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戦乙女の黄昏  作者: いさらゆたか
3/15

1-2 予想外の光景


「な、何がどうなって?」

「あれ? シ、シノちゃんが・・」

「嘘・・でしょ?」




[ドカッ!]「ぐはっ!! ・・・・?」


(これは一体・・今何がどうなったんだ? 彼女と握手した瞬間、空がひっくり返って・・そして俺は今地面に倒れている? ・・彼女自身からエーテルの反応がみられない?

 いやさっきからおかしい、辺り一面からエーテルの反応がある・・お陰でぼやける・・まるでそこにいないかの様だ・・)


「柔よく剛を制すって知ってますか? 私みたいなか弱い女性には、あなたの様な力も体格もありません・・」


(準備が必要だった・・彼女はそう言っていたね、何の準備が? この香り・・さっきと違う? 彼女が司っているのは間違いなくこの香りに関係していると見ていいが・・これ自体が能力? だがエーテルだけをボヤけさせたって、彼女自身は紛れる訳じゃない・・)


「でも相手の力の流れる向きさえわかれば、投げ飛ばすくらいなら、力もいりません。相手の力を利用するだけ・・」


 ダイヤモンドが偽物だった悲しみと、ブルガリアンローズちゃんの敵・・せいぜい取らせてもらいますよ・・。

 後私を庇って助けに来てくれた友達の敵も・・。


(この香りを嗅いだら強くなる? だったら俺自身同一条件のはず・・なら何の為の?)


「どうしちゃったんですか? もうおしまいですか?」


(まぁいいか・・何の能力か考えるより、彼女に投げ飛ばされた事実の方が面白い・・戦っていればその内種がわかるはず)


「あぁ、すまなかったね・・どこまで君が強いのか試させてもらうよ・・」


 好きなだけ戦えばいいんですよ・・とことんまで付き合いますよ・・。




「そっちの私がね! ほらほら皆さん気付かれる前に急いで逃げますよ、何ぼさっとしてるんですか私の荷物持って下さいよ!」


「お、おぅ! わかったじゃあこっちのバッグを・・ってちがーう!!」

「どう言う事なのか説明しなさいよ・・」


「説明も何も見たまんまですよ、そんな事いいからここから逃げますよ! バレたらまた捕まっちゃいますからね・・」


「シノちゃんが二人おる・・あぁっ! もしかしてシノちゃんって双子なん? もぅ言うてくれなビックリするやん!」

「いやいやいやいや、それはないでしょいくら何でも・・こんな子が二人もいたら色々とヤバいでしょ・・」

「うんうん」


「それどういう意味なんですか! そっち頷かない! ・・はぁしょうがないですね、時間ないのに・・いいですか? 皆さんもう一度金槌さんの方見てもらっていいですか?」


「金槌ってあの変態の事? あいつがどうか・・?」

「あれ? あっちで戦ってたシノがいない・・」

「ほんまやねぇ、何かあの人一人で投げ飛ばされてるなぁ・・何かおもろい光景やんな!」

「・・・・もしかして幻覚?」


「はい! 正解です。金槌さん周辺の地面が濡れているでしょ? あれが気化して、その香りを嗅いでいるしばらくの間は、催眠状態と言いますか幻覚症状を起こすんですよ、ただ範囲外に出て、しばらくすればすぐ解けちゃうんで、なので逃げるなら今の内なんです。わかったら急ぎますよ!」


「へ~やるなー、そう言う事ならとっととズラかろうぜ」

「そうやな、折角シノちゃんが作ってくれた隙活かさなな」

「あれって、あのままならどの位もつの?」

「ん~? そうですね大体・・一時間位は踊ってると思いますよ、それが何か?」


 こんな時に質問が多いですね、忘れてるんじゃないですか? 受付の時間もう間に合ってない事・・。


(一時間・・もしかして私達が助けに入らなくても、この子一人で逃げられた? いえそんな事より・・)


「シノ」


「んもぅ! 何ですか? あいつ倒すとか無理ですからね、今更引き返すとか言い出さ・・」


 ミキちゃんは頭を下げていました・・。


「ごめんなさい」


 え? あれ? 何か謝られる事ありましたっけ? ・・・・っはリュック! リュックの事ですね? 何だそんな事なら・・って、三人に増えた!


「私もごめんなさい・・おいてってもうたお陰で、シノちゃん怖い目に遭わせてもうた」

「ごめんシノ! 本当に見捨てたのはアタシだけなんだよ! こっちの二人は本当は先に行って後から来るお前が間に合う様に受付の時間稼ぎをするつもりだったらしいんだ! だから許してやって欲しい・・」


「皆さん・・」


 成る程そう言う事だったんですね、時間稼ぎか・・そこまで頭回らなかったですよ、ただ・・。

 そんな言い訳で許す訳ないじゃないですか! そんなの後付けでいか様にも・・いや待てよ・・ここは・・。


「頭を上げて下さい皆さん・・シノは皆さんの罪を許しましょう、だって助けに来てくれたじゃないですか? 罪を憎んで人を憎まず・・これからは友達として、皆さん手を取り合って助け合っていきましょうね」


「シノ・・あんた」「シノちゃん・・」「そっか良かった。ははっ何かお前・・」


 なーんちゃって、どうですか? 私の飛び切りの演技は、すっかり私の徳に魅了されちゃったんじゃないですか?

