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勇者がこない! 新米魔王、受難の日々  作者: 七夜
ダンジョン攻略は無計画的に
18/30

16 毒沼に仕込まれし罠(1)

月末近いのと切り所がわからなくなったので短めだけど投稿します

 妾は思った。

 今回の外交って、実は凄まじいクソゲーなのではないか?


 いや唐突なのはわかっているが、冷静になって考えてみると彼我の戦力差が相当にヤバい気がするんだよ。

 だってベテランのギタが心身共にギッタギタにされたんだぞ。しかもパーティーの構成メンバー一人ずつにだから、計六回もだ。あいつ直接戦闘が得意だったわけじゃないけどさ、プライド捨ててダンジョンを極悪難易度にしてもなお軽々と踏みつぶされたって事実は中々重たい。

 開幕の時点でこれって不味くないか? 幸先が悪いってレベルじゃねーぞ。

 無論、ダンジョンの進化だって日進月歩。出口にはアンケートボックスを設置し、利用者の意見を募って日々改良に勤しんでいるのだ。

 ちなみに勇者達もアンケートを記入していったらしい。別に書くことは強制じゃないんだが、意外と律儀な奴らだな。

 先ほどジラルから一枚の資料にまとめて貰ったので、参考までにここで読み上げてみる。


 アレク:部屋に入ったらボスが死んだ。不具合か?

 嫌な事件だったね。

 

 ネリム:たのしかった

 うん良かったな。


 チット:雑魚

 ド直球!


 ディータ:ボスがいねえ

 いたんだなーこれが。

 

 クラリス:何かごめん

 別に気にしなくていいよ。

 

 ウルスラ:ゴブリンと言えば変態C氏著の『堕エルフ』シリーズの三作目が印象的ですよね。氏の著作としては初期の方で文章も未熟さが目立ちますがその分純粋な欲望に忠実というか生々しい表現がたまりません。個人的な名シーンはやはり主人公の雌エルフがホブゴブリン二〇人から同時に犯≪不適切な表現が連続したため省略≫

 おいダンジョンについて書けよ。


 ……うん、殆どただの感想だこれ。しかも最後の奴に至ってはダンジョンじゃなくてエロ小説の感想だ。頼むから他所でやってくれ。

 えー、とにかく。我々の運営するダンジョンは実のある意見に関してはどんどん取り入れて、より良いものになるよう精進している。巷ではクソダンジョンと呼ばれている場所もあるが、一部の層からの支持が厚いため敢えて好きにさせている。

 そして例年の傾向から、ダンジョン自体の難易度は全体的に向上気味だ。『始まりの祠』とて例外ではない。要因としてはダンジョンマスター自身の研鑚もあるが、挑戦する者の質が上がっていることも大きいだろう。

 なので妾も当初は、勇者がダンジョン攻略で躓くんじゃないかと完全に舐めてた。実際に奴の実力を見てからは流石に考えを改めたが、それでも多少は手こずってくれるんじゃないかなーと期待してた。


 結果は御覧の有様だけどな!

 もうワンサイドゲームもいいとこだよ全く。ギタには悪いけど、ありゃやられて当然だったかも。特に魔道士勢のオーバーキルが酷過ぎた。何で習得難度最高峰の魔法がポンポン飛んでくるんですかねぇ……。

 一応『始まりの祠』はいわゆるダンジョン攻略入門編みたいなもんだし、それと比べれば他のダンジョンの難易度は高めになってるけども。ダンジョンマスターの実力は良くも悪くもほぼ対等だ。

 つまり、個々の戦闘力において勇者どもを上回るのは実質不可能と言える。

 すなわち、負け確。

 あーこれは来ちゃいますわーあと一・二週間もすれば魔王城来ちゃいますわ勇者ー。

 さて、遺書でも書いておくか。流石に死にはしないだろうけど、念のために。


 ……そう。妾は確信していた。

 今後、奴らによって攻略されるダンジョンは悉く蹂躙されていくものなのだと。カウンセリング部門が大盛況となり、基本給の底上げが必要になるのだと。



 ――しかし、その確信は。

『何と最早』

 蒼穹の下で悠然と佇み、雷鳴のような声を轟かせる双頭の大蛇と。

『強者と名高き貴様らが、よもやここまで不甲斐なき姿を晒すとは』


『なぁ……勇者達よ?』

 その周囲に倒れる、六人の挑戦者の姿によって打ち砕かれた。


『我まで辿り着いたことは認めよう。だがまだ足りぬ。如何に地の上で拳を振り上げようと、天を駆る我には届かぬと知るがいい』

 聞く者全てを畏怖させる超越者の如き語り。音そのものに魔力が宿るそれは正しく、古き生態系の頂点を他の超位存在と争った種族が繰る力。己が意思を伝播し強制的に理解させる、竜種の万能言語に他ならない。

