幕間
「ただの参謀と思ったけれど、ウッカーマンも流石ね?ドレスツィヒの共和ガルツの蛮行とばればれの隠蔽工作のお陰で政府の信用は駄々下がり。ドレスツィヒは…流石に一方的な虐殺でしたが」
印刷のかすれた新聞を片手に、木陰のベンチで涼むシュペーは言った。
その表情は復讐の快感に歪んでおり、口から上は美しいが、その口元は不自然につり上がっていた。
「帝国や帝国軍の突然かつ急激な技術革命は多くの民衆に帝国への帰属意識を与えました。軍の独自調査…と言うより、それこそウッカーマンの調査では、共和ガルツの帝国復帰を望む者が3分の2を越えたとの事です」
のどかな森林の小道のベンチには、泣く子も黙る形相のシュペーだけではなく、共和ガルツでは見かけない燕尾服のハト男が座っていた。彼はシュペーの黒いオーラの漏れ出す笑顔に何ら臆することなく発言すると、数枚の書類を彼女に渡した。
その書類を受けとると、笑みやオーラを消しつつシュペーは手早く内容を確認した。
「軍の抗議活動への引き締めもだいぶ過激にさせました。皆、上手く演じて連中を踊らせてくれていますよ。大統領のあの女は、自分の首がみるみる締まっている事実にさえ気付いていませんよ」
シルクハットで表情を隠すハト男だったが、横目で見るシュペーの表情を見ると隠す事を止めた。
「素敵ね!油は撒けるだけ撒いたなら…後は火を放つだけ!」
美しさの中に不気味さをちらつかせる笑みを浮かべながら立ち上がると、シュペーはハト男へ書類の束を渡しつつ通りに停めてある馬車隊にスキップしながら向かった。
「本当に…たったこれだけの戦力で良いのですか?」
書類を鞄にしまいながら帽子を直すハト男が一抹よ不安を混ぜて言うと、シュペーは穏やかな笑みを浮かべた。
「せっかくの革命に、軍が戦力を出すなんて美しくないわ。私達は徹底して裏方、影、囮、斬られ"役"ですよ。戦闘もしないし死者もでない。精々、愚民の皆さんには、私や軍…帝国の為に戦ってあの女諸とも死んでもらいましょう!」
綺麗な笑みと真逆な言葉を放つシュペーは、スカートの端を掴み一礼すると馬車に乗り込んだ。
ハト男は、彼女へ頭を下げると馬車が見えなくなるまで動かなかった。
「さて…また革命か…これが終わったら隠居しよう…」
力無く呟いたハト男は、溜め息と共に馬車へと向かった。