 あ~・・見えますよ、皆さんの羨望の眼差し、私の器の大きさに感心してる姿が・・。


「女神みたい」「女神様みたいやな」「女神みたいだぞ」


「いや、しっつれいな! 女神ですよ! どこから見ても女神様でしょ?」


 ま、まぁ・・これで次何かトラブルがあった時は、一度見捨てたが許されたと言う記憶が残り、後ろめたさから、私が困っていたら助けなければと思う様になるはず・・。


(はぁ~許してもらえて良かった~)

(シノちゃんやっぱええ子やわぁ、気持ち何か神々しなってるし)

(良かった~・・出来たばかりの友達に絶交とか言われなくって、・・まぁ元はと言えば、何の計算もせず荷物多めに持って来ちゃったシノが悪いんだけどね)


 何と言う策士何でしょう私、あったまいい! ・・フヒヒッ! おっといけないいけない、つい何時もの笑いが込み上げちゃいました。

 ここは同じ笑顔でも、愛嬌いっぱいのとっておきの笑顔でなくては・・はい、スマ~イル。


(シノの笑顔が気持ち悪い、何か禍々しいぞ)

(何やろな・・何か神々しいんに混じって、どす黒いオーラ漏れ出てる様に見えるんやけど・・シノちゃんええ子やもん、きっと私の気のせいやろな)

(・・・・あっ、この子絶対何かよからぬ事考えてるわ・・。はぁ・・、まぁどうせくだらない事でしょうけど)


「・・・・ほら」


「へ?」


 何ですかこの手は?


「いやだから、そっちのもう一つのバッグ持ったげるから貸しなさいよ」


・・・・・・フヒ。


「デレたな」「デレてまったなぁ」


「しょうがないですね、今回だけですよ」

「デレるって何よ!? デレてないから! それとシノそのセリフは私のセリフだから!」

「はいはいわかってますよ~」

「何そのニヤケ顔、さっきからずっとよからぬ事考えてるでしょ? 白状なさい!」

「なっ!? ななな何言っちゃってるんですか! よ、よからぬ事何て全然、全く、考えてませんよ!」

「ほらほら言い合い何かしてないでとっとと行こうぜ!」

「そうよ、もうかなり遅れてまってるけど、行くだけ行かな」

「そ、そですよミキちゃんとっとと行っちゃいましょう! とっととね」


「あ、ちょっと待ちなさい! 絶対悪い事考えてたでしょ! 私そう言うのわかるんだからね!」


「ソナエちゃん、ほなら行こうか、・・シノちゃん! 私な、リュック後ろから押したるわ」


「おぅそうだな・・よっと・・重いなこれ・・ガチャガチャ何かが擦れる感じの音がしてるけど、一体何が入ってるのか気になるな・・」




(遅い・・受付にいた天使の子、一体何をやってるのかしら? もうとっくに時間は過ぎてる。

 なのに応募用紙も推薦状も持って来ない・・推薦状のある子はほぼ顔パスみたいなものだから、正直形だけだからこちらは必要ないけど・・まさか面接会場にいるロキ様の所にも持って行ってないなんて事・・何かトラブルでもあったのかしら?)


「・・・・はぁ、見に行くしかなさそうね・・」


「どちらへ行かれるのですか? フレイ様」

「悪いけどこの場を任せるわよブリュンヒルデ、少し受付の方を見て来るわ・・」

「・・・・了解しました」

「あっ、もし用紙だけ来て私が戻らなかったら、申し訳ないけどあなたの方で進めておいてくれる?」

「・・・・・・」

「不服そうね?」

「・・・・私は彼女達を認めていませんからね」

「そう・・でも同時に彼女達が活躍しなければ、あなた達ヴァルキリアとしての 存続そのものが危うくなるのだけれども・・」

「えぇ、ですからこうしてここにいるんですよ・・彼女達の顔を一人残らず覚える為に・・」

「それは怖いわね・・まぁ当面は私が面倒を見るわ。しっかりあの子達の顔を覚えて行ってね・・時期にヴァルキリアと言えばあの子達の時代が来るわ。そうなった時、あなた達ワルキューレ隊は、今のあなた達が見下している様に、あの子達につまはじきにされちゃうかもだから」

「・・・・そうですね、そうなった時は素直に従わせて頂きますよフレイ様・・」


「・・・・せいぜい励みなさい・・ブリュンヒルデ、それじゃ行って来るわ」


「了解しましたフレイ様・・」



(全く朝から予期せぬ出来事ばかり・・フレイアもトール様も噂を聞きつけて見に来たなんて言ってたけど、今日来る倭国で最後、何故二週間も前から色んな各国の女神が来ていたのにも関わらず、二人同時に今日なの? 所在の知れなかったトール様は噂を聞いてからだからで納得出来る。

 でもフレイアはおかしい、あの子は堅苦しい場所を嫌う為、滅多な事では訪れる事はない、その上事前に私から情報を仕入れていて、興味があるなら初日にでも見に来れた。

 どちらも気まぐれだからで済ませれば、そうなのかもしれない・・でも、同時にどちらも思い立ったら即行動なタイプでもある。

 面白そうだと思った瞬間に動き出すのが目に見えているわ。それなのに・・・・)


「ダメね、考えた所であの二人の思考は私には読めない」


(ただ、トール様の行動に関しては以前嫌な予感がし続けている・・あの方は穏やかになった何て言われているけど、根っからの戦闘狂・・。

 表面上とは違い内面では常に面白そう(戦場)を求めている方、・・ただ私達と他国の神と巨人族との間で結ばれた平和条約のお陰で戦える場が無いだけ、エインヘリャルの行うラグナロクは、同じ過ちをしない為の代理戦争でもある。

 だからあの方は表立って力試しが出来そうな場を求め旅をしているのだから。

 ・・そんなあの方が、旅先で新制度に伴うヴァルキリア増員程度の話で、勇んで帰って来るとはとても思えない・・どちらかと言えば、新しいエインヘリャルに凄い強い勇者がいるの方が、あの方にしてみれば飛びつく話だろう。なら何て言われれば?)


