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勇者がこない! 新米魔王、受難の日々  作者: 七夜
魔王と勇者とゆかいな仲間たち
13/30

12 変態エルフと剣聖親父(1)

 地平線の果てまで続く荒れ果てた大地。砂と土くれだけが地面を覆い尽くす平原には、生命の気配を欠片も感じない。風が吹くたびに煤けたような黒い砂塵が宙を舞い、視界を遮る。

 砂に残留している瘴気以前に、見た目からして無害であるとは考え辛かった。布とゴーグルで顔面を保護していなければ、今頃眼球や呼吸器に甚大な被害が及んでいたに違いない。

 この場所が元からこうだったのではなく、生きとし生けるもの全てが奪いつくされた結果だと理解できたのは、まさにその原因が視界を過っていったからだろう。


 遥か遠くに渦巻く、竜巻のような何か。

 朽ち果てた大地の上を這いずり回る、漆黒の颶風。

 古き地にて猛威を振るう、死神の風。

「『死の嵐』か……」

 自分から遠ざかるように小さくなっていく災厄を見送りながら、クロイツは鬱陶し気にその名前を口にした。


『死の嵐』は常々地獄と評される旧大陸において、最も危険な災害とされている。

 一見すると黒色の竜巻のように見えるが、気象現象の竜巻とは全く異なる原理が働いていることは確からしい。

 らしいというのは、詳細を調べ上げようと接近した者が例外なく絶命したため確実な情報が得られなかったからだ。

 ――否、一つ確実な情報はあった。

 近づいた生命体はその命諸共消し飛ぶという、確かな裏付けのある事実が。

 クロイツは調査の過程で、新大陸では国を挙げての討伐が行われるレベルのモンスターが『死の嵐』に一撫でされ、一息の間に死に絶えたのを目撃している。

 もはや庭同然な『磔刑の森』が可愛く感じる馬鹿げた災厄だ。所詮、あの森も旧大陸と新大陸の境目に存在する入り口に過ぎないということか。

「触らぬ神に祟りなしってな」

 無論、クロイツも敢えて近づこうとはしなかった。

 死にたいという欲求が湧いてくるほど人生をやりきったとは思っていないし、何より家族を遺して死ねない。

 体の弱い妻のことも気がかりだが、やはり気になるのは二人の子供だ。

 かの憎たらしき雇い主に旧大陸のとある場所の調査を命じられ、一三の長男と一一の長女の元を去り早三年。

 今は帰り道だが行きの時間から考えると、この調子でいけば仕事が終わる頃には五年ほど経っている計算だった。

「顔を忘れられてなきゃいいんだが……」

 もし再会した際に「誰このおっさん?」みたいな反応をされたら、もしかしなくても泣いてしまう。

 ゼロじゃない可能性を想像してガチ凹みしていると、ふと視界の端に違和感を覚えた。

「ありゃ、村か?」

 正確に言うならその跡地。

 より詳しく述べるなら残骸か。

 代わり映えのしない景色の中にポツンと現れたのは、木で組まれた小屋が立ち並ぶ小さな村落だった。

 多分に漏れず死の嵐が過ぎ去った後らしく、木材の殆どは徹底的に腐食され崩れ落ちている。形を保っているだけ健闘したと称えるべきかもしれない。

「使われてる木もいいが、何やら呪文でも刻んでたのか……読めねえが」

 文字が潰れてしまっているのか、或いは未知の言語で描かれているのか。耐久性の要因をより詳しく調べようと、黒ずんだ家屋の外壁へと手を伸ばす。

 しかし、指先が触れるか触れないかのところで。

「うおっと」

 バチリという乾いた音と共に発生した小さな衝撃が、クロイツの手を弾いた。

 まるで近づくものを拒絶するような反応だったが、それは壁から生じた物ではなかった。力の発生源を辿れば、クロイツが着込んでいるコートの胸ポケットへと辿り着くだろう。

 そこにあるのは赤染の紐を編んで作られたお守りだった。幼い子供が手作りしたような不格好さだが、効果は覿面だったらしい。

「触るなってか……仕方ねえな」

 僅かに熱を発するそれに守られたのだと理解したクロイツは、これ以上の詮索を大人しく諦めた。

 お守りの警告を破れば、ろくなことにならないことを知っている。これを手渡してきた人物を尊敬してはいないが、信用はしていた。

「――さて」

 家屋から意識を離したクロイツは、周囲に生き物の気配がないか探った。

 もはやこの村を死の嵐が襲ったことに関して疑う余地はない。ともすれば今行っているのは無駄な行為に違いないのだが、彼の勘がそうさせた。

 これだけ村が形を保っているのなら、一人くらい生存者がいてもいいはずだ。


 果たして、その勘は当たっていた。

「本当に一人だけ生き残ってたとはな」

 村の中央付近。

 微弱な魔力の反応と気配を足元から感じもしやと思って掘り返してみれば、一人の少女が土の中で蛹のように包まっていた。既に効果が失われかけているが、全身を強力な結界で保護されている。

