第五章
「どうしてかけたかって? うーん……」
彼は少し間を開けたが返答は早かった。
「どうしてって、理由いるか?」
へっ、と、私は間抜けな声が漏れた。いつの間にか私は、彼が電話をしてきた事に意味を見出そうとしていたのだが、深く考えればわかる。理由なんてなくても行動はできる。そう、思った。
それから、彼とは他愛もない話で盛り上がってしまった。その中で、一つ。自分の中で引っかかる質問があった。
「今さ、高校生なんだろ?楽しいっしょ?」
この言葉に、なにか、重みを感じる。そして、彼はそれを若干、客観的に言っている点。それから想像できるのは、多分彼は高校生という立場にはいない。更には、事情があることは察しがつく。
そんなことを思っていると、彼は うん? と、返答を待っている。私は本心から出た訳でない返答で うん と答えた。
彼は、察していた。私は声までは偽れなかった。いや、偽るようなことをしていなかった。それでも、彼は、そうか。とだけ言ってそれ以上の高校への詮索はしなかった。
でも私は、気になる。彼が、高校生とは違うように話す。ということに。
それでも、彼は話しがうまかった。彼のいる地元近辺の話や、そこで出会った様々な人たちの話。
そして、過去の話になり、転校してしまった理由を聴けた。
私は、「どうして転校したんだっけ。」と聴いた。
彼は、すぐ答える思ったしかし、間が空く。
それから答えた。「まあ、引越ししたとでも思ってくれ。」
私も感づく。きっと事情があったのだろう。
そんなこんなで、電話越しに彼と1時間半は話し込んでいることに気づく。
私は、彼と話せたことにこの上ないくらい満足し、こちらから切り出すように、「じゃぁ、そろそろ……」と言った。
彼は、いきなり無言になった。
それまで勢いよく話していた彼は、20秒は黙っていた。
それに、私も不安になる。
彼は、切り出した。
「……俺さ、なんで電話したって言ったっけ。」
私は、「うん。理由はないって。理由なんて要らないだろって。」
電話から吐息と、息を呑む音が聞こえる。
そして静かに語った。
「俺さ……死のうと思うんだ。」