「・・そうか、さっきから感じる違和感の正体はそこだったんだわ!」


(誰かが吹き込んだ・・この方が話の辻褄が会う、じゃあ誰が? 噂話が大好きで話術も得意そんな人を私には心当たりがある・・ロキ様だ。

 そう言えばもう一つ珍しい事があった・・応募組の女神の面接官をロキ様が買って出た事。

 本来なら私が担当するはずだったものを、自ら立候補した・・。

 ロキ様の観察眼は信頼出来るし、何よりワルキューレ隊から何人か補佐として付ける事にしていたから、すっかり安心しきっていたけど、あの方も自由奔放な方だ。

 トール様と違って、近くにいても所在がわからなくなる完璧な変身をするから厄介なのよね、それで大事な会議でもすっぽかして逃げられた事が何度もある・・。

 そんな彼が、自ら面倒臭い役を買って出たのだ・・最初から何かあると思って疑っておけば良かった。

 ・・彼には神々の黄昏、ラグナロクの引き金を引いた前科がある。

 この珍しいの連続が、彼の仕業だとしたら・・)


「ふふっ、流石に言いがかりね、証拠もないのに疑うなんてどうかしてるわ・・疲れてるのかしら?」


(ってよく考えたら、トール様もフレイアもロキ様も会議参加しない人ばっかりじゃない・・痛たたた・・胃が痛くなって来たわ・・)




[ドカッ!!]「ぐはっ! ・・・・やるじゃないか、やるじゃないか君!」


「どうしちゃったんです? そんな所でおねんねしてたら風邪引きますよ? 余程地べたに寝るのがお好きな様で」


「わっはっはっ! まさかこの俺がここまで一方的にねじ伏せられるとわね、柔らとは大したものだよ、以前旅先で見かけた武術の神が使っているのを拝見させてもらったけど、君はその神様と同格かそれ以上だね、恐れ入ったよ」


(おや? 一瞬だけ彼がダブついて見えた様な・・気のせいか? ・・依然として彼女の能力についてはわからず終まいだが・・)


「お褒めの言葉として受け取っておきますね、どうします? ここで終わっておきますか?」


(そんな事どうでもいい程楽しいね・・この子も合格だよ)


「冗談、君相手なら・・もう少し本気でもいいかな?」




「ん~・・おかしいです~・・推薦状何度数えても四つ足りないのですよ・・もう時間はとっくに過ぎてるのに・・何かあったのですかね~? これじゃ私、あのおっかなそうなフレイ様に怒られちゃうですよ~・・こんな事ならゼウス様に頼まれて、お手伝いしになんか来なければ良かったのです・・」


「悪かったわね怖そうで・・」


「へ? ひぃ~~~!! す、すみませんです! 私そのそんなつもりじゃないのです・・ただ背も高くてモデルさんみたいにお綺麗なのに、いつも眉間にしわ寄せてて怒ってるみたいに見えるのが勿体無いな~って意味で・・あっ! 後双子の妹様と比べてお胸もあんまりおありでないので、噂通り似てない双子だな~なんて、帰ったら噂は本当だったって皆に・・っは!」


「へぇ・・・・噂? どんな噂が流れているのかは後でゆっくりこれが終わったら、特別に二人っきりで面接でもして聞くとして・・」


「あわわわわわわわ・・す、す、す、す、すみませんです!!」


「いいのよ、別に気にしてないから・・そんな事より、何故今日に限って時間がとっくに過ぎているのに、私の所にそれを持って来なかったのかについて、聞きたいのだけれど・・」


「あ、あのまだ四名程お見えになられて、い、いなかったもので・・す、推薦状は全部揃ってから持って来る様に承っていたので、それで・・」


「成る程・・それで全部揃わなかったから、持って来なかった・・っと?」


「は、はい! その通りですぅ・・」


「はぁ・・面接会場の方には応募用紙は渡してあるの? あれは裏が履歴書になってるんだから、渡してないと面接が始められないわよ?」


「あっ、そちらは安心して下さい、時間丁度にロキ様が直々に取りに来て下さいましたのです」


(ロキ様が? そう、良かったわ面接は時間通り滞りなく進んでいるって事ね・・ホッとしたわ)


「それにしても、ロキ様って爽やかな感じがして、優しそうでいい人そうなのです!」


(・・はるばるお手伝いに来てもらったとは言え・・この子は仕事中に一体何を考えているのかしら?)


「そう安心したわ・・人の感想はそれぞれだから、あなたがロキ様にどんな思いを馳せ様が自由だけど・・」


「そうですよね? 自由なのですよね! あはっ! ロキ様ってどんなご趣味お持ちなのですかね? ロキ様って普段どんな事してお過ごしなのですか? ロキ様って・・」


(・・・・この子完全に頭がお花畑の様ね、ゼウス様も何でこんな子寄こして来たのかしら・・)


「あなたね・・そんな事はどうでもいいのよ! それよりも何時まで待っても来ない様な者達待ってないで、さっさと持って来なさい!」


「ひぎゃ~~~~!! すみませんです~~~!! で、でもでも推薦した神様の面子もあるからって聞いてたし、私に折角来て下さる女神様を追い返す権限何て・・」


「あのね・・時間通り来れない方が悪いの、何の為にギリギリにしてあると思ってるの? この程度キッチリ守れない様なそんなのが来ても役に立たないからよ! そんな者達あなたの方で不合格にしたって・・っ!?」


「ちょ、ちょっと待ったー! ・・はぁはぁ・・ま、間に合ったー・・」


「全くもう・・ベソかくんじゃないわよ! お陰で間に合えたでしょ?」

「・・うぅ・・私の・・ぐすっ・・大切なぁ・・酷い・・」

「まぁまぁ、シノちゃん気持ちわかるから、私も大事な扇子・・扇子・・」


(どうやら噂の四人が今頃のご到着みたいね・・はぁ・・息を切らせて急いで登って来たみたいだけど・・)


「間に合った? いいえ遅刻よ、大遅刻だわ! ただ真っすぐ歩いて来るだけなのに、何故二十分も予定より遅れたのかしら? 推薦状があろうが無かろうが、その程度の者達失格に決まっているでしょ? 即刻帰り・・」


「うわああぁぁぁぁあああん!!」


(えっ? はやっ! 何この子・・私が言い終わる前に泣き出し始めたんですけど、せめてセリフ全部言い終ってから泣くなら泣いてほしいのだけれど・・)


