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屍者の誇り  作者: 狭間義人
一章
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決意

「P・B・Zに参加しようと思うんだ」


「お、おお! マジか、マジなんか!?」


 昼時にマサノブを食事に誘い、既に常連になりつつあるラーメン屋で食事を済ませた後、以前フリーマーケットが行われていた公園へ足を運びベンチに二人で腰かけて友人へ相談を持ち掛けた。闘技大会の存在は知ってはいてもどのような場所や段取りで行われるか、それは経験者から聞いてみるのが手っ取り早いだろう。


「それで、その大会ってどこで開催されるんだ?」


「それは決まってないんだよなぁ、俺が参加した第四回大会は元ロシアの会場だったし、第三回は元アメリカだったりで毎回変わるんだ。いやぁそれにしてもダイトの方から出場したいって言いだすとはな、元々誘うつもりだったけど手間が省けたぜ!」


「そうだったのか、でもどうして俺を誘おうとしたんだ?」


「そりゃあダイトはホタルやナオちゃんと同じくらい生き残ってたんだろ? それなら黒酔のメンバーとも対等に闘えるくらいの力は持ってるだろうからな」


 脳裏によぎるのは昨日の出来事。

 世界最強などと言われながらも話してみれば普通の女の子たちだ。料理が上手だったり、読書を嗜んだり、バイクに乗ったり、お酒をのんだり。そんな彼女たちと闘うかもしれないと思うだけで気が引ける。


「正直闘いたくはないけどな、知り合いなら尚更」


「あれ? ダイトは黒酔の連中と顔合わせたしたん?」


「ああ、酒の席に連れていかれてな。怖い人たちかと思ってたけど皆いい人たちだったよ」


 と、俺の発言が信じられないと言わんばかりに友人の顔が面白い形状に歪む。


「うっそだろ!? 俺なんて挨拶がわりに軽くジョーク言っただけで殺されかけたぜ!? 扱いに差があり過ぎだろ……」


 それは想像に難くない。

 なにせかつての仲間であったホタルとも言い争うことが多く、黒酔の面々は派手な女子とは違い男らしい、もしくは硬派な印象を俺は抱いていた。そして軽い調子のマサノブとは性格的に合わないのではないかとも思っていた。

