第六章
少しずつだが、賑わいを見せていた朝。それが、一瞬で凍りつく様だった。
まさに、時間その物がひび割れ、砕けたかのように。
それからいくら経っても、時間は止まっていた。いや、動こうとする素振りすらない。
私はその空間の中で必至に、なんでもいいから、声を出そうと試みた。
しかし、その空間の中では何もかもが止まり、振り返ってみれば、思考そのものが止まっており、その彼が、最後に一言、言った瞬間から、動き始めた「空間」によって、試み出していた、
そう、考えることも出来る。
ただ動かなかった。
私があった。
彼からの電話は切れていた。
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それでもって、今の私がこう、雨に濡れて長椅子に座っている。
きっと、今まで見てきた今日の街は、私の目が濡れていて、涙でフィルターがかかっていたから、あの様な、街が豪雨で溺れるように見えていたのかもしれない。
そして、現実でもそうだ。
今も、私はその、有り得のない虚脱感か、全身から溢れる悲哀感か。
大粒の雫を、頬から襟元、濡れてあったコンクリートの床まで。
こぼし続けた。
気がついたら、紅い光芒すら見せない、厚い雲の層で、黙している夕暮れが、辺りを覆う。
窓から漆黒が間近に見える、その風景は、何故か私には、今まで確かにあった「癒えぬ過去」に見えた。
そうして、息を吐いたあと、思い切ったように、重い腰を上げた。
その場で伸びを一回、小さく、私が見ても気付かない位の、をした後、ポッケに両手を突っ込んで歩き出す。
その時に、1本。座っていた所の少し横にある黒色の傘なんて、気にすら留めず、鏡のように私の姿を反射する紺碧のガラスと鉄のドアを押し開けて、家路に向かった。
外は、霧状の雨に潤っており、そこらじゅうにある、水溜まりに気をつけながら、家のそばに来た。
すると、1階部分にある、リビングの大きめの窓から、電器製の真っ白い光がこぼれ透けていた。
玄関前まで着き、ドアノブに手をかけると、カチャン、と、ドアが勝手に空いた。
そのまま家に一歩入る。
その軽い挙動とは、対照的に今度は、ゆっくりと静かに、ドアを閉め、カツン、と、音だけ軽く、閉まりきった。
すると、靴が3足あった、その中に、1足、ハイヒールが混じっていた。
今日も両親の「おかえり。」は聞こえない。