「あっ! ちょっ、シノあんた何大声で泣いて・・もぅ私が悪かったから泣き止んでよ・・って何かこれってデジャブ?」

「泣くなよシノ・・な? 途中で置いて来ただけじゃん? 終わったらまた拾いに行けばいいだけなんだしさ」


「置いて来たって・・あれがですか? 二人共バッグの中身何? って聞いて来たからアロマオイルとかそれ用の加湿器、ランプとか入ってるんですって答えたら、ソナエそんな物捨てちゃいなさいってミキちゃんが・・ぐすっそしたらソナエちゃんそうだなって言って、ガシャンって・・ガシャンって! ・・あ~~~!!」


「いやガシャンってアタシガサツかもだけど、ちゃんとソッと置いたから大丈夫だって、例えいくつか割れて漏れ出てても、他は大丈夫なんだしさ」


「それ全然大丈夫じゃないじゃないですか! それにまだありますよ! じゃあ私が持ってるこっちは何が入ってるの? ってミキちゃんに質問されたから、素直にお父さんが買ってくれたお餅が入ってるんですよって答えたら、そんな物ポーイって・・砲丸投げみたいに遠心力使って投げる事ないじゃないですか! あんまりだ~~~!!」


「あのね! 普通常識的に考えて、就職面接行くのにお餅持って来るバカいないわよ! 確かにこっちに住む事になるんだから、必要最低限の日常品は必要でしょう・・でも、バッグいっぱいのお餅なんて必要ないから! ねぇ? キョウあんたも何か言ってやりなさいよ・・」


「わかる・・わかるわその気持ち・・だって・・だって私も・・あーー!! 私扇子の神さん失格やわ・・友達助ける為とは言え、大事な扇子投げつけるとか・・何でクリエイトしなかったん? 私のアホ!」


「「えっ!? そっちに加勢するの?」」


(何だか良くわからない内にもう一人増えたーー!! 何なの? あなた達は泣けば許されると思っているの? 何それそういう作戦? 泣き落としにかかってるの? それとも嫌がらせ? 何か遅刻と関係ない理由で泣いてる様に見えるけど、だからと言って甘やかしたりしないわ!)


「私何て・・私何てどうせ受付もまともに出来ない・・うっ・・うわぁぁぁああぁあ!!」


(それに遅刻して間に合わなかっただけじゃ飽き足らず、受付前でダダ捏ねて泣きじゃくる何ていくつの子よ! それで許されるのは小さな・・ってさっきから後ろもうるさいんだけど!)


「何であなたが泣いてるのよ! 前も後ろも泣いてたらうるさくて敵わないでしょ!」


「だって・・だってぇフレイ様がさっきから怖いのです! 女神様達追い返せだなんて無茶な事言うのです! 私お手伝いに来ただけで・・ぐすっ・・」


「悪かったわ、確かに無茶な事言ってしまったわ。そこは謝るから泣き止みなさい・・あなたは悪くないわ、ただ言われた事をやっていたに過ぎないのだもの」


(そう、本当にただ言われた事だけをやってくれたお陰でご覧の有様だわ・・とっとと渡してくれてれば門前払いしやすかったでしょうに)


「・・・・いえ、いいんです。私が悪いんです・・こんな私なんか消えて無くなっちゃえばいいのです・・そうだ! どうせなら・・沢山お友達連れて行けば寂しくないのです!」


(あっえ? ちょっと何? 羽が・・羽が物凄い勢いで黒くなり始めてるけど・・この子こんな所で堕天しようとしてるんですけど・・手に持ってるラッパに見えるそれ、もしかして吹いちゃダメな奴なんじゃ・・)


「・・ふふっもういいですよね? 私精一杯頑張ったのです・・堕天してもロキ様私の事見てくれるですかね? ・・スゥゥ・・」


(何息大きく吸い込んでるの? ・・嫌な予感がさっきから! 女神としての勘が危険だと知らせて来る! 吹かせてなるものか!!)


「ちょっとバカな事しようとするんじゃないわよ! あなたのせいじゃないって言ってるでしょ?」


(止めなければ! これ絶対マズイ奴だわ、触れてみて確信したわよ、何てもの吹こうとしてるの! 強引に組み合ってでも取り上げないと豪い事になる!)


「あっ! は、離してほしいのです! もういいんです! 私なんか・・私なんか! 吹かせてほしいです! 私にこれ吹かせてほしいのです!」


(ちょっ! ・・この子取り上げられそうだからって、何口近づけて来てるの!)


「さっせる訳ないでしょ! いっ・・いから・・寄こしなさいって!」


「あっ!」


(やった奪い取ってやったわ! ははっ! だから無駄な抵抗は止めて、素直に渡しなさいって言ったのよ! 伊達に一級神やってないんだから、なめないでほしいものね! あはははっ!)


「あっ・・返してそれ大事な物なんです! それ失くすと私、皆に怒られちゃうんですぅ・・だから返してほしいのです!」


「そう・・これ返してほしいの? だったら三回回ってワンとでも言ってもらうかしら? それとも這いつくばって靴でも舐てもらおうかしら? ・・ふふ・・あははっ、あーっはっはっはっ!! はっ!?」


(え? 私は今何を? ・・日頃の疲れが溜まってるのかしら・・)


「うぅ・・それしたら本当に返してくれるんですか?・・それじゃあ靴を・・」

「そう、だったらさっさとおやりな・・っくていいから! 私が悪かったわ、やらなくていいから!!」


(危ない・・言ってる側から危うく靴舐めさせる所だったわ・・私今それを見て悦に浸りそうに・・背中の方がゾクゾクって・・絶対疲れてるわ・・。

 そうよ! この所ずっと今詰めて仕事してたせいなんだわ、きっとそう・・深呼吸して落ち着くのよフレイ、あの子の目を見てはダメ、どうもあの、私をイジメて下さいみたいな目を見ると、何かが駆り立てられる感覚が・・ダメダメ・・す~・・はーー、す~・・はーー・・良し落ち着いた。

