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戦乙女の黄昏  作者: いさらゆたか
1/15

0 プロローグ 始まりの 流れに任せて



 ラグナロク、それは神々の黄昏・・神族と巨人族による世界の終末戦争である。

 ヴァルキリアの仕事、それは戦死者を選定する者、戦場を駆け戦死した勇者を選び、来るラグナロクに備え着々と勇者を選別する者・・。


 今や時代が移り変わり、科学の発展と供に戦場での英雄の選出が難しくなった現代・・って言うか戦争そのものが少なくなり、ここ日本においても平和その物となった今日この頃・・。

 天界の様子も様変わりし、すっかり和解してしまった神族と巨人族は、退屈すぎてすっかり黄昏ていた。



「マスターネクタル二つね! それと何かつまみ頂戴!」


「あいよ!」


「はぁー・・今日も働いたなー・・」

「良く言うよお前の仕事って俺より楽だろ? 確かパンの耳を丁度良くカリカリにする仕事だっけ? 俺なんか靴紐だぞ?」

「はぁ? お前バカー? パンの耳ってどんだけ作られてるか知ってるのかよお前? 俺の管轄内だけでも、毎日ひぃひぃ言うくらい沢山出来るんだぞ? それに比べてお前の方って、上手く結べない子供を応援したり、立て結びになってますよーとかほどけてますよーって言うだけだろ? そっちの方がどう見ても楽だろ?」

「あのなー俺達がそれしないと結べない奴とか、諦めちゃう奴とか大量に増えるんだぞ? その辺歩いてる大人が皆マジックテープの、ボーリング場にあるみたいな靴履いてたら、お前ヤバイと思わないの?」


「へいお待ち! それとつまみのセーフリームニルのローストポークね」


「お! 来た来た! 仕事の終わりはこれだよなー」

「全くだ! カンパーイ・・んっぐ、んぐんぐ・・プハーやっぱこれだよな!」

「んぐんぐ・・く~ふふ・・ああ! 仕事終わりのネクタルたまんねぇーな・・この体にしみわたる感じ 俺絶対今寿命伸びたわ! 神酒だけに神ってるよな!」

「あははっ全くだ! って言っても神な俺達が飲んでも寿命なんて伸びないけどなー、元々不老不死だしな!」


「・・・・なぁ」

「ん? どうした? ハァムン・・く~うめー」

「・・・・俺思ったんだけど、何か退屈じゃねぇ?」

「ん? 急にどうした? 今仕事終わりの至福の時に浸ってたじゃん」

「いや、確かに今一時はそうだけどさ、毎日毎日同じ事の繰り返しで何かやっぱ退屈じゃねぇ? 何かすっげー事とか起こってくれないかなーって思ってさ」


「あ? 例えば?」

「例えば? ・・例えばって、すっげー事はすっげー事だよ、俺ら神でもビビっちゃうくらいの驚きって言うか・・盛り上がり? 的な事件みたいなもの・・そう! やっぱすっげー事だよ!」

「え? いやでも俺達神じゃん」

「・・うん」

「じゃ退屈って事はさ、平和って事でいいんじゃねぇ?」

「毎日同じ仕事してて飽きないのお前?」

「・・・・正直飽きたわー・・」

「何か面白い事やんないかなー・・あーほら地上の方でさ、四年に一度競技する奴あるじゃん」

「ん? ・・おぉ! あれな、オリンピックだっけ? あれ盛り上がってるよなー俺もたまに見るわ、ははっ・・でそれがどうしたんだよ?」

「いやほら、俺らん所にさ、エインヘニャルだっけ?」

「違うだろ! ヘニャってどうする! エインヘリャルだろ? それがどうかしたのかよ?」

「ああ! それそれ、ヴァルキリアの連れて来た勇者! あいつらさ、使えないかなーって思ってよ」

「は? 使うって何に? あいつらの役目ってラグナロクに備えて日々修練して、いざその時が来たら戦うのが仕事だろ?」

「そう! そうなんだよ! あいつら日がな一日戦ってて、殺されて復活しちゃー宴して、殺されて復活しちゃー宴してるだけだろ?」

「お前・・そんな言い方してると、フレイ様の辺りに怒られるぞ?」

「んな事言われてもその通りだろ?」

「んー・・まぁそう言われれば・・そうだし、そうじゃないと言われれば・・そうじゃないし・・・・

いやいや、あいつら俺らと共に巨人族と戦う為に、日々鍛錬してくれてるんだから、ダメだろその言い方」


「まぁな、俺も言い過ぎたわ・・だけどよ、良く考えて見ろよ? もうさ、敵・・いないんだぜ? 巨人族とはとっくに和解しちゃったし、あいつら何に備えて修練してるの?」

「えっ? ・・・・悪魔とか? ・・あ! あれだよ宇宙人的な奴! 俺達神の世界にもまだ知らない別の宇宙人・・宇宙神とかいてそれ向けに修行してる感じ、うん! これならいけるだろ!」

「いけるだろって何だよ! いねぇーよ! いたらもっと交流弾んでるだろ? 俺達が管轄してる地球以外の別の惑星の神とだってたまに交流してるし、ここ以外の異世界との交流だって壁越しとは言え、たまにしてるだろ? それ以外の更なる外宇宙ってどんだけだよ!」


