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特急『きらめき四号』の罠  作者: にちりんシーガイア
第五章
5/10

事件現場の男

「城戸警部、今さっき、小倉北署から、小倉行きの特急『きらめき四号』の車内で、男の死体が見つかったと連絡が入りました。その男も、山笠振興会の人間だったと」

 城戸は、その日のうちに、白垣から特急「きらめき四号」の事件について知らされた。

「今度は、列車の中ですか。それで、被害者の名前は?」

 城戸は、白垣にそう質問して、振興会の名簿を取り出した。

「濱嵜俊之、四三歳。千代流の総務で、振興会の本部員会計と聞きました」

「確かに、千代流れの総務で、本部員会計を兼任しています」

 と、城戸が、確認していった。

「それで、私は今から、野口と小倉北署に向かいます。城戸警部も、ご一緒されますよね?」

「ええ、勿論」

 城戸は、そう言って、川上と南条も連れ、刑事五人で博多駅に向かった。そこから、十二時丁度発、「こだま七四二号」で、小倉に向かった。

 「きらめき四号」で博多、小倉間は五〇分ほどかかるが、「こだま七四二号」では、わずか一七分で着く。

 小倉に着いた後、刑事五人は、小倉北署にタクシーで向かった。小倉北署は、小倉城のすぐ隣にある警察署である。

 小倉北署の捜査一課には、「特急『きらめき四号』車内殺人事件捜査本部」という立て看板があったので、刑事五人は、その捜査本部の中へ入った。

 捜査本部の中に入ると、安武という警部と、水島という刑事が、自己紹介をして、事件の概要を説明した。

「先程、白垣警部にお伝えしたように、被害者は、濱嵜俊之、五四歳。住所は、福岡市の方で、博多祇園山笠千代流の総務、そして、振興会の本部員会計を兼任している男です。本職は、福岡市内のスーパーのパート従業員の様です。事件の話に戻ります。死体は、二号車のデッキにある、『携帯電話室』という場所で見つかりました。死亡推定時刻は、午前十一時二〇分と分かりました。『きらめき四号』の時刻表に照らし合わせると、黒崎と戸畑の間を走行している時間です。そして、お話ししなければいけないことが、もう一つ」

 安武は、そう言って、ビニール袋に入った、一枚の紙を見せながら、次のように言った。

「これは、濱嵜の鞄の中に入っていた紙です。これは、東京の上野公園の事件、福岡の大濠公園の事件でも、同様の脅迫状が見つかったと聞きました。その点から、関連性があるのでは、と連絡したのです」

 城戸は、その説明を聞いた後、安武に質問した。

「被害者の濱嵜は、特急『きらめき四号』の切符を所持していたんですか?」

「はい、始発から終点まで、指定席の切符を所持していました。これです」

 と、安武が、証拠品でもある濱嵜の切符を城戸に手渡した。その切符には、


〈きらめき 4号     2号車1番A席〉


 と印字されていた。城戸がそれを見ていると、安武が

「そして、その特急『きらめき四号』に乗務していた、小野田という車掌を参考人として、来てもらっています」

 と言った。その事情聴取は、白垣に頼まれた。勿論、城戸も同席させてもらった。小野田は、三十歳ほどの男だった。

「お忙しいところすみません。さっそく、質問させていただきます」

 白垣が、そう言って事情聴取を開始した。まず、濱嵜の写真を見ながら質問した。

「まず、被害者のこの男ですが、『きらめき四号』に乗っていましたよね?」

「いえ、見てません」

「見てないんですか?」

 白垣が、困惑した様子でそう聞き返すと、後ろに立っていた城戸が、質問した。

「それでは、切符は売れていたのに、客がいなかった席なんかありませんでしたか?例えば、二号車の一番A席とか」

「ああ、確かに、その席は、切符が売れているはずなのに、いつ見ても誰もいないな、とおかしく思っていた記憶があります」

 小野田の答えに納得した白垣は、尋問を続けた。次は、安達の写真を見せながら質問した。

「ひょっとしてですが、この男が『きらめき四号』に乗っていたんじゃありませんか?」

「はい、乗っていました。博多から小倉まで、グリーン個室に乗っていたので、よく覚えていますよ」

 そう答える小野田に、城戸が再び質問した。

「何故、グリーン個室に乗っている客をよく覚えているのですか?」

「珍しいからですよ。『きらめき』は、始発から終点まで乗っても、乗車時間は五〇分で、一時間かかりません。なので、グリーン席も、DXデラックスグリーンも、グリーン個室も、とにかく一号車は空っぽなのが普通なんです。しかし、あの日は、さっきの男が、四人用の個室をたった一人で利用していたので、鉄道ファンか何かかな、と思っていたんです」

 白垣は、尋問を再開した。

「では、そのグリーン個室の男で、何か覚えていることはありませんか?」

「黒崎を発車してすぐの時に、そのグリーン個室の客が、二号車の車掌室にやってきて、この列車で携帯電話を使用できる場所はあるか、と訊かれました」

「それで、何と答えたんですか?」

「二号車の三号車側デッキに、『携帯電話室』があると答えました。すると、礼を言って、三号車の方へ歩いて行きました」

「つまり、黒崎駅を出発した辺りの時間に、『携帯電話室』に入ったのですね?」

 白垣の聞き返す音量が、つい大きくなってしまう。

「はい、その後、折尾と黒崎から乗った客の検札の時に、『携帯電話室』を覗いてみると、男の後ろ姿が見えて、誰かと携帯で通話していましたから」

 車掌の小野田に対する事情聴取は、そこで終了した。

 刑事五人は、車掌の証言を基に、連続殺人犯であるかは不明だが、今回の特急「きらめき四号」の事件に関しては、安達雄介が犯人である、という認識で一致した。とは言っても、腹部に二つの傷、そして、三百万円を要求する脅迫状にしても、上野公園の事件と同一犯であることを物語っている。

