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帝国再興記~Gartschlands Gloria~  作者: 陸海 空
第5章:2444年帝国の旅
205/325

第1幕-2

趣味で書いてるので温かい目で見てね。

「え〜っ…皆さん。本当ならば義勇軍帰還の祝賀会の準備しているであろうこの時に、お集まり頂いたのは他でもありません。今回の"第3艦隊消失事件"なるものを、アームステル新聞にすっぱ抜かれた事実についです」


「エリアン・ファン・パーセン議長!発言よろしいか?」


「フスターフ議員、発言を許可します」


 統合歴836年6月15日のネーデルリア三重王国は、半年前まで近隣の国であるポーリア連邦王国の内戦に義勇軍を送っていた。その義勇軍の帰還に、首都であるアームステルは活気付いていた。

 だが、その活気と反比例し王国会議は不穏な空気に包まれていた。出席する一部の議員達は、老いも若きも皆が一応にして暗い顔をしていた。


「これはどういう事なのです!そもそも、この第3艦隊消失自体、我々…いや、王国国民党と一部の親ネーデルリアの政党以外は何も知らなかったのですよ!これは明らかなる旧ベルギオや旧ルクスチア出身の議員…そして平等を掲げる我等が三重王国に対する冒涜です!与党には是非とも説明を求めたい!」


「そうだ!議長、彼等は説明すべきです!」


「議長!王国国民党の軍の独占状態は改善すべきです!」


「議長!平等が崩れかかってるんです!王国国民党は説明すべきですよ!」


 フスターフと呼ばれた若いオールバックの黒髪の議員が会議場で起立し発言すると、彼の周りに座る議員達も着席したまま中央に座る速記担当官を挟んで反対に座る議員達への野次を議長に飛ばし始めた。

 フスターフから伝播した野次はすぐに野党全てに広がり、狭い会議場は一気に騒がしくなった。とはいえ、そもそも全体の議員数が少ないために野党45人の野次もそこまで五月蝿くはならなかった。


「議長!無能な野党は黙らせるべきです!」


「議長!穀潰し達には発言停止をさせるべきです!」


「議長!」


「静粛に!皆さん静粛に!与党議員も野党議員もです!静粛に!」


 だが、野党議員達の発言を受けた与党議員達の怒り混じりの発言が飛び始めると、一瞬で狭い会議場は騒音に包まれた。その騒音は、与党と野党の間に席を置くエリアン・ファン・パーセンに頭を抱えさせる程であり、彼は何度となく小槌を叩く程だった。


「え〜っ、皆さんお静かに。ここは神聖なる王国会議なのですよ。確かに、ネーデルリア統一党議員として私も事実の説明を求めたい所です。ですが、それ以前に我等は文民ですぞ。理性を欠いては、議員としての恥です」


 小槌の音が何度も響き渡る中、5分程でようやく会議場に静寂が訪れた。そこに響く議長の言葉に野党議員達が発言をしようとしたが、顔面に無数の皺を刻む貫禄溢れる老人の視線を前にして全員が鎮まった。


「議長!事実の説明をしたいのです。発言の許可を」


「ドミニクス国防大臣、発言を許可しましょう」


 まるで魔法使いの如く白く長い髭を撫でようやく訪れた静寂に一息つく中、与党の議員の中から一人が手を上げて発言の許可を求めた。

 ドミニクス国防大臣と呼ばれる男は、赤毛に白髪の混ざる50を少し過ぎた男であった。彼は太った体をゆったりと動かして立ち上がると、反対側の野党議員達を一瞥した後議長を見つめた。

 その動きはふくよかな体に反して一部の空きも無く、反対側に立つ野党議員達は何も言わず睨みつけるだけだった。


「今回の"第3艦隊消失事件"なる事件はそもそも、5年前のポーリア連邦王国における"社会主義なるものを掲げる勢力"との内戦への義勇軍派遣が、発端でありました。

 野党からの強い要請に伴い、国王陛下の御賜物である陸軍を国王陛下の許可を"わざわざ"頂き派兵致しました。ですが、エスパルニア王国やスイーツァ王国、タリアーノ王国にヴィーナー大公国等の大国。ましてや、かの国の隣にあるプラチスバラ共同王国さえ手を出さない始末。

 内戦などに加担すれば、泥沼へ引きずり込まれるのも必至であります」


「議長!ドミニクス国防大臣の言葉は説明では無く野党批判をしています!」


「議長!あの若造の言い掛かりを止めていただきたい!」


「フスターフ議員!ドミニクス国防大臣の発言中であります。静粛に…」


 長々と話すドミニクス国防大臣の説明に、野党議員達は少しずつ苛立ち最終的にはフスターフが額に青筋を浮かべながら立ち上がり国防大臣への批判を始めた。批判にドミニクス国防大臣が議長に対して批判を止めさせようと意見を言い出した。

