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帝国再興記~Gartschlands Gloria~  作者: 陸海 空
第3章:世界の終わりも半ばを過ぎて
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第三幕-8

「皆見ました?今の爆発!」


「あぁ、ザールリンゲンだな」


「3ヶ所の爆発…まさか魔法?西海岸からヒト族の上陸か?」


 馬車の窓から見えたザールリンゲンの爆発に、オイゲン三姉妹が羽角を目一杯立たせて騒いだ。本来なら、彼女等の馬車隊は議会前日の夜にはザールリンゲンに到着している筈だった。

 だが、フェルラント州の参道の1部が土砂崩れを起こし通行止めとなり、彼女等は丸1日到着が遅れた。


「工作班、こちらDS(デー・エス)リッター応答せよ、送れ。工作班、こちらDSリッター応答せよ、送れ」


 窓に食い付き燃える街を見詰める3人を置いて、ブリギッタは無線機のアンテナを伸ばし交信ボタンを押した。


「DS、こちら工作班ダニエル、ブリギッタ中尉どうしてザールリンゲンに?、まさか帝都に何かあったんですか?送れ」


「工作班、こちらDSリッター、馬鹿は休み休み言え!お前達の暴走を危惧したんだ!何だあの爆発は?お前達は何の作戦中なんだ!」


 ようやく繋がった無線に出たのはダニエルだった。彼は興奮した様に口調が明るく、その声の向こうには怒声や騒ぎ声が聞こえた。


「DSリッター、こちら工作班ダニエル、現在我が工作班はアンハルト=デッサウ卿の"ガルツの宵作戦"の支援作戦を展開中です、送れ」


 報告を聞くブリギッタは、オイゲン姉妹から聞かされたクーデター作戦を思いだし、その内容と異なる爆発という事態に戸惑った。


「凄い…本当に箱から声がする…」


「本当に遠くの奴と喋ってる…」


 その報告を聞いて驚く下の妹を押し退けると、ブリュンヒルデがブリギッタを手招きして、無線機を変わるよう頼んだ。


「工作班、こちらDSリッター、要人に通信を変わる、彼女に状況を報告しろ、送れ」


「DSリッター、こちら工作班、要人ってどういう事ですか?説明を求めます!送れ」


 ブリギッタの突然の命令に、ダニエルは驚き説明を求めた。その間に聞こえた声に"南方を倒せ"等といった野次が聞こえると 、ブリュンヒルデは急いで無線機を掴んだ。


「作戦中失礼します。私はブリュンヒルデ・ツー・オイゲンと申します。ダニエルさんでしたか?今のザールリンゲンでは何が起きてるのですか?」


「説明しろ!送れ」


 ブリュンヒルデの脇からブリギッタが声を掛け、交信ボタンを離させた。


「DSリッター…いえブリュンヒルデ殿、こちら工作班ダニエル、現在ザールリンゲン及びフェルラント州はアンハルト=デッサウ軍やライヒェンバッハ=レッソニッツ軍等の帝国派連合軍が封鎖中、爆発は議事堂の混乱と市街に対する偽旗攻撃です、今頃議事堂はゾエ殿率いる偽旗部隊が襲撃しているかと思われます。送れ」


 その説明に三姉妹は驚愕の表情を浮かべた。


「おい!ダニエルとかっての、市民に被害は?父ちゃんは無事なのか?えっと、送れ!」


 カミラは黙った長女から無線機を引ったくり無線機に怒鳴った。


「えっ、今のは…誰だ!送れ!」


「ブリュンヒルデの妹のカミラ・ツー・オイゲンだ!さっさと答えろ、馬鹿!」


 突然の声が変わった事に驚くダニエルを無視して彼女はまくし立てた。しばらく沈黙が続きカミラの怒りが積もる中、ようやく返事が帰って来た。


「市民は数人の負傷者のみ、いずれも軽傷です。擦り傷や打撲程度です。一応自分衛生兵なので全ての現場を観ましたが死者は居ません。市民は紛れている各軍の工作員に先導されて、南方への暴動が始めてます」


