幕間
煙の上がるザールリンゲンの街が良く見える高台に、5人の人物が立ち街の情況を眺めていた。
「これが、帝国の技術…中規模魔法と呼ばれたものでさえ、あれ程の威力も起爆時間の正確さも無かったのに…」
額から伸びる角を呆然とも恍惚とも呼べる表情で、クラムが眺めていた。
彼には、先の侵略で魔法攻撃を受けた経験があった。ヒト族の軍勢に2人程度しか居ない上級魔導師という存在でも、出すのに苦労する大技を3発同時かつ予定時刻きっかりに見せられた為に、彼とその部下は畏怖の念を表していた。
「まぁ、驚くのも無理ないですわね…総統の帝国軍の叡智の一部ですわ」
「密室で手榴弾使われた時には、その叡智を呪いかけたがな…」
ヴァレンティーネとゲオルグは、驚く彼等の表情にそれぞれ感想を述べた。
議事堂で金で雇った役者に暗殺者を演じさせた阿保貴族と、間抜けな2人という茶番を演じた彼等は、ゾエ達偽旗部隊が投擲した手榴弾の混乱でその場を脱していた。その後は、彼の護衛であった2人の騎士と合流して帝都まで撤退するという流れであり、今はその途中であった。
「さて…申し訳無かったです2人共。そちらの手錠、外しますよ」
そう言ったクラムは部下2人に未だ拘束されていた2人のを解放するよう指示した。2人の騎士がヴァレンティーネ達の手錠を取ると、クラムを含めた3人は彼女等に両手を差し出した。
「これで…私は捕虜扱いで西部を脱出。帝都にて総統閣下と交渉する。素晴らしい流れです!」
手錠を掛けられ拘束される状態だというのに、嬉しそうに笑う彼の姿にはゲオルグどころか部下の2人のさえ気味悪がった。
「えぇ、そうですわね。上手く行けばですけどね」
クラムに手錠をかけたヴァレンティーネは、ゲオルグに目配せした。それを受けた彼は腰に挟んでいた拳銃を抜き去り騎士が2人を撃ち抜いた。
「なっ、何を!何をしている!」
驚くクラムの横で、瞬時に部下2人の頭を撃ち抜いたにも関わらず、倒れる2人の頭へゲオルグは更に弾丸を撃ち込んだ。
「命を保証したはずだろ!命令違反だ!」
そんな光景に、怯えと怒りを表したクラムは叫んだ。顔を真っ赤にし、薄ら笑いを浮かべるヴァレンティーネを目一杯の怒りを込めて睨み付けた。
その怒りの表情を見て、彼女は逆に笑った。その笑みは口が裂けそうな程であり、瞳には彼への侮蔑が宿っていた。
「一度裏切る者は直ぐ裏切りますわ。そもそも、本当に私達が総統の元に貴方を連れていくと?冗談じゃ無いですわ!こんな帝国の面汚しなんて帝都にさえ入れられませんわ…」
まるで道端のゴミを見る様な視線に、怒り心頭したクラムはヴァレンティーネへ歩み寄ろうとした。
そんな彼へ足を掛け、転ばせたゲオルグは倒れる彼の腹部に蹴りを入れた。
「それに…権限が無いからな。下っ端の俺達に不手際が有っても、始末書書いて小言を受ければそれで終わり。総統や親衛隊の為なら安いもんだ」
「待ってくれ…止めてくれ…命だけは!」
クラムに拳銃を向け、引き金に指を掛けたゲオルグに彼は命乞いをした。
小鳥の様に囀ずる彼の言葉は、上から顔を覗き込む2人の逆鱗に触れた。
「ゴミはゴミらしく捨てられなさい!」
静かに、怒りを滲ませた声でヴァレンティーネはゲオルグに命じた。
引き金が2回引かれ、銃口から2発の弾丸が弾き出されクラムの心臓を引き裂いた。柔らかい肉を裂き、治癒出来ない傷を負わせた弾丸は彼の背を貫いた。
「くぁ、あぅ…」
口から血を逆流させ、少しの間小さく痙攣をしていたクラムは直ぐに動かなくなった。
「しかし、良いのか?ギラの奴から言われてんだろ?"無意味に敵を作るな"って」
「ゲオルグ…この男は元から敵でしてよ!なら、殺すのが道理でしょう?」
ゲオルグの疑念に溜め息混じりでヴァレンティーネが答えると、ナイフを引き抜きクラムの額にザクセンの家紋を彫り始めた。
「南方の馬鹿連中に味方する奴等には、全員こうしなければならないのでしてよ」
笑顔を浮かべながら額をさながら芸術家の様に切り裂く彼女の狂気を見慣れたゲオルグは、後ろから彼女の作品を覗き込んだ。
「ほぅ…これは…」
「えぇ、ゲオルグ…これは現時点での、私の最高傑作ですわ!」