「・・・・って言うかお前さっきから何が言いたいんだよ? ハッキリ言えよな」

「だからさ! 俺達神の国もオリンピック? みたいな感じで四年に一度、ラグナロクっちゃわないなーって思ってさーそしたら絶対面白いって!」

「・・・・何言い出すかと思ったら、くっだらない事考えるよなーお前・・そんなこと考えてる暇があったら真面目に仕事しろって、まぁあったら面白いかもだけどな!」

「だろ? いい案だと思うんだよ俺」

「あははバカだなお前、四年に一度世界の終末起こるってヤバすぎだろ!」



 ・・・・・・。


「お客さん注文決まったかい?」

「あはっそうだね決まったよ、僕ちょっと用事思い出しちゃったから失礼するね」


「え? あっお客さん・・」

「どうしたんですかマスター?」

「いや今のお客さんずっと座ってたのに、注文もしないで水だけ飲んで出てっちまったから・・」

「え? あー・・さっきの方って・・大きな声では言えないんですが・・ロキ様ですよ・・」

「ええ!? ロ、ロキ様だって? サングラスにマスク何かしてるから、全然気付かなかった・・」

「えぇ・・私も最初は、でもあの方結構頻繁に色んなお店来てるみたいなんですよ・・」

「へー、そうなのか・・知らなかったー・・」

「って言うか・・何で変装なんですかね? 得意なんだから変身しちゃえばいいのに・・」

「さぁ・・」


 どこでどうしてこうなったのか・・四年に一度ラグナロクが開催される事になりました。

 天界で一大ブームとなり観戦招待客として来た別の国々の神々も大盛り上がり、あれやこれやと交流が進み今や神々の間の隔たりは無くなり、どの国の神も協力、出資を惜しまない程です。

 ですが、最初の内盛り上がった神族側と巨人族側とのエインヘリャル同士の競技と言いますか、戦と言いますか、まぁ・・毎回同じ面子が揃うのでマンネリ化し始め・・。


 巨人族側のエインヘリャルは、最初の決まりで元いた神族側のエインヘリャルをドラフト分配、その後はこちらにならいヴァルキリア・ノワールを発足。

 ・・したのですが、あちらの新人さん達は、勇者や英雄と言う存在とは程遠く、功績のみを重視した何て言ったらいいのか、性格に難ありだったり、下手すると現世で殺人鬼と呼ばれていたりする狂人がいたりと・・。

 寧ろ今の世の中でもそう言った人間は尽きる事がなく、勇者英雄の選定よりもどんどん集まって行くのが現状でして、最初勝ち続けて来た神族側は段々数で押されて行く様になり、等々負けがかさむ様になっちゃいました。


 現状を何とかせねばと急遽開かれた会議の席で「勇者英雄が誕生しないなら、育てちゃえばいいじゃない?」の一言により、ヴァルキリアの仕事内容は少し・・いえ大分変りました。


「え? それってどう言う事ですか?」


「落ち着きなさい、今説明した通りです」


 年末年始に行われた特別企画の番組よろしくな時間をかけて行われた重大にして敬うべき、ありがたい神々による会議の結果をヴァルキリア達は後日集められ、その内容をフレイ様から発表されたのですが・・。

 会議で決まった内容、それはつまりこう言う事でした。

 仮想現実世界を沢山創り、その場所へ育てるべき人間を送り込み、物語の主人公の様にもてはやし俺強えぇを堪能させている内に勇者へと育て上げ、簡略的につまりインスタント英雄を拵えてしまおうと、そう言うお話でした。


「って、送り込む人間・・これってありなんですか?」

「私も疑問です。事故や自殺した人間を捕まえて、簡略的に偽の英雄へ仕立て上げラグナロクへと送るなんて・・」

「私達の仕事の範囲を大きく逸脱しています。こんなの納得がいきません!」


「少し黙りなさいあなた達・・確かに本来のあなた達の仕事から逸脱している内容でしょうね・・ですが既に決まった事・・あなた達も知っていると思うけど、ここ最近のラグナロクでは思った様な功績は上げられず連戦連敗が続いている現状、巨人族の集めて来るエインヘリャルは年々増える一方、それに対抗する為に我々が目を付けたのは年々増え続ける事故、自殺者達・・彼らを育て上げ来るラグナロクに備えるしかない・・最早この方法しかないと、話し合いで決まった事なのよ」


「つまりこう言う事でしょうか? ・・神々全体のプライドや面子を保つ為に、我々ヴァルキリア達の仕事に対するプライドは捨てよ、犠牲になれと? そう言う事ですよね?」

「そんなのってあんまりじゃないですか? 私達は何の為に今まで選別して来たか、偽者を量産するなら 結局向こうと同じで質より量じゃないですか!」


「あなた達の言い分は最も、ですが最早ラグナロクはその形を変え、我々神族と巨人族の親睦を深める為の大衆娯楽へと、価値観の違う物へ変貌を遂げているのよ」


「だったら勝ち負け何て・・」


「けれども! 例え形が変われども勝負は勝負・・お互いの面子を賭けたものには違いありません・・それに出資して下さっている別神の方々も毎度負けるとあれば盛り上がらず、いずれ出資を止めてしまうわ・・だからこそ、我々は何としても盛り返さなければならないのよ!」


 フレイ様の熱弁に半ば押し切られる形と言うか、ヴァルキリアの存続の危機でもあると言う話に先輩達は押し切られ、合意と言う事で話は進められました。

 それで具体的にどうするのかと言う事になり、まず選定を行う必要が無くなりました。

 具体的には、まぁ勝手に天に昇って来る魂の中から、該当する者をこちらに流してもらう形になったと言う事ですね。

 さらっと言いましたが、選定を行いヴァルハラに連れて来るのがヴァルキリア本来の姿ですから、根本から否定されちゃった感じですよ・・。

 合意はした先輩方ですが、やはり納得はいっていない様子、一部のヴァルキリアを除いて殆どの先輩方が私達にも意地があると言う事で、本職と言いますか使命そのままのお仕事を続けられています。

 フレイ様もこれを黙って黙認する事にしたみたいで、紛らわしいので先輩方をワルキューレ隊と呼称し分ける事になりました。


「何で私達の方が名前を!」

「まぁまぁ」


 そして更にエインヘリャル候補の数が増えたと言う事で、急遽色んな地方の神々の中から新生ヴァルキリアを広く募集され、私の住む高天原にもその話が舞い込んで来たと言う訳です。




 あは~いい香りですね~・・今年の新作それで行きましょう・・あなたの作ったそのアロマ絶対ヒットしますよ、私の祈りをあなたにー・・ツクモさん達その方の応援よろしくお願いしますね。


「おいシノ、お~いシノ聞いとるのか? お前は・・」


 ムフフ、新作出たらこっそり地上に買いに行っちゃいましょうかね~・・まぁ堂々と行けたらいいんですが絶対許可なんて下りないし・・あーでも欲しいですよね~コッソリ行けば・・ダメダメバレたら厳罰ですよ!

