第二幕-1
ガルツ帝国のマーデン=カールスベルク州は大陸中央を流れるライン川の南にあり、ニースヴァイセン州の直ぐ下にあった。
そんなこの州には、ジークフリート大陸最大の要塞都市が存在していた。州都であるウルムガルトのさらに南の都市であるハイルガルトは広大な土地の周辺を巨大な城壁に包まれていた。
通常のジークフリート大陸の都市は森林や川、山岳や丘等の自然の境界で区画分けされている。そのため大陸のどの都市と比較してもウルムガルムが通常の都市で無い事は明白だった。
何より城壁外のすぐ近く、東西南北に1つずつ城塞があればこの都市が異常なのは誰もがわかった。
「それで…フランケンシュタイン卿。何故テンペルホーフ卿もシンデルマイサーも連絡の1つ寄越さないので?」
そんなウルムガルトの要塞司令部に集まる武家貴族のフンボルトが司令官であるフランケンシュタインに尋ねた。彼の他にも司令部には15人程の貴族が彼に説明を求める強い視線を送っており、それを受けるフランケンシュタインは冷や汗を流していた。
「2人ともデルンを陥落させると息巻いていましたし…炭鉱のカナリアになるなら…なぁ?シュモラー卿、そうであろう?」
「とは言うものの、そのカナリアが何処かへ飛び去ってしまっては意味が無いでしょう?」
冷や汗を流しながら言い訳をする彼に、シュモラーと呼ばれたオークの男は冷静に指摘した。恰幅の良い体の腰に両手を当てながら、彼はテーブルに広げられる大陸地図を見詰めた。ウルムガルムの街にはシンデルマイサーとテンペルホーフの旗が刺さった駒が2つ置いてあった。
彼が指でそれらをつつくと、それに吊られるように全員が訳もなく黙って大陸地図を見詰めた。
「ザクセン…国王は我等武家貴族に北侵を命じた。先方に彼等が居るから安心しろとも言った。だが、テンペルホーフ卿もシンデルマイサーも戻らない。前線に…ウルムガルムに何か有ったとも思えるが?」
そんな沈黙をフリッチュが破ると、彼と動向を共にしていた貴族達が頷いて同意を示した。
「まっ、まさか…シンデルマイサーにテンペルホーフ卿の軍は合わせて5万。奴等が帝都で見せた兵は500人ですぞ。単純にも考えて流石に100倍の戦力差は埋められるものでは無いでしょう?」
「さて、どうだろうな?私なら、あの場の戦力は欺瞞とも思えるがな?まさかとは思うが、あの小僧達は苦戦しているのではないかと思うが…」
その場にいた誰しもが冗談で言っていると思いたかったフリッチュの言葉には、いつまで経っても訂正が入ら無かった。
「そうなると、ウルムガルム…いえ、デルンへと戦力を向けるべきなのでは?」
ドリルの様なウェーブをかけた金髪に雪より白い肌のオーガの女が、地図のハイルガルトに置かれている旗の付いた全ての駒をデルンにおいた。
「待て待て!それは早計だ!この要塞から兵力を全て出すのは危険すぎる!」
それに対してフランケンシュタインが自分の駒を1つ要塞に戻した。
そんな彼の弱腰の反応に、シュモラー達数人の貴族は明らかに解る程の不快がる視線を向けた。そんな彼等の視線を集めるように、フリッチュが司令部に響くよう手を叩いた。
「諸君忘れてはならぬが西への制圧作戦もしなければならないのだぞ。なら…こうあるべきだ」
フリッチュは横に控えていたクニースに右手で軽くテーブルの地図を指差すと、クニースは杖を突きながらテーブルの駒を動かした。
「こうで…良かったですかい?」
「完璧だよクニース君」
その配置は、フリッチュとその取り巻き合わせて6個の駒が西への向かい、シュモラー達6個の個がデルンへ向かう。最後に残ったフランケンシュタインが要塞で防衛をするという戦力を3分割するものだった。
「これが1番妥当だろうて。下手に1ヶ所に固まると臨機応変に対応できんくなるからの」
貫禄のあるフリッチュの言葉や、テーブルの近くで周りの貴族達に鋭い視線を飛ばすクニースによって、誰も反論出来なかった。
「まぁ、こんなもんで十分だ。そうと決まれば、私らはここらで失礼するかの」
そう言ったフリッチュ達は、フランケンシュタイン達が引き留めるより先に部屋を後にした。
「クニース君…全員に話は付けてあるのかね?」
「手筈通りに。後は…あの坊っちゃん達次第ですぜ」
「まぁ、あの総統君だ。あんな髭だけの男や、こんな爺さん相手に何も言えない連中には負けんだろう」
廊下を歩くフリッチュは、周りの貴族達に守られるように囲まれながらクニースと小声で話した。
「問題はテンペルホーフのガキ大将ですが…」
「ああゆう奴が1番困る…出来ん事にやたらと首を突っ込んで引っ掻き回す様なのはな…とにかく、ここにいたら私らは皆殺しだ。早く出て予定通り行動しよう」
フリッチュの言葉に全員が何も言わずに頷くと、足早に自分達の兵が待機する兵舎に向かった。