 天を突くような巨体は純白の鱗に覆われ、背中には四対の翼。全身からは空間に満ちた清廉な空気と同調するように、神々しい輝きが放たれていた。

 圧倒的な力を持っていたはずの勇者たちを、更に上回る圧倒的な力。

『此度の戦いはここまで。力不足を痛感し、尾を巻いて逃げるもの良かろう』

 既に意識のない勇者たちへ、啓示のように降り注ぐ竜の声。

 同時に奴らの姿が溶けるように薄れていった。勝敗が決したことで、ダンジョンに仕掛けられた転送魔法が起動したのだ。

『ただし再び挑むというのであれば、我は此処で待ち受けよう。では――』

 眼前から消えゆく勇者らを、竜は。


「ダンジョン『毒の沼地』の、またのご利用をお待ちしております」


 打って変わって丁寧に、営業スマイルを添えて見送るのだった。


 ◇


 ――あれから五分後。


「あれのどこが『毒の沼地』だああああああああああああああああああ!?」

 そんな叫び声と共に、ディータが扉を蹴破ってきた。間違っても蝶番が千切れて飛んできたりはしない。さっきも言ったように、ダンジョンは日々進化している。

 ただここって、妾が観戦用に作らせた待合室なんだよね。ダンジョンの最終フロアよりも丈夫な待合室の扉って、なんだか複雑な気分になるな。

 ディータに続き、他の面子も続々と入ってきた。どの顔ぶれも苦笑いだったりあからさまに不満げだったり無表情だったりと様々だ。

 それはさておき。

「どこがも何も、立派な毒沼だったろ」

「途中まではな!」

 精一杯そう言っては見たが、ディータは全く納得していなかった。

 まあ、気持ちはわかる。妾たちもここで見てて唖然としたからな。


 ここ『毒の沼地』は、名前の通り猛毒に侵食された沼地状のフィールドやモンスターとの戦闘がメインとなるダンジョンである。空気も地面も毒なので奥へ進むには解毒薬が必須になり、道中に複数存在する底なし沼への対処も必要だ。

 更に最終フロアで待ち受けるヴァイパーは毒蛇の王たるヒュドラ。ダンジョンマスターとしてのキャリアも長く、九つの頭から同時に放たれる【ダーティ・ブラスト】は多くの挑戦者を毒の海へと沈めてきた。

 総じて、駆け出しの攻略者には厳しすぎるダンジョンと言える。あまりに難易度が高いせいか、他のとある三つのダンジョンと併せて四大クソダンジョンとも呼ばれているらしい。

 だがぶっちゃけた話、妾は今回も瞬殺コースかなと思ってた。

 道中の毒に関しては勇者の聖剣が一切無効化してしまうだろうし、ただのモンスター程度ならあいつらが手こずるはずもない。極めつけに、今回は六人フルパーティーでダンジョンに入っていくのを見てしまったからな。

 案の定着々と攻略が進められるのを見て、もう駄目だおしまいだぁと早々にカウンセリングの手配をミルドにさせようとしている中、奴らが最終フロアへと足を踏み入れた瞬間にそれは起きた。

「何で最後のフロアだけ青空の花畑なんだよ! しかもめっちゃ空気美味かったし!」

「結構なことではありませんか」

「毒沼じゃねえじゃん! 最後だけ毒の〝ど〟の字もねえじゃん!?」

「普段は豪快なのに変なところで拘りますね」

「一番大事なところだろおおおおおおおお!?」

 やはり戦闘に熱を上げていない時は結構冷静なのか、ミルドと話すディータはずっとツッコみっぱなしだ。

 妾的には楽で助かるけどな。ツッコミって結構体力使うし。

「フィールドだけならともかく、ボスが突然変身したんだよ。もうネリムびっくりして【グラビティ・ボルテックス】撃っちゃったよ」

「私もつい【ソーラー・イラプション】撃っちゃいました」

「お前らまたダンジョンぶっ壊す気か!?」

「たはは、でも全部避けられちゃうんだから参っちゃうよね」

 プリプリと怒っている姉妹の隣では、クラリスが困ったように笑っていた。全体的に不満げな連中の中で一人だけ平常運転って感じだ。普段から無表情な勇者とかチットとかは別として。

「変身……確かにあれには妾も驚かされた」

「部下のことなのに知らなかったのか」

「ダンジョンの運営に関しては個々に一任している部分がありましてな。魔王様ほどのお方でも全てを把握するのは困難なのですじゃ」

 勇者の至極真っ当な疑問へは、ジラルがフォローを入れた。

 これでもなるべく視察とかで情報は取り入れてるんだけどな。このダンジョンにしたって勇者たちが来たことを警告するために先ほどヴァイパーを訪ねている。

 あの時は凄く自身に満ちていたので負けた時の反動をひっそり恐れていたものだ。まさかこんな結果になるとは想像もしていなかった。


 想像していなかったと言えば、変身についてだ。

 視察の際に、最終フロアが綺麗なお花畑になっているのは知っていたんだよ。何でも母上が攻略して以来あの場所だけ毒が定着しなくなったどころか、高濃度な聖気が充満し続けているとか。半ば聖域と化してませんか母上。