 彼は市街の状況報告をすると、再び静かになった。

 呼び掛けても静かである事に、カミラの無線機を持つ手が震え始めた。その姿を見たクラリッサは慌てて無線機を掠め取った。


「カミラさん、こちら工作班ダニエル、議事堂で爆発が有りました。ゾエ殿の手榴弾、撤退の合図です。こちらの作戦は終了しました。これより撤退します。送れ!」


「手榴弾だと!お前達、勝手に軍事機密を貸し出したのか?送れ!」


「DSリッター、こちら工作班、ブリギッタさん通信手変えるの止めてください!ヴァレンティーネ少尉の決定です。使用方法はきちんと教えてますから大丈夫です。送れ」


 無線機から聞こえた工作班による手榴弾の無断供与にブリギッタが驚きの声を上げた。だが、班長であるヴァレンティーネの決定では、交渉班の彼女に非難する権利が無いため黙るしかなかった。


「工作班、こちらDSリッター、私達は議事堂に向かっている。お前も残りの面子を連れて合流しろ!」


「しかし、作戦では…」


「合流しろ!」


「DSリッター、こちら工作班、1915通信手DB了解。終わり」


 中尉という階級を使い、ダニエルへ議事堂での合流命令を出すと通信を切った。


「まさか…アンハルト=デッサウ卿もここまでやるとはな…」


「本当に、この国変わるんだな…」


「それより、早く議事堂へ!この騒ぎを終わらせないと!」


 姉2人が感想を述べる中、クラリッサが御者席のゲッツを急かした。街は工作班の仕掛けた爆弾によって混乱しており、ダニエルの報告通り南方が原因であるという事となっていた。

 その為、南方親派の商店や貴族の家に群衆が向かっているのが見えていた。


「あーっと、客車の皆さん!議事堂が見えて来ましたよ!」


「おい、ゲッツ…あそこ煙出てないか?」


「火でも付けたのか!」


「でも燃えてないですよ?」


 御者席で報告する彼へ、部下達がそれぞれ報告をしてきた。確かに、石造りの議事堂は窓から煙を上げているが、決して火災のような物は起きていなかった。


「とにかく全員警戒!あそこに突入するんだ気を引き締めろ!」


 議事堂正面に馬を止めた一行は、周囲を警戒しながら入り口に向かった。そこには既にダニエルとラーレ、ユッタが集まっており、ブリギッタの姿を見ると姿勢を正し親衛隊敬礼をした。


「カイム万歳。ブリギッタ中尉、工作班別動隊合流しました。ヴァレンティーネ少尉及びゲオルグ軍曹は…」


 報告をしようとする彼等の視線はブリギッタの後ろに立つオイゲン一行に向いていた。その視線は不振と警戒が殆どであり、彼等がオイゲンの関係者と解っていない事を表していた。