 もう大丈夫、私は大丈夫よ・・冷静になって考えたら、何でこの子わざわざハードルの高い方選んだのかしら? ・・どうでもいいけど)


「・・もういいです・・はぁ・・私って何で何やっても上手く行かないのですか? ・・どうせ私なんて・・」


(な、何かブツブツ言い始めたけど、諦めてくれたみたいね、どうやら最悪の事態は免れたわ。・・それにしてもどういう神経してるのかしら? 都合が悪くなった瞬間に堕天してラッパ吹こうとするとか・・。

 そもそもそんな子に、こんな物騒な物渡しておく向こうの神の神経を疑うべきかしら? ・・あぁ頭痛が酷くなってきたわ・・胃もキリキリしてるし、早い所終わらせて今日はすぐにでも休みたいわね・・。

 ラッパはこのまま返したら危険だから、後で配送する様に頼んで向こうに送り返しておきましょう。でも、その前に・・)


「あぁもう何でキョウまで落ち込んじゃうのよ! 泣きたいのも落ち込みたいのもこっちだって言うのに・・」

「そうなんだよな・・アタシら揃って落ちちゃったんだよな・・はぁどうしようタジカラ様に顔向けできないよ・・」

「何言っちゃってるんですか! 私の大事な物あんなに粗雑に扱って捨てた癖に! 思い出したらまた・・あ~~~~~!!」

「私・・ヴァルキリア落ちてもうただけやなくって、扇子の神さんとしても失格や・・どうしよこれから・・」


「「「「うわああぁぁぁあああ!!」」」」


(あっち何とか収まったと思ったら、こっち四人に増えたわ・・全く・・)


「あなた達いい加減にしなさい! 嘘泣きはとっくにバレてるのよ!」


「「「「いやマジ泣きですから!!」」」」 


(っく・・あぁもう次から次へと問題ばかり・・私は保育士じゃないのよ?)


「いい? 約束を守れなかったあなた達が悪いの、時間は有限なのよ・・まぁそうじゃない特別な存在も何人かいるけど、間に合わなかったのはあなた達の責任なの、ここへ時間通りに受付を済ませるのも立派な試験の内なのよ? わかったら大人しく帰りなさい。・・私の方から後であなた達の上司には連絡入れておいて上げるから・・」


「ちょっと待って下さい! 私は諦めないわ! こんな所ではいそうですか何て言って、素直に帰る気なんてさらさらないから!」

「そうだ! アタシらが遅刻したのには理由があるんだよ! それを聞いてからでも・・」


「言い訳無用! 他の子達は皆時間通り来れたのよ? 逆に聞きたいくらいだわ! どんな理由があればこんな時間まで遅刻出来るの?」


「あのぅ・・無用と言いながら、言い訳聞いちゃってるのですよ?」


「あなた・・何時までそこでウジウジしてるつもりかしら? 中にいるブリュンヒルデに推薦状と応募用紙、迅速かつ速やかに持って行きなさい!」


「ひぃっ! は、はいただいまですぅ~~~・・」


(はぁ・・これでようやく一人片付いた・・)


「っで、言ってみなさい・・聞いてからでもと言う事は、聞けばこちらが納得する理由が、ちゃんと用意されていると言う事よね? ならチャンスを上げる。この私を納得させる事が出来る理由だったら、素直に認めてこの場で合格させて上げるわ」




「はぁぁぁあ!」


「甘いですよ! せいっ!!」


[ダムンッ!!]「・・ごはっ!!」


(参ったな、綺麗な一本背負いだ・・っぐ・・背中が痛いね・・こんなのは本当に久しぶりだよ、ワクワクするね)


「もういい加減参ったしたらどうですか?」


「ははっ、そうしたいのも山々なんだけどね、俺には俺の意地ってものがあるんだよ、それに今ので大体20%位かな? 色々気を使ってる物でね・・」


「強がりですか? 私には満身創痍に見えますけど?」


「やだなぁ、あんまり俺を挑発しないでくれよ・・抑えるのに必死なんだからさ・・」


(この子は一体どの位までなら壊れずにいてくれるだろか? これ程の逸材これからも長い付き合いでいたいよね・・でも合法的に力試しが出来るチャンス、そうないしなぁ・・これを逃すともうないかもしれないよね・・なぁ相棒? 君もそう思うだろ?)


「悪かったね・・やはり気が変ったよ・・手加減はなしだ・・久しぶりに相棒の力を奮わせてもらおうかな?」

「相棒? っと言うといよいよミョルニルを使われるんですね? でしたら私も本気を出さざるを得ませんよね・・」


(本気だって? この子どこまで俺を楽しませてくれるんだ! ・・だが何か違和感を感じる・・いや、それは今に始まった事じゃないんだが・・今際立って妙だと感じる何かが引っ掛かる様な・・)


「まっ、どうでもいいか・・それじゃあ行くよ! 天を割き地を穿て! その閃光は裁きの雷! 我が最強にして最高の相棒! ミョルニール!!」




「あのね・・つくならもっとマシな嘘を付きなさい・・よりにもよって、腰巻しかしてない裸のマッチョがおもむろに股間から金槌見せて、笑いながら襲って来ただなんて作り話しして来るなんて・・本気でそれで私が信じて納得すると思ってるの? あなた達には失望・・」


(いえ、待って・・たった一人だけ心当たりがある! ・・まさか)


「本当なんだ! 信じてくれよ!」

「そうなんよ! ほんまの事なんよ、ほんまにシノちゃん襲われててん!」

「そうよ! あの変態さえ現れなければ私達全員間に合ったんだから」

「そうですよ! 金槌さんさえ現れなければ遅刻も私の大事な・・コレクションも・・」

「私のもなぁ・・」


(この子達が嘘を言ってる様には見えない・・か、それにずっとしていた嫌な予感が、ここに来て更にピリピリと強くなって来ている。何かが・・え?)