 彼女が唯一の生き残りのようだ。地表を進む死の嵐から少しでも逃れられるように、地中へ隠されたのだろう。

 その結界に使われている魔法の特徴と、何より少女の外見的特徴からクロイツはここがどのような村であったかを確信した。

「エルフの集落……それも旧大陸に残ったっつうエルダーエルフか」

 道理で知り合いと似たような術式なのに見覚えが無かったわけだと、クロイツは一人納得する。


 かつて旧大陸を襲った大災害から逃れるべく、知性を持つ種族の大半は新大陸へと渡った。その中にはエルフ族も含まれていたが、生まれ故郷である森を捨てることが出来ず留まった部族もいたという。この集落もその一つなのだろう。

 つまり今となっては見る影もないが、この辺りの広大な荒れ地は元々緑の生い茂る森林地帯だったということ。

 その上少女に張られた結界の効果の減り具合からして、この地域一帯が『死の嵐』に踏みにじられたのは割と最近のことであることもわかる。

 規模も破壊力も、これまで観測された物とは桁違いだった。

「こりゃ発生周期どころの問題じゃねえよな」

 クロイツは一刻も早く帰還するべきだと判断した。

 依頼主にこの情報を伝えるのは早いほどいいだろうし、これ以上長居すると流石の自分でも命の保証は出来かねた。

 多少の障害であれば自力で道を斬り(・・)開けるが、あんな規格外相手は身に余る。

「つっても、この子を放っておくわけにもいかねえし……はぁ、セレナにどう説明すっかな」

 帰った後のことを考えると気持ちが沈んでくるが、見つけてしまったものはしょうがない。この場に彼女を守る存在はいないし、恐らく根こそぎ奪われた後だ。自分で掘り出したのだから最後まで責任は持つべきだろう。

 諸々の不安や不平を飲み込んで、クロイツは少女を背中に背負った。お世辞にも安らかとは言い難い寝息が耳朶を打つ。うなされているようだ。体にも熱が籠っていて、あまり体調も優れないらしい。

「起きたら起きたで言葉通じんのかこれ……はぁ、めんどくせ」

 口ではそう言いつつも振り落とされないようしっかりと少女の体を自らに固定して、クロイツは再び歩き出す。


 向かう方角はひたすら東。

 拾い物としてはあまりに大きな存在を伴って、新大陸へと向かって歩みを進めた。


 ◇


「魔王様、いつまでアレク殿らに付き添うおつもりですか?」

「あいつらがちゃんとダンジョンに入るまでだ。何ならクリアして出てくるまで待っててもいい」

「踏破されるのは前提でありますか」

「むしろあの過剰戦力でどうすれば負けるのでしょう」

 アルヴヘルツの南門を抜け、妾たちは石畳で舗装された道を歩いていた。

 少し前を行く勇者パーティーを加えれば総勢九人の大所帯である。横に広がりでもすれば完全に道を塞ぐことになるので、なるべく右側によるようにしている。

 目的のダンジョンは王都から真っすぐ南に伸びた道の途中にあり、通行量の多い立地であることから休憩所も併設されている。

 ダンジョンの存在意義を今一度問いたくなるが、分類上は公共施設だ。そもそも他国の領地内に建設させてもらってる分際で文句は言えない。

「『始まりの祠』は今日中で終わるとして、問題は二つ目以降だな」

 最短ルートで行くにはどう回るのが効率がいいのだろう。

 後でダンジョンの配置を確認しなければ。

「あの魔王様、流石にダンジョンの攻略順にまで干渉するのは……」

「え、駄目なの?」

「駄目というかもう色々本末転倒であります」

「むぅ……確かに魔王が積極的に勇者のダンジョン攻略を補助するのはおかしいか」

「気付くのが今更過ぎますね」

 今まで勇者たちがあまりに牛の歩みだったから、必要以上にお節介を焼きそうになってしまう。

「それ以前に、今のルシエル様では勇者様たちに勝てるか微妙なところですが」

「そ、そんなことないわ! 妾が本気になれば勇者パーティーの一つや二つ一捻りだ!」

「『血の力』を使えばですよね。あれはベリアル様から禁じられいるはずです」

「うぐっ」

 ミルドが珍しく言う正論に、妾は二の句が継げなくなる。

 一族に代々伝わる『血の力』――バッカスの宿屋でうっかり解放しかけたあれを使えば勇者パーティーを一度に相手してもいい勝負が出来る。下手すれば勝ってしまうかもしれない強力な力だ。

 ただしあれは使用者に途轍もない負荷を強要する諸刃の剣でもある。代を経て力が弱まり、ましてハーフである妾では器となる肉体がもたない。

 故に、父上から厳重に禁じられているのだが。

「ミルドならむしろ『どんどんやろうじゃねえか』って言うと思ってたのに」

「確かに意外ですな。お主が魔王様へ真っ当な忠告をするとは」

「今日は雪でも降るでありますか?」

「ぶち殺しますよガリアン将軍」

「オォン!?」

「でも、言われてみれば私らしくもありませんね」

 ガリアンへ真っすぐな殺意を向けつつ、ミルドはこれまた珍しく思いつめたような表情を作った。

 一体どうしたのだろう。

 王都を出るまでは普通だったし、道中にも取り立てて気になるような物も出来事もなかったのだが。

 強いて言うなら、勇者パーティーにラストダンジョンのラスボスたちが引っ付いている今の状況か?