 国防大臣の言葉を受けた議長は、置いた小槌を再び手に取ると一言述べながらそれを打ちつけようとした。

 だが、その発言は突然乱暴に開け放たれた会議場の扉によって遮られた。


「姫様、お止め下さい!」


「済まんな止まる訳にはいかない。失礼する!」


「なっ!第2王女殿下!」


 開かれた会議場の扉には、大切な会議への飛び入り参加を防ごうとする守衛と、左手で左腰の聖剣の柄を逆手に握る第2王女ハル・ファン・デル・ホルストの姿だった。


「会議の途中だが失礼する!私も、国王ファン・デル・ホルストの娘としてこの会議に参加させてもらう!」


「なっ!第2王女殿下、無茶を言わないで頂きたい!議会とは文民…」


「"国会においては、ファン・デル・ホルストの名を持つ者を最高決定者とする"だ!特に決議には参加するつもりは無い。何より、建物の屋根を飛んで来たからな。父上や姉上に見つかったから、長居はしない!」


「むっ、無茶苦茶だ…」


 守衛も流石に王女である為に持っている槍が使えないので、ハルは彼等を気にする事なく大手を振って場内へと入っていった。そんな彼女を止めようとした国防大臣ら与党議員であったが、ハルの一声が場内に響くと誰ももう文句が言えなくなった。


「いやはや…姫様が飛び入り参加か?流石に我等の剣聖だ。聖剣は止めなかったのかい?」


「何だフスターフ、やり手のドミニクスに丸め込まれるのを助けた姫に対する言葉か?それに、彼はむしろ"与党の席に座れ"なんて言ってるよ」


「議員が剣聖どころか聖剣に助けられたとなっちゃぁ、一部の連中が黙ってないな?"まるでブリタニアかノーベル帝国だ"なんてね?」


「ブリタニアの聖剣は喋らないよ。それに、私は斧を使わないし、あそこまで荒々しく無いだろう?Anja Skantze…だっか?彼女、両手に斧を持って敵陣に突っ込むんだろ?魔導師達の支援があってもなぁ…」


「なら、何も言わん」


 まだ止めようとする守衛を片手て払い持ち場に戻るよう指示を出すと、ハルは細く流れる様な足で大股に歩き野党はフスターフの隣に腰掛けた。

 勢い良く隣に座る第2王女を前にしても、フスターフは全く怖気づく素振りもなく軽口さえ言う程であった。そんな彼の不敬とも取れる軽口をハルは笑って言い返す程、二人の距離感は近いものであった。


「失礼しますが"第2王女殿下"?幼馴染とのおしゃべりがお望みなら…」


「あぁ、済まないな!何分、私の聖剣はうるさくて…おいバカ!何を言ってる、ここは国会だぞ!」


「そのようで…」


 野党の席にてフスターフと話しつつ周りの議員達と握手を交わすハルに対して、ただ無表情に尋ねた。すると、彼女は演技がかった身振りで答えようとしたが、途端に顔を赤くして腰から鞘ごと聖剣を引き抜くと睨みつけながら怒鳴った。

 そんなハルの傍から見れば精神を病んでいる様な姿であり、そんな彼女に横槍を入れらて焦る与党議員達は国防大臣を急かすように小突いた。


「では、"第2王女殿下"の為にもう一度頭から…」


「いや、途中からで構わないですよ。貴方の話し方を考えれば、このくらいから本題に入るでしょう?どうぞ」


「ならは…失礼いたしますよ…」


 国防大臣は嫌味を混じらせるように"第2王女殿下"と強調し、再び頭から話をしようとした。そんな彼を半分小馬鹿にするようにハルが言うと、野党の席からは少しの笑いが響いた。

 そんな野党からの笑いに、国防大臣は怒りに奥歯を噛み締めながら、言葉の節々に怒りを滲ませつつも礼節を忘れずに一声掛けると姿勢を正した。


「野党の要請の結果、我が国は国民の血税を無意味な他国の内戦に流し込み、陛下の御賜る陸軍に多大なる損害を出しました。

 それに留まらず、ソシア社会主義人民共和国連邦、以降ソシア共和国としますが、ソシア共和国のポーリア連邦王国の社会主義派の救援と称して介入したではありませんか!

 それを見兼ねたガリア共和国とブリタニア王国が、我が国へ仲介を申し出たのです。その条件が"海洋進出を図るソシア共和国の海軍を警戒させるように、艦隊を遠洋演習させろ"と言う事でした」


「議長!話しが通りません!何故、我が国より西方の国が関わってくる!おかしいでしょ!」


「議長閣下!略がおかしい、ソシア連邦でしょう?」


「議員、そもそもかの国の真上にリリアン大陸がある。それなのに"ざわざソシア共和国がブリタニア近くまで海洋進出"?ザッキヤナ条約に違反するぞ!」


 国防大臣は片手に持つ書類を丸めて隣の議員に渡すと、1つの曇りのない口調で淡々と説明を始めた。その内容は与党議員からは納得するように頷く者が何人もいた。

 だが、与党に対して野党の反応は大いに最悪であり、多くの議員が席から立ち上がり批判をする程であった。


「紳士淑女の…」


「皆、静まらんか!議員たるもの"林の如く静かであれ"だろう!ポーリアの避難民にいた東方言語学者が私には言ってきてな。"正直、訳が解らなかった"とても為になって…聖剣!お前、私に何を言わせる!」


