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屍者の誇り  作者: 狭間義人
三章
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 二体のアンドロイドはまばたきをすることなく俺を見る。

 彼らはどんな質問をしてもいいと言った。それなら頭に思い浮かんだ事柄を一つ一つ投げかけてみればいい。

 俺は大きく呼吸を一つして、アンドロイドのほうへと向き直る。


「まずは人類保全機構とシノさんは繋がりがあった、ということでいいんだよな。さっき取引きをしたと言っていたがどんな取引きをしたんだ?」

「イエス。河崎シノ様は第三回P・B・Z優勝時に我々との協力関係を締結させました。取引きの内容につきましては、本選を棄権するかわりに、藤沢大翔様が優勝後、この場に現れた場合のみどんな質問にもお答えするよう仰せつかりました」

「それは……どうして? わざわざシノさんが棄権をする必要なんてないだろう」

「ノウ。我々にも理解できません。ですが、もし河崎シノ様があのまま本選へ出場をしていれば、彼女が優勝をする確率は九割を超えておりました。そして取引き時に我々の元へ訪れた彼女の知人方の話によれば、勝ちの見えた闘いはつまらない、と仰る方がおられました」


 大方、そんな話をするのはシビルさんかトウコさんあたりかと予測をする。

 それにしても困った。端末が手元にない以上、連絡がすぐに取れないことを悔やむ。彼女たちはいったい何がしたかったのか。


「ミスター、質問は終わりですか?」

「いや、まだだ。シノさんと協力関係だということは他の優勝者とも協力をしているのか? 例えば、チームコレクトとか」

「ノウ。チームコレクトとの協力関係はありません。河崎シノ様との協力関係は特別であり、そして藤沢大翔様も特別です」

「俺が特別? どういう意味だ?」

「イエス。我々が開催するP・B・Zで優勝した後、河崎シノ様を除く優勝者は人類保全機構に要求だけを述べその場を去りました。そして彼女だけは、今の貴方のようにガラスを砕き、我々との交流を計りました」

「シノさんが、俺と同じように? 彼女とはその時どんな話をしたんだ?」

「イエス。我々が創りだした世界の仕組みについての様々な質問を受けました。そして河崎シノ様はこの世界で圧倒的な力を有していると判断し、世界で起きている問題の解決を依頼しました」

「問題って、それはどんな問題なんだ?」

「イエス。本来、我々が人類に向けて提供したトリマーウイルスは不完全なものでした。生き残った時間による身体能力の格差、人類以外が感染した場合による異形化は想定外でありました。よって、各地で起きている問題に対処していただくよう助力を彼女に依頼しました」

「想定外って……人類保全機構は世界中にばら撒いたウイルスの効果を把握していなかったってことか?」

「イエス。時間の猶予がありませんでした。我々が当時の先進諸国に人類滅亡の警告を発しても、各国のリーダーは我々の忠告を受け入れませんでした。そこで人類が存続するための強行策として未完成であったトリマーウイルスを世界中に散布する決断を致しました」

「その決断は……誰がしたんだ?」

「ノウ。誰でもなく我々、人類保全機構であります。我々は人類が繁栄、または存続をしていくように先進諸国に造られた組織でありシステムでもあります。よって、貴方がた人類を存続させるためにウイルスを使用したことをどうかご理解いただきたい」


 それはこの世界で最初に説明された話と似ていた。

 俺たちが命を賭けて生き抜いたあの地獄を、理解しての一言で許せるものではない。

 しかしそれも過去のこと。話を前へ進めるためにも、俺がこの世界でずっと抱いていた疑問を問いかける。


「一つ聞いておきたい。優勝して叶えられる願いに、屍者を人間に戻すことは、可能か?」

「イエス。可能です」

「それなら……」

「しかし、賛同できかねます。貴方が転生を受け、転生管理個体から説明があったように人類は絶滅の危機にありました。解決策もないまま、人間へ戻ることがあれば再び絶滅の危機に人類は晒されます。どうか屍者を人間に戻す要望だけはお考え直しください」

「でも、それじゃあ俺たちはどうなるんだ? 歳もとらない、死にもしないままこの世界で生きていけってことなのか」

「ノウ。それは誤った認識です。貴方がた屍者にも生命の終わりはあります」

「なにっ、でも人類保全機構は俺たちを黄泉がえりさせることができるじゃないか」

「イエス。確かに我々は人類のDNAデータから肉体を生成することは可能です。しかし、限度は御座います。人間の脳内にあるニューロン、神経細胞などは完全に複製させることが困難であり、また脳幹部の複製を繰り返し行うことにより劣化していく現象も確認済みです」