 でも、バレなきゃいいんですよバレなきゃ・・フヒヒ。


「全くこいつは現世鏡に向かってだらしない顔しやがって、全然俺に気付いてない・・集中力があるのは認めるが、上司が来た時くらい仕事の手を止めないか!」[ポコッ!]

「あだっ!? いきなり何するんですか! って何だウワハル様じゃないですか、いきなり頭を叩いて来るとかDVですよね? いい加減止めて下さいよ」

「いやお前がボーっとしとるのが悪い・・それとお前DVの使い方間違ってるぞ、それだとお前と俺は夫婦になっちまう」


 ボーっとしてるなんて酷い! 私だって年がら年中ボーっと何てしてませんよ! 現に今丁度お仕事中だったじゃないですか!


「えっ!? そうなんですか? そんなのごめんです。ウワハル様はせいぜい親戚のおじさんくらいが丁度いいですよ」

「なっ! お前酷い奴だな、仮にも俺はお前なんかより、かなり上の神なんだぞ? もう少しお世辞でもウワハル様と例え冗談でも夫婦だなんて私嬉しです。くらいの事言えんのか?」

「言えませんね、そんな事より新年明けましたし、親戚のおじさんのウワハル様としては私に渡す物とかないんですか?」


 ウワハル様の前におくれと言わんばかりに手を差し出し、例の物をまだ貰っていない事をアピールする私。


「・・・・あ? ・・・・う~~~~~ん・・何かあったか・・おお! そうだ悪い悪いこれをお前に渡す為に、ここにわざわざ来たんだった。はは手に持っていたのにすっかり忘れていたぞ・・ホレ」

「・・? 何ですかこれは? 分厚い本と・・推薦状? それと何かの応募用紙の様に見えますが・・君もヴァルキリアになって見ないか? 資格経験一切不要・・現地スタッフが丁寧に教えます? ほんと何なんですかこれ?」


 私の手には予想した物と遥かに違い、要説明物体が乗せられて来ました。


「ぁあ? そこに書いてある通りだ。何だお前字も読めない程の阿呆だったか・・困ったな、これじゃあお前を推薦した俺まで阿呆扱いされてしまう・・」

「違いますよ! 誰がアホなんですか! そうじゃなくって、私が言いたいのはこう言う紙っ切れじゃなくて、もっとこう有効活用出来る物で欲しい物を手にする時に、ブツブツ交換出来る例の!」


 もっと軽くて薄くてヒラヒラした感じの、こう徳の高い価値ある黄金正方形な紙切れ様が沢山欲しかったんですよ!


「ぁあ? そんな物あったか? っと言うかまさに今俺が渡したそれが、今後のお前の未来を切り開く為の有効活用出来るものだと思うんだが・・ヴァルキリアになった方が今のお前の給料より上がるし、今後花形職業になる事間違いなし、と言う事はそこで活躍出来ればボーナスだって期待できるし、ウハウハだと思うんだが違うのか?」

「違いますよ! えっともうこの際言っちゃいますけど、まだお年玉貰ってないですよ私、他の子で貰ってる子沢山いるんですから私にも下さいよ」

「・・・・お前、転職とは言えほぼ昇進間違いなしの話をわざわざ推薦までして押してやった俺に・・貰う側がお年玉請求するとか・・」

「・・うっ、何かそう言う言い方されると申し訳ない様な・・」


 でも、それならせびる様な形になる前に、自然な形ですんなりくださいよ。


「まぁ・・くれてやらんとは言ってないがな・・ホレ、すまんな俺の方も忙しくてな、中々お前達に渡しに来てやれなかったが・・」

「うはぁ!! ありがとうございます! ウワハル様大好き! 冗談とは言え夫婦だなんて私嬉しいです!」

「・・・・現金な奴だな・・誰に似たんだお前は・・っでこの話受けるのかお前?」

「はい! 折角なんでお受けします! ムフフフフ~これで何買っちゃおっかなー」


 フヒヒ・・さてさて、いくら入ってるのかな~、ひいふうみい・・諭吉様が3枚も入ってますよ、ありがたやーありがたやー。

 さて、こうしちゃいられませんよ! 何買っちゃおっかな~!


「あっ! そうだ一応言っておくが俺の推薦状失くすなよ? 推薦状がない奴は・・っていない・・今更だが、本当にあいつで大丈夫か心配になって来たぞ俺・・」



 急いで帰りお父さんとお母さんにその話をすると、二人共大喜びでお祝いしてくれましたよ、それはもう盛大に・・私としてはお年玉のオマケで話したつもりだったのですが・・。

 でも、こうなると悪い気はしませんね、そう言えばウワハル様がヴァルキリアになれば給料上がるって言ってたし、活躍すればボーナスって言ってましたね・・これってもしかして、私今年ツイてるのかな?

 何だか段々ヴァルキリアになるのが、楽しみになって来ましたね!!


「ほらドンドン食べなさい! お母さん嬉しくって張り切ってご馳走作ったのよ! それにあなたお餅好きだったでしょ? だからお雑煮でしょ、醤油餅にきな粉餅こっちはあんこね」

「うわぁーほんとーだーお母さんありがとうーお餅大好きなんだー・・」


 お母さん嬉しいのはわかります。娘がヴァルキリアになるなんて夢見たいって言って、ご近所に自慢して回った気持ちも恥ずかしいけどまぁわかります・・でもね。


「張り切り過ぎだよお母さん! どんだけ作ってるの? 何人前? 誰か呼ぶの? って言うか呼んでるの?」

「ん? 何言ってるの呼ぶのは明日よ? 今日は家族だけのお祝いだから、ね? お父さん」

「あぁそうだとも! ドンドン食べなさい、あっ! そうだ父さんシノがヴァルキリアになるって聞いて 嬉しくなっちゃってなー・・ホラお前こう言うの好きだろ?」


 そう言って持っていた紙袋を渡して来ました・・中身何なのか気になるけどそれ以前に、お父さんの席の後ろに並んでいる色んなお店で買ったと思われる色とりどりの紙袋・・一体・・。


「うわぁー何だろなー・・あっずんだ餅だー! ずんだ餅が・・紙袋いっぱいに・・」


 開いてビックリ、見てビックリ・・そこそこ重いな~何て思いながら、何入ってるんだろう? 何て軽いノリで中身を見て、さっきからずっと気になっていた。お父さんの後ろに並ぶデザインやロゴの違う紙袋に目が移る・・。

 あれれ? 何だろう? この胸騒ぎ? ずんだに恋しちゃったのかな?


