第1幕-3
趣味で書いてるので温かい目で見てね。
ファンダルニア大陸は、簡単に表すと横長の長方形に近い形をしていた。だが、西側の端に南へ伸びる大地があるため、正確には若干鎌のようになっていた。
その大陸の北側中央に位置するのがネーデルリア三重王国であり、海に接する範囲が多い事から海洋国家として栄えていた。
当然ながら三重王国の首都ファセルダムは港町であり、王城を北に進むと直ぐに軍港も併設された大規模な港にたどり着く。
「ねぇ、聖剣。あの話本当だと思う?」
「爺さん達が嘯くとも思えんが…"ソシアへ派遣した艦隊が叛旗で同士討ちで全滅"ってのは幾ら何でも無茶苦茶だ。第3艦隊が消失したのは事実だろうが、理由はもっと別だな」
「陰謀ってヤツか…はぁ〜、私にはさっぱりだ。訳分からん」
「お前は…本当に一国の姫なのか?」
その港街の大通りに面した料理店のテラス席に、裾の広いズボンに白いシャツ、サンダルを履き薄い紺の上着を着たハルはビールの入ったジョッキを片手に座っていた。彼女の言葉は独り言の様に小さなものであったが、もちろん聖剣に話し掛けているのであり、聖剣も自分の考えを大まかに彼女へ伝えた。
その考えに、ハルは深く溜め息を吐きながら束ねた髪を乱してテーブルに突っ伏した。そんな彼女へ少し呆れた言葉を掛けた聖剣は、偽装の為に入れられた袋ごとハルに蹴られた。
ハルは政治が苦手であった。彼女は姉に"政治とは、顔で笑い握手を求めながら背中に短剣を握るという行為"と教えられて以来、政治の複雑さや二面性に嫌気が差していた。何より、彼女は頭を使うより体を動かす方が得意であり、政は姉に任せる面倒な考え事は聖剣に任せていた。
「姉上は私より遥かに美人で優秀だからな!馬鹿な私は下手に国へ関わるより、剣を振る方が性に合ってる」
「俺がいなけりゃどうなっていたか…」
「12の時だっけ?貴方を武器庫の最深部で見付けたの」
「6歳の時だ…21だってのにこんなポンコツじゃあなぁ…」
「いいですよ〜だ。私は正直に生きていきたいんです〜!」
独り言の様なハルの言葉は、聖剣と話す度に大きくなっていたが、義勇軍帰還に伴うお祭り騒ぎで街の人々や店の客も彼女をただの酔払いと考えていた。
聖剣を細長い買い物袋に入れ鎧を脱ぎ、身軽な格好をする彼女は王家の人間の様な威厳のある雰囲気はなく、祝日を満喫する年頃の女にしか見えなかった。
「お嬢さん、相席よろしいでしょうか?」
「"来たな、キザ男。その髪型なんだよ?"確かに!最初見た時はビックリしたよ!おでこ丸出しで」
「聖剣の腹話術も久しぶりに見たな、懐かしい!それと、この髪は最近の流行りらしい。床屋のおっちゃんが言ってたよ。あぁ、ビーアとカルボナード」
「"騙されたな…"正直、似合わないよ…」
そんなハルの元に、通りから黒いスーツに赤いネクタイという出で立ちのフスターフがゆっくりとした歩みで現れると、キザな口調で一言尋ねると席に腰掛けた。
そんなフスターフに包み隠さず発言するハルと聖剣に、彼は懐かしむ様に呟くと髪型について答えつつウェイターに注文をした。
伝票へ筆を走らせる去ってゆくウェイターに軽く手を振るフスターフをハルは、酔から頬を赤らめ肘を突きながら懐かしそうに眺めた。
「何だよ、どうかしたか?」
「いや…街並みとか国とか、何か変わった気がするけどさ。あんたは変わって無いなって"コイツはお前の髪型はおかしくなったが、好みだ中身が変わってなくて安心したんだよ"言うなよバカ!」
「何か…本当に学生時代に帰った気分だな。貧乏人の俺は学校入るのが遅かったが、あの頃と比べてもハルと俺は少し若さが無くなったし、聖剣も少しくたびれたしな?乱暴に扱われたんだろ?」
「"くっくっ…コイツは俺の整備をしないからな。そこかしこが錆びてきたよ。おまけに今は足蹴にされてるしな"ちょっと!まったく、5年しか経ってないのに二人ともオッサンみたい」
ハルの視線に気付いたフスターフは、彼女の言葉と聖剣の茶々入れに学生時代を思い出すと、懐かしそうに目を細めテーブルに置かれたビールのジョッキを呷った。
テーブルの下でハルの右足裏で剣の柄に触れられている聖剣を軽く覗き込んだフスターフは軽口を言うと、聖剣もそれに返して笑い合いハルはわざとらしく不機嫌そうに言うと微笑んだ。