「彼等は…」


「ガルツ帝国空軍、ブリュンヒルデ大尉だ。総統命令で、彼女の極秘任務を支援していた。何かあるのかね、伍長?」


 返答に困ったブリギッタの横へブリュンヒルデが歩み寄った。

 その発言は彼女に衝撃と焦りを与えたが、肘を張り陸軍より手のひらを隠す空軍敬礼をするブリュンヒルデに驚き黙った。


「失礼しました大尉殿。内部の入り口付近は確保しましたので、先導します」


 ブリュンヒルデの堂々としたはったりと、様になる敬礼を信じたのか、ダニエル達は彼女にも敬礼すると先に議事堂に入っていった。


「失礼、ブリュンヒルデ大尉…いつの間に上官に?それに、その敬礼は?」


「アマデウス殿の書類を見た。敬礼も仕草もそこで覚えた。時間だけは有ったしな」


「書類だけで?」


「そうだ」


 出発前にあれやこれやと指導されたブリギッタは、書類だけで本職の親衛隊を騙せる度胸や能力に驚いた。

 それは彼女の後ろで立っていた次女や護衛も同様であり、唯一三女だけが平静としていた。


「あの人達の視線…下手な事を言ったら、私達を始末するって視線でした。だからはったりをかけたんです」


「そんな視線してたか?」


「貴方は帝国軍人ですから…」


 三女とブリギッタが話す中、親衛隊の3人に付いて行くブリュンヒルデが振り返って大きく手招きした。


「分隊、前へ!何をやっている諸君。早く行くぞ」


 彼女の急かしに、全員が急いで議事堂に入り警戒しながら議会室に向かった。

 だが、議会室の前には手足が千切れ悲鳴を上げたり、木材の破片を刺したまま止血をされ横たわる貴族、負傷した貴族を介抱したり処置する騎士や医者が無数に屯していた。


「これは…」


「酷い…と言うより、惨いな」


「おっ、お父さん!お父さん、何処!」


 オイゲン三姉妹はその現状を目の当たりにすると、自分の父親を探し始めた。名の知れている筈の彼女達が声を上げて父親を探しても、誰もそれを気に止めない程周辺は切羽詰まっていた。


「ダニエル伍長、2人と共に負傷者の面倒を見てやれ」


「了解」


 ブリギッタの命令にダニエル達が行動し始めると、彼女も議事堂の中に入ろうとした。

 入り口の扉は、蝶番が数ヵ所折れて空きっぱなしとなっていた。


「密閉空間で手榴弾なんて…」


 座学で武器に付いても指導を受けた彼女は、扉の中の状態見て嘆いた。着弾したと思われる箇所は座席や机が砕けた飛び、周りは扉前の通路で介抱されていた者達の物と思われる血で染まっていた。

