「何だ…ここでこのオジンが弓でも引けば、この間抜けな紛争も私の手で終わったのにな?」


「下卑た男…地獄に落ちろ!」


「神聖なマクルーハン教徒の洗礼を受けた俺が地獄?喋れてもサルはサルか…そうだ用を行っていなかったな?言っておくがこの越境に帝はお怒りだ。いずれ再びこの最北の地に進軍する。今度は魔導師も魔導騎士も山ほど連れてだ!精々、氷河の大地への逃げ支度でもするんだな!」


 父親の危険な行為をその腕を掴んで止めたアネルマに、アードルフはイヌやネコに話し掛けるような口調で話すとその額を指で小突いた。

 その行為に噛み付く様に言ったアネルマへアードルフは拳を握りしめると、突き立てた大斧を再び背中に担ぎながら本題を捨て台詞の様に言った。


「Det verkar som att ord överförs till apor. Jag kommer tillbaka! 」


「Är det bra? Den svarta durkslaget är flockens ledare? 」


「Oroa dig inte! I alla fall kommer den svarta apan att förintas. Och jag vill inte vara på en så kall plats!」


「「Jag förstår, kapten!」」


 アードルフの言葉に、青ずくめの兵士達は勢い良く返事をすると武器をしまい向きを変えながらスキー板を雪原に滑らせた。

 すると、彼等の履いているスキー板が緑色に光だし、アードルフを含めた兵士達を空高く舞い上がらせた。


「父上、奴等は何と?」


「知らん…俺がノーベル語に堪能と思うか?解っても、絶対に良くない事だ」


「お父様…また戦争ですが?」


「姫様…戦争で済めばいい。ノーベルが攻めれば白エルフも攻めてくる。奴等にいい顔をしたい奴等も…虐殺です」


「言うな、イーッカ!負けると決まった訳ではない」


 いつの間にか吹雪も止み、曇天を緑色の線がゆっくりと引かれる光景を見ながら、ダークエルフ達は恐ろしき自分達の未来に絶望した。


「魔族…ジークフリート大陸にいる…私達と同じ…」


 憎しみに拳を握り締めるアネルマただ一人を除いて…

読んていただきありがとうございます。

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