断節 終わりの日から四日目 宝塚 蛍
※注意 人によっては不快な表現が含まれております。読み飛ばしても本編に影響はありません。
「ハア――ハア――ンッ――ハアッ――」
「待てよっ! お嬢ちゃぁん! 一人でいると危ないぜぇ? 食べられちゃうぞ!!」
私は馬鹿だ。どうしてあんなヤツらを信じた。
怖かった、一人でいることが。
「優しくするからよぉ! 一緒に楽しもうぜぇ!!」
後ろから聞こえる声に強い不快感を抱く。
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人が人を食べるようになってから数日。あまりに異常な光景に怯え逃げ続けた。
そんななかで、ある集団と出逢った。見た目はチンピラのような風貌だったが『疲れてるんだろ? 俺たちのところは安全だし食料もあるぜ?』と優しく声を掛けられついて行ってしまった。
食料を差し出され、あまりの空腹に耐えきれず、菓子パンや水を胃へと流し込んだ。
『眠いだろ? 隣の部屋にソファーがあるから仮眠してきていいぜ?』
言われるがままに扉を出て隣の部屋へ向かった。酷く眠かった。
部屋に入り扉に鍵を掛けソファーに倒れ込み、目を閉じた。
身体に嫌な感触を覚え瞳は開けずに目を覚ます。複数の男の声が聞こえたからだ。
『へっ! 男みたいなナリをしてるがなかなかの美人ちゃんじゃねえか』
『おーい! 終わったらこっちにもまわせよ!』
『わかってるよ! 昨日散々楽しんでるくせによ、配分がおかしいだろ』
気付くと制服に手をかけられ脱がされそうになっていた。
『ぐあっ!!』
反射的に蹴りをいれて起き上がる。そして部屋の小さな小窓を打ち破り外へ逃れる。幸い、建物の一階だったためすぐに衝撃は訪れた。
「ぐうっ!」
『くっそ! 女が逃げた!』
『はああ!? なにしてんだお前!!』
逃げなければ。これだから、これだから男ってやつは嫌いなんだ!!
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外へ飛び出した時に脚を盛大に擦りむいたおかげで力が入らない。
「待てって! 痛くしないからよぉ? 遊ぼうぜぇ、俺と!!」
絶対に嫌だ。アレに捕まるくらいなら死んだほうが、腐った感染者から喰われたほうがマシだ。
「あっ……!!」
しかし無情にも脚を段差に捕られ転倒する。
「へっへ! つっかまえたぁ!」
「いやあああああああああああああンングウンンンンンンンンン!!」
男に馬乗りにされ、叫び出そうとした口を大きな片手で塞がれる。
「暴れんなって! ああ、もういいや。ここでやっちまうか! んん?」
相手から見て私の細い腕は無力だった。どれだけ抵抗してもこいつの腕一本すら外せやしない。
汚らわしい野獣のように、涎を垂らす男は『カチャカチャ』とベルトでも外そうとしているのか片方の腕を――。
『ゴスン』
鈍い音を立てて男が私の横へ倒れ込む。
口を塞いでいた腕は解放され、すぐさま身を起こす。
男が立っていた。
大きなリュックを背負い、手には赤い水滴が付着した工具らしきモノを持ちこちらを凝視する。
「君は……嚙まれたのか?」
この場において彼は武器を持つ絶対の強者だ。弱者の私に声を掛けるのに、彼は震えていた。
彼の問いかけに首を振り否定する。すると安堵したのか、武器を下げ私の視線の高さに合わせるように彼はしゃがみ込んだ。
「そっか! 近くの図書館にいま生き残った人たちで立て籠もっているんだ。その、君もよければ来ないか?」
疲れたような笑顔を浮かべ私に手を差し伸べる男の人。
正直に言えば怖かった。また、さっきのように襲われるなんて二度とごめんだ。
『兄さん! どうかしたの!?』
遠くから聞こえたのは女の人の声。
「生存者だ! 少し待っててくれ! えっと、立てる?」
気づいた時には彼の手を取っていた。ゴツゴツとした肉厚な手に引っ張られ立ち上がる。
「脚、大丈夫か?」
血だらけの脚に気付き心配そうな顔を浮かべるその表情は、とても情けなくて……優しかった。
「大丈夫、です。一人で走れますから」
「うん、それじゃあ行こう。このあたりもまだヤツらがいるかもしれないからね」
そい言いながら私の手を引き彼は歩き出す。
大丈夫って言ったのに。一人で走れるって言ったのに。この人は、どうして私を助けてくれたんだろう?
私を引く手は少し汚れていて、それでも力強かった。
後日。私を襲っていたのはゾンビではなく人間だということを伝えると彼はこう言った。
『嘘……だろ? 俺、初めて、人を、殺しちまった……』