私は彼との将来のために、行動しただけですわ。
私の婚約者は、レオン様。
燃えるような赤い髪の色に、人を魅了する笑顔。
誰にでも優しくて、逞しい人。
そんな完璧な婚約者のレオン様に、悪い虫がついてしまった。
「レオン様!」
「ん?何だ、アリアか」
庶民の娘のアリア。
私と同じ光魔法を、使える女。
いずれ訪れる、災厄を祓う聖女候補。
「今日は家庭科の時間に、お菓子を焼いたので……レオン様に、食べて欲しいです」
「ほう……アリアが焼いたお菓子か、では一つ貰うとするかな?」
「わぁ……ありがとうございますレオン様!」
「ははっ、大げさだなアリアは」
仲が良さそうに、レオン様はあの女が作ったお菓子を食べています。
人通りが少ない廊下で、二人は会っていました。
「あっ、ルミア。 ちょうどアリアにお菓子貰ったんだが、一緒に食わないか?美味しいぞ?」
「ルミア様も、お一つどうぞ♪」
私も、たまたま二人が出会っている廊下に居ました。
別に最近のレオン様の様子が可笑しいと、つけていた訳ではありません。
「………っ」
「なんだ? もしかした、ルミアはお菓子が嫌いだったか?」
「そうなんですか、ルミア様?」
二人は私の顔を不思議そうに、見つめます。
何でと私は、思いました。
何でそんなに、普通に居られるますの?
私と言う婚約者の前で、他の女と会っていて……それも、私と聖女の座を争う……庶民の女と、仲が良さそうに一緒にいられますの?
「もしかして、ダイエットしているのか? ルミアはそんなに細いのに、ダイエットする必要ないじゃないか。 どれ一つ口に、入れてやるよ」
「むぐっ……」
「駄目ですよレオン様! 女の子にそんな乱暴な事、しちゃ!」
「むっ? そうなのか? 何時も、アリアが俺にする真似をしたんだが……」
「そ、それは……レオン様が男の人だからです!」
「そうだったのか……悪い事をしたなルミア」
何ですのこれは……?
私は、悪い夢でも見ているのでしょうか?
けれど口の中の、甘い菓子がこれは現実だと知らせてきます。
「ごめんなさいレオン様……私は急用を思い出したので、これで失礼しますわ」
「おい、ルミア」
私は逃げるように、お手洗いに向かいます。
背後で「もう、レオン様が強引だから……」「ルミアは何時もあんな感じだぞ?」とか聞こえました。
「ごほっ、うぐぅ、げほっ……まだ、あの女のゴミの味が残ってますわ」
私はお手洗いで、口の中のゴミを吐き出しました。
口の隅から涎が溺れますが、今はゴミを吐き出さないと私があの女に汚染されてしまいます。
このゴミは光魔法の浄化でも、消えないのがやっかいでしょうがありません。
喉の奥を指で突いて、強引に吐きたい衝動を起させました。
「んぐっ……!はぁはぁ、気持ち悪いですわ。 ああっ……まったく、気持ち悪いですの」
庶民の女と、仲良くするレオン様。
私は、レオン様の正気を疑いました。
婚約者の前で他の女と、仲良くするレオン様。
次にあの女の正気を疑いました。
人の婚約者と、仲良くするあの庶民の女。
トン……トン……と、個室のドアがノックされる。
「あの……大丈夫ですか?」
あの女の声がする。
個室のドアの前に、あの女が居る。
吐いた筈のゴミの味が、蘇り……胃が痙攣して、吐き気が催す。
「大丈夫ですわ……」
「本当ですか……?わたしのお菓子に、何か悪い物でも入っていたんじゃ……?無理をしないでください」
この女は、私を”聖女候補”だと忘れているんじゃないでしょうね?
光魔法を使える私が、食中毒なんかになりませんわ。
ハンカチで口元を、拭く。
「貴女と私は、聖女候補。 光魔法が使えるのだから、大丈夫に決まってますわ」
「そ、そうですよね? じゃあ……それなら、なんで……?」
恐らく私が何で吐いていたのかと、問いたいのでしょう。
むしろ何で、私がこんな事になったのか原因が分からないあの女に問いたいですわ!
これは何とかしないと、レオン様がこの女に毒されてしまう……。
「庶民の女のお菓子なんて、食べられないに決まっているからですわ」
「えっ……ルミア……様?」
私がこの女を、この学園に居られ無くすれば……レオン様は、正気になってくれる筈です。
この庶民の女を追い出して、私が聖女になり、レオン様と結ばれれば元道理になりますわきっと。
「私の婚約者のレオン様の近くで、うろちょろしないでくださいませんか? 庶民の女の癖に、生意気ですわよ?」
婚約者が他の男といちゃいちゃしてたら、そりゃ怒ると短編書いてて思いました。