「ハンマーーーー!!」


「ふふん! その程度の攻・・撃・・・・な・・」


「あーっはっはっはっはっはっはっ!!」


(む? 消えた?)




「えっ? ・・何あれ? ・・あ、あなた達ちょっとそこどきなさい!」


「おわっ、ちょっと・・何なんだよ! 急に押しのける事ないだろ? 全く・・」

「ほんまよ! いくら偉い人言うたかて、ちょっと強引すぎない? 何なん? 血相変えて・・」

「そうよ! こっちが言った事に信憑性がなかったからって、事実は事実なんだから! そんな横暴・・」

「そうだ! そうだ! 皆さんの言う通り、遅刻したのは金槌さんせいなんです。決して私が悪い訳では・・」


「「「「あっ・・」」」」


 不意に振り返り見た景色は・・。


「シノ・・どうやらアウトだったみたいね・・ここまでだわ・・。皆? そろそろ帰る支度した方がいいみたいよ?」


 私の想像をはるかに超える規模の・・。


「・・ふぇ? ・・え? ここまで? ・・あはは、そうだよな・・」


 まるでお伽話に出て来るかの様なキラキラとしていて・・童心にでも返ってしまいたくなる様な。


「・・う~、あかん悪夢見てもうてるみたいやわ・・私もしかしてまだ夢の中なん? そやったら・・後ちょっと・・後少し・・後なんぼか早う起きてたら・・」


 そんな光景が広がっていて・・。


「誰か答えてもらっていいかしら? あ、あなた達・・あそこで何が起きているの? 私にはアースガルドの街が、消えていってる様に見えるのだけれど・・」


 大きな爆発に反射した雷がキラキラ輝いていて、まるで色鮮やかなミニチュアに見える街並みが、地平線の彼方へと伸びる爆風に飲まれ、最初からそこになかったかの様な・・。


「ミ、ミキちゃん・・せ、説明して上げたらどうですかね? 物凄く大きな爆発の正体・・」


 全然別の場所にいるはずなんだ。これは私の夢なんだって。


「ちょっ! 何で私なのよ! 全く・・私にわかる訳ないでしょ! 元凶はあんたなんだから・・ねぇそんな事よりあの爆発どこまで広が・・はひゃっ!? ・・・・ば、爆風がぁぁあ!!」


 ドキドキと心臓が高鳴って、いてもたってもいられなくなる様な・・。


「うわぁぁぁぁああ! 皆爆風に呑まれて立ってられないじゃないですか! 退避して下さい退・・!」


 そんな景色、自然と笑みがこぼれてきて・・。


「・・ぁあー!! ・・シ・・何て? ・・風・・閃光・・眩しって・・聞こ・・ないし・・目が・・おえぇ・・砂、ホコリが・・口・・入って! ・・やべぇ・・ぇぇええ! ・・あっぶない! コン・・リート飛んで来・・たぁぁあ!」

「えぇ? 聞こ・・ない? 耳・・目も・・何がどうなって・・か一切わか・・んだけどぉお!」

「あは・・ははっ! 今何かで・・いぬいぐる・・! 飛んで・・ましたよ!」

「何・・あんた・・笑っ・・のよ! き、聞こえたわよ!」


 これからの私の生活に、何か取り返しのつかない事が起こってしまった様な、そんな予感がソワソワして、感情と入り混じって、何だか気持ちが高ぶったせいか涙が出て来ちゃいました。


「な、何とか治まったみたいね、み、皆大丈夫?」

「うぇ、っぺ! っぺ! ・・あぁ・・何とか・・はぁ・・シノお前は?」

「こ、こっちも平気ですよ・・体中頭の上まで砂ホコリが・・あたたたたたぁ目 目がぁぁあ! 頭の砂払ったら入ってぇえ!」

「・・二人共大丈夫そうね、キョウ? あんたは無事?」

「・・・・へぇ? 何? 何かあったん? 今な、私夢の中におんねん。とんでもない悪夢にうなされてもうてん・・早う起きなお母ちゃんにまた怒られてまうわ・・あはは、あははははは、あはははははははは・・おかしいな? 夢のはずなのに一向に起きれへんわ」

「いやぁあ! 正気に戻って! お願い目を覚まして! これ現実だから! 私の目を見て、気を確かにもつのよ!」

「ほへ? ・・これ現実なん? ・・そやったら今までの事、ほんまの事なん?」

「え、えぇそうよ・・認めたくないけど・・事実なの!」

「おい、皆・・見て見ろ、あの人すげぇぞ! 立ったまま放心してる」

「ちょっと皆さんチャンスですよ、このまま受付受けたフリして中入っちゃいましょう」

「入っちゃいましょうって、発想子供かあんたは! これで入って行って誤魔化せる訳ないでしょ・・ここは素直に」


「あぁ・・」「そやね」「はい」


「「「「中へ」」」」


「あ、あなた達・・どこへ行こうって言うのかしら?」


「ひぅ!」「やっぱりバレてた!」「あかん見つかってもうた」「ッチ!」


「バレてるに決まってるでしょ! 一体あそこで何したの!!」


「「「「ぎゃ~~~!! ごめんな~い!!」」」」




「全く何考えてるんですか! 街一個吹き飛ばすなんて・・いくら魂体となった者が、次の日になれば復活するとはいえ、とんでもない規模の損害が出ましたよ! 規模が規模ですが、こんなくだらない事で、まさかウルドを呼ぶ破目になるとは思いませんでしたよ!」


「いや~、すまなかったね本当、見かけた瞬間嬉しくなっちゃって、この子が話に聞いた子かもって思ったら、力試ししたくなちゃったんだよ」


「力試しって・・また勝手に・・面接官でもないトール様に合否判断なさる権限はないと言うのに・・はぁ、帰って来るなり、いきなりその様な暴挙強行に走るなんて・・信じられません!」