 この上なく異常なことには間違いないが、ミルドはそんなこと気にするほど繊細じゃないしなぁ。

「もしかして、まだポーカーの負け引きずってるのか? あれはもう当たり前の結果なんだから気にするって」

「いえ、あのことに関してはまたの機会に異議を申し立てます」

「やめとけって! お前がどう足掻いたって芸術点は認められないから!」

「それとは全く別の話にはなるのですが」

「聞けよ!?」

 妾の訴えには聞く耳を持たず、ミルドはただ目を細めて。

「王都を離れてから、何となく違和感を感じているんです」

「違和感? 妾は何も感じないが」

 ジラルとガリアンにも目くばせをしてみるが、二人とも小さく首を振る。前を歩く勇者たちも特にこれと言ったリアクションはとっていない。

 どうにもその違和感とやらは、ミルドだけが感じているものらしい。

「気のせいじゃないのか? 何かあれば、最低でもあいつらの内の誰かは気付いてそうなもんだが」

「魔力や気配といった確固たるものではありません。雰囲気といえば良いのでしょうか」

 煮え切らない、それでも何かを確信したような口調でミルドは言う。

「どこか、懐かしい空気が漂っている……そう感じるのです」

「懐かしい空気?」

 言葉の意味するところを問おうとしたその時、


 「わぷっ」

 ポスっと柔らかい何かと正面衝突した。

 何事かとその正体を確かめると、目の前には勇者たちの一番後ろを歩いていたクラリスのナップザックが。

「どうしたんだ急に立ち止まって。忘れ物でもしたのか?」

「違うよ。先頭のアレクが立ち止まったからみんな止まっただけ」

「勇者が?」

 クラリスの横から前集団を除いてみれば、言われた通り勇者たちが道のど真ん中で歩みを止めているのが見えた。

「おいおい、何やってんのあいつら」

 こんな大人数で道を占拠したら邪魔になるだろうに。やはり一般常識がなってないな。

 そう思い注意しようとしたのだが。

「……少なすぎる」

「へ?」

 小さく何事か呟いたかと思えば、


 次の瞬間、空間にずらりと展開される無数の魔法陣。

 そこから高速射出された白色の鎖が、妾たちを取り囲んだ。


 ――え、何で!?

「いきなり何だ! 妾たち何かしたか!?」

「落ち着いてください魔王様! 我々だけではなく勇者殿らも鎖の内側です」

「あ、ホントだ」

 複雑に空中を奔る鎖は、丁度勇者たちと妾たちを内包するように展開されている。閉じ込めたというより、内側にいる者を守るような布陣だ。

 勇者は鎖の一本を手に取り、身構えた状態で周囲へ視線を巡らせていた。

 勇者だけではない。いち早く反応したチットは弓に矢をつがえた臨戦態勢で、ネリムは複数の探知魔法を同時に発動している。ディータはこれと言った動きは見せていないが、油断なく気配を探っているのは伺えた。

「どうしたんだろ?」

「ってお前は何もしてないのかい……」

 ただ一人新規加入勢は波に乗れてないのか首を傾げるばかりだったが、クラリスの疑問ももっともだ。

 そう言えばさっき、勇者は何て言ってたっけ。

 少ないだったか?

「おい勇者、何が少なかったんだ?」

「人通りだ」

 返答は極めてシンプルだった。

「王都を出てから結構歩いているのに、さっきから誰ともすれ違っていない」

「言われてみりゃ、この道は隣町と王都を繋ぐ直通路だぜ。人っ子一人いないってのは異常だな」

「でも結界とか魔法の反応はないよ?」

「周囲に気配も感じない。完全な無人」

 状況の異常性はハッキリしているにもかかわらず、その原因となるものは何も発見できない。少なくとも妾の知る限り最強の索敵性能を誇るネリムとチットが無人と断定している。

 人為的に起こされたものではないのか?

