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屍者の誇り  作者: 狭間義人
二章
32/81

プライド

  さんさんと降り注ぐ太陽光。今日も元気によろしくと肌を焦がす光から逃れ、訪れたのはいつもの喫茶店。


「よぉ、ダイト! 今日もあちぃな!」と、店内のカウンター席に座り声を掛けてきたいつもの相棒。


「ああ、マサノブ。……その髪型どうしたんだ?」


 目に付いたのは彼の髪型。昨日までは往年のレゲエシンガーのように垂れ流されていた髪を後ろに束ね、側頭部を刈上げた髪型。もっさりとしていた頭部が引き締まっている印象が窺える。


「いやぁ、改めて新チームを立ち上げるってんならさ、俺も気合い入れようかと思ってね。どうよ、イケてるだろ?」


「そう、かもな」


 彼の隣に座りつつ、改めて隣で揺れるドレッドヘアーを見るも『イケてる』とは到底思えないでいる俺がいる。そもそも今でこそ隣に座り、談笑をする仲になった相棒ことマサノブなのだが、平和な時代では近寄らなかったであろう人種だ。不良だとかチンピラといった名称がお似合いである彼の好みは、正直に言うと自身とはかけ離れている嗜好のために思わず言葉が濁る。


「ねぇねぇダイトくん、マサヤンとチーム組むってホント?」と、喫茶店の主から心配するような声色で問いがかかる。


「うん、そうだけど。どうかしたの? マキちゃん」


「んん、チームを組んで闘技大会に出るってことはさ、黒酔の人たちと対立するんじゃないかなって思って」


 勿論、対立をしようなどとは思っていないのだが、隣の相棒はその言葉に反応してか牙をむく。


「そりゃあ俺たちだって参加するからには優勝を狙うからよ、対立するのも上等だぜ! それにいつまでもデカい顔されたくねぇしな!」


「マサノブ、闘技大会に出るのはいいけど喧嘩をするわけじゃないからな」と、念の為に釘をさす。


 昨日の闘いを目にしておいて戦意を失わない相棒には驚きだが、どこかしら昨日の暴漢と似たような口ぶりに思わず苛立ちがつのる。


「わぁってるよ! それに俺たちは今から大事なことを決めなきゃならないしな」


「なんだよ大事なことって。あ、マキちゃん。トマトジュースお願いします」


「はいはぁい!」と、こちらの注文を待ってましたと言わんばかりに準備を始め、いつもの調子に戻るマッキー。


「ちゃんと聞けよ! まったく、ダイトは本当に女に甘いよな」


「別に普通だろ。それで、大事なことってのは?」


「チームの名前だよ! 必要だろぅ?」


 心底どうでもいいと思ってしまう。これがまだ恥知らずの十代であれば、浮足立つように様々な案を口にしたのかもしれない。しかし、いつ頃からかこういった決め事をどこか冷めた目で見るようになってしまっている。