「え……それ、だと、あと何年くらい屍者の身体は生きていられるんだ?」

「イエス。我々の計測によれば、個体差はありますが年数に換算しますと、百年から百二十年ほど地球上において生命活動が可能だと試算しております」


 その言葉を聞いて胸をなでおろす。

 今日明日の話ではなく、これから百年。平和な時代から考えれば人一人の寿命を上回る時間が残されていることになる。

 だけど、その後は。


「でもその後は、俺たち屍者の身体はウイルスに感染した当時に戻されるんだろう。だとしたら子供は……そうだ、子供たちはどうしているんだ? この世界は子供たちの転生はされていないみたいだが」

「イエス。我々は現在十八億体以上の未成熟人をDNAデータで確保し、安全に管理をしております」

「どうしてっ、子供を失った人たちは悲しむだろっ」

「ノウ。必要だからです。我々の第二次計画では現在地球上に存在する屍者たちが絶滅後、未成熟人を転生させ人類保全機構で教育を施し、新たな人類の基盤となるための生体活動を行っていただく予定となっております」

「なんだよソレっ、俺たちは、今生きている俺たちは見捨てるってことかっ」

「ノウ。あくまでも我々が立案した第二次計画は、人類が存続するための保険だとお考えください」

「ミスター、落ち着いてください。形式番号〇七番から〇二番へ。藤沢大翔様は混乱をされているご様子。順を追っての説明を推奨します」

「了承。〇七番、説明責任を譲渡します」


 ここで、今まで俺と話をしていた女型のアンドロイドが一歩退き、かわりに男型のアンドロイドが前へ出る。その男型は俺がこの世界で目を覚まして最初に会話をした個体と同じ型式であり、思わず懐かしく思えた。


「ミスター、これから我々が実行している第一次計画について説明をさせていただいてもよろしいでしょうか?」

「……ああ、頼む」

「イエス。我々が現在遂行をしている計画は、今後の人類を屍者となった皆さまに決定権を委ねることにあります。我々がトリマーウイルスを散布する前の世界は不安定でした。そして我々があらゆる角度から人間社会を観測しましたところ、同種族間の争いは絶えず、食料および生活圏の奪い合いが起こり、現状が続くのであれば人類が存続することは不可能と判断しウイルスを散布する手筈を整えました」

「それはもういい、屍者に決定権を委ねるとはどういうことなんだ?」

「イエス。今回、藤沢大翔様も参加されたP・B・Z。我々は優勝者の要望を叶えることにより観察を行ってまいりました。今後、人類の皆さまがたが団結し、屍者の身体から人間の身体に戻りたいとの要望があれば我々も応える準備はできております」

「人類が団結って……そんなの無理だろっ、世界中を監視している人類保全機構ならわかっているはずだ。人と人が争いなく生きていく世界なんてっ」

「イエス。承知しております。ですが、我々の試算では人類が共に生きようとしない限り存続は不可能なのです。そして、貴方がここで屍者を人間の身体に戻すことは自殺行為であると再度提言いたします」

「うるさいっ、それじゃあなにも変わらないじゃないか。お前たち人類保全機構は俺たちを滅ぼしたことに変わりはないだろっ」


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「ッーー!」

「ミスター、どうか聞いていただきたい。我々は人類の為に造られた組織であり、人類を存続させることが最優先だとプログラムされています。そこであらゆる分野の情報を踏まえ、最善と判断した事柄を実行しているシステムなのです。しかし我々には事前に組み込まれた判断しかできません。だから我々に新たな情報を提供していただきたい。どうすれば人類が存続することができたのかを」


 そんなの、分かる訳がない。

 俺は普通に過ごしてきた一般人だ。お役所勤めをしていた訳でも、世界を救済するために働いた訳でもない。

 どうすればいいかなんて、わからない。人類がどうやったら争いもなく存続できたかなんて、そんなの俺が判断できるわけがない。


 アンドロイドの言葉に途方に暮れながら、俺はただ沈黙をすることしかできない。

 どうして、俺は、こんなにも臆病者なんだ。もっと沢山の知識があれば彼らアンドロイドの問いにも答えられたのだろうか。


「ミスター、貴方は判断を困惑していると見受けられます。そこで我々から一つの提案が御座います」


 そうしてアンドロイドは語り始めた。

 これからの人類の未来を。


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