 でも妾が会った時、ヴァイパーは確かにいつも通りの姿だった。九つの頭を持つ巨大な蛇。カラーリングも全体的に紫っぽくて、如何にも毒持ちって感じの見た目だったはずなのだ。

 確認の意味も込めて、あの時の衝撃を振り返ってみよう。


「よくぞ試練を乗り越えて来たな勇者よ!」

 勇者たちが唐突過ぎるフィールドの変遷に戸惑ったが故に、悠々と名乗りを上げることができたヴァイパー。

「この私こそが『毒の沼地』のダンジョンマスターであるヴァイパー」

 ここまでは台本通りだった。ダンジョンマスター必読マニュアルにも載っている、テンプレート通りの名乗り。

 しかし、問題なのがこの後のシーン。

 名乗りを上げたヴァイパーの全身が、突然神々しい輝きを放ち始めた。眩しいばかりの光がフロアを満たしていく中、毒蛇の王たる彼を象徴するシルエットが大きく形を変えていく。

 九つあった細長い首は胴体ほどある太い二つの首へと統合され。背中からは間欠泉のように純白の魔力が噴出し六対の翼を形成。旋風を伴い大量の花を散らしながら空へと飛翔したヴァイパーは天に轟くような大音声で。


『双聖竜カドゥケウスのヴァイパーなり』

「えええええええええええええええええええええええ!?」


 ――ということがあったのだ。

 いやーマジでビビったわ。映像越しなのに聖なるオーラびんびん感じた。妾とガリアン条件反射で卒倒しかけたもん。

 まさか属性反転を極めて、一時的とはいえ神獣クラスに自らを昇華させるとは……どうりで自信満々だったわけだよ。

 ああなってしまうと聖剣デバフは効かないし、本来魔族が使えない聖属性の強力な魔法を扱うことができる。

 だが、それでも妾は勇者たちが勝つんじゃないかと思ってた。最初の時点では。

「アレク殿らのことでありますし、変身してから普通にボコると思ってたでありますが」

 妾を代弁するようにガリアンが言うと、奴らは口々に敗因を語っていった。

「こちとらステゴロだぞ。平地であんな高度を飛ばれちゃ流石に手が出ねえよ」

「右に同じく。近づけないとどうしようもないし」

「鎖も射程外だ。そもそもあの森には高く飛ぶ外敵はいなかった」

「速すぎて魔法の狙いもつけられないしねー」

「当りそうで当たらなくてじれったいんですよ……ハッ、もしかして焦らしプレイ!?」

「それは違うぞ」

 取りあえず最後のだけは否定しておいた。ホント隙あらばって感じだ。

 しかし、意外とまともな理由で負けてるな。よくよく考えてみれば、勇者のパーティーって役職被りはほぼないし一見するとバランスもいいけど、まともな戦闘をしてきたのって実はディータと勇者くらいなのか。

 ネリムとウルスラは天才的な魔道士だが、実戦経験がないから遠距離で素早く動く対象へ狙いを定められない。チットとの戦いで完全にサポートへ回ってたのがその証拠だ。クラリスは突出した気配隠蔽能力以外は普通の人間だから真っ向からの戦闘は不向き。チットの場合は狩人だからそれなりに戦えはするだろうが、奴のホームグラウンドは木々が密集する森林の中だ。開けた空間ではその実力を十二分に発揮できないだろう。

 ただ、それでもチットのスキル――【狩人の目】をもってすれば、もう少しは善戦出来たのではないだろうか。

 目に関連する能力を大幅に強化し、更には対象を一度捕捉しさえすれば視界内に存在する限りその存在を補足し続ける魔眼の一種。飛翔する矢すら止まって見えるほどの動体視力ならば、いくら神獣化したヴァイパーであろうと捉えられると思うんだが。狙える獲物をこの猫耳が逃すとも思えないし。

 ていうか、こいつさっきから一言も喋らないな。元々口数は少ない方だけど、幾らなんでも静かすぎる。いつもならこう、怨嗟の声の一つでも呟いてるところのはず。

 まさかヴァイパーの変身があまりにもショックだったのか? いやそこまでナイーブな娘じゃないと思うが。

「おいどうした……って若干顔が青いな。マジでどうした」

「……無理」

「え?」

 よく見ると具合が悪そうにしていたチットは妾の問いかけに、最小限の言葉で端的に応えた。


「蛇、無理」


 ……あ、そっすか。

 えーっと、ここにきてチットの意外な弱点が明らかになったな。蛇が苦手と来たか。成程、まあ蛇が苦手な女子は結構多いと思う。妾は別に平気だ。むしろ顔とか愛嬌があって可愛いとすら思ってる。

