第四幕-3
8月27日の早朝に、東部戦線の親衛隊はドレスツィヒへ単独進撃を開始した。
「しかし…あれだけ準備砲撃したのに意外と建物丈夫だな。嘗ての帝都の瓦礫の山はなんだったのやら」
「どこの街も貧民街が無いし、街として成立してる。これで虐げられてるって言うなら、少し前の私達は…」
「まぁ、死んでるわな」
若干崩れたドレスツィヒの街の感想を装甲車の装甲板から身を出したリヒャルダが言った。それに相槌を打ちつつ言ったティアナの言葉に彼女がやる気無く返事をすると、彼等は再び静かに警戒しつつヒトケノ無い街を前進した。
3方に別れた親衛隊の部隊の内、ティアナはリヒャルダの率いる装甲車中隊と前進する事となった。
「良いか、怪しい所にはとにかくぶっぱなせ!特に2階以上ある建物窓は気を付けろ!撃って何も無ければそれでよしだ。但し、白旗は絶対に撃つなよ!」
彼女の隊だけに特別先行配備された5cm砲の砲塔で指示を出すリヒャルダに、ティアナは安心しつつ足早に先頭を走ると部下の元に進んだ。
「ハイノ軍曹、後8区画先に州庁がある。そこまで行ったら、他の部隊と足並みを揃える為に一端待機だ」
「りっ…了解…」
大都市での市街地戦を前に緊張と怯えを見せたリザードマンのハイノの視線に、ティアナは背中の装備ごと彼を励ます様に叩いた。
「実戦は?」
「そのっ…これで3回目です…」
「大丈夫だよ!いざとなれば、リヒャルダ達の装甲車の陰に飛び込めば大丈夫!特にリヒャルダの1号車は生産されたばかりの新型だよ。他の隊の2cm砲なんか目じゃないから」
「そっ、そうですよね。了解です!」
装甲車を親指で差す彼女の明るい言葉に、リザードマンはただ頷くと仲間に前進するように促した。
警戒小隊が先導し、その後をティアナ達が装甲車を囲む様に前進を続けた。全員が曲がり角や建物の窓を警戒して銃を構えるが、発砲する者はまだいなかった。
装甲車の上で機銃を構えるリヒャルダも、時折崩れた建物の狙撃スポットに狙いを定めるだけだった。
「何だか…静かですね?もしかしてもう敵さん逃げてたり…なんて?」
「そんな事ある訳…」
装甲車の影で軽口を言う部下に言葉を返そうとしたティアナは、突然立ち止まり銃を構えた。その視線は隣の通りを見詰めており、リヒャルダはわざわざ車列を止めた。
「ティアナ、どうしたんだ?敵か!」
リヒャルダの言葉に車両の周りにいた兵達は素早く遮蔽物で身を庇いつつ火器を構えた。
「総司令部、こちら第2大隊長ティアナです。民間人らしき人影を確認。調べてきます!」
「ティアナ大隊長、こちらブリギッテ。大隊長の貴女が行ってどうするの!戻りなさい!」
突然携帯無線機で本部へ連絡を取ると、ティアナは部隊を置いて隣の通りへ駆け出した。当然本部で部隊管理をしていたブリギッテが制止したが、ティアナはそれでは止まらなかった。
「おい、ティアナ!どこに行くつもりだ!何を見たんだ!」
「子供がいたの!民間人だったら保護しなきゃ!」
背を向けて駆けて行くティアナへ、慌てて装甲車から這い出したリヒャルダは叫んだが、それでもティアナは止まらなかった。
「保護は部下に任せろよ!お前は大隊長だろ!部隊の指揮はどうするんだ!」
装甲車の天板の上でリヒャルダが叫んだ。
その言葉に彼女は振り返ると不敵な笑みを浮かべながらリヒャルダを指差した。
「やっぱり、私は人に指示するのは趣味じゃない!だから…リヒャルダ!後は頼んだよ!」
片手を上げで手を振ると、再び彼女は全速力で駆け出した。そんなティアナに頭を抱えたリヒャルダは、装甲車の中に飛び込むとタコホーンを強く押した。
「第2大隊良く聞け!お前らの馬鹿隊長が独断し始めたから、私が少しの間指揮を引き継ぐ!第1小隊はあの馬鹿今すぐ追いかけろ!第1装甲車小隊と第2小隊はここで待機。第1小隊が馬鹿を引っ張って来るのを待つ!ディートリントは残りの奴等を率いて予定通り州庁へ迎え」
無線で指示を出したリヒャルダは、そのまま操縦手の背中を前進をさせるために軽く蹴った。
「車長!ここに留まるんじゃ無いんですか?」
「何か…嫌な予感がするんだよ。だから何かが起きる前に私達で何とかするんだよ」
車内からの疑問の視線に、リヒャルダはスリットから不安に歪む表情で外を見た。