「いやーお前お餅好きだろ? だからほらこれは安倍川餅だろ? こっちは信玄餅、そんでこいつは特大大福、イチゴ大福も・・」

「ストップ、ストップストップ! もしかしてそれ全部お餅? いくら何でも食べられないよ!」

「え? でも賞味期限三日くらいあるし、お前何時ぞや一度でいいからもう食べられないよって言うぐらいお餅食べたい、食べられるなら死んでもいいって言ってただろ?」


 胸騒ぎ的中しただけじゃ済まされなかったし!! 三日? え? その量三日って、朝昼晩と3時のおやつ、それと夜食入れたとしてもヤバイ量だよ? それ食べさせる気? 確かにそれなら私死ねる自信あるよ!

 恋してドキドキしてる所のレベルじゃないし! 動悸がして発作のレベルだよ!! ずんだ所か地団太踏んじゃうよ!


「そうそう、お母さんも覚えてるけど? 確か、お餅喉に詰まらせて死ねるなら、本望だってシノが言うもんだから、お父さんと二人で、私ら神様なんだからその程度で死なないよって」

「娘の死因が何なんですか? って聞かれて、喉に餅詰まらせて死にました・・なんて笑い話にしかならないよって、三人で笑ったじゃないか、なぁ? 母さんアッハッハッハッハ!」

「実際死なれたら笑えないけどね、うふふふふふふふ」


 あははでも、うふふでもないよ! 大好きだけど、まさかのお餅祭り・・って言うか夫婦揃ってお餅にしないでよ! せめてそこは話し合って別の物買おうよ!


「確かに言ったけど冗談だよ? 実際実現されたらドン引きだよ、二人共~!」

「まぁまぁそんな事言ってないで食べましょう」

「そうだぞ、折角の出来立てが勿体無い、父さんの方は、後で好きなだけ食べなさい」


 確かにその通りだ・・お父さんもお母さんもやり過ぎだとは思うけど、その全ては私の為・・そして好物には違いない! 人生には避けては通れない戦いが幾度か訪れる・・それは神だって同じ事・・。

 ふふふ・・何時かはこうなってしまうんじゃないかって、全然予感も予想も想定もした事なかったけど とうとう私にもその時が来てしまったようですね? 覚悟を決める時が・・。

 ・・・・こうなったら!!



ー っで? それで無我夢中で食べちゃったんだ ー


「・・・・ふぁい・・食べました・・うぷっ・・しゃ、喋ると・・何か出そう・・」


 食事終了後、動けない体を何とか動かしベッドへとダイブ、体は動けずとも手は動く、親友のハトちゃんへご報告をばと思い連絡したのに・・。


ー あはははははははは! 無理して食べるからだよ! 気持ちはわからなくもないけどね~、私も好物だったら食い付くと思うし! ぷふっ! あはははははははは!-


 凄く笑われました。


「・・もぅ、そんなに笑わなくてもいいじゃないですか・・」


ー ごめんごめん、でもさ、あんたこのままだと行く前にデブっちゃって失格になるかもよ? 何たって! ヴァルキリアってエインヘリャルの人達からしたら、迎えに来る美の女神でしょ? つまり私達神々の顔だよ? それなのに・・っぷ! あははははははははは! ー


 私をからかう為に言ってるのはわかりますが、太って失格とはこれ如何に・・失礼極まりないセリフですね~、ポッチャリだって立派な個性なんですよ!!

 それに、女神だから太りませんから! ・・・・って言いたい! 言い切りたい!

 でも実際問題そんな事がないのが事実・・だって現に去年はお雑煮食べ過ぎて2キロ太ったし・・。

 必死に戻したけど、今年は絶望するかも・・ううんヴァルキリアになれば仕事が忙しくって痩せるはず! うん、絶対にそうに違いない!


「大丈夫! 希望は何時だってそこにあるから!」


ー ・・・・・・ぷふぁっ! あははははははは! あんたいきなり何言い出すの? 新年早々私を笑い殺す気? ー


 親友よ、絶対見返してやるからなー覚えてろよ~! ・・うぷっ。



 それから数日が経ちいよいよ出発日当日、背中にパンパンのリュックと、両手に旅行用の大きなバッグを持ち、ここ高天原より、向こうの神々が住まう場所、アースガルドへ行く為、駅のホームにて家族、ハトちゃんそしてウワハル様のお見送りを受け、これから特急ヨルムンガルドに乗ろうとしている所です。


「荷物全部持った? 忘れ物ない?」

「うん、大丈夫だよ、お母さん」

「大丈夫かい? シノ仕送りはちゃんとするからな、お前の大好きなお餅もちゃんと・・」

「うっぷ・・お父さんしばらくお餅の話はしないで・・」


 拒否反応が・・連日のお餅で好物が少し嫌いに・・あれから三日間の間ほぼでしたからね~、そりゃあもう意地になって食べましたよ、十日経った今でも思い出すと・・うぷっ・・っあダメだ思い出すの中止・・。

 食べて動けなかった分、かえって本読めたので良かったですけどね・・良かったのかな? 本の内容、ウワハル様がマニュアルなんて言うから、何か操縦したりとかしなければならないのかと思ったら、今までのヴァルキリアの歴史と使命役割についてと、これからの新生ヴァルキリアとは何ぞや? と言う事がご丁寧にズラッと書いてある教科書みたいな物でしたよ。