 白垣は、県警本部の刑事に、安達雄介を連行するように指示し、その安達の取り調べをするため、刑事五人は、小倉十三時二六分発「さくら五五三号」に乗り込み、博多に戻った。

 刑事五人が県警本部に戻ると、既に安達は連行されていた。

 なので、すぐに安達の取り調べを行う。これも、白垣が担当し、城戸も同席した。

「まず、君の氏名、年齢、職業を聞くところだが、それは既にこちらの方で調べさせてもらっている」

 と、白垣が言い、次のように続けた。

「安達雄介、四十三歳。市内の、武田たけだ工務店に勤めている。間違いないね?」

「間違いないですけど、なんで調べているんですか?」

「殺人事件の容疑者としてだ」

「殺人事件?とんでもない、自分は何も知らない!」

 安達がそう訴えたが、城戸はそれを無視して続けた。

「君、去年の十月まで、博多祇園山笠振興会に参与として所属していましたよね?」

「はい、そうですよ。今は、もう辞めましたが」

 白垣が、城戸の話を続けた。

「君は、居酒屋の中で、喧嘩を起こし、その影響で振興会を辞めさせられたんだ。その分、振興会を恨んでいたんじゃないか?」

「恨んでなんかいません。振興会を辞めても、工務店での仕事はあったので、自分が喧嘩を起こしたのが悪い、と静かに身を引きました」

「まあ、特急『きらめき四号』の話に変えよう。君は、なぜ『きらめき四号』に乗ったんだ?」

「乗車する前日、つまり、昨日家に帰ろうとした時、サングラスをかけた見知らぬ男に突然、明日特急『きらめき四号』に乗ってくれ、と頼まれて、乗車券と特急券を渡されたんです」

「それで、特急『きらめき四号』に乗ったんだな」

 白垣がそう言うと、城戸が疑問をぶつけた。

「安達さん、あなたは、正体の知れぬ男からの要求に従い、列車に乗ったんですか?要求に従わない、という選択もあったんじゃありませんか?」

「はい、確かにありました。でも、特急券をよく確認すると、グリーン個室を利用できる特急券だったので、浮かれて乗車を決めてしまいました」

 安達は、暗い顔で言った。

「そして、今日、博多から特急『きらめき四号』に乗ったんだな」

 白垣が、訊問を続ける。

「はい、そうです」

「その、『きらめき四号』が発車して、黒崎駅を発車してすぐ、時刻で言うと、十一時十七分頃になるんだが、その時に、君は車掌に携帯電話が使える場所はどこか、と質問してますよね?車掌の証言があるんですよ」

「はい、確かに質問しました。黒崎駅を発車した後、グリーン個室で過ごしていると、携帯が鳴ったんですよ」

「その相手は、誰だったんだ?」

「特急『きらめき』に乗れと言ってきた男です」

「内容は?」

「それが、自分が本当に、『きらめき四号』に乗っているのか確認するだけの、くだらない電話でした」

 再び、城戸が疑問をぶつけた。

「グリーン個室で過ごしていた時に、携帯が鳴ったんですよね?」

「はい、そうですよ」

「それなら、他のお客に迷惑はかからないだろうから、一々『携帯電話室』に行く必要は、無いと思いますが」

「自分もそう思いましたが、相手の方が携帯電話の使用できる部屋を探して、後でかけなおしてくれ、と言って切られたんですよ」

「それと、もう一つ。なぜ、正体の知らない相手が、あなたの電話番号を知っているのでしょうか?」

「切符をされた時、携帯電話の番号を教えろ、と脅されたんですよ」

「脅された?」

「ええ。最初、教えろと言われたら、自分が断ったんです。それが気に入らなかったらしく、脅す口調で、携帯の番号を教えろ、と要求してきたんです」

 安達がそう答えると、白垣による訊問が再開された。

「安達さん、是非、あなたの携帯電話の着信履歴を、我々に見せていただきたいのですが」

 安達は、「わかりました」と言いながら、スマートフォンに、着信履歴を表示させて、白垣に渡した。

 着信履歴を見ると、今日の午前十一時十九分に、非通知の着信があった。発信履歴を見ると、午前十一時二〇分に、発信した履歴が残っていた

「この、十一時十九分のが、グリーン個室で鳴った着信ですか?」

「はい、そうですよ」

「十一時二〇分の発信がありますが、これは『携帯電話室』からの発信ですか?」

「はい、そうですよ」

「その時、『携帯電話室』に何か異常はなかったですか?」

「特にありませんでした」

「それは、おかしいですね。小倉駅で死体の見つかった、濱嵜俊之さんの死亡推定時刻、つまり殺害された時刻は、十一時二〇分なんですよ。あなたが、十一時二〇分にそこにいたならば、濱嵜さんの死体を見ているはずですが?」

「そんなことを言われたって、死体なんてなかったですよ。死体とか、物騒なものが有れば、直ぐに車掌か警察に言ってますよ」

「そうか。でも、君が犯人ならば、自分から車掌や警察に言うはずないよな?」

「よしてください。また、証拠もなしに殺人容疑ですか?」

「証拠は十分じゃないか?死亡推定時刻、現場に居たのはあんたなんだよ」

「ですから、私が『携帯電話室』に入った時、死体なんてありませんでした」

「君は、走行中の列車に死体が突如現れて、それが小倉で発見された、と言うのかね?」

「───」

「とにかく、君はしばらくここに居てもらうよ」

 白垣がそう言って、事情聴取は終了した。

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