「狩人として森で暮らしてたくせに蛇が苦手なのかお前」

「視界に入った時点で罪。この世から根絶されるべき。大至急」

「そこまで!? でもあれだ、変身したヴァイパーは竜だぞ。変身前は毒蛇だけど」

「あんなの羽が生えた蛇。生理的に無理」

「お、おう」

 神獣を羽が生えた蛇と言い切るか。不敬というかなんというか。

 喋りながら小刻みに震え始めているあたり、本当に駄目なのだろう。好き嫌いは人それぞれだろうし、深く追求するつもりもない。

 でも一番有効打たりえるチットがこれじゃあ、今のこいつらにヴァイパーを倒すのは少し難しいのかもなぁ。

「えー、色々な意味で相性が悪いようですし攻略を見送ってはいかかですかな? このダンジョンを必ず攻略しなければならないということはないですぞ」

 ジラルが提案しているように、何も一つのダンジョンに固執する必要は全くない。数あるダンジョンの中から八つを攻略することが魔王城への挑戦権を得るための条件だ。

 つまり、無理だと思ったダンジョンはすっ飛ばしてしまえばいい。仮に諦めないにしても、他のダンジョンを巡ってある程度実力をつけてからリベンジする選択肢だってある。

 妾としてもこんな序盤にぐだられてもしょうがないし、スパッと諦めて別のダンジョンへ向かって欲しいところ。


「それはできない」

「!?」


 力強く否定したのは、勇者だった。

 マジかよって顔で勢いよく振り向いたのは、チットだった。

「やけにハッキリと言ったな。何でだ?」

「今回の敗因は相性の問題もあるが……根底にあったのは油断だった」

「あー、確かにそれはあったかも」

 勇者の戒めるような言葉に思い当たる節があったのか、クラリスを皮切りに小さく頷く勇者パーティーの面々。

「最初のダンジョンがあまりにも簡単に攻略できたからって、同じようなレベルだと高を括って挑んだ結果だね。今思えば、相性が悪いなりにもっと善戦出来ていた気がする」

「だな。手の届かない高度へ飛ばれる前に叩き落しゃよかったんだ」

「そうだね……ネリムてっきり毒沼って名前だから毒だけ対策すればいいと思ってたけど、最終フロアがお花畑じゃないなんて誰も言ってないもんね」

「そうですね。ボスが何の脈絡もなく変身して聖属性になることも考慮して然るべきでした……」

「……いや、ふつーに予測不可能だろあれは」

 妾だって全く想定してなかったぞあんなの。いくらクソダンジョンっつっても流石にクソ仕様すぎるわ。同じ立場ならディータみたくキレてた自信がある。

 常識に囚われるなとはよく言うが、常識的に振る舞うことが大事な時だってあるよな。毒沼は毒沼らしくって感じに。

「だが負けた理由は明確な上、俺たちは一度相手の動きも見ている。充分に対策を練ってから行けば、攻略は不可能じゃない」

 そんな妾の思考を他所に、勇者たちはどんどん話を進めていく。

 一応ここって敵側の本拠地みたいなもんなんだけどな。重要な話は外でした方がいいと思うな。別に情報をボスにリークするような真似はしないけど。

「対策ねぇ。まず飛ばれるとアタシらは手が出ねえ」

「ネリムたちもビュンビュン飛ばれると狙いがつけらんないよー」

「いっそ先制攻撃でも仕掛けます? 変身直後に飛行能力を奪えばだいぶ有利ですよ」

 ……思った以上にガチの対策練り始めたぞおい。

 これヴァイパーヤバくね? 勢い余って殺されるんじゃ……。

「むしろ変身中に倒しちゃえばいいんじゃない? ぶっちゃけ隙だらけだったし」

「いやー、それはなんか卑怯な気がして気が進まねーわ」

「同感だ。変身中の相手に攻撃をするのは駄目な気がする」

 クラリスが何気なく言った意見に、勇者とディータは難色を示した。

「魔王ちゃんはどう思う?」

「いや妾に聞くなよ……でも変身中に攻撃するのは妾も駄目だと思う」

 何でと聞かれると上手く説明できる自信はないが、変身は最後まで見届けるのが暗黙の了解というか。所謂、超えてはいけない一線ってやつなのではないだろうか。

 たぶんそれで勝てたとしても、気持ちよくは帰れないだろうな。

「じゃあどうするんですか? 変身されてからじゃ飛ばれて逃げられちゃいますし」

「だが変身後の奴は変身前より防御が薄く見えた。何発か有効打を入れられれば落とせるはずだ」

