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帝国再興記~Gartschlands Gloria~  作者: 陸海 空
第3章:世界の終わりも半ばを過ぎて
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第四幕-9

「やはり敵は防備に徹するか。これでは迂闊に前に出れない」


「しかし、何なんですかあの防備は?兵が見えませんよ」


 テンペルホーフの命により、先発の軍を率いたエルプは、橋に近い森林と平原の境にて防衛陣地を眺めていた。その陣地は、彼等の知っている防衛陣地の様な板の盾も石造りのトーチカも無かった。

 何より、土嚢の近くに兵が居てもその他には兵の姿が余り見えず、床に虐殺の元凶たる機関銃が置かれている様に見えた。そして、橋の周辺の地面へ不自然に刺してある鉄の棒が彼には気になった。

 今までと全く異なる防衛方法に、エルプの伸ばした単眼鏡で見つめる表情は堅かった。彼からすれば、明らかに突撃が愚策に思える状況にどうすれば良いのか解らなくなった。

 そのような対岸や橋の上の状況に油断した部隊が前進し過ぎて見付かると、防備陣地が慌ただしくなった。


「馬鹿!何をやっている!」


「閣下、気取られました!こうなっては…」


「やむを得ない…」


 苦虫を噛み潰した表情を浮かべながら先に居る兵士達を叱責した。副官の言葉に促されると、彼は腰の剣を引き抜き切っ先を橋に向けた。


「全軍!突撃!」


 エルプが叫び、副官や部下達がテンペルホーフの旗を振ると、彼の軍勢は突撃を開始した。種族を問わず多くの男達が雄叫びを上げながら突撃し、弓兵達が射程距離ギリギリの位置へ移動を始めた。

 そんな軍の後方で、エルプ達も橋へ向けて突撃を始めた。その光景は、嘗てのヒト族との戦争を思い出させる物だった。

 ただ、その戦いでは勇者や魔術師等、敵の誰が1番危険であり最優先で撃退すべきか見て解るものだった。

 だが、今の現状ではただ橋へと向かうという単純な突撃である分、強力な1人に対する恐怖は少なかった。

 そんな彼の視線に、いつの間にか地面に置かれていた機関銃に射手が就き狙っているのが見えた。睨み付ける様な視線から来る無数の殺意に、エルプは陣地以外にも敵兵が地面に掘った穴の中で隠れていた事を理解した。


「密集するな!分散しろ!」


 慌てて部下達に指示を飛ばした彼だったが、突撃をする部下達の耳には届いておらず、彼には万単位の暴徒にしか見えなかった。

 そんな軍勢に対岸や橋の上から轟音が響くと、無差別に兵達がぼろ布の様に引き裂かせていった。手足を引き裂かれ地面を転げる者や頭を砕かれ力なく倒れる者、ひたすらに体を孔だらけにして倒れる者で、橋までの草原は赤く染まっていた。


「足を止めるな!とにかく橋までの突き進め!」


 そう叫ぶ副官の言葉を聞きながら、エルプは目の前で倒れ行く幾人もの兵を見た。分散した事で余り狙われなかった彼だったが、まだ橋まで距離が有るにも関わらず2割近い兵が剣も交えず倒れる姿に軍の敗北を悟った。


「閣下!このままでは橋に近づく頃には軍は7割です!」


「構うな!とにかく橋に…」


 離れた副官の叫びに答えようとしたエルプは突然の爆風に吹き飛ばされた。何度も地面を転げ回り、天と地が数回入れ換わると、彼は倒れ重なった死体にぶつかり回転を止めた。


「ぶふっ…がぁっ…なっ何が…」


 死体にぶつかった衝撃で息を吐き、あらぬ方向を向いた左腕を押さえながらエルプは周りを見た。その視界に、つい先程まで彼が走っていた場所の近くの地面が抉れているのが見えた。

 巻き上げられた土が近くの草原や死体に掛かり、自分の様に爆心地周辺に居た者は吹き飛ばされていた。


「おい…何があった?どこに行った!」


 ふらつきながら立ち上がる彼は、副官を呼びながら爆心地に近づいた。その爆発が彼の副官が居た場所で起きた事を覚えていたが、それでも彼は副官や直下の部下達の状態を確認をしたかった。

 だが爆心地には、下半身を千切られ内蔵を剥き出しにされた副官や右半身が失われた死体、最早誰だったか解らない下半身が無惨にも土に埋もれていた。


「何だ…何なんだこれは!何で魔族が魔法を使える!」


 嘗ての侵略に出兵していた彼は、爆裂の魔法を使われた時の事を思い出し叫んだ。


「何故だ!何でこんな…ぐぁっ!」


 部下達のミンチを目の当たりにし、冷静さを失ったエルプは叫ぼうとして再び爆風に吹き飛ばされた。数回地面を転がり数十秒意識を失った彼は、誰かに蹴飛ばされ目を覚ました。

 口に入った土を吐き出し、咳き込みながら起き上がった彼の視界には絶望が広がっていた。部下を吹き飛ばした爆発が矢継ぎ早に起こっては突撃する兵を吹き飛ばし、足を止めた兵を陣地からの射撃が凪ぎ払う。

 更には、矢継ぎ早の爆発よりもっと大きな爆発が、兵を10人単位で吹き飛ばしていった。

 橋の近くにたどり着いた兵の姿もエルプには見えたが、刺さった棒の間に張られた棘の付いた糸の様な針金が行く手を遮っていた。

 鉄条網にまごつく兵を機関銃が凪ぎ払い、前衛の軍勢は橋にたどり着く事さえ叶わなかった。それを見せ付けられた兵達は、制圧射撃を避けるため伏せ砲撃が自分に降らない事を祈っていた。


「1万以上の軍勢が…高々、数百人に壊滅か…」


 平原にひたすら降り注ぐ榴弾の雨と、仲間の死体を盾にして身を守ろうとする兵の姿に、エルプは呟くしか無かった。

 最早自軍の兵には戦意は無く、多くの兵が必死に白いハンカチや白い物を天高く振り回していた。その兵達は降伏を叫んでいたのだろうが、爆風に耳をおかしくした彼には、耳鳴り以外聞こえなかった。

 呆然としながら後方を見ても、後続のテンペルホーフの本軍は見えず、彼は見捨てられた事を確信した。


「南方の終わりだ…こんな物が戦場を支配すれば…世界の終わりだ…」


 呟いた彼は、近くに落ちていたテンペルホーフの旗を千切り取り、近くの死体から手当たり次第白い布を付けると掲げた。

 親衛隊からの攻撃が止むのはそれから30分後、前衛の9割が殲滅された後だった。

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