 吹き飛ばされた木材の破片は、更に周辺の座席や机を破壊し、連鎖的に周辺を破壊していった。爆風がその破壊を更に推し進め、結果的に議会室は滅茶苦茶になっていた。

 それでも、右端に着弾した事で室内中央左寄りから左端は比較的無事であった。


「父上!ご無事でしたか…」


「父ちゃん!良かった生きてたか…あれっ、眼鏡は?」


「お父さん。無事…と言うには傷だらけですね」


 ブリギッタは先に入っていた三姉妹が父親のオイゲンを見付けているが目に入った。姉妹の羽角が寝ていた事から、彼女はオイゲンが無事である事は確信できた。


「一応な。三女の言う通り傷だらけだがな…眼鏡は吹き飛んだよ。それでも、ある程度は見えるからな」


 抱き締めあう家族の再開を壊すのは良くないと彼等から離れ、ブリギッタは話に聞いていた主犯であるアンハルト=デッサウを探した。


「君…帝国の人間だな…」


 そんな彼女は突然肩を叩かれると毛布を掛けられた。

 左肩に感じた感触が、金属の重みであった事から、彼女は慌てて抵抗しようとした。


「なっ何を!」


「待て待て落ち着け!私はアンハルト=デッサウの味方…つまり、君達の味方だ…」


 大声を出そうとしたブリギッタの肩に手を掛け、ライヒェンバッハが耳元で囁いた。


「そんな軍服では目立つだろう…むしろ感謝して欲しいな。義手が取れかけて、上手く動かん。毛布を持つのもやっとなんだぞ」


 彼女の言葉に毛布下の軍服を見たブリギッタは、慌てて毛布を被った。


「ライヒェンバッハ=レッソニッツだ。よろしく」


「すっ、すみません…ありがとうございます」


「気にするな士官殿。という事は…君が例の工作班のヴァレンティーネ少尉かね?」


 ライヒェンバッハの言葉に、ブリギッタは首を振って否定すると、陸軍敬礼をした。


「自分は、ブリギッタ・フォン・ファルターメイヤー中尉です。彼女とは別の任務でここに…」


 自己紹介ついでに彼女からアンハルトの居場所を聞こうとしたブリギッタは、議長席周辺が騒がしくなっている事に気付いた。

 それと同時に、ライヒェンバッハもふらつく右手を庇い、彼女の口を左手で覆うと壊れていない席に座らせた。


「閉会するな!この席を借りたい!」


「しかしですな、アンハルト=デッサウ卿…これでは…」


「ここで決めねば何時決める!また悲劇を起こしたいのか!」


 議長や数人の議会運営の数人と言い合うアンハルトとその仲間数人は血塗れだった。

 勿論その血は自分達の物であり、爆風に呑まれたアンハルトは切れた頭皮から血を流し、痛めた腕を押さえていた。血塗れの集団に迫られた彼等は、渋々といった表情を浮かべながら退いた。


「皆!傷付き苦しみ、状況が理解出来ていないかも知れないが聞いてほしい」


 敢えて議長席に立ち、アンハルトは混乱する議会を見渡して言った。彼の良く通る声は、呻き声や痛みから来る悲鳴の中でも良く聞こえた。

 それ故に、多くの人間が彼へ注目した。


「議会の方と、負傷されている出席者の方々には、突然の主張を許して頂きたい。


私はビンテルのアンハルト=デッサウであります」


 更に話す彼は台に手をつき全員を見下ろす彼は、痛みから目を細めていた。その苦悶の表情と流血が逆に迫力を生んでおり、誰もが何も言わず静かだった。


「私はこの場を借りて、義父である戦士アンハルト、そして母デッサウの遺志を継ぐものとして語りたい。


勿論、2人の子供としてではなく、アンハルト=デッサウの子としてである」


 彼が両親の名を出した時、意識が明確にある貴族は息を飲んだ。彼とその義父であるアンハルトの関係は口に出してはいけない暗黙の了解であったため、自分からその名を出す事に多くの貴族が彼の意思を理解した。


「嘗て己の力でこの帝国を支配したホーエンシュタウフェンの遺志は、ザクセン=ラウエンブルクのような貴族の権利主義や血統主義の欲望に根差したものではない。


そもそも、ホーエンシュタウフェンがガルツ帝国を作ったのでは無い。何時の時代も、私達は大いなる指導者を求めていた。それは、私達に決断をする覚悟が無かったからである。


ならば、現在私達が帝国に対して行う行為は、何もせずただ安穏としている事実はザクセン=ラウエンブルク、いや南方の差別主義者達のやり方より悪質であると気付ける筈だ」


 目にかかる血手でを拭い、その手を勢いよく振り血を払う姿は穏健派の老人達に、身振りだけで嘗てのアンハルトを思い出させた。


「皇帝が嘗ての力による政治に出たのは、私達が己の立場、貴族としての、魔族としての誇りを持たせ、ヒト族の侵略による混乱を避ける為だ。


そして、戦後貴族は、その主君を失った事によって、自分達自身が力を身に付けたと誤解をして、ザクセン=ラウエンブルクのような勢力をのさばらせてしまった。更には、今その勢力に手を貸そうとしている」


 今まで事を起こそうとしなかった自分を嘆き服の胸元を握るその姿や面影に、参列者は今は亡きデッサウの姿を思い出した。


「それは…紛れもない不幸だ。だからこそ彼の意思を踏みにじってはならない。


皇女…いや、次代皇帝は新たに英雄を見出だした事によって、人間は、魔族はその再び団結と統一が出来ると、何故信じられないのか?


