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屍者の誇り  作者: 狭間義人
三章
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暴かれた世界

「よ、よかったよな。やっぱ兄妹で殺し合うなんてよくないもんなっ」


「いやあ、妹ちゃんのほうは確実に殺しにきてたでしょ。社会的に」


「まあ……その、なんだ。家庭内のトラブルとはよくあるものだ」


 俺は、恐らく死んだ目をしている。

 チームメイトは優勝した俺に駆け寄ることはなく、絶妙に距離を置いて励ましの言葉を投げかけてくれている。


「……ダイト、一先ずこれを」


 リングの上でパンツ一枚で立ち尽くしていた俺に、自分が着ていた黒いコートのような服をホタルがら手渡される。

 受け取ったコートを羽織る。あ、これ、通気性がよくて涼しいな。


「……ありがとう、今度、洗って、返すから」


 申し訳なさと情けなさに心を痛めつつ、リングの下で白い甲冑を着た連中が対戦相手だったナオを担ぎつつ「隊長、もう帰りますよ」と声を掛けながら退場していく様をぼんやりと眺める。

 ねえ、ナオ。お兄ちゃんのズボン返して? しかし、俺の願いは届くことはなく、ズボンを大事そうに抱えたまま騒ぎ立てる妹とチームコレクトの面々は会場を後にした。


 どうしてこうなった。

 リングの上に取り残された俺は、パンツに付着した唾液に不快感を感じつつ途方に暮れるばかりであった。


「どうも、どうも藤沢選手。優勝おめでとうっ。ウヒヒ、変な勝ち方だったけどさあインタビューとかしちゃってもいい感じ? って宝塚選手もいるじゃあん。どう、この後にぼくちゃんとイイことしなあい?」


 そこへ、ピエロ風の被り物をした司会の男がリング上にいた俺たちに歩み寄る。

 その男の後ろには、俺がこの世界に転生して初めて出会った男性型のアンドロイドも追従していた。


「そうそう、藤沢選手にはこの後、人類保全機構のお偉いさんと会って願いを叶えてもらうから。インタビューの後はこちらのアンドロイドくんに案内してもらってね。グヒヒ」


 ナオとの闘いのあと、停止していた思考が働き始める。

 そして確認のために、相棒のほうへと向き直る。


「なあ、マサノブ。俺はもっと感情を表に出した方がいいと、言ってくれたよな?」


「え、ああ。言ったけど、それがどうした」


「ちょっと、藤沢選手。お仲間さんとの会話もいいけどさ、ちゃっちゃとインタビューに答えてくれない? ぼくちゃんはこの後忙しいんぐっふぉおおおおおお」


 俺は、初めて自分の意思で暴力を振るった。

 顔面を殴り飛ばした男は二転、三転してリングの上から転げ落ちる。

 屍者を玩具のように扱ったオープニングセレモニーを提案し、事あるごとにホタルやナオに向かってセクハラ発言をしていたやつを許せなかった。

 それに確認しておきたいことがある。決勝戦の間に思いついた予想が正しいのかどうかを。


「人類保全機構。今の俺の行動に何か問題はあるか?」と、佇んで居たアンドロイドへと向かって質問を投げかける。


「ノウ。我々はミスターの行動に問題点はないと判断します。しかし、場外へと吹き飛ばされた者がターゲットシステムを利用し、貴方を通報処理すれば問題有りとして対処する可能性は御座います」


 なるほどな、やっと得心がいった。

 人類を滅亡させ屍者に転生させて世界の運営と支配をしていた謎の組織。だがここまで同じく仕事をしてきていた男が殴り飛ばされて問題点はないと発言する。

 SF映画でよくある設定じゃないか。まさか自分がそんな世界に身を置くことになろうとは思ってもみなかったが。


「それではミスター、こちらへ」


 そう促されアンドロイドは歩きはじめる。

 俺はその後追いつつ、リングの上で見送る仲間たちと視線を合わせていく。


「ダイトっ、俺はお前の味方だからなっ」


 相棒の心強い言葉に頷き歩を進める。

 この世界で、何においても味方してくれる人が一人いるとわかっただけでも、俺は立ち向かうことができるのだ。ありがとうマサノブ。俺はマサノブやホタルや皆と知り合えて本当によかった。


