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帝国再興記~Gartschlands Gloria~  作者: 陸海 空
第4章:新世界は黄昏の国
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第五幕-5

 ジークフリート大陸は、十字や菱形に例えられる形をしていた。

 その最も東に位置するフランブルク州のコンダムは半島を有する街であり、その半島には多くの桟橋が存在した。それ故に、隣の大陸からヒト族が真っ先に乗り込む土地であった。だが、真っ先に復興対象となるこの街は、港としては帝国の5本の指に入る。


「"船を隠すなら港の中"じゃないんですか!何だって北の半島へあと少しだった私達が、反対の南に駆けてるんですか!騙されたんじゃないですか?」


「軍の民間人摘発と弾圧のやり方が派手すぎたんだな。流石の政治家でも怪しんだ。大統領なら尚の事だった訳だ。まぁ、現場の判断が悪かったな」


 議事堂や大統領府の暴動の波がまだ届いていない街の通りをキルシュナー達3人が走っていた。頬に汗を垂らすクラリッサはカテリーナを一瞥して言うと、キルシュナーは彼女を庇うように言った。

 キルシュナーの言葉に黙ったクラリッサだったが、疑心の目を一瞬だけクラリッサへ向けるとサブマシンガンを握り直した。

 その視線はカテリーナの握る拳銃に向いており、それを受けた彼女は引き金に当てていた指をグリップへ下げた。


「軍人としてあの女を甘くみてました…ボンクラとはいえ頭が回るから大統領ですものね…」


 悔やむ言葉を口にしたカテリーナは、奥歯を噛み締めながら言った。

 周辺を警戒し構えていた銃口さえ下げた彼女の後悔の表情は、突っ掛かったクラリッサさえ戸惑わせた。そのクラリッサから困ったという視線を受けたキルシュナーは、そんな彼女に呆れる視線を向けると頭を振った。


「こいつは…空挺降下で性格変化し過ぎだろ…いや、姉貴2人との共通点が出て来ただけか…」


「おい、お前ら!街には外出禁止令が出てるんだぞ!」


 嘆くキルシュナーに突然大声が掛けられると、彼等の視界に共和ガルツの軍服に身を包んだ5人の男達が現れた。

 そんな男達に、キルシュナーとクラリッサは反射的に銃を構えた。だが、共和ガルツ内に協力者が居るため、判別出来ない目の前の男達に2人の引き金の指が躊躇った。


「さては貴様ら革命…」


 流石に帝国軍とは気付かなかったが、敵と勘づいた共和ガルツ兵等は腰のサーベルに手を伸ばそうとした。そんな彼等の叫びは、唐突に放たれた弾丸で眉間や首筋を撃ち抜かれて途絶えた。

 致命傷を受け地面でのたうち回る2人の男に止めを差すと、キルシュナーとクラリッサは後ろを振り返った。そこには消音器から薄い硝煙を上げながらスライドを開く拳銃と、それを両手で構えるカテリーナの姿があった。


「かっ、彼等は…敵です。参謀本部の息が掛かっていれば、私の顔を見て武器に手は伸ばしません…」


 平静を装う言い方のカテリーナだったが、拳銃を握るその手は震え、目は若干泳いでいた。

 キルシュナーとクラリッサの視線が自分に向いている事に気付いたカテリーナは、その視線を追った事で拳銃を持つ自分の手が震えている事を理解した。

 そのことに驚くクラリッサは、目を丸くしつつ慌ててグリップを支える左手で右手の手首を強く握り震えを止めようとした。


「そっ、その…反動が思ったより強くて…無駄弾も撃ってしまいました…」


 カテリーナの反応に見覚えがあったキルシュナーは横目にクラリッサを見ると、彼女は暗い顔をしながら頬を掻いた。


「初の交戦後の誰かみたいだな?」


「さぁ…誰でしょうね…」


「結局、海軍参謀の秘蔵っ子でも人間って訳だ」


 言い訳を言ったクラリッサへ白い目を向けたキルシュナーに促されるように、彼女はサブマシンガンのスリングを肩に掛けつつ、震える手を見詰めて俯くカテリーナへ歩み寄った。


「その…ごめんなさい」


「何で…謝るんです?悪いのは私で…」


 2人がお互いに謝り始めようとした時、キルシュナーが割って入った。それに驚いた2人は彼を見たが、その表情には隠そうとした苦悶がうっすらと見えていた。


「俺だって申し訳ないと思う。だがな、今は急いでるんだ。残りは終わってからな」


 軽く頭を下げるキルシュナーに口を接ぐんで頷くと、3人は再び南の港へ向けて走り出した。その数秒後、再び通りに小道から1人の共和ガルツ兵の姿が飛びだすと3人は容赦なく銃口を向けた。