 え? ちゃんと全部読んだのかって? 勿論! ザッと見ですけど・・。


「いししし・・良かったねシノそんなに太らなくて」

「ふふん! 何だそんな事か、ハトちゃん余計なお世話なんだよ、女神なんだから太る訳ないじゃない!」


 本当は今年も2キロ増えました・・。


「いや今年も確実に太ったよね? そもそも去年、2キロ太ったどうしよう! 助けてハトちゃん! って相談して来たのシノだからね? あんたのダイエットに散々付き合わされた事、私忘れてないから」

「・・う・・うぅ・・ム、ムガー!! あぁそうですよ太りましたよ! いいの! これから仕事忙しくなれば痩せるんです! 見てろよハトちゃん次会った時は元より痩せてやるからー!」

「おぉ! 大きく出ましたなーそれは楽しみ、せいぜいその日まで励むが良いぞ、親友よ! おーっほっほっほっほっほ!」


 ぐぬぬ・・何でこんな敗北感味わってるの私、どう考えても完全に私事なのに! でも・・でも・・く~や~し~い~! そ、その時になって吠え面かくなよ~!


「おい、シノ」


 何ですか? ウワハル様・・今のやり取り見てなかったんですか? このタイミングで声かけるとか、相変わらずの空気ブレイカー様ですね。


「俺の渡したマニュアル本と応募申し込みの用紙、忘れずに持ってるだろうな?」

「はぁ・・どこまで子供扱いするんですか? ちゃんとここに持ってるじゃないですか、応募の紙だってちゃんと懐に・・・・あれ? えーっと・・ん? 袖の方かな?」


 おっかしいなー・・確かしまったと思ったんだけど・・あれ? そう言えばニ、三日前に書いてその後どうしたんだっけ?


「おいおい・・まさか失くしたんじゃないだろうな?」

「そ、そんな訳ないじゃないですか、いやだなーちゃんと持ってますよ・・ちょっと待って下さいね、あれー? どこに・・」


 あれ? あれあれ? 本当にない・・もしかして背中のリュックの方かな?


「なぁシノ・・」

「何? お父さん今ちょっと探してるから後にして・・」

「シノ急いで! もうちょっとで電車出発しちゃうよ?」

「わかってるよ、そんな事言うならハトちゃんも手伝って」

「えー・・しょうがないなー・・じゃあこっちのバッグ調べるよ」

「あのねシノ・・」

「お母さんも探してよ、このままじゃ出発しちゃう」

「はぁ・・しょうがない、どれここは俺も一緒に探してやろう」


「「それは止めて!」」


「折角好意で言ってやったのに・・お前達二人して言う事ないだろ・・」

「あのなシノこれ・・」

「もう何お父さん! これ・・じゃないよ! 早く見つけないと電車出ちゃうんだからね! 応募用紙探してるんだから・・邪魔・・しないでよ?」


 あれれ? えー・・っと・・おんやー? お父さんの手に持っている紙・・どっかで見た事ある様な・・。


「お父さん・・それどこに?」

「シノ・・あなたがお父さんに三日前うっかり忘れちゃうといけないから、当日渡してって頼んでたでしょ忘れちゃったの?」

「大事な物だからってお父さん絶対物失なくさないでねってお前に言われたから・・だから父さんな、三日間大事に肌身離さず持ってました」

「シノ・・あんた・・」

「おいおい、まさかお前・・」


 そうでした。預けてた事事態忘れてました・・。周りの私を見る目線が刺す様で痛いです・・はい・・。


「な、何はともあれ見つかった事だし、シノ頑張って務めて来いよ、まぁ頑張れって言ってもお前以外に五十人近くもここから出るからな、気軽にやって来い」

「はい! ってそんなにいたんですね・・道理でお見送りの方沢山いると思ってましたよ」


 まぁその為の方ばかりじゃないんですけどね、今や神様同士の交流は普通ですし、観光に旅行、私の様に勤務が変る等で流通は激しいんですよ、現に今日も沢山の利用客が、高天原からも乗り降りしてますからね。


「シノ、次のラグナロクを楽しみにしてるからね~、あんたの選んだエインヘリャルが活躍する所、しっかり見せてもらうから!」

「ちょっとハトちゃん! 変なプレッシャーかけないでよ! でも、皆に自慢出来る勇者さんを担当出来たらいいなー・・」


 主にボーナス方面で、左団扇を目指して頑張りますよ! フヒヒ・・。


「ちょっ!? 母さん・・俺の・・俺の可愛い一人娘が、女神にあるまじきゲスな顔して笑ってるんだが・・一体誰に似て・・」

「・・うちの娘が担当したエインヘリャルが活躍すれば・・ご近所に自慢が出来る上に、お給料だって上がる・・そうなれば左団扇に・・フヒヒ」

「ちょっと母さん!? 何言ってるの? って言うか顔! ヨダレ垂れてるんですけどっ! とてもじゃないけど親子揃ってご近所に見せられない顔しちゃってるんですけど!」


ー まもなく、ヨルムン特急第一層アースガルド・ヴァルハラ行きが発車致します ー

 

「あっ! 行かなくちゃ・・それでは久間出シノ、ヴァルキリアになる為行って参ります!」


 私はビシッ! っとキメると荷物を持って急いで駆け込み、後ろを振り返って笑顔で手を振りました。

 あっ、両手の荷物は持ったままでは辛いので、ちゃんと下ろしてから手を振ってますから、あしからず。


ー 閉まるドアにご注意下さい ー


 ドアが閉まり、走り始める電車、皆が私や他のヴァルキリア候補の方のお見送りをする為、駅のホームで手を振っています。


「・・行っちゃいましたね・・」

「行っちゃったな・・」

「大丈夫ですかね?」

「大丈夫・・だろ? 多分・・」

「あの流れで・・良くあんな爽やか笑顔でしめられましたね・・あの子」

「・・やっぱり、もう少し俺の下で面倒見てやってた方が良かった・・かな?」


「フヒヒ・・左団扇・・」

「母さん! 母さん戻っておいで母さーーーーん!!」


「ん? そう言えばもう一個確認し忘れたが、あいつ俺の推薦状持ったんだろうな?」

「・・・・っえ?」


 名残惜しいってこんな感覚なんですね、今まで高天原を離れ、一人遠くへ旅に出たりとかした事なかったので、ドキドキですよ。

 さてと・・席は6ーFですね、えーっと・・6、6、6・・F、F? これって席のどこに番号が? ・・って重っ! 通路狭いし一体誰だよこんなに荷物詰め込んだのは!