「あー・・っはっは、すまなかったね、噂を聞きつけて遂・・いてもたってもいられなくなっちゃったんだ」


「遂じゃありません! トール様の場合、その遂で殺しかねないじゃありませんか! それで向こうの神と険悪になってしまったら、条約違反の上に国際問題に発展してしまいますよ! その事おわかりになられているのですか?」


「確かにそれはマズいね・・あっ! でも手加減したし、現に全員無事だったし もし死んでも魂体になるだけで次の日には元気元気で元通り・・ね?」


「ね? じゃありません! 可愛く首傾けてとぼけてもダメな物はダメなんです! 許されません! この事は後でオーディン様を交えてしっかりお話させてもらいます! よろしいですね?」


「あぁ・・了解したよ」


「返事は、はいでお願い致します!」


「・・はい・・」


(はぁ、全くトール様は・・帰って来て早々問題を起こすだなんて、あの子達が無事だったから本当に良かったものを・・でも、ここに来てやっぱりおかしい気がするわ・・本当にこんな事、トール様自身が自分の考えでするのかしら? 相手が一級神ならまだしも、二級神、ましてや三級神を相手に力試し?)


「いや本当参ったね、何時帰って来ても君の雷が一番凄いよ、なぁ相棒・・」


「・・本当にトール様ご自身の判断でなさったのですか?」


「ん? あ、あぁ・・そうだよ」


(・・・・・・嘘を付いている・・それも明らかに誰が見てもわかりやすく目を反らしたわ。やっぱり誰かが吹き込んだ。そうみるのが自然・・噂? この子が話に聞いていた子かも? 一体どんな噂話が・・)


「まぁまぁ、彼を叱るのは、そこまでにしておいて上げてくれないかな?」


「ん? やぁロキ、そっちはどうだったんだい?」

「うん、収穫ありだよ、いい子ばっかりだった」


「あっ、ロキ様面接官のお仕事、引き受けて下さって、ありがとうございました」


「うんうん、別に構わないよ、お陰で退屈しないで済んだし、あの子達が本格的に活躍し始めたら、次のラグナロクは面白い物になるだろうしね、はいこれ」


(これは応募用紙? 既に合否の判決が済んでいるわ。・・適当にやった・・訳じゃないのよね? ロキ様は自分で進んでやると言ってやった事に関しては、誰よりもキッチリこなす方)


「もうですか? 面接側の合否は一週間後の通達を予定していましたが・・お早いですね、相変わらずの手際で・・」


(やっぱりこの方に任せて正解だった・・でも、手際が良すぎる気がするわ。まるで先を視て来たかの様、この方の観察眼は見透かされている様で怖く感じる時がある。でもそれだけこの結果に、信頼がおけると言う事は確かなのよね)


「そう言うの決めるのには自信があるんだよ僕・・そんな事よりも、あんまりトールをイジメないで上げてくれよ、彼だって次のラグナロクを楽しみにしている一人なんだからさ、ねぇトール?」

「ああ! そうとも! だからこそ、いいエインヘリャルを選別し育ててもらう為に、いい人材か確かめたかったんだよ!」

「だそうだよ? 期待しているだけに居ても立ってもいられなくなった・・違うかい?」

「あっはっはっ! その通りさ、ついつい試してみたくなっちゃってね! 失敬、失敬」


(んー・・誘導している様に聞こえる・・現れたタイミングも良すぎる・・。この方ならトール様を簡単に口車に乗せられる。

 でも、確かにそう考えるとやりかねないかもしれない・・過去幾多のラグナロクの祭典の際にも、必ず旅先からひょっこり帰って来ては観戦していた。今のトール様にとってラグナロクは唯一の楽しみ、確かめる動機としては十分あり得るのかも・・。

 どの道ロキ様を疑うにしても、証拠なんてどこにもない、過去の出来事が原因で下手に疑った所で、断定出来ないなら考えるだけ徒労だわ、ならやっぱりここは保留にしておいて、警戒しておく程度に留めておく位で丁度いい・・か)


「まぁとにかく、今から一緒に来てもらいますからね?」


「ああ、それは構わない、俺が悪いんだからね・・ただあの子達は許してやってくれないか? 彼女達は俺が言うのもなんだが、中々の逸材だと思うよ? 何だったら俺が推薦状を書こう」


(なっ!? 何ですって? トール様が推薦? しかも書く? 自らのサインを書くのも面倒臭がるトール様が、あの子達の為に?)


「ふふ・・あはは、それはいいね君が推薦か・・それじゃあ間違いないね、フレイどうするかは君が決めればいいよ」


(無責任な事言わないでほしいわ、あの子達には明日の朝帰る様に既に言ってしまっている・・幸い向こうの神様達にはまだその報告はしていないけど、どうしたものかしら・・トール様は戦い以外に興味を持つ様な方じゃない・・そんな方の推薦状が出る? 興味を持たれた? もしかしたら本当に逸材なのかもしれない・・。

 建物の時を戻しに来てくれたウルドに、過去の映像を見せてもらった。

 三人はともかく・・一人、事が起こる前に既に遅刻コース確定、そして推薦状を忘れて来た事も、更に言えば事の発端であり、逃げる為とは言えトール様に幻覚何か見せ、街があんな風になった元凶・・。

 確かに新しい風は欲しいわ・・でもトラブルメーカーはお断りしたい・・う~ん悩みの種がまた一人・・)


「それじゃ、僕はちょっと野暮用があるからこれで失礼するよ、じゃあね二人共」


(・・・・・・後ろ姿何て眺めても、尻尾何か出す訳がないわよね? ダメね警戒して神経質になるのも程々にしないと・・それに今は、目先の成功と収穫にだけ目を向けましょう。でも、あの子はどうしたものか・・)


「さぁ私達も行きますよ」

「了解した! 所でそのヒール中々いい物だね」

「・・・・褒めたって許しませんよ」

「あはは、つれないな~」


(と、取り敢えず・・流れに乗ってみるのも悪くないかもしれない・・と言う事にでもしておこうかしら?)