「簡単に言うけど、具体的な策はあるの?」

 ネリムに問われた勇者は、少しの間考えるような素振りを見せてから。


「チットが適任だな」

「!?」


 あれ、なんかデジャヴだぞこれ。

「チットの速射なら距離があっても間断なく攻められるし、一発の威力も無視できない程度にはある。翼を狙えればより良い」

「おお、そりゃいいな」

「動きさえ止めちゃえばこっちのもんだもんねー」

「グッドアイデアです。さすがお兄様!」

「ふむ、悪くない作戦ですな」

「今ある情報で攻略を続けるなら最適解であります」

 敵味方問わず、勇者の出した妙案はおおむね好評だった。戦闘の一部始終を見たジラルやガリアンといった指揮官クラスの人物が太鼓判を押すあたり、実際有効なのだろう。


 ただ、問題があるとすれば。

「……! ……!!」

「えーっと、当人は滅茶苦茶嫌がってるんだが」

 声にならない声を上げながらフルフルと首を振るチット。全身はもはや震えを通り越して高速振動してるし、気のせいじゃなく目がかなり潤んでる。もはや泣き出す一歩手前といったところ。

 これは相当根深いトラウマがありそうだな。

「チット」

「マ、マスター……」

 気遣うように名前を呼ぶ勇者へ、縋るような視線を向けるチット。それを妾の隣で見ていたミルドが表情を一切変えぬままガタガタ震え始める。恐っ。近づかんとこ。

 さり気なくミルドから距離を取っている間に、勇者はチットの肩へ優しく手を置き。


「あれはトカゲだ」

「流石にそれは無理がある!」


 何を真顔で言い張ってるんだこいつは……!?

「あれをどう捉えればトカゲに見えるんだよ!」

「脚が生えてればそれっぽいだろ」

「生えてねえじゃん脚! 現実を見ろ!」

「じゃあ脚がないトカゲだ」

「じゃあって適当かっ!」

 何とかしてヴァイパーが蛇ではないとチットにすり込もうとしてるようだが、幾らなんでも無理やりすぎる。こんなんじゃ絶対に誤魔化せないって。

「で、でもマスター」

「ほら見ろ。猫耳だって困惑して――」


「あの蛇、羽生えてる……」

「そこぉ!? もっと他に気になるところがあっただろ!」

 遠慮がちに指摘したチットだが、勇者は自信に満ちた無表情で言い放つ。

「安心しろ。脚がない羽の生えたトカゲだ」

「どこに安心する要素があるんだよ! つーか仮にも竜族相手に表現が雑だぞ!」

「……アシナシハネトカゲ」

「新種の生き物みたいに言うなや!!」

 こんなの本物の竜族に向かって言ったらブレスもんだ……あまりに失礼過ぎる。

 ま、まさかこんな無茶苦茶な方法で解決するとかないよな? いくらチットが非常識といってもそこまで常軌を逸してはないよな?

 ちらりと、チットの様子を伺ってみた。

「あれはトカゲ……脚がないトカゲ……羽が生えたトカゲ……」

「めっちゃ自分に言い聞かせてるー!?」

 勇者が言った戯言をブツブツと呟くチットは、軽くホラーだった。目からハイライトが消えかかってるし、既に自己催眠の域に到達しているかもしれない。

 このままじゃガチの狂人になってしまう。

「戻ってこいチット! その先は地獄だぞ!」

「トカゲ死ね」

「ヒョォォオオオオオ!?」

 肩をゆすろうと接近した瞬間、抜き打ちで振り抜かれた短剣を妾は全力で背中を逸らして回避した。前よりも鋭さを増した金属の輝きが鼻先を掠めていき、一気に冷たい汗が全身から噴き出てくる。

 直撃しなくてもわかった。

 もし避けてなかったら、間違いなく頭がスイカよろしく割られていただろう。

「おい何か殺傷力増してないか!?」

「お、気づいたか?」

 ブリッジの姿勢のまま叫ぶと、ディータが自慢げに語り始めた。

「その短剣はアタシが研いだんだ。自分じゃ使わねえけど、武器や道具の手入れは日常茶飯事だったからやってると落ち着くんだよなぁ」

「ディータさんに頼むと料理に使う包丁で岩も切れるようになるよー」

「余計なことをおおおおおお!」

 見た目のせいで忘れがちだが、ディータはあれでもドワーフ。鍛冶は性に合わないと自称しつつも、そのセンス自体は種族に恥じないものがあるらしい。

 つまりこれから先、こいつらの突発的な理不尽行動で妾が死ぬ可能性が大幅に上昇したわけだ。ジーザス!!