 ・・って私ですよねー・・あれもこれもと詰め込んだらこの有様ですよ、でもでも初めての一人旅ともなればこうなるのって当然じゃないですかね?

 慣れた人だったらもっとスマートに・・。


「ちょっと! 通路塞いで邪魔なんだけど・・それに何ヘラヘラしてるの? キモイんだけど・・」


 キモッ!? ガーン・・行き成りの上に、かなりショックですよ・・変ってるとか独特の雰囲気あるよね? って言われた事はありますが、まさかのキモイ発言・・うぅ・・立ち直れないかも・・。

 よそ見しながらで気が付かなかった私も悪いのですが、初対面でキモイとか・・同年代くらいに見える目の前の気の強そうな女の子は、更に私を睨み付け一歩前に前進、私は後ろに後退り・・。


「ちょっとだからそんな所で・・」

「・・うぇ・・」

「え!? ちょっと何泣いてるの?」

「・・だって・・キモイなんて言われた事なかったから・・うぐぅ・・それに席が・・ふぇえ・・荷物多くて・・それで・・」

「いやだからって泣かないでよ! 通路で突っ立っててヘラヘラしてたから、ふざけてるのかと思って言っただけで・・」


「ん? 何だ? どうした?」

「あらあら、どないしたん?」

「っげ! 他の子が・・あーもう悪かったわよ! 謝るから泣かないで、何番の席なの? 連れて行ってあげるから」

「あ! アタシ荷物持ったげるよ」


 私は持っていた切符を見せ、案内してもらう事に、その上もう一人の方に荷物まで運んでもらえるか・・涙止まりませんよ!


「はい、これ使こうて涙拭いて、可愛い顔が台無しよ?」


 何か触り心地がいい高そうなハンカチ渡されちゃいました。どことなくいい匂いがします・・ですが気持ちは嬉しいですが、これ使えませんよ~!

 遠慮して・・あっ鼻垂れて来ちゃいました。[ブブッ! チーン・・]


「「あっ・・」」


 あっ・・使っちゃいました・・うぅ・・私って・・。


「うんうん、それでええんよ、泣く時は思いっ切り泣いたらええねん。皆そうやって大人になって行くもんやで」


 いい人でした! 皆さんいい人達でした!


「みだざん・・ずびばぜん・・ありがどう・・ございまず・・」

「いいセリフだけどここじゃない感、半端ないな・・」

「そうね・・色々と台無しな感じがするわ・・」



「いや~いい人達に巡り合えて良かったですよ」

「まさか隣の席とは思わなかったわ・・」

「アタシ達は向かい席だな」

「これも何かの縁、仲良う頼みますぅ」


 これも神様の思し召しですよね、今年はツイてますよ私、何て言っても末吉でしたからね、吉ですよ吉! しかも大吉よりも出にくいと噂の末吉ですからね、今年の私は去年とは違うのだよ去年とは、まぁ去年は大凶でしたからねー・・。

 ウワハル様に「お前神様の癖に大凶とか俺に近寄るなよ、災いが移ったらたまったもんじゃないからな!」なんて言われちゃって、本当にしばらく様子を見にすら来てくれなかったし・・。

 ハトちゃんも「流石大凶様、その効果は正月早々絶大なる効果を発揮なされた様ですね」ってお腹見て言うし・・思い出したらちょっと腹が立って来ました。

 あれ? そう言えば良く考えたら今年も同じ体じゅ・・いえ考えるのは止めておきましょう、不毛ですよこんなのは。


「そうだ自己紹介まだだったよな、アタシは志多蔵ソナエって言うんだ。よろしくな! 私の事はソナエでいいからな」

「次私なぁ、初めまして濱谷キョウ言います。こう見えて、扇子の神さんやってますぅ。キョウちゃん呼んでくれたら嬉しいわぁ、これからよろしゅう頼みます」

「次は私かしら? 冨田宮ミキよ、よろしく」

「あー・・えっと私ですかね? 久間出シノです。いや~先程は皆さんどうもでしたよ、助かりました~。これからよろしくお願いしますね」

「ふーんキョウ・・キョウち・・キョウちゃ・・」

「ちゃん付けるのこそばゆかったら、別に無理して付けんでもええよ?」

「そっか? あはは、何か照れ臭くってさ、それじゃあお言葉に甘えて・・キョウは扇子の神なんだな」

「ええそうよ、その証拠にほら~」


 キョウちゃんの着物の袖からシュバッと四本の扇子が出てきました。扇子の神様ってやっぱり扇子いっぱい持ってるものなんですね、あっ! でもハトちゃんは帽子いっぱい持ってたりしなかったなー・・でも会う度に違うのかぶってたから家には沢山あるのかも・・ハトちゃんの部屋今度捜索してみますかね・・どえりゃ~アドベンチャーが待ってるかも、フヒヒ。


「ちょっと待ってね、懐にも二本入れてるんよ、あと帯にも一本・・」

「へ、へー・・沢山持ってるのね・・」

「そうなんよ! 私扇子大好きで・・あっそうそう荷物の中にもっとええ物がいくつか・・」

「もういいよ! 好きなのわかったからここにあるのだけ見せてくれれば!」

「えっ!? そうなん? ・・そうなん?」


((あからさまに落ち込んだー!!))


