第1幕-1
趣味で書いてるので、温かい目で見てね。
「まさかな…ソシア共和国がポーリア連邦に侵攻するのは解るが、ガリア共和国にブリタニアがそれに割って入って仲裁するとはな?」
「良い事じゃない、聖剣?同じ人間なのに殺し合いなんてするものじゃ無いじゃない?世界は平和であるべきだもの」
「そうだがな?これでガリアとソシアの関係が悪化する。ポーリアはガリアの味方に付いた事で、両国の"PowerBalance"は大きく崩れるだろ?これでガリアとソシアの両国は実質国境を接した訳だ」
「いきなりブリタニア語って、私は語学苦手なの!それに、だからって戦争になる訳でもないでしょ?」
「つい最近まで義勇軍に参加してた奴の言葉じゃ無いよな?」
雲1つない青空に太陽が登り、レンガ造りの大きな街を路地の奥まで照らしていた。活気に満ちている街の大通りは人でごった返していた。商店は通りを行き交う人々に声を掛け、もはや通りは人一人通るのも苦労する程だった。
だが、そんな人の海と化した大通りを一人の女が悠々と歩いていた。
プラチナブロンドの長い髪を風に靡かせ、コバルトブルーの瞳の映える笑顔は誰もが頬を赤くする程に美しかった。ほんのり日に焼けた小麦色の肌は健康的であり、胸元の空いたシャツに鎧を纏う抜群のスタイルは、誰もが見惚れて人の海が裂けてゆく程であった。
だが、その人の海が避けるのは輝かしい彼女の美貌に依るものだけではなかった。
「ねぇ、母さん。"剣聖ハル"様は何で剣に話しかけてるの?」
「剣聖様は剣に愛されてるから、剣の言葉が判るのよ」
女の異常さは、子供に"剣聖ハル"と呼ばれながら指を差され、母親が苦笑いを浮かべながら説明する通りである。
剣聖ハルは左腰に指した剣の柄を右手で掴みながらただ一人、虚空に向かって喋っているのである。まるで剣が話しかけている様に受け答えしつつ、怒ったり呆れたりする笑ったりする姿には、たとえ美人であっても距離を置きたくなる異常な姿だった。
「しかしよぉ…ネーデルリア三重王国のハル・ファン・デル・ホルスト第2王女様がこんな所で振らついてて良いのかよ?」
「良いんだよ。父上も姉上も城から出たがらないだろ?何よりさ、城に戻ればあの2人は私の外出を止めようとするじゃない?わざわざポーリア連邦内紛の義勇軍帰還パレードに替え玉送り込んだ意味が無いでしょ?」
「そりゃ王女なのに"剣聖"だ"正義のため"だなんて言って戦場に出るようじゃ、城に出来るだけ引き留めたいだろう?替え玉も直ぐにバレてるけどな。後でこっぴどく叱られるんだろうに…」
「良いのよ!それなりに反省した様な表情浮かべておけば良いんだから…」
周りの畏敬の念が混ざりに混ざる視線を受けても気にしないハルは、腰の聖剣の意見を無視しながら快活に答えた。呆れる聖剣の柄を右手から左手に持ち替え、肘おきの様に掌を引っ掛けた。
「何よりさ、ガリア軍だのブリタニア軍のおかけで寒い北の大地から4年ぶりに帰ってきたんだから、しばしの自由を謳歌しなくちゃ!」
「お前がガリアの言う事に従って、国王へも事後報告したお陰で新たな戦争の影が出来たのに、本当よく言うよ…おまけに、あっちでも正義の名の元に自由気ままに戦ってたろ?」
「暴力で圧政を使用とする連中を成敗するのは正義でしょ?それに見知らぬ国での自由と、故郷での自由は違うの!せっかくだから、私のいない間に何あったか知りたいしね」
大通りから横道に入り込み、ハルは更に人口密度の悪化した裏通りを進み始めた。彼女も流石に目立ち過ぎた事を何も言わずに反省すると、出店の1つにあったアクセサリー屋の棚から白いスカーフを抜き取り、釣り銭を求めず金貨を投げ入れた。
「正義を語る癖によ…そんな盗み紛いの流れで買い物とな?それでも王女かよ?」
「"出来る限り、市民に近くあるべし"よ。それに、お釣りは貰ってないし大金を落とす事で経済を回した。正義とは即ち!誰かへ喜びと安らぎを与え、人を理不尽に傷つける物を断罪する事よ!」
「一方的な気もするが…まぁ、所詮俺はただの道具だから、文句は言わんさ」
「それだけ皮肉って、よく"ただの道具"なんて言えるよね…」
スカーフの値札を取りながら、ハルはそのガラを確認した。クドくない程度のアラベスクに満足げな笑顔を浮かべる彼女に、腰の聖剣は軽い口調でボヤいた。
その聖剣のボヤキにハルは自分なりの答えを言った。その言葉に聖剣は軽くため息をつきながらコメントすると、聖剣をジト目で見たハルは若干驚いて言った。
「差し当たって、新聞が欲しいよね…それから、ホーランセニウエかな?あれ食べたい!」
「ホーランセニウエならまだしも、新聞ってな…おい、ほら!そこの出店に売ってるだろう?」
顔にスカーフを巻きつけつつ聖剣に話しかけると、剣はハルの求める新聞をすぐ近くの出店に見付けた。
聖剣が示したい方向を剣から伝えられる感覚で理解すると、ハルは流れるような動作で筒状に丸められて売られる新聞をスカーフの時と同様の流れで買うと、足早に裏通りを進み始めた。
「え〜っと、ナニナニ…」
「"王国海軍第3艦隊が2年前から行方不明。遠洋訓練中盤から連絡付かず。魔族による攻撃か?"だと!バカ言え、魔族相手に魔法の使える人間が…おい、ハル!」
新聞を片手に持って読んていたハルは、彼女の視界を使って新聞の1面を読み上げた聖剣の言葉に促されるように勢いよく裏通りの建物屋上へ飛び上がった。
若干の土煙を上げたハルは手近な建物屋上に3点着地をすると、街の遥か先に見える王城へ走り出した。
「何だ何だ?自由を謳歌するんじゃないのか?」
「海軍の艦隊が丸々1つ行方不明なんておかしいでしょ!新聞記事の後半は眉唾の陰謀論ばかりだし!なら、第2王女の特権乱用でお父さんに聞くしかないじゃない!」
聖剣が茶化す様に言うと、ハルは若干焦りの汗を浮かべながら顔に巻き付けていたスカーフを取りながら隣の建物へ飛んだ。
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