 で、それはそれとして。

「何で妾殺されかけたの?」

「トカゲかそれに近い存在へ無条件に攻撃的なのでは? 『トカゲ死ね』って言ってましたし」

「妾のどこにトカゲ要素があるんだよ!?」

「うーん、脚が生えてるところとか?」

「トカゲの定義広すぎんだろ! パン食ってる奴はみんな犯罪者か!?」

 ネリムの頓珍漢な回答にツッコミを入れていると、勇者がふと神妙な無表情で呟く。

「……ムネナシマオウトカゲ」

「――ぶっ殺す!!」

「まあまあルーちゃん落ち着いて」

「離せ、は・な・せー!」

 クラリスに羽交い絞めにされ、ジタバタともがくが想像以上に外れない。力では妾が上回っているはずなのに、特殊な固め方でもされているのかビクともしなかった。

 どう足掻いても解けなさそうなので、やむなく妾は矛を収めることにした。

「ハァ、ハァ……それで、どうすんだよこの猫耳。このままじゃ誰も近づけないぞ」

「決着をつける以外にないんじゃない? この様子ならさっきみたいなことにはならなそうだし」

「チットのやる気がある内に向かうか。鉄は熱い内に打てってな」

「作戦の細かい部分は移動しながら詰めましょう」

「よーしチットちゃん、向こうに活きのいいトカゲがいるぞー」

「トカゲ……トカゲ殺す……」

 完全にトカゲジェノサイドスイッチが入ったチットを引き連れ、来た時同様ぞろぞろと部屋を出ていく勇者パーティーの面々。

 最後尾の勇者は、出ていく前にこちらへと振り返り。

「じゃあ、行ってくる」

 とだけ言い残し、去っていった。


 ◇


 どうも皆さん。

 私、ダンジョン『毒の沼地』にてダンジョンマスターを務めさせて頂いておりますヒュドラのヴァイパーと申します。

 スタート地点から紫一色の毒々しいマップが続き、体力が減る前に気が滅入るわと専らの評判な当ダンジョンではありますが。最終フロアは一風変わっていると更なる評判を頂いております。

 まず入ってすぐ目の前に広がるのは一面のお花畑。マスク必須の環境から打って変わって清廉な空気が満ちた空間を、鮮やかな色彩が飾っております。

 そしてわかる人にはわかる、フロア中に漂う高濃度の聖気。一般魔族であれば体調不良を通り越して一発昇天間違いなし。ある意味危険ゾーンとなっております。

 え、私は平気なのかって?

 ご安心を。耐性がついてますので。

 こんな仕様のため利用者アンケートには今まで以上にクソダンジョンと書き込まれる始末ですが、私も好きでこのようなダンジョンメイクをした訳ではないんですよ。

 今から一七・八年くらい前ですかね。その頃はまだ最終フロアの空気も不味かった、正真正銘の毒沼だったんです。ええ、私も立派に毒蛇やってました。

 ところが、ある日ダンジョンを攻略しに来た当時の勇者が……今では王妃様ですが、それはそれは恐ろしい浄化魔法の使い手で。

 一瞬です。最終フロアの入り口を塞ぐ毒沼がバッと消えて花がブワッと咲いてあっ空気が美味しい。気付いた時には御覧の有様でした。しかもその後普通に負けましたからね。もう踏んだり蹴ったりですよアッハッハ。

 それから隣接するフロアから毒を引いて来たり私自身が【蝕むオーラ】を放出したりと試行錯誤したんですが、空間に残留した聖気に全て打ち消される始末。ていうかこれ何で消えないんだ。フィールド効果が上書きされたのかな?

 ともかくダンジョンのオーバーホールは月単位の時間を要するため、本格的なメンテナンスを行うことはダンジョンを利用しようと訪れた方々の期待を裏切ることになるかもしれない。それを危惧した私は、何とかこれをギミックとして利用できないかと努力を重ねてきました。

 やったこと自体は単純で、ひたすらこの聖気漂う最終フロアで生活を続けたのです。

 最初はもう留まっているだけで気分が悪くて仕方が無かったのですが、一週間ほどで慣れてきたのかあまり気にならなくなり。それから程なくして、元の毒沼にいる時とほぼ遜色のないパフォーマンスが発揮できるようになりました。

 最近では、逆に外部から聖気を取り込むことで強制的に属性反転が出来るほどに聖気の扱いを極めてしまいましたよ。いやー、慣れって怖いですね。今では花を愛でる余裕すらあります。

 こうしてダンジョン『毒の沼地』は正統派嫌がらせダンジョンから、毒対策をしてきた挑戦者を神獣モードで抹殺する初見殺しダンジョンへと生まれ変わったのです。



「――来る」

 再び挑戦者が接近してくる気配を感知し、ヴァイパーは九つある首をもたげた。

 最終フロアからダンジョン内の状況を把握する手段は様々だ。一番手っ取り早いのは遠方の風景を見通す【千里眼】。この他にもダンジョンの機能を利用したり、モンスターと感覚を共有したりなど取れる手段は幾らだってある。