 うんうん、キョウちゃんその気持ち痛い程わかりますよ、自慢したいんですよね?


「まぁええわ・・ほならはい、皆見たってや」


 扇子それぞれ一本づつ持たせて貰いましたが・・正直使った事ないんですよね、お父さんやウワハル様が使ってる所見た事ありますが、これどうやって開くんでしょう?

 えっと左右に・・ん? 片手でどうやって・・仕方がないここは両手で行きましょう。あっ何か上手く開けましたよ、何か持つ所じゃない逆の開く方持って開いちゃったみたいですが、まぁ開けたから良しと・・っは!

 何かすっごくキョウちゃんがこっち見てる・・若干、いえかなり怖い顔してる気がするんですが、やっぱりマズかったんでしょうか? な、何か話題を振って紛らわさねば・・。


「わ、わぁこれ淡い紫色が綺麗ですね~扇子の模様ですか? 可愛いですよね」

「でしょでしょ? それな? お気に入りの一つなんよ、扇面の撫子の控えめな可愛いさがええ感じなんよ、ラメの加工がその繊細さを一層引き立たせてはるやろ? それに見てピッチリ閉じた時なんかこれよ?」


 これとはどれなのでしょうか? 閉じちゃったら模様もなくなっちゃうのですが・・、でも私グッジョブ! どうやら機嫌は治った様です危機は脱しましたよ。


「あっ、そうそうミキちゃんが持ってるそれな、ええ和紙使こうてるんよふふふ、何やと思う? 黒谷和紙よ? 見ただけでわかるその質感たまらんでしょ? 扇面の黒と紺の落ち着いた色合い、骨の部分も見て唐木染めが更に大人の紳士の落ち着いた感じを出してるんよ、しかもな? 閉じて見ればわかるんやけど、おりつらと中骨がピッチリ揃っててタメもしっかりしてるしな、ってミキちゃんわかる?」

「えっと・・何か凄い事だけはわかったわ」


 さっきのピッチリもそのタメだか何だかの事だったんでしょうか?


「後これソナエちゃん持って見て」

「えっあっおう・・?」

「な~」

「え? え? えっと・・な、なー?」

「ふふふ持った時の重量感たまらんでしょ?」

「う、う~ん? えっとそ、そうだなたまらないな! あはっあはっあはは・・わからん・・」

「ほなら次な・・」

「あっ! えっと、キョウが扇子大好きなのは十分伝わったし、続きはまた今度聞かせてもらう事にして 別の話もしない? ・・ねぇ皆?」

「ん? あっ! あぁそうだな、まだこれからいくらでも機会あるし、他の話もしたいしな」

「そうですね、正直私には高そうだな綺麗だな位しか・・ムグ!?」

「あはは、ちょっと失礼・・シノあんたバカなの? 変な事言って余計に火がついちゃったらどうするの?ここは黙って別の話にこのまま移行するの! あのままだとずっと話続けるわよ? それとも着くまで永遠と聞きたい訳?」


 急に口元を押さえられ、耳元なんかで囁かれちゃうから何だと思ったら、そう言う事ですか・・ラジャーですよ二人共。


「まぁそう言う訳なんで、次何か別の話ししないか?」

「あーほなら私、ソナエちゃんが何の神さんなのか知りたいわぁ」

「ん? アタシか? アタシは竹刀だけど?」

「おお! やっぱりそういう感じなんですね!」

「あはは、良く言われるよ、まぁアタシは多くを語る事なんてないかな? 何か説明したりするよりも、実際体動かして見せた方が上手く説明出来るって言うか、こういう感じなんだよって言ったってわかんないだろ?」

「ん~まぁ確かにそう言われると、そうかもしれないわね」

「ソナエちゃんは竹刀持ってたりしないん?」

「ああ、持って来てないよ、アタシはかさばるのが嫌いなんだよ、それにいざとなったら・・」


 ソナエちゃんが両手を構えるとそこに竹刀が一瞬で現れました。

 神通力を使っての具現化ですね、私達神はそれぞれ司っている物にちなんだ能力を使う事が出来るのですが、ソナエちゃんは竹刀を出せるみたいですね。


「そうね、確かにそれなら持ってる必要ないもんね」

「だろ? 皆だってそれぞれ使えるんだろ?」

「まぁね・・キョウの能力ってやっぱり扇子?」

「そやで~、でも私はやっぱりほんまもんの方がええわー、手触り香り持ってるだけで落ち着くし和むしなー」


 竹刀に扇子ですか、はぁ・・確かにどちらもいい能力だと認めましょう、ですが私には敵いませんよ? 何て言ってもアロマオイルですからね、百人が百人聞いただけで、え? いいなー私もそんな能力が良かった~ってなること間違いなし! さぁ聞くがいいですよ、全員の羨望の眼差しが今からでも見える様ですね・・ふふ・・ふふふ・・フヒヒヒ。


「私は以上だ。次はシノ・・っ!?」


(何かすっごい顔して笑ってる・・後回しにしよう、そうしよう)