「ばっ!撃つな!撃つな、参謀本部の使いだ!撃つな!」


 今にも引き金を引こうとした3人に、共和ガルツ兵は慌てて両手を上げると叫んだ。


「参謀本部の誰の使いだ」


「ウッカーマンだ!信用出来ないなら裸になって平伏すぞ!」


 未だに銃口を向け警戒するクラリッサの前でキルシュナーが尋ねると、兵士は甲冑の留め具を外し始めた。


「構わないよ。男の裸なんて見ても目に毒だ」


 そう言ったキルシュナーはまだ銃口を向けるクラリッサのサブマシンガンを掴んで背かせると、スリングを使って突撃銃を小脇に釣りながら男達に近づいた。


「ほら、悪かったな」


「寿命が100年縮んだよ…」


 手を貸しつつキルシュナーは男へ謝った。その謝罪を受けながら手を借りつつぼやいたセイウチ系獣人の兵士は、立ち上がって甲冑の膝宛を軽く払った。


「それで、あのウッカーマンてのは何て言ってた?」


「南に停泊する船は囮だ。本命はやはり北だった」


 その報告を聞いたカテリーナはキルシュナーの横から割り込む様に立った。


「それは一体どういう事です!詳しく説明しなさい!」


 カテリーナの姿を見た兵士は慌てて敬礼をしようとしたが、それより先に鬼の様な形相で尋ねるカテリーナに手が止まった。


「伝令に怒ってどうするの?まぁ、そんな怒らずに。君も取り敢えずビビらずに説明してくれよ」


 カテリーナの頭を軽く叩き兵士へ同情の声を掛けると、キルシュナーは場を纏めようとした。


「それが、船の変更は3日前に突然大統領命令で行われたらしいです。南の47桟橋の大型船は囮として使われていて、偽装貨物船は北の24桟橋に停泊中です」


「どうやって解ったんです?」


「港の警備には共和ガルツの精鋭連中が就いてたんです。その警備が薄くなったので参謀本部の息の掛かった部隊が突入したところ、大統領近衛部隊が船を警備していて発覚しました」


 報告を聞き終わる直前に、3人は伝令を置いて北に向けもと来た道を走り出しだ。


「無茶ですよ!今行っても間に合いませんよ!」


「任務だ!行かない訳にはいかないの!」


 伝令の叫ぶ声を背に受けて、キルシュナーは言い返し、3人は北に走った。


「何で私達、北に走ったり南に曲がったり…誰です?"台本通りの革命"とか言ったの!」


 クラリッサの叫びに眉間にシワを寄せ口をへの字に曲げたキルシュナーは、無線機を取り出した。


「結末は予備を含めて2つだ。なら台本通りだろ…中隊全員へ、中隊長のキルシュナーだ!北の桟橋の貨物船が見える奴はいるか!」


「狙撃第2組。中隊長、見える訳無いですよ!」


「狙撃第3組。貨物船は見えますけど、どれがどれか解りませんよ!」


「狙撃第1組です。大尉不味いですよ。暴動が港の方にまで流れて来てる。北に向かってるなら速く他の班と合流を!」


 独り言の後のキルシュナーの無線に答える反応はどれも良くないものであり、悪い知らせさえ入っていた。


「第2班!こちらキルシュナー!そっちは…」


「中隊長!こっちです!」


 キルシュナーの声に3人の後ろからリュックを背負う男達が手を振って近づき、彼等へ合流した。


「ファビアン中尉!状況は?」


「第3と第4班がウチと合流、残りは海岸線から向かってます」


「1番近いのは俺達か…」


 走りながら説明を聞くキルシュナーは、彼等より土地勘があるカテリーナへ視線を向けた。


「ここからなら…あと15分くらいで…」


「いやっ!もっと掛かりそうですよ…」


 カテリーナを遮ったクラリッサが指差す方向には通りをひしめく暴動の波があり、集団で横切るのには一苦労しそうな状況であった。


「集まったのは愚策か…ここら辺を突っ切るのが早いはずなんだが…やむを得ん!強行だ!バラけていから桟橋に迎え!」


 キルシュナーの命令に全員が暴徒の列を無理やり横切り北へ走った。部隊の誰もが間に合わないと理解していた。それでも部隊は命令完遂、クラリッサは復讐をするために街をひたすら駆け抜けた。


「そんな…嘘でしょ…」


 暴徒の波を泳ぐ事3回、35分後に彼等は北の24桟橋に着いた。桟橋には出港阻止の為に強行した帝国派の兵の死体が12体程転がり、彼等の努力虚しく偽装貨物船は帆を広げ遥か彼方を航行していた。

 その光景に愕然としながら、カテリーナは膝を地面に突き項垂れた。


「行っちゃった…」

「まぁ、間に合うわけ無いよな。単車でもあればな」


「大尉、なら車両1台のが良いでしょ」


 項垂れるカテリーナの横で、空挺部隊第1小隊は遅れてきた後続と合流しながら雰囲気を軽くして喋っていた。


「貴方達…どうしてそんな!」


「まあまあ、落ち着いて」


「私達だって悔しい訳じゃない。だけど、まあ…取りこぼすって事は無いからさ」


 涙を流し激動するカテリーナを前に、キルシュナーとクラリッサは彼女を宥めようとした。その表情は苦笑いとも悔しさに唇を噛んでいる様にも見えた。

 桟橋周辺に立つ他の空挺第1小隊隊員を見ても、同様の複雑な表情を浮かべた。その表情に涙を止めて理解できないと呆然とするカテリーナは、クラリッサに頭を掴まれると偽装貨物船へ視線を向けた。


「海軍に戦果は取られるけどな」


「そうですね…それと殺され方が変わるだけ。射殺から爆殺に…」


「どういう…」


 クラリッサの曖昧な言葉カテリーナが理解出来なかった。そんな彼女がクラリッサへ発言の意味を尋ねようと振り向いた時、彼女の耳に聞いた事の無い轟音が響いた。

 堪らず振り向いたカテリーナの目には、巨大な水柱と3つに裂けた貨物船が見えた。

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