 しかしこんな自然現象見たことも聞いたこともないぞ。

「この先が通行止めになってる可能性はないでありますか?」

「だとすれば門の衛兵が教えてくれたはずじゃがなぁ」

「先ほどよりも空気が……まさか」

 こちらでも部下たちが現状について推測している中、ミルドだけが確信を深めたように表情を険しくしていく。

「何か心当たりがあるのか?」

「これだけの規模でありながら、探知魔法で魔力を探ることができない魔法。本来ならあり得ないことですが、可能性があるとすれば一つだけです」


「これは、精霊魔法――」

「正解だ」


 突如として降りかかる声。

 気付いた時には、その男は真正面から勇者へ斬りかかっていた。

「――ッ!!」

「お、良い反応」

 完全な奇襲に対して稲妻の如き反応速度で対応する勇者。手にした鎖で剣の軌道を逸らし、更に死角から追加の鎖を射出する。

 男は首を小さく傾ける最小限の動きでこれを回避した。しかし二発三発と続く追撃に後退を余儀なくされたのか、軽やかなバックステップで距離を取る。

 間合いを空けたことで、妾はようやくその男の風貌をまともに捉えることができた。

 年は三十代後半だろうか。もう少し若くも見えるが、年季の入ったコートや顎に生やした無精ひげが年齢以上にくたびれた印象を与える。髪と瞳はどちらも、濡れ羽を彷彿させる純粋な黒。

 どこかで見たような……いや、そもそも――

「一体どこから現れたんだ!?」

 妾の主観では、鎖で編まれた結界の内側にいきなり男が出現したようにしか見えなかった。魔法陣も見えなかったから転移魔法ですらない。

 ミルドは精霊魔法と一瞬漏らしていた気がするが、聞いたこともない言葉だった。

「なるほど。五年も経ちゃこれくらいは対処できるか」

 男の方はと言えば、こちらから向けられる警戒の目などどこ吹く風に勇者の実力を推し量っていた。

 勇者のことを知っているような口を叩いているが、知り合いなのだろうか。

 そのことについて妾が問おうとした矢先だった。


「んなら、こいつはどうする?」

 鋭い刃にも似た笑みを浮かべた男が、右手に持った銀色の剣を横薙ぎに振るった。

 その場から一歩も動かず、緩慢な動作で行われたそれに攻撃性は微塵も感じられなかったが。

「伏せろ!」

「え――」

 鋭い勇者の声に反応し、全員が地面へと伏せた。妾は反応するよりも早く、傍らにいたミルドに引き倒されていた。

 直後、先程まで頭があった辺りを陽炎めいた揺らぎが薙ぎ払う。

 パッと見では何が起きたかわからないその現象に、何故か底冷えするような恐怖を覚えた。それは生物の本能から来る恐怖だったのだろう。


 パキン、という音が連続して鳴り響く。

 硬いものが砕けたようなそれは前後左右、あらゆる方向から聞こえてきた。

 ちらりと横を見やった妾の目が捉えたのは。

「んな!?」

 無残にも中途から切断された『境界の鎖』が、バラバラになって地面へと散らばる瞬間だった。

 強固な結界としても機能し、ミルドとディータの本気エネルギーがぶつかり合った爆発すら防ぎ切ったあの鎖がだ。

 それをいとも簡単に切り裂くだと!?

「残念だがその鎖じゃ俺の剣は防げねえよ。空間ごと斬っちまうからな」

 事もなげに自分が引き起こした現象の正体を明かす男。

 空間を斬った? 魔法も使わずに? ただの剣術で?

 んなアホな!?

 次元干渉系の魔法自体がかなりの高難易度なのに、それと同等の現象を生身で発生させるなんて、もはや技術云々の領域を超えている。

「……! まさか、あんたは」

「あ、そういうこと?」

 ここに至って、勇者とネリムは男について何か思い出したらしい。

 こいつの知り合いはいつもこうだよ! ヤバい奴としか友達になれないのか!?


「え、もしかして今気づいたの?」

 しかし、意外にもこの発言にショックを受けたのは男の方だった。

「ああ」

「うん」

 揃った動作で頷く兄妹。

「さっき斬りかかった時どう思った!?」

「いきなりなんだこいつと思った」

「変なおっちゃんに絡まれたなぁって」

「嘘ん……」

 先ほどまでの余裕な態度はどこへやら、見る見るうちに意気消沈していく。

 何だか見ていて可哀想になるくらいの落ち込みっぷりだな。まるで妾が初めて一人で風呂に入ると言った時の父上みたいだ。あの時は大変だったなぁ。

「畜生、だから調査なんか行きたくなかったんだよ……あの野郎マジ許さん」

 涙目で誰とも知れないスカした面への恨み節を唱える男に、これまで見せていた強者の雰囲気は欠片もない。これ以上襲ってくる様子もなかった。

 張り詰めていた空気が急激に弛緩していくようだった。

「……で、あれは一体どちら様?」

 全員を代表してクラリスが問いかけると、勇者とネリムが同時に答えた。


「俺たちの親父だ」

「ネリムたちのパパだよ」


 …………ふむ。

「どぅふぇぇぇええええ父親ぁああああああああああああ!?」

 父親ってあの父親?

 両親の男の方!?