 ヴァイパーの場合は前者だ。ただし九つの頭それぞれで【千里眼】を発動できるため、視野の広さは他のダンジョンマスターの追随を許さない。

 そして複数の視点から、全くバラバラの方向から最終フロアを目指す六人の挑戦者の動きを正確に捉えていた。

 特定の組織に所属しない個人で六人という大所帯のパーティーは中々珍しく、それもついさっき相手取った団体ともなれば忘れるはずもない。

「勇者たち……もう再戦に来たのか」

 正確に測った時間ではないが、先程彼らを全滅させてから恐らく一〇分も経っていない。これにはヴァイパーも困惑を隠せないでいた。

 圧勝こそしたものの、ヴァイパーは決して勇者たちを侮っていなかった。自分が行ったのは所詮初見殺しであり、二度目には対応されてしかるべき戦術だからだ。先の戦闘でも相手は不利と見るや途中からやれることを全てやっていた印象があり、経験則上ああいう手合いは二度目で的確な戦法を練ってくるから手強い。

 だが今までヴァイパーと善戦、或いは勝利してきた挑戦者たちの中で、これほど早く再戦に来た者たちは誰一人としていなかった。

 流石に無策で突っ込んできたとは考えられない。現に初戦ではパーティーが一塊になって攻略していたのに、今は六人が完全に別行動だ。このまま一人ずつ来るのであれば奇策を弄することなく真正面から叩き潰して終わりだが、まずそうはならないだろう。

 最終フロアに入る直前で全員が足を止めたことで、推測は確信へと変わった。

 フロアの外周に対する均等な位置取りや、毒沼攻略用の装備を外し始めたことからヴァイパーは相手の策を予測する。

 このダンジョンは地繋ぎに見えて、フロアごとの空間は別になっている。よって外側からヴァイパーに攻撃することは不可能。かといって、毒対策の重装備を最終フロアに踏み込んでから換装してるようでは遅すぎる。

 勇者たちはヴァイパーに飛ばれた時点で詰みなのだ。それを防ぐための手段は自ずと限られてくる。

「強襲……包囲した上での同時突撃。こちらに変身する隙を与えないつもりだな」

 あの短時間で思いつく策なら、精々がこれくらいのものだろう。

 悪くない考えではある。ヴァイパーがヒュドラからカドゥケウスへと変じるまでに要する時間と、自分たちの出せる火力を鑑みての判断ならば勝算はあるだろう。

 今変身してしまえばそれでお終いだが、挑戦者を迎える時はヒュドラの姿でというのがヴァイパーのポリシーだ。変身シーンは演出も兼ねているので大事である。

 流石に名乗りを上げている余裕はないだろう。それだけは心残りだが、主たる魔王ルシエルや魔王軍の幹部たちがこの戦いを見ているのだ。無様な負けは許されない。

 相手の突入に合わせ、いつでも変身が開始できるように身構えるヴァイパー。


 しかし、ここに来て彼の予想は外された。

「一人だけ入ってきた……?」

 六人の内、ちょうどヴァイパーの真正面に位置していた人物が最終フロアへと侵入してきた。その足取りはゆっくりで、到底強襲とは思えない。相手の行動の意図が読めず、変身しないまま近づいてくる存在を伺った。

 向かってきているのは、先の戦闘である意味一番印象に残らなかった人物だった。

 パーティーの中では恐らく最年少の、キャットピープルの少女。装備や攻略中の身のこなしから狩人であることは把握していたが、肝心のボス戦においては体調が悪いのか全く戦闘に参加しないまま脱落していた。

 だが、今の彼女に不調の兆しは見られない。違和感があるとすれば、ずっと目を閉じたままこちらへと歩み寄ってきていることくらいだ。

「囮か? それにしては他のメンバーが動く様子もない。一体これは……っと、いかんいかん」

 相手の出方を伺いたい欲求を、ヴァイパーは軽く頭を振って振り払った。

 印象に残っていないということは、つまり相手が何をしてくるか全くわからない。最初とは状況が全く逆。初見殺しを警戒すべきはヴァイパーの方なのだ。

 そう考えるが早く、全身が光を放ち始めた。周囲の聖気を手繰り寄せ、自らの内へと取り込んでいく。魔族の身には本来毒であるそれを、毒蛇の王たるヴァイパーは飲み下して見せる。

 少女が目の前まで辿り着いたのと、ヴァイパーの変身が完了したのは同時だった。

 目を閉じたまま、自身の数十倍の体躯を誇る彼に対峙する少女の佇まいは堂々たるもの。余裕すら感じさせる態度に、一層警戒を強める。

『二度目の名乗りは必要か?』

「必要ない」

『そうか』

 たったそれだけの、短いやり取りを終えた直後。


『ならば、始めるとしよう』


 ヴァイパーは四対の翼で空気を叩き、一気に浮上した。

 屋外を再現した空間内に高度の制限はない。光の軌跡を描きながら、双頭の竜が地上を遥か下へと置き去りに飛翔していく。

 既に少女の姿は点に見えるどころか、肉眼では霞んで見えもしない。充分な高度を確保したう上でヴァイパーは空中に静止し、【千里眼】を発動して相手の出方を伺った。

「武器を構えただけ?」

 相手に攻撃する暇を与えないための高速浮上だったが、少女は背負っていた弓に矢をつがえた状態で佇んでいた。俯いたまま、上を見上げてすらいない。何やら呟いているのか口元が動いているものの、【千里眼】では音が拾えなかった。

