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帝国再興記~Gartschlands Gloria~  作者: 陸海 空
第3章:世界の終わりも半ばを過ぎて
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第四幕-5

趣味で書いてるので気を付けてね。

「なっ!弓兵隊は何をやっているのだ!ほとんど手前に刺さっているではないか!」


「しかし、テンペルホーフ閣下。突然の遭遇でいきなりの攻撃命令ならばやむお得ません。そもそも、外交官を射つなど正気の沙汰では…」


 弓兵達が居抜き燃やすべき目標ではなく、誰もいない野原を焼く状況に、テンペルホーフは怒りに任せて怒鳴り付けた。

 副官の騎士が弁解の言葉を掛けても、彼は不機嫌そうに単眼鏡を畳みテント脇へ設置した机に置いた。

 ウルムガルトの後方にある要塞から出兵したテンペルホーフとシンデルマイサーは、それぞれ別行動をする事となった。シンデルマイサーはガルツ帝国親衛隊総統であるカイムの要請である陸戦規定を形だけでも締結するためウルムガルトへ向かった。

 だが、テンペルホーフはその会談を侵攻遅延を狙った策と考えた。その自分の考えに従うと、 彼は制止するシンデルマイサーを怒鳴り付けながら途中で進路をウルムガルトからライン川へ移した。

 そんな移動途中の夜間休息を取っているタイミングの直後、彼の元に急報が入った。内容としては奇怪な音をたてる馬の無い馬車が向かって来るという事だった。

 そして、彼はそれを帝国の兵器と判断し、弓兵による先制攻撃を命じたのだった。


「奴等は敵だぞ!討たねばならぬ敵だ!弛んでいるんじゃないのか!休息を取っている途中とはいえ、敵襲に対応出来なくて何が兵か!」


「しかし、閣下。我が兵は数こそ有れど、訓練や実戦経験も大いに不足しております。むしろ、あれだけ近くに当てられれば良くやった物です!」


「何故訓練をしていなかった!」


「閣下が騎士以外訓練不要と言ったではないですか!」


 テンペルホーフの子供の癇癪の様な文句に、副官は最初こそ淡々と対応していた。だが、彼は主の無責任さに耐えられなくなったのか声を荒らげた。


「エルプ殿、それぐらいにされよ。閣下、やはり弓等ではなく刀剣や槍での突撃こそ最も…」


「やはりそうであろう!騎馬隊と前衛の3千を突撃させろ!」


 テンペルホーフのテント脇で言い争う2人に、エルプと呼ばれた副官の他にいた参謀が提案した。その考えは彼の思考に合致したのか、テンペルホーフは満面の笑みを浮かべ命令をだした。


「前衛全隊!突撃!」


 前衛を指揮する騎士が、伝令を受け取り突撃の命令を出した。その声を受けて、彼が指揮する軽装鎧の男達が槍や剣、盾を持ち雄叫びを上げながら突撃を開始した。その男達の軍勢の前に騎馬隊が先行すると、軍勢は一応魚鱗の陣の様な形になっていた。

 だが、編成や部隊の位置はバラバラであり、無策に突撃をしているとしか言えなかった。


「エリアス!早くぶっぱなせ!」


「給弾してんだ!お前も撃てよ!」


「ドロテーア!手榴弾かして!」


「お好きに…」


 そんな彼等の耳に、馬の蹄や足音、雄叫びに混じって声が聞こえた。その声は目の前の目標である馬車、つまり装甲兵員輸送車から響いていた。

 それが後ろへ向くよう旋回している状態や声の若さから、前衛集団は勝ちを確信すると突撃の速度を上げた。


「全員、撃て!賊軍を近付けるな!」


 車輌から若く高い女の声が響くと、彼等の状況は一変した。兵員輸送車に備え付けられたMGが爆音を響かせながら世闇に閃光を煌めかせた。

 雄叫びを上げ突撃する彼等に、先に放たれた火矢の炎や突然の炸裂音、閃光は気にならなかった。

 だが、前方を駆ける騎馬隊がその輝きに馬ごと凪ぎ払われる様は衝撃を与えた。5発に1発の割合で輝く曳光弾が軌跡を描く度、騎馬や騎士、兵が体を引き裂かれ倒れて行く。

 一瞬の射撃で、騎馬隊は50騎以上が駆けていた勢いを発散して地面を力無く転げ回る光景は、前衛全員の足を止めた。

 更に、奇跡的に致命傷を免れ落馬した騎士の数名が絶叫する姿は全員に得体の知れない目の前の物体への恐怖を煽った。


「ひっ、怯むな!恐れるな!とつ…」


 前衛の指揮官が兵を進ませる為に叫んだが、その言葉は輸送車からの炸裂音で遮られた。


「騎士殿!我々はどうすれば…」


 近くの兵士が問おうとした時、彼は力なく地面に倒れた。そのヘルムは眉間に大きな孔をあけ、流れる血の量から死んでいる事は明らかだった。


「ひっ、うぁ~っ」


 倒れた騎士の死体に驚いた兵が、叫ぶ途中で後頭部を破裂させて倒れた。ヘルムで隠れていた騎士とは違い、被弾し抉れた後頭部は彼の薄緑の肌のしたから赤い肉と白い頭蓋骨、そして飛び散った脳髄を晒していた。

