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帝国再興記~Gartschlands Gloria~  作者: 陸海 空
第4章:新世界は黄昏の国
178/325

幕間

マーデン=カールスベルク州の州都であるハイルガルトが、帝国軍の支配地域となって既に2ヶ月が経過しようとしていた。

都市外周を覆う城壁により、帝国陸軍の南部戦線の重要補給拠点となったハイルガルトは無数の輸送トラックや建設車両、仮設の滑走路にはようやく稼働率の上がり始めた空軍の輸送機がひっきりなしに物資輸送を続けていた。

軍人が集まり物が集まれば、当然そのおこぼれを貰おうと戦災から逃れてきた民間人が集まる。その結果、城壁の周りには掘っ立て小屋が連なり、嘗ての城塞都市の面影は薄くなっていた。

「現在のハイルガルトは、巨大な首の長い…金属の何かによって城壁が撤去されております。また、ニースヴァイセン州の橋でさえ見た事の無い鉄のゾウや鉄の怪鳥か飛び回り、最早1万を切った我等が軍で攻略は不可能かと…」

大規模開発が行われているハイルガルトから6km程離れた農村の宿の1室で、ハッグの男が部屋の中央のテーブルにたむろする男達に報告した。

その部屋にいる男達は、豪華だった面影を土や煤に汚れて失った服を着ていた。特にテーブル中央に座る男の服は、煤だけでなく大量の血が染み込み、白い服を赤黒く染めていた。

テーブル中央の男は吊られた左腕を数回撫でながら、報告の途中から始めた貧乏揺すりを激しくし始めた。

「参謀長、それがどうしたと言うのだ!私は命じた筈だ!防衛網の薄い場所を見付けろと!可能だ不可能なんて低次元の話は聞いていない!」

テーブル中央の男は、参謀長と呼ばれたハッグの報告に床を踏み鳴らし、吊られた左腕をギプスごとテーブルに叩きつけながら立ち上がると叫んだ。

その男の行動に、俯いていた全員が驚きに顔をあげると、その顔は疲労感で窶れていた。

そんな男達の驚きの表情に、血に汚れた男は伸び放題になった髪の前髪を右手で掻き上げた。

その顔面の右眼窩は眉間側を不自然に欠いており、顔面に巻かれた包帯は未だに血で赤く滲んでいた。

「この!テンペルホーフは…醜態を晒すために生き残ったのではない!何としてもあの連中に…いっ!痛い…痛い痛い痛い!私の右目が!」

部屋にある様々な物を殴り蹴るテンペルホーフは嘗ての勇ましさを失い、その整っていた顔は無惨なものとなっていた。

テンペルホーフ達は、ルーデンドル橋の戦闘において2つに分けた軍の後続として戦闘に参加していた。

その戦闘で、総指揮官のテンペルホーフは突然の流れ弾により右目とその眼窩を抉り取られた。

そのまま後続の軍は前衛を残して退却し、彼等は近くの街へと隠れていた。

「お止めください、テンペルホーフ殿!」

「そんなに派手に動いては傷に触りますよ!」

「鎮痛剤とて、もう底を尽きかけているのです!」

参謀達が右目を押さえて身を屈めるテンペルホーフへ慌てて駆け寄った。

「薬など要らん!私に必要なのは帝国軍との戦いだ!」

だが、そんな参謀達を左腕で払い除けると、テンペルホーフは包帯越しに血の涙を流しながら唸り声を上げた。

「閣下…流れ矢に当たった不幸や敵の予想外の強さはやむを得ない事象です。ここは…」

負傷と敗北にヒステリーを起こすテンペルホーフを励まそうと参謀のゴブリンが声を掛けようとした。だが、彼の言葉に左目を有らん限りに開き右目から血涙を撒きながテンペルホーフはゴブリンに掴み掛かった。

「あれが流れ矢だと…あの女だ!ファルターメイヤーの妹だ!あの貴族にもなれない小娘が私の目を奪った!」

テンペルホーフはそのままゴブリンを参謀達に投げると、部屋の隅に立て掛けられていた剣を取った。

「せめて敵に一太刀浴びせなくて何が貴族か!」

勇ましく叫んだテンペルホーフだったが、その表情は傷の痛みに歪んでいた。彼の無理に張ったその虚勢は、参謀達には余りにも辛いものであり、全員がテンペルホーフから顔を背けた。

「しかし閣下…度重なる帝国軍の残党狩りに、医薬品や食料の不足で士気は最悪です。まして軍は1万を切ったのですよ…」

「勝てばいい!そうすれば士気も上がる!敵の背後から奇襲を掛ければ良い!」

参謀の呟いた軍の現状を前に、テンペルホーフは叫びながら剣を抜くと、南の方角へと切っ先を向けた。

「ですが、行軍の為の物資も…」

「物資も何も、武人や貴族の誇りが有れば賄える!付いてくる者だけ来ればいい!負け犬には死が有るのみ!前線を突破し勝利と共に王国へ帰還する!」

参謀達は、テンペルホーフの無駄に大きい雄叫びが痛みを紛らわせる為のものであり、彼の思考がその痛みで使い物にならなくなっている事を理解した。

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