「……【アンプリファイド】」

 状況の不可解さに得体の知れない不安を覚えたヴァイパーは、更に詳細な情報を集めるべく魔法を発動する。

 本来は周囲の音を増幅させるだけの単純な魔法だが、範囲を絞ることで遠方の音を拾うような使い方も出来る。

 拡大され、ヴァイパーの耳へと届いた少女の呟きは――


「トカゲ死ね」

「え?」

 あまりに意味不明で、ほんの僅かに思考が停止する。

 それが命取りだった。


 ギラリと。

 先ほどまで閉じられていた少女の両目が、遥か上空にいるヴァイパーを睨み付けた。

 構えていた弓を瞬時に引き絞り、解き放つ。真上に射出された矢は重力に引かれて減速するどころか、不自然な加速を繰り返しながら一直線に飛来してくる。

「しまっ――!?」

 直撃を貰う寸前で我に返り、即座に回避を選べたのは僥倖だったと言える。

 それでも避け切るのは不可能だった。

 胴体の中心を狙った一撃はギリギリその脇を掠め、翼の一枚へと命中。構造的に脆いとはいえ単なる弓矢程度であれば弾くはずの翼は紙くずのように貫かれ、更に内側から爆散する。

 そこで初めて、音速を遥かに超えた矢の着弾音が蒼穹に響き渡った。

「ぐ、おぉぉおおおおおおおおお――!?」

 中途半端な回避によって体勢が崩れたところへ畳みかけるように発生した衝撃波がヴァイパーの全身を激しく煽った。

 どうにかして姿勢を安定させようとするが、少女から注意を外した一瞬の隙に次なる矢が彼を襲う。今度は三枚の翼が一度に持っていかれた。

「馬鹿な、狙撃が正確過ぎる!」

 一呼吸の間に半分の翼をもがれ、空中でもんどり打ちながら落下していくヴァイパーの心中は驚愕と焦りで満たされていた。

 超音速で放たれる矢の仕組みは理解できた。飛び道具に対する加速のエンチャントは別に珍しくもない。何重にも付与すればあれほどの速度は出せるだろう。

 異常なのは、肉眼では視認すら不可能な距離にいる標的を寸分違わず射抜く射撃精度だ。ヴァイパーが静止していた初撃ならまだしも、二発目以降は完全にイレギュラーな動きをしていたにも関わらず正確に翼を破壊している。

 いくら獣人の五感が他種族より優れていると言っても、結局のところ獣の能力の域は出ない。相手も【千里眼】を使っているのならまだ納得が出来たが、使われた時に特有の見られている感覚はなかった。

 残る可能性はヴァイパーがこれまで対峙したことのない未知のスキルによる捕捉だが、仮にそうだとすればいよいよ対策の仕様がない。


 ――初見殺し。

 ふと脳内を過ったそれこそが、勇者たちの仕掛けてきた策の正体だった。

 ヴァイパーが彼らに対して行ったことを、そっくりそのまま返してきたのだ。


「おのれ! ただでは落とされんぞ!」

 徐々に近くなる地表目がけ、ヴァイパーは槍上に凝縮された無数の光を撃ち放つ。

 聖属性の上級魔法である【ラスター・トーメント】の斉射は一人の少女への攻撃としては明らかに過剰で、ヴァイパーの焦りが如実に表れていた。一発でも直撃すればそれだけで戦闘が終わる。

 しかし、彼と違い少女は至って冷静だった。

「――にゃ」

 散弾よろしくばら撒かれる光の槍を見るや攻撃を中断。次々と地面へ突き刺さる槍の間を縫うように駆け抜け、危険域から即座に離脱する。

 追いすがるように照準するヴァイパーだったが、猫の獣人特有のしなやかさで地表を這うように移動する小柄な標的を狙うのは至難の業だ。

 着弾地点がまばらになったタイミングを見計らい、少女が反転。それとほぼ同時に、四本の矢が一緒くたに放たれる。既に姿勢を安定させるので精いっぱいだったヴァイパーに避ける手立てはなく、残った四枚の翼も吹き飛ばされた。

「くそ、このままでは不味い……!」

 重力に抗う手段を完全に失い、遂に本格的な自由落下が始まった。今までとは比較にならない速度で近づいてくる地上。ヴァイパーは少しでも落下ダメージを軽減するために、全身へ魔力を巡らせ肉体を補強する。


 そして、地に落ちる間際。

「トカゲ殺すべし。慈悲はない」

「だからそのトカゲって何いいいいいいいいいいぐふぅあ!?」

 またしても意味不明な呟きを聞いた直後、強烈な衝撃に見舞われた。

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