 それでも殺されかけたというのは少々不憫にも感じるが、恐らく軽口が炸裂してしまったのだろう。自業自得というやつだ。


「どうせ変なこと言ったんだろ、それよりマサノブはどうしてP・B・Zに参加したんだ? 何か目的があったのか?」


「え? それはまぁあの時一緒にいたダイトとかを探す為ってのもあったけど……」


 その言葉に心臓が締め付けられる。俺はどれだけかつての仲間や家族に心配をかけていたんだ。


「やっぱり女の子にモテるには強さをアピールしなきゃなって思ってさ!」


 今からこのドレッドヘアーを黒酔の人たちの前に突き出してもう一度ヤキを入れてもらってもいいかもしれない。少なくとも俺は止めない。

 そんな俺からの軽蔑の視線に気づいてか慌てた様子で話題を切り替える女好き。


「ええっと、あれだ! 大会に出場するなら金がいるな!」


「参加料は、百万だっけ? 一応あと少しでそれぐらいは貯まりそうだけど」


「そりゃすげぇな、どうやって稼いだんだ? こんな短期間で」


 それは当然の疑問だろう。情けないながら俺がこの新しい世界で大金を手にしたのは、女の子たちから融通を利かせてもらったからに他ならない。


「稼いだと言うよりも仕事手伝ってカンパしてもらったり、あとホタルから大金を貰ったりしてさ。なんかホタルにはこの世界で迷惑かけっぱなしな気がするよ」


 そう自嘲気味に呟くも、隣の人物は真剣な面持ちに切り替わる。

 何か気になることでも言っただろうか。


「どうかしたか、マサノブ」


「いや……そっか、ホタルならそうするだろうな」と、呟き頭を掻く仕草をみせる。


 その言葉はよくわからないが「どうして?」と返すもまともな返しはない。


「なんでもねぇよ、それより金の心配がないなら早速準備しようぜ!」


 何かから吹っ切れるように立ち上がるマサノブにつられ、こちらもベンチから腰を上げる。闘技大会での準備とならば武器でも買いに行こうとでもするのであろうか。


****


 連れて来られた場所は大型の美容院らしき場所。辺りの建物は軒並み倒壊しているか薄汚れている中、この建物だけが綺麗に整備されているように見える。

 建物の中に入ると、大型の酸素カプセルのような機械物が複数並んでおり、美容院というよりは病院のような様相をしている。


「この建物は身体のメンテっつうか、『改造』ができる場所なんだ」


「改造!? 俺たちの身体を?」


 思わず改造という単語に言葉が跳ねる。もしかして片腕にサイコガンでも仕込めるようになるのであろうか、男子の心は改造という言葉に実に弱い。


「ああ、P・B・Zの第一回目の優勝者が元モデルの女でさ、『整形できるようにして』と人類保全機構に頼んだらこんな設備ができたんだ。そこのカプセルの画面に端末をかざしてみ。説明するより実際やったほうが分かりやすいだろ」


 そう促され、カプセルの前にある大きな画面の上に端末をかざすと、画面の中央に自身の全身が映し出された。それはいつ撮影されたものかはわからないが、その被写体の周りに『整形』『髪型』などの複数のアイコンが浮かび上がる。

 まるで昔遊んだことがあるゲーム画面。自身の分身をゲーム内で作る機能に酷似していた。


「これは? 何ができるんだ」


「俺たちの身体は成長もしないし老化もしないだろう? その優勝者は自分の鼻の高さが気に入らなかったらしくてさ、この設備を使えば自分の思い通りに身体の形状とか髪型を変えたりできるんだよ」


 それはまさに夢の設備ではないだろうか。自身の身体にコンプレックスを感じる人にはうってつけの願い事。


「ああ、そういうことか。確かに女の人は欲しがりそうだよな、こういうの」


「そう思うだろ? 最初この設備ができた時にはさ、日本では男連中の行列ができてたんだ。髪の薄いおっちゃんたちで溢れかえってたんだよ」


 悲しすぎる、日本男児頭皮事情。


「それで、俺はここで何をすればいいんだ?」


「アイコンの中に『埋め込み』ってあるだろ? それで『翻訳機能』ってやつを選んでカプセルに入って作業が終われば外国の言葉が頭の中で日本語に翻訳するマイクロチップが埋め込まれるんだ」


「ああ、昔もあったなそんなの」


 俺たちが人類保全機構から渡された端末は古いタイプの物だった。あの感染が始まる前に主流だった端末は時計型だったり耳にかけて目の前にホログラムで映像が浮かび上がるタイプだったり。しかし海外の方では身体自体に端末を埋め込み、網膜に映像や情報が浮かび音声で操作するというタイプが流行り始めていた。

 しかし、今思えば生活必需品であった端末が感染の広まった世界ではなんの役にも立たなかった。人によっては避難するべき家や車に逃げ込めなかった人もいるのではないだろうか。


「でも、どうしてそれを俺に埋め込むんだ?」


「ダイト、お前外国の言葉わかるのか?」


 合点がいった。

 P・B・Zは世界のどこで行われるかわからない。国が無くなったとはいえ言葉までは失われることは無い。

 大会の現地に行き言葉が分からず右往左往するのは目に見えている。


 納得のいった俺は画面を操作し提示された金額を支払い、カプセルの中に入り蓋を閉める。マサノブの話では作業は五分で終わるとのこと。流石に外国語の読み書きまではできないようだが、たった数千バイトと少しの時間で未知なる言葉を理解できるのであれば便利なものだ。


 作業が行われている合間に思考に耽る。


 これまで行われた闘技大会の優勝で得られた願い事。

 第一回目は整形ができるように。

 第二回目は酒がのめるように。

 第三回目はターゲットシステムの導入。

 第四回目はチームで国を持つ。


 一口に願い事といっても実に様々だ。

 

****


「おおう、いっつあぞんびじょぅうく!」


「マサノブ、それって和製英語ってやつじゃないのか? 全然訳されてないんだが」


 新しく手にした新機能で遊びながら歩いていると、大きな十字路の先からなにやら人ごみのようなざわつきが聞こえる。このあたり一帯は俺とマサノブ、あとは黒酔とマキちゃんしか住んでいないはずだが。


 何事かと思い、マサノブと顔を合わせ急いで角を曲がるとそこにはこの世界に来て初めて見る光景が広がっていた。


『ヒャッハー!! 黒酔の女どもぉ、覚悟しやがれい!!』

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