「じゃああの男が勇者の父親なのか!?」

「今そう言っただろ」

「えええええええええええ!?」

「驚き過ぎですルシエル様」

 いやだってあの勇者たちの父親だぞ!

 勇者とネリムの父親だから少なくともまともな人物じゃないとは思っていたが、案の定とんでもないのが出てきやがった。

 カエルの子はカエルとはよく言ったもんだ。戦闘民族の親は戦闘民族だったか。


「まあ、そういうことだ。驚かせて悪かったな嬢ちゃんたち」

 腰の鞘に剣を収め、男はボリボリと頭を掻きながらこちらへ歩み寄ってくる。

 こうして近くで見てみると、彼は勇者とよく似ていた。さっき感じた既視感の正体はこれか。ネリムはきっと母親似なのだろうが、髪や目の色には父親の遺伝子が出ている。

「俺はクロイツと言う者だ。アレクとネリムの父親をやっている……さっきまで顔忘れられてたけどな」

「五年前はもう少し若々しかったよね?」

「こっちも色々と苦労してたんだよ。まあそれはお前も同じか」

「……そうだな」

 話を振られた勇者は、若干極まりが悪そうな表情をしていた。

 そう、表情だ。驚くべきことに見ていてわかるほどに奴の表情が変化している。

 どうやら妾たちに親と話しているところを見られるのが余程気まずい様子。気持ちは割とわかるが、勇者のああいった反応はレアだな。いいぞもっとやれ。

「今、木こりはエディが?」

「ああ。あいつならもう大丈夫だ」

「あの恐がりがねぇ……どういう心境の変化があったのやら。んで、この子らはお前の仲間か」

「そうだ」

「ふーむ、実力者揃いだが……」

 クロイツ氏は勇者と会話しながら、近くにいるパーティーの面々を一人ずつ確認していた。

 初めにチット、続いてディータ。

 最後に笑顔で手を振るクラリスを見てポツリと一言。

「女の子ばっかじゃねえか」

 あ、それは妾も思いました。

 勇者パーティーの男女比は一対四。紅一点ならぬ黒一点である。

「別に他意はない。偶然だ」

「本当かぁ? 頼むから刺されるような真似はすんなよ」

「……それはどういう意味だ」

「さぁな。にしても君ら、よく俺に襲い掛かって来なかったな。てっきり横槍が入るもんだと思ってたんだが」

 勇者が斬りかかられた際に身構えながらも介入はしなかったチットとディータはそう問われると、口々に理由を述べる。

「マスターと同じ匂いがした」

「剣に殺気が載ってなかったからな」

「いやさっきのあれは殺す気満々だっただろ!?」

 ミルドに引き倒されてなければ妾、今頃クビチョンパだったぞ!

「あれくらいなら避けれるよなーと」

「あんたら親子基準で考えるのやめてくれます!? そもそも出会い頭に息子に斬りかかる父親もどうかしてるわ!」

「何せ久々に会うもんで、どんだけ成長したか確かめようと思ってな……ていうか」

 ふとクロイツ氏は、目を細めて妾の方を見ると。

「嬢ちゃんは誰だ? これまた個性的なのを連れているみたいだが」

「わ、妾はルシエル=エル=ザハトラーク。今代の魔王を務める者だ!」

 何だか久しぶりにフルネームを名乗った気がする。

 しかし魔王たる妾が「誰だ?」と聞かれる日が来ようとは。

 これでも結構名は売れてる方だと思ってたんだけどな。シルフェの森の村の子供も知ってたくらいなのに。

「ああそうだったのか。悪いな。五年ばっかし風の噂も届かねえ場所にいたもんで、時事には疎いんだよ」

 なるほど、そういうことなら仕方がない。

「別にいいさ。あと個性的なのではなく、こいつらは妾の部下だ」

 まあ、こんなでも魔王城のトップ陣だ。個性的なので一まとめにされては我々の沽券にかかわる。

「私はメイドです」

「それ訂正する必要あった?」

 ミルドのこだわりがわからない。

「で、どうしてその魔王さん方と勇者のパーティーが一緒にいるんだ。あんたらラスボスだろ」

「ぐっ、至極真っ当な疑問」

 だよね。普通に変だよね。

 でも仕方がないじゃん。

 こいつら見張ってないとすぐにわき道に逸れるんだから。

「いつもは帰るタイミングで今日は何故かついて来たんだ」

「あぁん!? どの口がほざきやがるァ!」

 元はと言えばこいつらが――というかディータだけど、借金こさえて立ち往生してたのが事の発端だろうが!

「今日が初めてじゃないのか?」

「割と頻繁に遭遇する」

「そ、そんなに頻繁じゃないし! 週に一回くらいだし!?」

「……まあ俺は外交に関しちゃ門外漢だし、とやかく言う気はないんだがな」

 ちょちょちょっと何ですかその「この子も物好きだなー」みたいな目?

