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帝国再興記~Gartschlands Gloria~  作者: 陸海 空
第4章:新世界は黄昏の国
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第五幕-4

「バカな!暴動に軍が対応出来ないだと!そんな事あって堪るか!」


 会議室に突然飛び込んで来た衛兵の報告は、室内に居た大統領の逆鱗に触れた。それまでの室内で繰り広げられたトーライの雄弁に苛立っていたシュペーは、血相を変えて報告を言った衛兵の襟首を掴むとそのまま持ち上げた。


「まさか…兵が訓練不足の数合わせだとバレたのか?」


「国防大臣、違います!これは衛兵ほ突発的な過剰防衛が原因で…」


 その衛兵の発言に顔を青くしたトーライが問いただすと、シュペーの腕を掴んで身を捩る衛兵が涙目で答えた。

 その言葉にトーライはシュペーの腕を振り払い衛兵を地面に立たせると、彼の肩を掴んで顔を寄せた。


「突発的な過剰防衛とはどういう事だ?」


 トーライの動揺する視線に、衛兵は姿勢を正すと軽く咳払いをした。


「警備の衛兵に抗議活動を行う市民が暴行を加えようとしたことに対して剣を抜いた所、誤って市民を斬ったと…」


「なっ!急拵えとはいえ、兵もそこまでバカではないだろう!何故こんな…」


 衛兵の報告に、トーライは涙目になりながら床に平伏した。その姿は余りにも惨めであり、他の大臣やシュペーさえ発言を控える程だった。


「トーライ国防大臣。たとえ今は圧されていても、軍と暴徒では話にならんだろ?」


 経済大臣が近寄って励まそうとしたが、トーライは急に立ち上がると会議室の扉へ向くとゆっくりと歩きだした。


「確かに話になりません。絶対防衛線に多くの熟練兵を張り付け、素人同然の即育兵が最低限。数で圧倒されますな…こうなれば…」


 神妙な顔で腰のサーベルを掴んだトーライは室内の衛兵数人を手招きすると、扉の前で敵を出迎える様に構えた。


「軍人として時間を稼ぎます!政治家の皆さんはお逃げ下さい!」


 勇ましくも若干嫌そうに言ったトーライの言葉は彼の意志が良く伝わるものだった。その姿に多くの大臣が止めようとするが、シュペーが片手で制すると大臣達の1歩前に出た。


「トーライ…いや、国防大臣。いいんだな?」


 ただ静かに尋ねたシュペーに、トーライは振り返る事なく肩をすくめると溜め息をついた。


「やるしかないのでしょう?軍人としての役目です」


「わかった。こうなればやむ無しだ!全員、地下道で港まで行くぞ!」


 トーライの言葉に頷いたシュペーは、大臣達へ指示を出すと会議室の本棚の本を1冊抜いた。その本棚が動き隠し扉が姿を表すと、彼女は全員を引き連れて扉へ去っていった。

 シュペー達が出ていく姿を肩越しに確認したトーライは、隠し扉が本棚に隠されるとサーベルをしまった。それは他の部下たちも同様であり、全員が肩から力を抜いた頃に会議室入り口の扉から騒がしい音が響き始めた。

 男達の怒声と叫び声に混ざって軽い金属のぶつかる音が響く中、余り響かないよう訓練された足音がゆっくりと会議室へ近付いていた。


「動くな!帝国軍だ!」


 会議室の扉が蹴破られると、無駄に響かないよう放たれた怒鳴り声が部屋に響いた。

 消音器を付けたサブマシンガンを構えるオークやゴブリン、ハーフリンクの男が8人程突入してくると、トーライ達は一瞬驚きながらもぎこちない海軍敬礼をして怒声へ返した。


「帝国軍の方々ですね。テーニゲスの部下のトーライであります!」


 トーライと衛兵達のかしこまった態度に、市民に見付からないよう注意しながら戦闘をしていた彼等は呆気に取られた。

 だが、慌てて銃口を背けると空軍敬礼をしながら倒れた扉を嵌め込んだ。


「あぁ、いやこれは失礼。帝国空軍第1空挺中隊、第2小隊の第1班のマルセルといいます。それで、シュペー大統領達は?」


 オークのマルセルが敬礼をしつつ周りを見渡しながら言うと、トーライは本棚を軽く指差しながら笑顔を見せた。


「予定通りに港に向かいました。書類では第5桟橋です。大いに焦らせたので慌てて出ていきましたよ。書類も全部そのまま」


 トーライの言葉に礼を込めて何度も頷くと、マルセルはウルクの無線兵からリュックに偽装させた無線機の受話器を受け取った。


「中隊長、こちら第2小隊第1班。闘牛は闘技場に入った。第5桟橋なので半島の中央付近です」


「こちらキルシュナー、予定通りか。わかった。出来れば連中の向かってる船の特徴が有れば言ってくれ」


 報告をしたマルセルはキルシュナーの要請に、受話器をトーライへ渡した。


「これは…本当に凄いな…」


「おいマルセル!今無線機を使ってるのは誰だ!」


 無線機の感想をつい述べたトーライは、無線機のマイクから響くキルシュナーの怒鳴りに慌てた。


「すみません!帝政派のトーライです!」


「あっ!協力者の方でしたか…こちらこそ失礼しました」


「いえいえ!それで、シュペーの使う船ですが、大型で赤と金の装飾のされた船です。かなり大きいですし、金の装飾が多いのでこんな夜でも灯りで光って目立ちます」


「協力感謝します」


 キルシュナーとトーライがお互いに謝罪をしつつ情報共有出来ると、トーライは安心したように頷いた。


「あ~っと、中隊長!こちら第2組です。さっきの無線の話に出た船、俺達の近くに停泊してるんですけど。中隊長達の向かってるだろう方向と反対ですよ」


「バカな!あの女…変に用心深いんだから!」


 怒りと悔しさに満ちた表情でテーブルを叩くトーライを見ると、マルセルは無線の受話器を取った。


「中隊長…」


「解ってる。予定変更だ。待ち構えるんじゃなくてその場で身柄を抑える」


「了解しました。こっちは予定通りに書類を押さえます」


 通信を終えたマルセルへ、班員全員が予定変更のしわ寄せに嫌がる視線を向けた。


「仕方無いだろ…仕事だ仕事。せめて、こっちはたったと終わらせよう」


 本物の暴徒達より遥かに速く突入した彼等は、暴徒の足音が聞こえると書類確保を急いだ。

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