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帝国再興記~Gartschlands Gloria~  作者: 陸海 空
第3章:世界の終わりも半ばを過ぎて
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第四幕-7

「橋への斥候連中の3隊が奴等と遭遇したのか…」


「4つの内3つが壊滅。これで約900人の損害。おまけに追撃の騎馬隊も損害が大きい…」


「どうするんです、これ?」


「私が聞きたいよ…」


 橋に向けて移動をするテンペルホーフ軍は、その途中で多くの負傷兵と遭遇した。それは4つの橋へ偵察へ送った自軍の斥候であり、3つは運悪く輸送車に遭遇し戦闘となった。更に足が早い事から追撃に出た騎馬隊も、威勢とは裏腹に甚大な被害を受けた。その為、軍勢は本格的な戦闘を行う前に負傷者が目立つ様になっていた。

 戦力の状況を確認する副官の言葉にエルプは頭を抱えて、足早にテンペルホーフとそれに群がる参謀達の元へ歩んだ。


「山脈側の橋の斥候曰く、橋は落とされていたらしい。小舟も無いから、川を泳いで渡るしかないと」


「あの距離を泳ぐのか!この装備でか?」


「馬鹿を言え!何人溺れて何人流される事か!」


「分散だ!全ての橋に兵を向けよう!」


「しかしどうする?この損失では…」


 参謀達が熱く語り合う中、歩み寄るエルプに気付いたテンペルホーフは、手を強く叩き全員を静かにさせた。


「分散は愚策です。相手と戦闘した者達の共通点は指揮官の数が少なく、人数も少ない事。彼等を打倒するには、10や20倍では数が足りないのは明らか」


 淡々と語る彼に、誰も口を出さなかった。テンペルホーフが黙って聞く姿に、口を出せる程の度胸がある参謀は1人も居なかった。

 その後状況を見回したエルプは、机に広げられた地図を見ながら川に架かる橋を指差し始めた。


「連中が橋を落としたという事は、こちらの軍をニースヴァイセンに入れるつもりが無いということ。そうなれば、何処かで待ち伏せをしているはず…1番川幅が狭いのは…」


「山脈側の橋の隣です。ここは比較的川底も浅い」


 彼の疑問に副官が青白い指で地図の橋を指差すと、エルプは顎に手を当て沈黙した。その沈黙は長く、彼の熟考はなかなか終わらなかった。


「エルプ卿!この橋の所に連中が居ると言うのだな!ならここに全軍で押し寄せれは、連中とて2万4千近い兵には太刀打ち出来ないと!」


 痺れを切らした参謀が早計な判断を叫ぶと、他の参謀も同調して兵の配置を考え出した。


「まっ、待たれよ卿ら!そう考えるには早すぎる!防衛線を破るには3倍の兵が必要なのは戦術の常識…その常識を覆す様な連中を相手とするのだ、もう少し…」


「何だ!卿は先程から後ろ向きな考えばかりではないか!」


 意見をしたエルプに癇癪を起こす参謀達は、彼の胸元を掴むと軽く突き飛ばした。その勢いを殺す様に、副官が後ろから支えると、エルプは乱れた襟元を正しながら地図の上に手を突いた。


「私は神学を習った。かの神話でホーエンシュタウフェンは、世界が丸いと叫びヒト族に弾圧された。更には、リヒトホーフェンの賢者はこの大地を球体の惑星と呼び、太陽を回っていると言った。当然これは魔族からも弾圧されたが、全て真実と後に解った」


 彼の言葉に理解が追い付かない彼等は、再びエルプへ糾弾しようとしたが、それより早く彼は突っ掛かってきた参謀の胸ぐらを掴んだ。


「常識外れに見える彼等が常識となろうとしているのだ…威勢ばかりの時代遅れが戦術の何を言うか!」


 殴り合いの喧嘩に発展しかけた言い争いは、お互いの副官か止めに入る形で防がれた。だが、1度燃え上がった空気は冷める事は無かった。


「エルプ、指揮を任せたとは言うがな…参謀達と言い合う事を許可したつもりは無いぞ」


 その空気を物ともしないテンペルホーフは、2人の間を通り地図に向き合った。そのまま無造作に橋の前に2個の兵棋を縦に置いた。


「ならこうだ!エルプが前衛で突撃する。軍は半分、その後ろを私の軍が突撃する。敵を油断させ最後は数で押しきる」


 自信たっぷりに言われた策は、御世辞にも策と言えない物だった。それでも、エルプは無慈悲に兵を凪ぎ払う何かへの対策に、突撃し何とかして接近するという同じ意見しか思い付かなかった。

 彼はただ何も言わずに頷くと、テンペルホーフは満足げに手を叩いた。


「ならば!この策で行こう!」


 彼の言葉に盛り上がる上層と反比例し、前進を再開した軍の足取りは重かった。

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