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帝国再興記~Gartschlands Gloria~  作者: 陸海 空
第4章:新世界は黄昏の国
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第二幕-3

 ウルフガルムはマーデン=カールスベルク州の州都であり、ジークフリート大陸南方への玄関口という認識であった。帝都への物流や各地域への移動は海岸線を通らない限りは必ずウルフガルムを通るという程である。

 さらに南方という事もあり戦災を免れたこの都市は南方の栄華の1部を表していた。

 だが、華やかなウルフガルムを包む現状の空気は穏やかではなく、何より以上な程の静けさを放っていた。


「なっ!寝言は寝てから言わんか!何が森林が噴火しただ!火山も無いのに噴火が起きるか!」


 州議会議事堂兼ザイトリッツ=クルツバッハ公爵城の1室を借り受けているシンデルマイサーが兵からの報告に激怒の声を上げた。

 ガルツ王国の命を受けたシンデルマイサーはテンペルホーフと共に軍を率いてアポロニア討伐へ向かったが、功を焦るテンペルホーフに彼は先方という面倒事を押し付けた。彼は本質的には武人では無く商人であり、闘志だけで帝国軍を打倒出来るとは考えていなかった。

 だからこそ痛手を全て彼に引き受けさせ、自分はテンペルホーフによって被害を受けた帝国軍へ突撃するのが彼の作戦だった。


「噴火ねぇ…旦那、やっぱりテンペルホーフって小僧が泣き付くまで待ってた方が良かったんでは?」


 顔を真っ赤にして怒鳴るシンデルマイサーに、彼の率いる傭兵軍団の総指揮官であるトロール族のアクスマンは3m以上の巨体を近くのソフトに横たえらせて言った。


「うるさいぞ、アクスマン!」


 そんなアクスマンの態度にシンデルマイサーは禿げた頭を掻きむしりながら、ソファーからはみ出した彼の屈強な足に蹴りを入れた。

 だが、シンデルマイサーの貧相な足ではアクスマンの筋肉で岩の様になっている足はびくともせず、むしろ彼は脛を押さえて蹲った。


「そのテンペルホーフが…1月経っても…何も連絡を寄越さんから!…兵を向かわせたんだろ!その噴火は爆発だ。帝国軍のあの訳の解らん武器と同じだ」


 シンデルマイサーは涙目になりながら痛みに震える声で言った。

 息を止めながら力強く立ち上がった彼は、軽くよろけると地図の上のテンペルホーフの旗の付いた駒を報告を伝えてきた兵に投げつけた。その動きは室内で作業をしていた配下達に嫌な気分を懐かせたが、シンデルマイサーがわざわざ投げた駒を兵への謝罪を兼ねたチョコレート片手に取りに来た事で全員が苦笑いを浮かべた。


「あのお姫様の兵隊って奴等はそんなの使うのか?まるで魔法だな」


「その通りだ。あれで呪文でも唱えれば立派にそう見える」


 怯え混じりに言う彼の言葉に、アクスマンは茶化す言葉を投げようとした。だが、シンデルマイサーの怯え方は冗談を言える様なものでは無く、口を開いたアクスマンはゆっくりと口を閉じた。


「フランケンシュタイン卿の避難命令のせいでこの街の物資供給は悪くなっている…おまけに8千の兵を前進させても数日で帰還。その理由が"林道が噴火して、一瞬で5百人が挽き肉になった"だぞ…」


「物資の問題でここの兵士も士気が落ちて、帰って来た奴等は何時逃げ出してもおかしくない…早く打開しないと要塞からの増援も来て、俺達出番が無くなっちまうぞ。要塞にフリッチュ卿だの何だの貴族が来まくってるんだろ?」


 アクスマンの言葉にシンデルマイサーが固まると、室内で作業をしていた1人の犬系獣人の女がテーブルに勢いよく手を突いた。

 彼女は胸元の空いた露出の多めの装備に身を包むグラマーな女であった。そんな彼女の鎧を着けても揺れる胸元に、シンデルマイサーや他の男は勢いよくテーブルに手を突く動作より目を奪われた。


「あんたら…こんな時に馬鹿やってんざ無いよ!要は全軍で突っ込みゃ良いんだよチマチマやるからあの小僧はしくじったんた。大群で戦うなら、単純なやり方が一番だ」


 自分の胸に釘付けになる男達へ垂れた耳や細い尻尾を立たせながら文句言いうと、彼女はウルフガルムの駒を全て街道へと置いた。


「前に…出るしかないか…」


「旦那、これしか無いと思うぜ。8千が早々に逃げ出すんだ。全力しかない」


 いつの間にかソファーに座り直していたアクスマンが真剣な目付きで主張すると、部屋の傭兵達全員が雇い主であるシンデルマイサーに注目した。

 彼も上司として悩む素振りを見せたが、本職でない以上アクスマンや周りの視線は受け入れるべき本職の意見だった。


「だぁ~~!わかった!ならさっさと準備させろ!」


 わざとらしく悩む仕草に白々しい視線を感じると、大きく伸びをしながら全員に命令を出した。全員気だるげに立ち上がりながらそれぞれの仕事を始めた。

 そんな部屋の中で、シンデルマイサーは窓の外の市民の1人も居ない街に虚しさにこれからの戦いへの不安を感じるも、頭を振りただじっと地図を見詰めて気を紛らわせた。

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