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帝国再興記~Gartschlands Gloria~  作者: 陸海 空
第4章:新世界は黄昏の国
151/325

幕間

「であるからこそ!


我々、魔族共和主義は帝政に立ち向かわなければ成らないのです!


全ての人民元の為にも、我々は…共和ガルツは戦うのです!戦わなければならないのです!」


 壁に亀裂か走り座席も崩れた物が目立つ議事堂で、1人の女が高らかに演説を終えた。

 その女は背の高い魔人族であり、床に付くかと思うほど長く色素の薄い金髪の両側頭部からは魔人特有の牛の様な逞しい角が生えていた。その体つきは角と同様にしっかりとしたものであり、そんな彼女から発する気迫溢れる言葉に議事堂の参列者は湧き上がった。

 その歓声は彼女が議事堂を去り、議会が終わった後もなかなか静まらなかった。


「全く…連中は何も考えて無いのね。これなら、あの馬鹿な大公が幅を利かせられる訳ね」


 控え室に戻った彼女は、華やかなドレスを脱ぎ捨て身軽な格好になると、部屋の中のソファに勢いよく倒れた。


「しかし、甘言とは馬鹿な者にこそ良く効くもの。"国民、皆平等"と言えば、誰もがこぞって賛同する。特に何もしてない、何もしようとしない間抜けが金欲しさにね。馬鹿も百万越えれば暴徒だもの 」


「お陰で…大公亡き今、東方は我等のものですよシュペー卿」


 疲れを感じさせるシュペーと呼ばれた女の言葉に側に控えていた執事が御輿を担いだ。

 だが、その言葉を受けたシュペーは鋭く整えた眉間にシワを寄せて執事を睨んだ。


「卿じゃなくて、大統領。それに…あの馬鹿大公一味は取り逃がした…まぁ、邪魔な役立たずをあらかた引き連れたから良しとしましょう。あの小娘…今はアポロニアだったかしら?あんなのが対応出来る数じゃ無いでしょ?本当に共和主義万歳、愚衆政治万歳よ。私みたいな有能な人間は甘い汁だけ一杯吸えて、汚れ仕事は馬鹿共がしてくれる」


 彼女の睨みから逃れるように茶を注ぐ執事へ議会での議員達の惨状を馬鹿にするようにシュペーは得意気に語った。


「これで、南の王国軍がさっさと帝国に止めをさして内戦を終結させてくれれば、帝都への進軍で戦果のおこぼれを貰える。あの髭の兄が…」


 得意気に語っていた彼女は、後ろから刺すような視線を感じて部屋の奥にある扉をみた。


「あら?貴女、ここで何してるの?屋敷に居るはずでしょ?」


「貴女が起こしたこの騒ぎで、屋敷の近くも騒がしいんです。壊れる音や割れるが響き続けて…」


 目を細めて露骨に嫌がるシュペーの視線の先には、彼女同様に薄い金髪の女性がいた。見た目はシュペーと比べると若く、短い角や華奢な体も相まってまるで妖精の様だった。整えられた髪や身振りから明らかに育ちが良いことが判るが、彼女の着ている服は簡素なシャツにズボンで仕立てもあまり良くなかった。

 そんな華奢な女は、シュペー同様に嫌悪感を表す表情をソファーの彼女へ向けると、静かに歩き部屋を出ようとした。


「自室だった部屋に忘れ物をしたのです。それに…ここも私の屋敷でした。なら、私がどこに居ても…」


「ここは貴女では無くこの私、"シュペー"の物よ。それに、ここは今では共和政治の中枢である議事堂。国のものよ」


 小馬鹿にするようなシュペーの物言いに、華奢な女は怒りに肩を叩く震わせながら扉のノブに掛けた手を離して勢いよく振り返った。


「よくもそんな事を言えますね!母さんが病死したとたんに父さんにすり寄って、誑かしておいて!そんな貴女に我が家の家名を名乗る権利なんて無いです!父さんだって事故に見せかけて貴女が殺したんでしょ!ザクセン…」


 シュペーの誇らしげな言葉に憎しみや怒りをぶつけた華奢な女は、彼女の嘗ての名前を呼ぼうとした。

 だが、彼女は名前を呼ぶ前にシュペーに勢いよく叩かれた。


「私はシュペーよ!家長を継ぐのはあの人の遺書による結果。貴女みたいな小娘が口を挟むな!そして…嘗ての家の名を呼んだら、承知しないから覚悟しなさい!」


 顔を真っ赤にしながら肩で息をするシュペーは、部屋の騒ぎを聞き付けた警備員達に彼女を部屋から摘まみ出すよう片手で指示を出した。

 粗っぽく廊下へ投げ出された彼女は、シュペーに叩かれ真っ赤になった頬を撫でながら、人気の無い廊下を歩き出した。窓の外に広がる争乱の火が夜の町を昼間の様に明るく照らし、人々の雄叫びや悲鳴は町から少し離れていた議事堂にまで届いた。

 力無い視線で廊下の窓から町を眺める彼女は、議事堂の柵の隙間から逃げ込んで来る数人の市民を見た。仕立ての良かったであろう衣服は破れ、息も絶え絶えに逃げる彼等親子3人であり、彼女が気付いた時には窓から見えなくなった。

 それから直ぐに男女の悲痛な断末魔の叫びと子供の鳴き声が響いた。


「あんなに優しい大公様を悪人に仕立てて…無実の人達の…同じ魔族の首を斬らせて…市民同士を殺し合わせて…何が正義の共和主義よ!」


 叫びと悲鳴が頭の中で木霊する中、自分の無力感に苛まれた彼女は廊下で1人叫んだ。


「あの女…何時か…何時か私が…この手で!」


 憎しみに震える彼女の声を聞いた者は誰も居なかった。

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