 やだなー別に妾は好き好んであなたの息子さんに付きまとってるわけじゃないんですよ。

 ただちょっと息子さんの不真面目さが目立つというか、もっと勤勉にダンジョン攻略して欲しいというか。

 そうこれは仕事。ビジネスの関係だ!

 何かちょっと違う気がするけど。

「理由はどうであれ事実でありますな」

「うるせー!」

 余計なことは言わなくていいんだよ!

「しっかし、こんな子供が魔王だなんてなぁ」

「おっと子ども扱いはしないでいただきたい。妾は今年で一七なんで」

「……え、嬢ちゃんネリムより年上なのか?」

「おいこら今どこ見て判断した背丈かそれとも胸か!? どちらにせよ許さん!」

 少なくとも視線が妾の全身を一舐めしたのはわかってんだぞ!

 こんな所まで親譲りなのかくそったれめ!

「大丈夫です魔王様、成長期はこれからです!」

「その慰め今は辛いから止めてくれる?」

「まあハーフとはいえ吸血鬼は先が長いんだ。焦らず気長にいけばいいだろ」

「初対面の人間にまでフォローされた!?」

 ちくしょう見てろよ。

 おのれら一族郎党、いつか成長した妾のナイスバディの前に跪かせてやるからな……!


 妾がメラメラと怨嗟の炎を燃やしているの他所に、会話の内容はより踏み込んだものになっていた。

「それにしても、魔王様がハーフヴァンパイアであるとよくわかりましたな」

「五年より前のことなら相応に知識はあるさ。先代魔王と面識はあるし、そちらさんに嫁いでった恋愛脳とも知らない仲じゃない」

「おや、奥様のことをご存知で?」

「あれが勇者になるよりも前に、何度か顔を合わせる機会があってな。雇い主の意向で模擬戦なんてやらされたこともある。正直何度か死にかけたしふざけんなと思ったが」

 ふーむ、意外な接点があるものだな。まさか妾の父上や母上と勇者たちの父親が知り合いだったとは。

 そして母上は子供のころからイケイケだったようだ。クロイツ氏の言葉の節々から当時の気苦労が垣間見える気がする。ちょっとだけ親近感。

「今回の仕事にしたってそうだ。何の前置きも無く死地に放り込まれるわ、往復で五年も経って子供に顔は忘れられるわで散々だぜ」

「随分な雇い主だな。それだけ長期の仕事になるなら家族も交えて事前に密な話し合いを設けるべきだろうに」

「だよな? 嬢ちゃんもそう思うよな!」

「うむ、断固として抗議するべきだ」

 労働者には労働者の責任があるように、雇用者には雇用者の果たすべき責任があるというもの。つき従ってくれる者らの信頼を裏切るような行為は言語道断である。

 どこのどいつかは知らないが、人の上に立つ者としてどうかと思った。

「やっぱそうだよな! 全く、あいつにも同じ王として嬢ちゃんの爪の垢を煎じて飲ましてやりてえよ」

「ははは、そんな大げさな……って同じ王?」

 何と、クロイツ氏の雇い主は王様だったか。結構な大物なようで。

「そういや丁度そいつのとこに向かう途中だったんだ。よかったら嬢ちゃんも来るか?」

「向かう途中?」

 えーっと、確かこの道は一本道だったよな。

 で、妾たちが歩いて来た方向にクロイツ氏がいたとは考えられない。よって隣町側から来たと仮定する。すると目的地は王都。

 雇い主は王様で、母とはその雇い主を介して知人関係にあった。更に母が子供の時に魔法について師事していたのは。


 ……あれ、もしかしてその雇い主ってまさか――

 頭の中につい最近出会って別れたとある人物の顔が浮かんだのと時を同じくして、少年のような無邪気一〇〇パーセントの笑みと共にクロイツ氏がグッと親指を立ててきた。


「一緒にアルベリヒのクソ野郎をぶん殴りにいこうぜ!

「ぎゃぁぁぁああああやっぱり陛下のことかぁぁぁぁぁぁああああ!?」


 やべえよやべえよ、逆立ちしても物申せる相手じゃなかったよ。

 どこのどいつとか言ってマジすんません。

 つーかさっきから何なんだよこの人間関係の密度は世間狭いってレベルじゃねえぞ!

