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帝国再興記~Gartschlands Gloria~  作者: 陸海 空
第4章:新世界は黄昏の国
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第七幕-1

「What is going on!Sachsen=Lauenburg,Explain to me!」


 帝国南部に建国されたガルツ王国の首都であるザクセン=アンラウ。その主であるザクセン=ラウエンブルクは、薄暗い小さな部屋にある巨大な鏡の前で跪いていた。その顔は恐怖によって青く、脂汗をかいていた。

 鏡とは鏡像を写す物であり、ザクセンの姿を写しているので彼は自分の姿に恐怖している事になる。

 だが、その鏡に写っているのはザクセンの姿ではなく、青い光に浮かぶローブ姿の人影であり彼のものではない加工され性別不明の声が鏡の中から響いた。


「Your majesty…I…」


 口を開いたザクセンは、顔を上げずに震える声で返事をしようとした。だが、ザクセンの言葉は鏡の中の人影が椅子の肘おきを叩く音で遮られた。


「もうその下手くそな言葉を喋るな!ガルツ語で構わん。馬の様な醜い言葉だが、訛りの強い王国語よりましだ」


 侮蔑の言葉が鏡から響くと、それを受けたザクセンはさらに頭を下げると肩を震わせた。


「失礼いたしました、陛下。私は盟約に従い、かの皇女を仕留めようとしましたが後一歩及ばず内戦となりました」


「それは良い!余計な連中も抹殺出来るのだからな!なら何故、私に連絡寄越すのだ!」


 ザクセンの話す内容に怒声を上げた鏡の中の人影は、苛立つ様に貧乏ゆすりをすると手を組みザクセンへ視線による圧を掛けた。


「それが…兵力で勝る我が軍は首都まで近付いたのです…」


「何だ。ならば問題ないではないか。勝ち戦ならば何故そんな暗い表情で…まさか…」


「その…まさかです」


 ザクセンの言葉に鏡の向こうに居る人影は苛立ちを表すのを止めたが、明るい内容のはずの報告を暗い顔でするザクセンに、鏡の中の人影は驚きの声を上げた。

 鏡の人影の驚きは席から腰を上げる程であり、その人物の声も同様に驚きを表していた。

 鏡の中の人影の驚きの呟きに、ザクセンはただ気弱な口調で頷いて言った。


「こちらは帝国に対して30倍近い戦力を保持していました」


「ならば、貴様は戦力的優位な相手に敗北しているのか!数で押せば勝てるだろうに、どんな戦略で戦ったのだ!お前は稀代の馬鹿か!」


「違うのです!我等も最初は数で押したのです!」


 ザクセンの伝える事実に鏡の人影は怒り狂って叫び立ち上がった。だが、ザクセンはその声に負けない程の声量で鏡の中へ声を掛けた。鏡の中の人影は、彼の言葉と顔を上げたザクセンの恐怖に歪む表情で静かになった。

 鏡の中の人影は、ザクセンの表情を前に静かに席へ座ると、彼へ話を続けるように促した。


「圧倒的兵力差で油断していたのは事実です。しかし、油断したとしても少しの被害で常勝できる兵力でした。ですが…」


「だが、何だ?」


「帝国軍は魔術を使って攻撃してきたのです!」


 ザクセンは鏡の中の人影へ真剣な口調で叫んだ。その言葉に鏡の中からは笑い声が響いた。だが、鏡の中の人影はザクセンの真剣な表情を前にすると、笑うのを止めた。


「ザクセン=ラウエンブルク、説明を聞こうではないか?」


 鏡の中の人影が手を組み尋ねると、ザクセンは頷いた。


「魔族が魔法を使えない事は承知しています。しかし、逃げ帰った重症の兵士や生き残った武家貴族から話を聞くと、帝国軍は魔術の矢や炸裂魔術を使ったと。既に大陸の殆どを敵に奪われまして…」


「何を馬鹿な!敗戦間近な言い訳にその様な虚言を言うか!」


「違うのです!問題はそこではないのです!」


 ザクセンの言い訳の内容に激怒した鏡の中の人影だったが、その激怒に対してもさらに発言するザクセンの鬼気迫る表情を前に静かに黙った。


「なら、何が問題なのだ?そもそも、貴様にはこの様な状態の為に魔導器を渡しただろう?」


「だからです!強大な魔導器を持たせた臣下達に、それを使わせずに撃退する。それだけに留まらず、30倍の兵力差を覆す何かを量産しているのです!それを産み出したのが…」


「例の英雄か?くだらん。まさか負け戦の言い訳で私に虚言を吐くとはな!何が盟約だ、頭のおかしい魔族に渡す魔導器等あるものか!こちらは隣国との戦争準備で忙しいのだ!私を満足させる朗報を持ってくるまで連絡を寄越すな!」


「陛下!お待ち下さい、陛下!」


 ザクセンの話を聞いていた鏡の中の人影は、肘おきの拳を震わせると、怒りと共に立ち上がりそのまま鏡の範囲から出ていった。

 ザクセンの止める言葉を無視して人影が去って行くと、鏡は恐怖の表情に汗だらけで鏡面に手を向けるザクセンの姿があった。

 鏡に映ると哀れな自分の姿を前に、ザクセンは自分の顔をゆっくりと拭い目の前の鏡を怒りに任せて掴んだ。


「こんな物!」


 そう言って鏡を倒そうとしたザクセンだったが、その手は震えと共に勢いを無くしていた。彼はゆっくりとした手付きで鏡を戻すと、部屋の窓に掛かるカーテンを開いた。


「何としても魔族を救うのだ。どれだけ犠牲が出ても…たとえ、私が…」


 窓の外に広がるザクセン=アンラウはハレブルクの燃える街と、上空に流れる無数の飛行機雲を見上げながらザクセンは呟いた。

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