傍から見れば男女の逢瀬、当事者からすれば懐かしの同窓会が盛り上がり、料理と酒があれこれと運ばれ話題が昔話から近況報告など二転三転すると、フスターフは思い出した様に懐の中から一通の封筒を取り出した。
「フしゅタ〜フ…何そりぇ?"おいおいハル、しっかりしろ。ビーア4杯で酔ってどうする?こっからが本題だろ?"」
「まぁ、そう言うなよ聖剣。忘れちゃならないが、ハルも帰ってきたばかりだ。少しは酔払わさてやろうぜ?いざとなればお前が連れて帰れるだろ」
「"出来るがな。だが、ハルは知らないからあまり…って、寝たよコイツ。悪いなフスターフ"寝りぇないぞ!聞いてりゃかったけど!」
「正義感があって剣に認められても女の子だ。ましてや、俺の5つ年下で青春を戦いに費やした女の子だ。戦場での疲れもあるし、仕方ないよ」
姿勢の崩れ始めたハルを起こそうとすると聖剣に、フスターフは思いやる様に言うと封筒の中の書類を取り出し料理とジョッキで狭くなったテーブルの上に置いた。
「例の"第3艦隊"についての情報を前から部下に頼んで…ってハル、書類を持つ前に手を拭いて。ホーランセ ニウエでベタベタじゃないか。ヴォルグを使いなさいって」
「にゃに言ってるのさ、手で掴んで食びぇる!これが正しい食べ方にゃの!"フスターフ、水だ水。水を頼め"水は高いじゃん、水!」
「酔から覚めるなら、安いもんだよ。済まない、水を1杯頼まれてくれ」
呂律の回らなくなってきたハルに聖剣とフスターフは水を飲ませると、数分後に彼女はある程度しっかりとし始めた。
「ごめん…舞い上がっちゃって…"酒は呑んでも飲まれるなだぞ"わかったよ…」
「まぁ、いいさ。聖剣もそれぐらいな?で、本題はこれさ」
顔を赤くして反省するハルを諭す聖剣に、フスターフは苦笑いを浮かべながら庇うと改めて書類を渡した。
「え〜っと…“ダークエルフの大規模亡命の隠蔽。及び第3艦隊の消失と、ジークフリート大陸への出兵の可能性について”?"バカ言え、第3艦隊の一件に何でダークエルフが出てくる?リリアン大陸の問題だろ?"」
「そうだ…そうなんだよ聖剣。この異常事態はリリアン大陸のエルフ連中が関わってるらしいんだ」
「これ、ガリアからの情報もあるみたいだけど?首都のマリセイってここから何日かかるか解らないのに情報提供日付が13日なんて…"情報の速さもそうだが、そもそもガリア連中が協力したのか?王政に反するって点はソシアと同じで敵みたいなもんだろ?"」
「魔導通信は短距離しか繋がらんが、交換手がいればここからでも連絡が付く。それにガリアは共和国とはいえ、社会主義じゃないからね。協力もしてくれるさ。何より、あっちにはヴィヴィアンがいるだろ?もっとも、今やあいつも"聖盾の英雄"なんて偉くなったらしいからな。アイツの協力が無かったらここまでの詳細は解らなかった」
「ヴィヴィアンが?彼って確か旧王国派の鍛冶職人の末裔とかって…"学生の時に、あのひねくれのやさぐれが共和国軍に志願するのは知ってたが…そのまで偉くなるとはな"嘘でしょ聖剣?私、聞いてない!」
書類の内容に驚くハルと聖剣に、フスターフは補足で多くを説明した。
その説明に驚くハルと納得する聖剣を前に、フスターフは軽く咳払いをすると彼女に書類を見えるように置いてくれとジェスチャーした。ハルがテーブルに書類を広げると、フスターフは書類の折れを直しながら文を指差した。
「アイツも、他の"8英雄"とかに嫌がらせされて解らん事もあるらしいが…いつの間にか従者が2人出来たとかで調べられたらしい。とにかく、この事件の原因はリリアン大陸で20年前に起きたダークエルフの弾圧が関係しているらしい…」
「リリアン大陸?ダークエルフ?何でダークエルフが関係あるの?"エルフ連中とノーベル帝国に、ダークエルフが決起したとか?"」
「むしろそっちの方が断然良いよ。それと、話聞いてもあいつが"おかしくなった"とは思うなよ。なんたって"魔族がダークエルフを纏めて連れてった"なんて書いてあるから」
「魔族!"魔族って馬鹿な!"」
フスターフは"自分でも何を言っているのか"と言いたげな表情で説明を始めると、ハルは驚愕して書類を覗き込んで彼の指を追った。
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