「嬢ちゃんも同じ地位の人間としてガツンと言ってやってくれよ」

「無理無理無理! 同じ王でも格が違い過ぎる!」

「格? あいつ長生きなだけで威厳もへったくれもないだろ」

「そこまで言い切るあんたも恐いわ!」

 クロイツ氏とアルベリヒ陛下が一体どういう間柄なのかはわからんが、ひとまず単なる雇用関係じゃないことは確かだろう。

 じゃなけりゃクソ野郎呼ばわりなんて恐いもの知らずにも程があるわ。

「まあそっちにも用事はあるようだし、無理強いはしないがな」

「……二つほど質問してもよろしいでしょうか?」

「ん、何だメイドの嬢ちゃん」

 話がひと段落ついたところで、いつになく神妙な面持ちのミルドがクロイツ氏に尋ねる。

「先ほどからずっと発動している人払いはあなたが?」

「いんや、こっから少し戻ったところにいる連れが遠隔で発動してる」

「そうでしたか。しかし何故そのお連れ様は精霊魔法を? 新大陸では既に失伝している魔法体系のはずですが」

「え、そうなの?」

「精霊魔法はエルフ種の中でも一握りの部族にしか伝わっていない秘伝。その者らは殊更保守的で旧大陸に残ることを選んだため、新大陸には伝わっていないのです」

 ふむ、ジラルが言うのならそう言うことなのだろう。

 昔読んだ魔法大全には精霊魔法なんて単語一欠けらも載ってなかったからあれって思ったけど、失伝した魔法のことを実用書には載せないわな。

 だが、普通の魔法と何が違うんだろう?

「この世とは別位相に存在する精霊へ働き掛け行使する精霊魔法は結果である現象のみを発生させます。故に兆候の察知や魔力反応の探知も出来ないということです」

「強すぎないそれ!?」

「もっともミルドが申した通り、アルベリヒ陛下すら使えない失われた魔法ですがな……本来ならば」

 旧大陸の特殊なエルフ種にのみ伝わり、広まることもなかった魔法体系。

 もしそれがここ――新大陸で行使されているとしたら。

 辺りは静寂に包まれていた。まるでこの場にいる全員が、これから交わされるであろう会話を一言一句聞き逃すまいとしているようだ。

「懐かしい空気かと思ったら精霊の気配だったようですね……もしかして、クロイツ様のお連れ様は旧大陸のお方ですか?」

 ミルドの問いに対し、クロイツ氏は――


「え、そうだけど?」

「軽ーい!?」

 吹けば飛ぶくらいの軽さであっさりと言ってのけた。

「あ、やっぱりそうなんですね」

「こっちも軽ーい!?」

 ミルドの反応も同じくらい軽かった。

 あれ、これって結構大変なことじゃないの?

 さっきまでのこれから重大な事実明かされるよーみたいな空気はどこへ?

 妾を置いてどこへ行ってしまったんだシリアス!

「何でミルドそんな質問したんだよ!」

「ただ懐かしいと思ったので」

「本当にそれだけ!? 特別因縁があったとかじゃなく!?」

「特には」

 もう何なんだよー意味深な反応で妾を惑わすなよー!

 てっきりこれから壮大なストーリーが展開されると思って身構えちゃったじゃないか。

「旧大陸の魔法がこちらに伝わっている時点で普通に一大事であります……」

「そ、そうだよ! ガリアンにしては的を射たことを言うじゃないか」

「だいぶ失礼でありますな!?」

「ともかく、何故クロイツ氏が旧大陸のエルフなんてトンデモ存在と一緒に行動しているんだ!」

「そりゃ何故も何も」

 妾が尋ねると、クロイツ氏はまたもや世間話でもするような気軽さで、


「あいつは俺が旧大陸から連れ帰って来たからな」

「……んん~?」


 今このおじさん何って言ったのかな?

 旧大陸から連れ帰ってきた?

 妾、難しい言葉わかんなーい。

「仕事で向かうって言ってたのは旧大陸だったのか」

「五年も? 大変そうだねー」

「大変そうってか既に大変だったんだよ。帰りは行き以上に気を遣ったし何度死にかけたことか――」


「って人が現実逃避してる間に普通に団らんしてんなや!!」

「ルーちゃんそれは無茶だよ……」

 クラリスが苦言を呈してくるが、それ以上に色々と聞き捨てならなかった。

 旧大陸に五年?

 あの魔境で五年も!?