 野党からの沸き上がり始めた批判や追求を抑えようと、議長が小槌を持って声を掛けようとした。

 だが、そんな彼等を沈黙させたのはハルであり、彼女は凛々しく立ち上がると強い口調で野党議員達を叱責すると、嘗ての記憶から少し自慢げに語ろうとした。だが、彼女の口調とは全く異なる男の様な話し方で一言呟くと、再びハルは少し日に焼けた肌を赤くしながら聖剣を腰のベルトから抜き取り叫んだ。

 結果から言えば野党議員は静かになり、全議員が姿勢よく着席するという状態となると、ハルも深呼吸すると、席に座り直した。


「話が反れましたが、続けさせて頂きます。

 先に出ましたザッキヤナ条約ですが、76年前に勃発した大規模な国家連合間戦争…

 今日において世界大戦と言われる戦争を二度と繰り返さない為に、永久中立国であるリリアン大陸はフィントルラント精霊国、その首都であるエスペレンキのザッキヤナにて調印されました。現在は同様に永久中立国のスィーツァ王国国営銀行に保管されています。

 しかし!このファンダルニア大陸の殆ど全ての国が調印したあの条約も、今となっては過去の遺物となり始めました。

 その結果が、19年前のグイリアナ法国と大トラガリア王国との国境地帯紛争です!それ以降のファンダルニアはあちこちで紛争に小競り合い。更には近年、フィントルラント精霊国でも内戦があったなどと言う話も流れ始める始末…

 その事を海を隔てた国のヤマトの猿連中に"富州の天地は複雑怪奇なる新情勢を生じた"等と小馬鹿にされや、同じく隔てたオリントン大陸連合国、ましては合衆国連中にまで馬鹿にされる始末!

 その情勢下、ブリタニアのSpy…我が国で言う所の諜報員が…」


「"長いっ!"バカ、私の口を勝手に使うな!」


「殿下、聖剣の柄を無意識に握るのをお止め下さい…」


「ドミニクス国防大臣、第2王女殿下…いや、聖剣の突然の発言は非難すべき点ではあります。しかし、ここは国会です。どれだけ長く話し野党批判も行いたくとも、"短く"、"解りやすく"、でお願いしたい」


 ひたすらに報告書の内容をなぞって語る国防大臣の話途中に、再びハルが男の様な語気で怒鳴った。途端に国防大臣は幽霊を見たような気味悪がる様な顔を浮かべ、ハルは叫び隣のフスターフは呆れ半分で指摘した。

 そんなハル達のやり取りを見ていた議長は、少しだけ笑いながらも国防大臣に指導を行った。

 ハルの乱入や彼女の突拍子も無い発言に、いよいよ国防大臣も疲れてきたのかその額には薄っすらと汗が流れていた。


「では…簡潔に言いましょう。全ては我が国や周辺諸国を守るために、ブリタニアやガリアの要請に応えてソシアへの牽制の為の艦隊派遣を行いましたが、第3艦隊のバレイロ提督は艦隊を纏めてソシアへ亡命させようとしたのです。謀反を起こした!」


「ばっ…議長!いくらなんでも…」


「ジルベール議員、異議は後で!ドミニクス国防大臣、続けてください」


「では続けます。その提督の謀反は艦隊全員へと通達され、最終的には第3艦隊は亡命艦隊と誇り高き王国艦隊と別れ交戦。史実を伝えるために魔導機走艦ゼーパートが大破するも帰還し。乗組員は魔導通信で報告するも、機関が大破しデン・シンゲン軍港に2.3海里先で沈没。生存者は無しとの事です。以上!」


 国防大臣が若干おざなりに語る訳のとんでもない事実に、ハルとフスターフは黙り白髪にカイゼル髭の老人議員の一人であったジルベールが声を上げようとした。

 だが、それを議長が制すると国防大臣は全て語り切り勢い良く席に座った。

 不気味なほど静まり返る会場で、突然ハルは左腰に聖剣を差すとゆったりとした身振りで立ち上がり、一礼と共に会議場の扉へ向かった。


「おい、ハル?重要なのはこっからじゃないのか?」


「必要な事は大体聞いたし、ここで話す事が事実だとは解らないだろ?なら、私の用は済んだしこいつが"飽きた"ってさ」


「まぁ、そうか。なら早くトンズラしとけ。そろそろ国王陛下や第一王女殿下も御到着なされるだろうし」


「なら、前の店でね。それでは!ここで失礼する」


 立ち去ろうとするハルをフスターフが止めると、彼女は気軽な口調で答えると腰の聖剣を軽く叩き彼へ手を振った。そんなハルへ手を上げつつ、フスターフはドアのノブに手を掛け開きながら退場する彼女を見送った。


「あっ、と…皆さん、何か発言は…」


「議長!、これは…」


「議長、謀反とは…」


「議長、バレイロ提督は…」


「議長!」


「みっ、皆さん静粛に!静粛…静粛にしてください!」


 扉が閉まる音を上げフスターフが椅子の背もたれに体重を預ける中、議長はゆっくりと議員に質問し途端に会場は騒音に包まれた。

読んでいただきありがとうございます。

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