 あはっ! 来ましたよ今私の名前呼びましたね、それでは仕方ないですね・・真打登場と行きま・・。


「じゃなくってミキお前の番な」


 えっ!? なぜに変更を? 今明らかに私呼びましたよね? 折角キメ顔で言おうと思ってたのが台無しですよ・・。

 まぁ真打と言うのはいつの世も最後と決まってますからね、いいでしょう・・お先、お譲りしますよ。


「・・・・私はパスでいいわ」

「え? 何で? 私ミキちゃんが何の神さんなのか聞きたいわー」

「・・・・言いたくないの・・笑われるから」

「変な事言う奴だな、お前自分の仕事に誇りもって一生懸命やってないのか?」

「やってるわよ! ・・でも言いたくないのよ」

「んん? だったら別にいいだろ? 何の神やってるのか知らないけど、私は一生懸命やってる奴の事笑ったりしないけどな」

「そうよミキちゃん、私ら別に何の神さんやってても笑ったりせんよ?」

「そうですよ、私達仲間じゃないですか!」

「・・本当? 笑ったりしない?」

「しませんよ」

「本当の本当?」

「ミキちゃん、自信をもって言うたらええんよ」

「絶対笑わない?」

「結構サバサバしてるのかと思ったけど意外とグチグチするんだな、バシッと言っちゃえばいいんだよ」

「そうです意外とそう言うのは本人が気にしてるだけで、周りはえっ? そんなので? って言う事多いですからね」

「じゃあ言うけど・・・・ビ・・よ」

「悪い、今何て言ったか聞こえなかったからもう一度頼む」

「だからビーズよビーズ」

「ん? ん~・・ん? なぁアタシビーズ詳しくないんだけど、ビーズっておかしいのか?」

「へ? ビーズの神さん? ・・ん~? 別に何ら笑われる様な要素ないと思うけど?」

「・・・・それで私はよく笑われたのよ・・こういう奴に」


「へ?」「あ?」


「・・っぷふぅ・・ビーズって・・あはっ似合わない、ミキちゃんもっと凄い神様だと思ったら、くふふプふ・・ビーズって! 子供のオモチャじゃないですか、あはは! 意外と可愛いお仕事なさってるんですね?」

「くぅ~・・こういう奴がいるから言いたくないのよ! ビーズの事良く知りもしないで、勝手なイメージだけで笑ってくるから!」

「見事に笑ったな・・まぁアタシのイメージの中でも、子供の頃遊んだ奴くらいしか思い出せなかったけど」

「あんなシノちゃん。ビーズって言うても色々あるし、意外と歴史古かったりするんよ?」

「そう! そうなのよ! キョウわかってるじゃない! いい? シノ大笑いしたあんたに教えて上げる。ビーズって言うのはね古くは紀元前まで遡り・・」


 あっ・・これ長い奴だと思った時には既に遅かった様です。

 ・・キョウちゃんの扇子の話の時「変な事言って余計に火がついちゃったらどうするのよ? それとも着くまで永遠と聞きたい訳?」

とミキちゃんが言ってたのが走馬灯の様に私の記憶の中に蘇り・・。


「・・つまりねさっきも説明したけど、ロザリオにも使われていたりしてる事からも信心深い物だったりするし、素材や形状なんかも多種多様なうえに、色んな生活の中にビーズは使われてたりするんだから、例えば・・」


 最初は興味深そうに聞いていた二人も今はお寝むのご様子、ミキちゃんの標的となった私は残念ながらそれは許されず。

 そう言えばおみくじにも、口は災いの元慎み深く、親しき中にも礼儀あり、余計な一言が波乱の予感注意すべしって書いてあった様な・・。


ー まもなく、アースガルド、アースガルドです。お忘れ物なさいませんよう、ご注意ください ー


 これは予想通りの結末に・・とほほ・・せめて気分だけでも切り替えたいので、カーテンを上げて景色でも・・。


 ・・不意に見た窓の外は・・。


「ふぅ・・どうやら命拾いしたわね? もうじき着くみたいだし、ここまでにしておいて上げる。二人共? そろそろ着くみたいよ?」


 私の想像をはるかに超える美しさで・・。


「・・ふぇ? ・・え? ここどこだ? ・・まぁいいかお休み・・」


 まるでお伽話に出て来るかの様なキラキラとしていて・・童心に返ったかの様に心が躍る。


「・・む~、お母ちゃんもう少し寝かせといて・・私まだ眠いわ~・・後一分・・後二分・・後十分だけ・・」


 そんな光景が広がっていて・・。


「誰がお母ちゃんよ! ソナエもキョウも起きなさいって! アースガルド着いちゃうから!」


 大きな虹と日の出に反射した雲がキラキラ輝いていて、まるで白く大きな海に遠く地平線の彼方へと伸びる虹色の橋がかかっているかの様な・・。


「ミキちゃん! 外、外見て下さいよ! 虹ですよ虹! しかも大きいです!」


 全然別の場所に来たんだ。これから私はここで働くんだって。


「ちょっ! 叩かないでよ、全く私の相席者達は皆子供なんだから・・はいはい今見たげるか・・!? ・・・・綺麗」


 ドキドキと心臓が高鳴っていてもたってもいられなくなる様な・・。


「ですよね! キョウちゃんもソナエちゃんも何呑気に寝ちゃってるんですか! 外見て下さい外!」


 そんな景色、自然と笑みがこぼれてきて・・。


「・・ん~・・何だよ? 外って? まだ夜じゃ・・って眩しっ! 何だよ朝なのか? ん、ん~・・  あ~・・ふぁああ・・良く寝た・・っで外? 外がどうかしたって? ・・・・うぉおおおおおお! スゲェェェェエ! でっけえ木だな!」

「え? そっち? いや確かにでかいけど、今景色の話してた様な・・いやあれも立派な景色か・・」

「そうなんです! でっけえ木なんです! どうですかこの景色凄いでしょ?」

「何であんたが自信満々に自慢してるの?」


 これからの私の新生活に、何か楽しい事が起こりそうな予感がソワソワして、感動と入り混じって何だか気持ちが高ぶったせいか、涙が出て来ちゃいました。


「う・・うぅ~ん・・何? 眩しいわ・・お母ちゃんいつも言うてるやろ? 実力行使はかんにんしてて・・カーテン閉めて、後十分言うたら後十分・・あわてないあわてない、一休み一休み・・・・」

「いや! いい加減起きなさいよ! そして見なさいよ! て言うか今見てくれないと景色的に見れなくなっちゃうんだけど!」

「もぅ・・わがままやわぁ・・仕方ないから見たるけど、ほんまに見るだけよ?」


(え? ちょっと待ってわがまま言ったの私?)


「今凄い綺麗な夢見てたのに・・っ!? これは・・」

「おう、キョウも見て見ろよ! すげぇぞ!」

「ふっふ~んキョウちゃんどうですか? 私が最初に発見したんですよ」

「発見って、子供かあんたは!」

「・・・・何や・・続きやったお休み」


「「「えっ!?」」」



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