「あんた何で生きてるの!?」

「……おい息子よ、突然ひでー罵倒を受けた気がするんだが気のせいか?」

「どうやって生き延びたのかという疑問だろ」

「ああそっちか。んなの逃げて隠れて、どうにもならなきゃ斬るだけさ」

「物凄いざっくり!」

 臨機応変な対応と言えば聞こえはいいが、結局のところ行き当たりばったりじゃないか。

 よく生き残れたな。ていうか、むしろそれぐらいの出鱈目じゃなきゃあんなとこで五年も活動できないのか……。

「へぇ、おっさん強えんだな!」

「マスターの父君ならば至極当然」

「はっはっは、嬢ちゃんらほどじゃねえさ。てか、マスターって誰だ?」

 戦意と憧憬を受け止めて鷹揚に笑うクロイツ氏の傍ら、勇者がスッと目を逸らした。

 やはりというか、触れられたくないらしい。

 助け船のつもりか、ジラルがクロイツ氏へ新たに疑問を投げかける。

「と、ところで何故五年もの間旧大陸にいらしたのですかな?」

「悪いが、契約上の問題で詳細は言えねえ。ただ、用事自体は五分そこらで済んだよ。五年ってのは殆ど行きと帰りの時間だな」

「それはまた随分な……陛下も無茶を仰りましたな」

「本当だよ。まあ無駄足にならなかっただけマシってとこだ。予想外の拾いものもあったしな」

 拾い物とは彼の連れだという人物――恐らくエルフ族の者のことだろう。

 確かに新大陸には存在しない魔法体系の使い手を引き込めたというのは、充分な収穫なのかもな。

 精霊魔法。使われたことを一切悟られない魔法か。

 とりあえずミルドとチットには絶対に与えてはいけない技術だな。片や悪戯心、片や殺意の塊だ。

 もし習得されでもしたら妾の身が持たない。

 ……しかし、他にも気になるのは。

「そのエルフはどういった経緯でこちらへ来ることになったんだ?」

「あー、そうだったな。ウルスラについては会う前に説明しておくべきか。ショッキングな再開のせいですっかり忘れてたぜ」

 クロイツ氏は頭をガリガリと引っ掻きながら、そうぼやく。

 いや妾たちにとっても普通にショッキングだったわけだが、実の息子と娘からの誰こいつ発言は相当効いたのだろう。

 あと、エルフの名前はウルスラと言うらしい。

 ここいらではあまり聞かない風の名前だけど、響きからして女性っぽいな。

「それは重要なことか? 俺たちは一応予定があるんだが」

「どうせダンジョン行くんだろ? ウルスラもそこの休憩所に待たせてるし、ついでだついで。それにな」

 軽い調子で言っていたクロイツ氏はふと、真剣な面持ちとなり。

「重要かと言われれば、かなり重要だ。特に俺たち家族にとってはな」

「……」

 これには、勇者も沈黙で答える。

 表情は相変わらず動かないが、これまでの経験則からしてあれは先を促すポーズだ。ネリムも珍しく口を挟むことなく傾聴する姿勢だった。

 五年ぶりに姿を現した父親から語られる、家族にとって重要な話か。

「妾たち席外した方がいいかな」

「え、別によくね?」

「むしろ聞いてしまえば後に退けない。既成事実」

「デリカシー皆無か! あと猫耳は自重しろっ!」

 こんな時に狩人根性発揮しなくていいから。

「でもルーちゃんも気にならない?」

「うっ……な、ならないと言えば嘘になるが」

「上の口は正直じゃないですか」

「ぶっ!? ほ、他にどの口があるってんだい!?」

 突然ぶち込まれたエグイ下ネタに、変な口調になってしまった。

「やだなー、ルーちゃんったら知らないフリしちゃって」

「勇者様のことを散々言ってますが、ルシエル様も中々のムッツリですよ。この前は無理やりされるのを想像して興ふ――」

「やめろォ!!」

 いきなり何言いだそうとしてんだこいつはぁ!?

 あれは違うぞ! 仮にそうだとしても一時の気の迷いであって妾の本意ではない! 事実無根だ!

「えー、ルーちゃんマジ―?」

「趣味は人それぞれですから」

「うわーんもうやだこいつらー!」

 泣くぞ。いい加減泣くぞ!?

 何が悲しゅうて衆目の下で性癖を暴露されなければいけないんだ。いや全くの事実無根なんだけど。

 クラリスはクラリスで悪ノリしてくるし……かくなる上は!

「いつかお前らの性癖もばら撒いてやるからな、覚えてろよ!」

「やれるものならやってみなさい」

「何でそんな強気に来るんだよ恐いよぉ!?」


「……なあ、ここで話してもいいのか?」

「いつものことだから気にしなくてオッケーだよ」

「そ、そうか。ならいいんだが」

 クロイツはすぐ側で繰り広げられている喧騒に若干気後れしながらも、どうじない息子たちを前に「そういうものか」と割り切り佇まいを直す。

 何せ、これから話すことは先にも言った通り家族にとっての最重要事項。一から十まで、誤解の無いようにきっちりと説明しなければならない。

 それがウルスラを含めた子供たちのためであり。

 何より、自身の身の安全のためでもあるのだから。

 最後に一度だけ、気持ちを落ち着けるために深呼吸。ある意味旧大陸で命のやり取りをしている時よりも緊張しているが、これからする話も一切の比喩でもなく命懸けだ。

 後ろくらいことは何もない。堂々と行け。

 自分にそう言い聞かせ、最大限気持ちを落ち着かせてから。

「実は――」

 クロイツが口を開きかけたその時。


「もーお父様話長いですよ!」


「――え?」

 このタイミングでは聞こえてはいけない声が聞こえた結果、口から洩れたのは言葉ではなく濁った音と相成った。

旧大陸の危険な現象&スポットTOP3

1位:死の嵐……致死率100%につき近づくべからず。

2位:凍てつく燎原……新大陸東より徒歩二年半。

3位:竜神の谷……現在空き家となっております。


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