第一章
その日、私は雨の中傘を差して土砂降りのこの街をふらふら歩いていた。足音がかき消されるほどの雨の音は、バチバチと傘を叩いて止めなかった。
アスファルトに覆われたこの街は、水を吸収しないため、街全体が水でコーティングされ黒く光っていた。また、アスファルトに落ちた水滴が、そのまま跳ね返って自分に当たるため、靴もズボンの裾も濡れて足が重かった。
それはもう雨の概念で捉えては説明は不十分で、まるで、滝がこの上の雲から落ちてきて私のいる街に、注いで滝壺のような状況になっている。と言ってもいいぐらいの大雨だった。
それなのに、なぜ私はふらふらと街に出てきたというと、明確に言える理由はない。ただ、その日の私は妙に感傷的だったことを覚えている。昨日、高校でされた嫌がらせが原因か、それとも、それに立ち向かえなかった私が原因か、それとも、よくある雨の日特有の陰鬱になる気分が原因か。
いろんな状況や心具合が重なって、こんな雨の中ふらっと玄関を飛び出して、いわば、行き場のないやるせなさが私を突き動かして、ひたすら疲れるまで外を歩こうと、街まで歩いて行ったのだった。
そして今、私はその場でもう終着と決めた駅の前まで歩いてきた。小さな駅舎に入るとよほど多くはないのだが、人がたくさんおり、改札は閉まったままだった。
電光掲示板に運休情報が流れてきたのでその時点で、きっと、この雨の影響だろうかと予想がついて、駅からどこかへ行こうという気は、頭の片隅からも消えた。そして、行き場もなくなってこのおんぼろの駅舎に留まろうと思った。壁に掛かった時計を見るともう10時を過ぎていた。
人はどんどん消えていった。電車が動いていないとわかると溜息をつきながら、暴風雨の外へ出て帰っていく。そんな様子を私は横目で眺めていた。そして、長椅子に座ると全身の力が抜けてさっき彼がした溜息よりも一層深いものを出した。
一体、何が悪かったのかと思ってしまう。
別に普通にしていただけだった。と言えば、理由は分からない。ただ、人よりは静かなほうだと思う。
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