我々は…否!全ての魔族が日常と平和を人の手で汚すなと言っている。その平和を南方の差別主義者はその血統に選ばれた人々の集まりだけで、食いつぶそうとしているのだ。


人は…長い、長すぎる間この歪みきった偽りの平和と言う揺り籠の中でただ無意味に生きてきた。


しかし!時はすでに私達を自分の領地から巣立たせ、お互いに手を取り合わせようとしているのだ。だというのに今に至って何故南方が皇女に楯突き、争いを起こそうとしているのだ。


所詮…私達は今まで何も出来なかった意気地無しの集団だ。だからこそ、私達貴族はそので力を皇帝に…そしてあの英雄に返さなければ、この大地は私達魔族の物でさえ無くなるのだ。


嘗ての戦争を覚えているなら、誰もが思うであろうヒト族が許せないと。街を焼き、女子供を拐い弄び、男達を笑って殺す奴等が憎いと。誰もがこの美しい帝国を残したいと考えている。


ならば自分の欲求を果たす為だけに、貴族としての義務を果たさず国に寄生虫のようにへばりついていて、良い訳がない。


それを…愚かにも南方は…このような時に戦闘を仕掛けてくる。しかも、無垢な市民にまでもだ」

語っているアンハルトは、両手を広げ惨状広がる議会室を示した。

「見るが良い!この暴虐な行為を。それだけでなく、彼等は魔法…蛮族たるヒト族の手さえ借りこの国を手に入れようとしている。奴等蛮族にこの国を売り渡そうとしているのだ!


彼らは選民思想から膨れ上がり、逆らうものは全てを悪と称しているが、選ばれぬ魔族をヒト族の奴隷にしようとするそれこそ悪であり、魔族を衰退させると言い切れる」


 机を勢い良く叩き、有らん限りの怒りをその顔に浮かべた彼は、部屋の隅で愕然としながら蹲る無事だったザクセン派の貴族を指差した。


「しかし、ザクセン=ラウエンブルクはこの議会に自分達の味方となる貴族がいるにも関わらず攻撃したのだ!


ならば、自分達の身を案じて曖昧な事を言う貴殿方も、力に屈した貴殿方も解る筈だ…


戦うしかない!私達の平和の為に、自由と誇りの為に!戦うしか無いのです!


確かに私達の西方だけでは戦力が無い。だが、例え戦力が無くても立ち上がる若者がいる。皇帝が、甦った英雄がいる!彼等と共に戦わずして何が貴族か!


己を貴族、貴き者と思うならば皆さん…覚悟成されよ!


我ら魔族が生き延びるには…我ら魔族が誇り高くある為には…


戦うしか無いのです!」


 彼の拳を上げた叫びに、この惨状を演出した内比較的軽傷の貴族が同調の雄叫びを上げた。


「我ら魔族に勝利を!裏切り者に天誅を!帝国に勝利を!」


 止めと言わんばかりのアンハルトの叫びに勢力問わず多くの者が賛同の声を上げた。


「間違ってる…こんなの…ただの…」


「自作自演か?」


 雄叫びを上げる者達の中でブリギッタが呟きライヒェンバッハが遮った。彼女が見ると、ライヒェンバッハもそれを理解している表情だった。

 確かに彼等の行為、そして帝国のグライフ作戦はマッチポンプである。それを受け入れ難かったブリギッタは、この状態を見せられ首を傾げなくなった。


「それだけ…この国は歪に歪んでいたんだ。惨めな偽善と、現実逃避の理想主義がこの事態を生んだ。君のその正義感も、この国の現実を見て本当に正しいと言えるのか?」


 眉間にシワを寄せる不服の表情を浮かべる彼女に、ライヒェンバッハは右腕を余っていた袖ごと掴むと破れた肩口から引き裂いた。

 そのには、有るべき翼と手が無く、切断された痕が有った。


「それを脱する為には…私の様な者を増やさない為には…ただ正しい正義より、善意有る悪行を支持する」


 彼女の言葉に、ブリギッタは何も言えなかった。

 言いたい事は有ったが、ライヒェンバッハの腕が、彼女の発言する意思を砕いた。

 騎士として国と皇女の為に職務を全うしていた筈の自分の行動が、彼女には本当に正しいのかが解らなくなった。

 ブリギッタに正しさへの疑念を与えたグライフ作戦は、紆余曲折有ったとはいえ西方を帝国に合流させるという、結果的には大戦果で幕を閉じた。

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