第四章
その日から、彼は放課後の公園に来なくなった。
今までこの事は予想を何度もしたことだが、どうしても心の傷は避けられず、むしろ、知っていたからこその、傷つき方だったのかもしれない。
そうやって、毎日怯えて、固執していたからこそ、いきなりそれが消えてしまったことに、もはや動揺と焦りしかなかった。
そうして、私は眠れない夜を無理に眠ろうと目を閉じて、いつの間にか、朝になっていることがよくあった。
しかし、私はまだまだ小学三年生の私には寂しいくらいにしか思わず、危機感は持たないまま日々を過ごしていた。
振り返ってみれば彼のおかげで生きていた部分も少なくないことに気づいた。
でも、彼は二度と私の前に姿を現すことはなかった。
そうした、過去の妄想から醒めた私はいつのまにか真っ暗なリビングのソファーの上で、制服姿で横たわっていた。
まるで泥から這い上がるように起き上がった私は、酷く疲れきっていた。
朝を迎える気はもう無かった。
朝日が昇るのは6時過ぎ、閑静な住宅地に朝を知らせる。
今日はせっかくの休日なのに、私はそれとほぼ同時に目が覚める。
でも、何もしたくない。
仕方なくジーパンとTシャツに身を包み朝食をとった。
味はないと思った。それは砂を噛むより薄く、でも香りは正真正銘のパンだ。
コーヒーをすすって一息つくとタイミングを計ったように携帯から着信が鳴る。
手に取って画面を見ると知らない数字の羅列が並んでいる。
私は、一応電話に出てみた。
「もしもし、」私は声量を抑え、不安が入った声で出る。
「もしもし。」相手の声がした。淡々と、かつ緊張に若干喉がやられている。
私は、「どちら様ですか。」と、言いつつもその声にどこか突っかかりを見つけてしまった。
「俺の事、覚えてるか?」声はそう、懐かしい声で言った。
「えっ。」っと、正直ピンときていない。しかし、分からなくもない。確定するのは早い。
数秒空いて声は言った。「小牧悠真だよ。悠真、覚えてないか?」
私は、唖然とした。その声を聴けたのは何年ぶりか。驚きすぎてヒックと息を呑む。悠真とは、あの公園で最後会ったきりだ。
「やっと思い出したか。」と、相手は満足そうに言う。
そして、悠真に聞きたいことが溢れた。
今どこで過ごしているのか、学校はどこか、今どんな感じなのか。訳の分からない質問まででかかった。でも、一番聞きたい事で絞って言った。
「どうして、電話してきたの。」落ち着きを見せるつもりだったが、今の声は、上ずっていた。