 ひたひたと廊下を裸足で歩きアンドロイドの後を追う。

 どこへ案内されるのかと不安に感じることは無い。俺の身体は怒りでかなり温まっている。


 これから会う支配者の正体は割れている。

 人が人を喰らう世界を創りだした組織へ言ってやりたい文句を、頭の中で思い浮かべ整理する。しかしそんな行為は無意味だと理解しながらも、言ってやらねば気が済まない衝動は押さえられない。


「こちらです。ここに立ちミスターの要望を伝えてください」


 通された場所は広々とした暗い部屋だった。そして指定された場所に立つと明かりが灯される。

 正面に曇りガラスで仕切られた部屋があり、大人二人ぶんの影が見える。まるで刑務所の面会室のようだ。


『登録番号確認、本人と承認。藤沢大翔様、優勝おめでとうございます。副賞として大会参加者の参加料を全額、藤沢大翔様の端末に振り込ませていただきました。それでは人類保全機構への要望案をお聞かせください』


 端末は決勝戦の前にマサノブに預けてきているので確認はできないが、今はどうでもいい。

 恐らく部屋の隅に設置されている監視カメラで俺の生体データでも読み取り、仕切られた部屋の向こう側から確認をしているのだろう。曇りガラスの向こうにいる人型は微動だにせず俺の回答を待っている。


 いいご身分だ。

 人類を滅ぼしておいて、願いを聞いてやるだなんてどの口が言うんだ。


 駆ける。

 部屋を仕切っていたガラスを叩き割り、人類保全機構を名乗る二体の人型を視認する。ガラス片が散らばった部屋には幾つものモニターが設置され、人型の後ろのほうには段ボールが幾つも積み重なっている。


「……人類保全機構、お前たちは、アンドロイドだったんだな」


 借りた服についたガラス片を払い、二体の人型を睨む。

 キラリと光る首輪のような機械物を身に着けた男型と女型。俺が部屋に突入したにもかかわらず、表情一つ変えずにこちらの動向を窺っている。

 思い返せば単純な答えだった。

 自動販売機には菓子類などの嗜好品は販売されていない。そして宿泊施設で出された簡素な食事。

 機械は人間の心を理解しない。ただそれだけのことだった。


「イエス。我々は最上位指令個体、形式番号〇二番と〇七番で御座います。今大会の運営は我々二個体が中心となり開催させて頂きました」


 あっさりと、正体を隠そうともせず流暢な喋りで勝手な解説をする青い長髪の女型アンドロイド。

 俺の記憶では人類保全機構がアンドロイドだと知る者はいなかった。あくまでも転生施設で稼働していたアンドロイドたちは人類保全機構の用意した機体で、他に彼らを操っている人物がいるものだとこれまでは思っていた。


「つまり、人類保全機構は全てアンドロイドで構成された組織だってことでいいんだよな。そしてここに居る二体が組織の親玉、もしくは幹部といったところか」


「ノウ。我々は人間社会における上下関係は備えておりません。指令を出す個体、貴方をここまで案内した個体。それぞれが与えられた役割を全うするだけです。そして人類保全機構はアンドロイドとボットにより構成された組織です」


 似たようなものだろ、などと悪態をつくのは止めておこう。それよりもこれからどうするべきか。

 世界を管理する支配者を知ったところで苛立ちは抑えることができない。だから思ったことを全てぶつけていこう。


「要望を話す前にいくつか訊きたいことがある。質問も要望のうちだとか言わないよな?」


「イエス。貴方からの質問には我々が持つ全ての情報を開示するよう、ある人物から仰せつかっております」


「なにっ……それじゃあ、人類保全機構がアンドロイドだと知っている人が他にもいるのかっ。それは、誰なんだ? いったい誰がお前たちに指示を出しているんだ」


「ノウ。指示ではなく取引きです」


「もったいぶるなっ、誰なんだ、人類保全機構にそんな話ができるヤツはっ」


「第三回P・B・Z優勝者、河崎シノ様で御座います」


 どういう、ことだ。

 知っていた? シノさんは人類保全機構がアンドロイドだと知って平然としていたのか。


「それではミスター、質問をどうぞ」


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