「行ったか・・」


(くくくっ・・あははははははははははははははっ!! トール相手に手加減されていたとは言え、善戦するだけじゃ飽き足らず。まさかミョルニル使わせちゃうとか、あはははははっ! あの三姉妹が選んだあの子・・、わざわざ旅先に行って変身までして、けしかけた甲斐があったってもんだよね。

 ただ・・残念だな、その現場を生で見る事が出来なくて・・まぁ面接官引き受けたのは僕なんだし、それはそれで必要な事だったしね・・。

 全部計画通りだとちょっと拍子抜けだけど・・でもこれでもっと面白くなる・・くふっくくくくくく・・あははははははははっ!)


「あ~ロキ様だ~」


(ん? あれはフレイア・・珍しい事もあるもんだ・・)


「やぁ、珍しいね君も来てたんだね」


(彼女は警戒しなくてはならない・・)


「なっ! む~・・ロキ様までそんな事言う~今日二度目だよ~、お姉ちゃんにも今朝言われちゃったばかりなのに~」


(おどけた感じに見えるが、三姉妹誰に変身してもこの子の動向を探る事は出来なかった。正確には見せられている感じがしたが正しいか・・)


「あはは、そうだったんだゴメンゴメン、君も噂を聞きつけて見学に?」

「そうですよ~、大好きなお姉ちゃんの仕事ぶりも見れるし、ラグナロクは私も楽しみにしてるんだ~」


(未来を視ても、過去を視ても、そして現在・・私ってこういう女なんですって言うのを、これでもかって位わざとらしく見せて来る)


「そっか、だったら期待してていいよ、今日までの面接通して見て来たけど、どの子もいい子ばかりでさ、どの子を合格させようかより、どの子を落とさなくちゃいけないかで悩んだくらいだからね」

「あっそっか~、ロキ様が面接官やってたんでしたね~」


(そして肝心な所は何時もフィードアウトして妨害される・・まぁそれはこの子に限った事ではないけどね、僕も同じ事してるんだし、それにしてもあの三姉妹、毎度雲隠れしながら使っているのに、良く見つけてくれるよ全く・・お陰で退屈しないで済んでるんだけどね)


「ああ、そうだよ今日が最終日で、たった今さっき終わって、君のお姉さんに合否を渡して来た所だよ」

「うわ~! 仕事早いんですね~流石ですロキ様! フレイアとてもじゃないけどそんなに早く出来な~い、どの子にしようかな~この子にしようかな~って一週間は悩んじゃうかも~」

「まぁね、観察眼には自信があるんだ」


(・・・・この子、やっぱ危険だな・・以前から思ってたけど僕と同じ様な匂いがするよ・・)


「ところでロキ様? 君もって~フレイアの他に誰か来てたんですか~?」

「ん? あれ? 君知らなかったんだ。トールが来てたんだよ、てっきり君も会ってたのかと思った」

「えっ? トール様来てるの~? 珍しい~フレイアずっと宮殿の中で遊んでたのに、お会い出来なかった残念~お久しなんで挨拶したいのに~・・」

「あはは、それこそさっき君のお姉さんに連れられて、オーディン様の所に向かって行ったから、まだ間に合うと思うよ?」

「そっか~じゃあ行ってみよ~!」

「あぁ、急いだ方がいいよ、彼の事だすぐにまた旅に出ちゃうといけないから」

「は~い! それじゃロキ様バイバ~イ!」

「それじゃあね、バイバイ・・」


(余分な事は喋ってないと思うけど・・)


「あぁそうだロキ様~」


(ん?)


「あんまりお姉ちゃんを困らせる様な事だけはしないで下さいね~」


(顔はニコニコしているし、口調も何時も通りなのにこの威圧感・・やっぱり姉妹か・・)


「それだけっ! キィィィィイイン」


(ははっ、参ったね・・どこまで読まれているのかわからないけど、これはこれで面白い・・)




(ふ~ん、会っていた・・ね、喜び勇み出て行くトール様。・・ロキ様? あなた様はトール様と私が入口ですれ違うちょっと前、何をお話されていたんでしょうね~? ふっふっふ~ん、・・さてと、それも含めて相棒に連絡しておかないとね)


「・・あっもしもし? ゴメンね、やっぱり何か企んでたっポイんだけどさ~、最終日の今日なら油断してるだろうと思って調べてる途中で地鳴りに地震でしょ? 急いで外に出たらあの有様だったって訳、でも一つわかった事があるよ~、トール様をけしかけたのはロキ様で間違いないよ・・え? 街なんか壊れる予定なかった? 何それ? こんな大事な事聞かされてないって事? 流石に妹に信用されてなさすぎじゃ・・・・え? あはは! ゴメンゴメン。そっか~・・つまりあいつは何らかの理由で未来を変えたって事だね?」


(凄く喜んでるみたいだった・・つまり目論見が上手くいったから、じゃあ何が? 街を壊す事? だったら既に元通りだ・・それじゃない、トール様に暴れてもらうのが目的? それも何か違う気がする・・)


「・・・・成る程、でもそれだと探る手立てがないって事だよね?」


(変る前の未来? もしかして私の注意を反らす為? でも、あの時はまだロキ様は面接をしていた・・大勢の目の前で何かしたのなら私じゃなくても気付くはず・・う~~~~ん・・うん! わかんないや!)


「はぁ・・そうだね、何か企んでるのは事実なんだけど、今の所悪い事してる訳でもないし・・お姉ちゃんこれからもっと忙しくなるから余計な心配かけたくないし、今まで通り二人で頑張って行くしかないか、

・・うんじゃあまた何かあったら連絡するよ~、またね~」


(ふぅ~・・収穫はあった様でなかったか・・地道ね~)


「私は地味なのよりもっとド派手にドド~ンとっ! してる方が好きなんだけどな~・・」



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