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帝国再興記~Gartschlands Gloria~  作者: 陸海 空
第4章:新世界は黄昏の国
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第四幕-1

「大統領!帝国侵攻の大失敗はどうやって帳尻を合わせるつもりか?国庫に甚大な損害額を支払わせるぞ、この損失は!」


「兵の遺族への支援金もこれでは多すぎる…到底払えませんぞ…」


「肝心の民も民兵として多くが西に走った。稼ぎ手が居ないのであれば、税は上げられまい…」


「戦線維持の為に徴兵しようにもこれでは…」


 8月も後半に入り夜でもまだ熱い共和ガルツの大統領府は、大臣勢揃いでどうにもならない事をどうにかしようと話し合っていた。

 カースナウの大敗北により戦力が大幅に消失した彼等は、侵攻する帝国軍へ主要都市に防衛戦を張っていた。

 だが、首都が突然爆発し大火災が発生したことや、カースナウの敗北が何時までも尾を引いていた。そして、防衛拠点となる主要都市もカースナウ同様の爆撃により継戦不能となると放棄され、前線はいつの間にか首都のあるフランブルク州の隣の州であるゲルセン州の州都であるドレスツィヒを目前としていた。


「何としてでもドレスツィヒを突破される訳にはゆかぬ。我が軍が予想以上に役立たずなのだ…フランブルク州に入られればあっという間に首都陥落だ。南からの支援はどうなっている!兄上には要請を出したのだろう!」


 会議の為に集まっているにも関わらず、何時までも愚痴を言い続ける大臣達に苛立ちを感じたシュペー大統領は南からの支援について尋ねた。

 彼女が革命に成功したのは南のザクセン派からの支援に寄る所が大きかった。その彼女の問い掛けに多くの大臣が口を閉じた。その反応は露骨に支援が来ていない事を示しており、大統領は肘をテーブルに突いて頭を抱えた。


「何故来てない!連絡は取ったのか!」


「港から連絡船を何度か出しました。ですが…その…」


 怒りを抑えつつ言った大統領の言葉に、大臣達は答えを渋った。大統領は大臣達の反応に疑念を感じた。正確な手段が解らなくても、普段の彼等なら妨害されたと報告する筈であった。

 それが返答に詰まるということは、彼女に不審と興味を抱かせた。


「"その…"何だ!連絡船に何があったの!」


 大臣達を睨みつつシュペー大統領が口調をきつく言うと、観念した彼等は口を開いた。


「それが…生き残りから話を聞くと…輸送船の残骸を見付けて生き残りを探すために停船したそうです。そして…」


「船が突然に爆発したそうです…船体を3つに断裂させて…」


 冗談のような内容を語る大臣達に、シュペーは目を丸くした。正気を疑う内容に彼女は他の大臣達に笑いかけたが、彼等は何時まで経っても暗い表情のままだった。


「市民への…焦土作戦の埋め合わせが出来ない…そういう事か?」


「一応は情報封鎖してますので、政府関係者のみしか知りません。ですが…」


「戦時下配給が滞りますと、市民も勘づくかと」


 後悔の念を混ぜた嘆きに大臣達が答えると、彼女はただ静かに拳を怒りで震わせた。


「あんな役立たず連中の話など聞かなければ良かった…」


 力無く諦めた口調をしたシュペーに、大臣達は慌て顔でテーブルに身を乗り出した。


「大統領!御安心下さい!忠義厚いもの達がドレスツィヒに集結しております!」


「民兵が主力では有りますが…勇猛果敢な者達です!きっと敵を返り討ちにしてくれますぞ!」


 根拠の無いその言葉に頭を抱えたシュペーは窓の外を見た。そこにはデモ行進をする市民達が群をなしていた。

 少し前まで彼等の持つ看板は帝国批判が書かれ、横断幕は大公への悪態が書かれてた。それが今となっては元政権への批判と内戦反対、軍の機能への不審等が埋め尽くしていた。

 無能な市民に市民運動を植え付けて大公を追い出したと考えるシュペーには、その批判が腹立たしく感じた。


「こんなのは会議じゃなく報告会だ!会議はこれで終了とする。それと国防大臣!あの暴動をさっさと静めろ!」


 突然に立ち上がり会議の終了を宣言したシュペーは、足早に会議室の扉へ向かい言った。その宣言は大臣全員に暗い雰囲気を与えたが、国防大臣のハト鳥人は慌てて彼女を追いかけた。


「大統領!暴動の静止は表現の自由と市民の自由を妨げる行為でありまして…」


 長い廊下ではっきりしない言葉を紡ぐ国防大臣は、白い羽毛が薄くなかった頭頂に汗をかきながらシュペーを止めようと必死になった。


「それと…港に船を用意しておけ。足の速くて豪華なやつだ」


 吐き捨てる様に言って去っていった大統領の背中を見ながら、ハト男はため息を混じりに肩を落とした。


「全く…ウッカーマンも面倒な事を頼むものだ…とは言え、下準備は出来たかな」


 大統領の前で見せた気後れする態度が見る影もない彼は、懐から細かく文字の書かれた小さい紙切れとマッチを取り出した。


「後は…これぐらいか?」


 そう言った彼は紙に火を付けると廊下の窓から外に放り投げた。

 その夜、大統領府で小さな火事騒ぎが起き、数人の暴動に参加していた市民が捕まった。彼等は口を揃えて犯行を否定していた。

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