 戦慄する群衆に、ハーフトラックがエンジンを唸らせ機関銃が再び火を吹き弾丸を撒き散らすと、前衛は早々に崩壊した。


「七面鳥撃ちだぜ、こいつはぁ!」


 荷台の後方に再設置された機関銃は弾薬と煽りをばら蒔き、悲鳴を上げて逃げ去る兵を無慈悲に撃った。そんな兵と打って変わって、初撃を生き残った騎馬隊は同胞の仇討ちとばかりに突撃した。

 だが、彼等にハーフトラックから棒型や卵型の手榴弾が投擲されると、それの威力を知らない彼等は警戒無しに有効半径に進入した。

 地面に落ちたそれらが炸裂する頃には、騎馬隊の殆どは馬ごと吹き飛び、爆心地に近い者は馬と死体が判別出来ない程飛散していた。


「逃げろ!逃げろ!急げ!」


 誰が言ったか解らない言葉だったが、前衛の誰もがそれに従った。指揮官を失い騎馬隊が壊滅的被害を受けた前衛隊には全速力で離れ行くハーフトラックに追い付く方法が無かった。


「何て事だ…あんな訳の解らぬ馬車1つに前衛3千が敗走だと…」


 再び単眼鏡を伸ばし、遥か先の状況を眺めたエルプは絶句した。

 確かに、彼の絶句の原因は敵の使った得体の知れない兵器の威力だった。だがそれだけで無く、指揮官戦死と同時に8割以上の戦力を残して崩壊した部隊の状況や、無策に突撃を続行した騎馬隊へも唖然とした。


「エルプ…済まなかった。君の考えは正しかった…」


 そんな彼に、横に居たテンペルホーフが突然謝罪をしてきた。


「いえっ、自分は何も…」


「彼等には、訓練も実戦も足りなかった…だが、実戦ならここで経験出来る!そして、彼等に、更には私達に1番足りない物が有る!」


テンペルホーフは単眼鏡をしまうと、腰のサーベルを引き抜いた。


「それは…死しても敵を射つ覚悟と、戦う意思だ。私達には…それが欠けていた…」


 サーベルの刀身に写る自分と月を見て、自分に酔った彼は呟いた。

まるで演劇の1部の様な場面に、エルプは馬鹿らしさを感じていたが、周りの雰囲気に何も言い出す事が出来なかった。


「閣下…あのおぞましき魔導は無視しましょう。我々の目指すべきは首都、そして皇女の首です」


 参謀の熱い言葉に何度も頷くと、テンペルホーフは切っ先を向かって来る敗残兵に向けた。


「今回は敵に騙し討ちされました。しかし、川を越える頃には我等の必勝は確実です!我らは死を恐れません!勝利の栄光を我等が王に…そしてテンペルホーフに!」


 いつの間にか集まっていた軍勢の指揮官達は、テンペルホーフに腰の剣を捧げた。


「お前たち…その意思、確かに受け取った!」


 そう言うと、彼も自分の部下達に剣を捧げると天を仰いだ。


「あの化け物が川を越える前に橋へ向かう!休憩は取り下げだ!敗残兵を再編しろ!」


 まるで英雄物語の1部の様な光景に、エルプは黙るしか無かった。だが、その心には明確な危機感しかなかった。目の前の無慈悲な攻撃をする部隊が無数にいる本隊と戦う事実が彼の腹を痛くした。

 それに追い討ちを掛けるように具体的な考えを出さない主、敗走を騙し討ちと誤魔化し主を担ぐ配下という現状に、エルプは逃げ出したくなった。


「エルプ、君は兵を1番解っている。だから…君に参謀をやって貰いたい」


 三文芝居に参加したく無かった彼は、単眼鏡で焼ける野原と逃げる兵を見詰めていた。そんな彼に掛けられたテンペルホーフの言葉は、彼の心に不快感を与えた。

 "謹んで御断りさせて頂きます"という言葉を飲み込むと、余計な事を言わないように彼は黙って頷いた。エルプの肩を叩いたテンペルホーフが去ると、青二才の考え無し付き合う自分を憂いた彼は溜め息をついた。


「妻よ…私は帰れない…」


 諦めと共に呟かれた言葉は燃える野原に消え去った。

読んでいただきありがとうございます。

誤字とか変なところは誤魔化してます。

見付けちゃったら報告お願いします。

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