 それでも昨日の夕陽と彼の熱に当てられてだろうか、少しだけ前向きにチームの名前を検討をしてみようと思えるのは成長なのか、それとも退化だろうか。


 それからジュースを口にしつつチームの名前をああでもない、こうでもないと提案しては却下しあい幾分かの時が過ぎる。


「だあぁ、決まんねぇ! なんで俺のセンスがわっかんねぇかな!」


「だってマサヤンのネーミングセンスが壊滅的じゃん。『ゾンビ・イケイケボーイズ』とか『超マブ友会』とかダサすぎ!」


 いつの間にかチーム名決定会議に参加していたマッキーが、俺の考えを代弁してくれたことは実にありがたい。


「そんじゃあダイト決めてくれ! 任せる!」と、諦めるようにコーラをガブ飲みし始めた相棒。


「はぁ!? いきなり投げ捨てるなよ……」


 などと愚痴を溢すも、今まで大した代案を出せずにマサノブの提案を却下し続けていたこちらも悪いので改めて思案を巡らせるも、なかなかいい案は浮かんでこない。

 普段からこういった決め事を他人任せにしてきた俺にとっては、これはなかなかに難題だ。すると、カウンター越しに立つ天使から助け船が入る。


「ダイトくん、そういえば転生してから一週間ぐらい経つよね? もう慣れたかな、この世界に」


「どう、だろう。昔に比べて色んなことが違い過ぎて、慣れるにはまだちょっと……時間がかかるかな」


「昔から頑固な所あるもんな、ダイトは。もうちょっと柔軟な思考でいこうぜ?」


 その柔軟な思考から生み出される、とんちんかんなチーム名を名乗るくらいなら頑固であるほうがまだいいと思うのだが。


「頑固ねぇ、別によくない? ちゃんと『自分』を持ってるってことじゃん?」と、女店主が溢す。


 その言葉に黒酔の人たちとの会話を思い返す。

 小柄な眼鏡少女に問われて答えた、この世界で己が欲しているであろう『自分』。そして『自分』を見失っているのではないかと感じた海岸線の帰り道。


 頭の中でぐるぐると『自分』という言葉が回りだし、先日聞いたとある言葉が思わず口から洩れた。

 

「誇り……」


「ん? なんだよホコリって?」と、こちらを訝しむような視線に慌てながら訂正を付け加える。


「えっと、黒酔の人と話をした時にこの世界に何を求めるか聞かれてさ、その時は自分って答えたんだけど。その質問をした人が色々と変わった解釈をしてくれていた時に『誇り』って言葉が、なんか俺の中で引っかかってさ……」


「ああ、あれだろ? あのちっこいお嬢ちゃんからの質問。意味わかんねぇよな、あの質問」


「マサノブは、なんて答えたんだ? その質問に」


「セクスィなお姉さんとエッチなことがしたい! と言ったら殺されかけたわ……」


 男として全面的に同意してやりたいのは山々だが、女性陣の前でそんな言葉を吐ける相棒の度胸は羨ましくもあり、馬鹿だとも思う今日この頃。そんなマサノブには気にも止めず、顎に指を当て思案をしていたであろう天使から提案が投げかけられる。


「誇り……んんん、『プライド』とか? どうかな、新しいチームの名前! かっこよくない?」


 一瞬、なにかの曲名かなと思ってしまうも、隣の相棒も納得したのかそれに景気よく応える。


「おお! いいね、チームプライド! イケてるじゃん、これにしようぜ!」


 いいのかよ、と内心ツッコミをいれるも「うん、いいんじゃないかな」と適当に意気揚々とする二人に合わせる。

 本心を言えばチームの名前はどうでもいい。大事なのは一緒に目的を持って行動する仲間がいるということだ。


「そんじゃこれからは俺たちのチームは『プライド』な! よっし、そしたら早速動こうぜ!」


「動くって、何をするんだ?」


「次のP・B・Zは予選がチーム制だからな、仲間集めさ!」


****


 二人で喫茶店を後にして、数キロほど歩きながら雑談を交える。


「なぁマサノブ、これから会いに行く人ってどんな人なんだ?」


「ああ、俺が前の闘技大会で一緒にチームを組んだヤツなんだ。少し変わってるけど、ダイトなら仲良くなれると思うぜ」


 その言葉に一抹の不安を抱く。

 以前にマサノブとチームを組んでいたあの兄弟が脳裏にちらつくのと同時に、彼ほどのコミュニケーション能力を俺は持ち合わせてはいない。


 程なくして辿り着いたのは二階建てのアパート。

 都心からは少し離れたその場所は、ただでさえ人の気配がない街からさらに静まり返った所に位置している。


 アパートの部屋のうち一つの前で、相棒が乱暴にチャイムを鳴らす。


「おおい! タクロウ! 俺だ、マサノブだ!」『ピンポンピンポンピンポーン!』


 そんな何回も押さなくても、と制止する前に扉の向こうから声が聞こえた。


『げえぇ!? マサヤン、本当に来たの!?』


 



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