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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ドキッ☆突撃!隣の廃病院!〜ポロリもあるよ!〜(嘘)

作者: 猫の干し肉球

 いらっしゃいませ。


 本日のご来店誠にありがとうございます。


 このお話は過去の出来事や、その他の情報を基に創作された物語であり、実際の場所、登場人物、その他もろとも〝ほぼ〟フィクションで構成されております。


 なので舞台はホラーですがジャンルはコメディでお送り致します。

※廃病院後、会話が多くなります


 ――これは二十歳の夏に起きた出来事。



 その日は週末で仕事も早く終わり、自宅でテレビを点けたままウトウトていると、不意に携帯の着信音が鳴り響き意識が覚醒する。



 小さな溜め息と共に携帯のディスプレイに目をやると、幼馴染み且つ悪友の名前がそこに映し出されていた。


 時刻は夜の22時。まあ、翌日は休みなので寝るにはまだ少し早いが、朝から行きたいところもあったので遊びの誘いであるならば断ろうと決め電話に出る。


「もしも――」


『とりあえず出てこいや!』


 ――は? こちらの言葉を遮る以前にいきなり出てこい等とほざき始める悪友のトオル(仮名)は本当に家の前に車を着けていたらしく、遅い時間だというのにパパパーンとクラクションを軽快に鳴り響かせる。


「ちょっ――おい! 止めろ! 時間考えろやお前!」


 家の外と耳元の受話器の向こうから聞こえてくる甲高いクラクションの音に怒りを覚えつつも服を着替え、とりあえず外に出る支度をする。


「お、来た来た! 遅いぞお前! サッサと出てこいや!」


 モロに家の真ん前に停車しているフルスモークセダンの助手席に乗り込むと、悪友はこの近所迷惑極まりないこの件に対して全く反省の素振りもなく爆笑している。


 何処にそんな笑えるツボがあったのか……理解し難いが、とにかく一刻も早くこの場から立ち去ってしまいたい一身に苅られながらも何の用なのかを尋ねてみる。


「で、お前こんな時間に何しに来――」



 そこで不意に背後から人の気配を感じ取り、徐に振り返るとそこには――


「こんばんはー」


「初めましてー」



 後部座席にめっちゃ可愛いおにゃのコが二人乗っていた。



 Nice! 心の友よ!



 こんな時間帯に傍迷惑な事をやらかしてくれた悪友にムカついていたが、後ろの高レベルな彼女達を見てしまうとまあ、可愛いお茶目という事で許してしまう自分に嫌気をさす……ことなど無かった。

 これからアレですね?


 キャッキャウフフなアレなんですね?


 と、言わんばかりの視線を心の友に浴びせまくると彼はニヤリと口角を吊り上げ――


「おう、これお前のカフェオレな! よし、じゃあコイツも来たし何処行こうか?」


 恐らく家に来る前に購入したと思われる缶コーヒーをジュースホルダーに置くと、悪友……いや、コイツは親友だ。その親友はギアをドライブに入れると颯爽と車を発進させる。


「てかてかーその前に自己紹介しまーす! ウチはマイ(仮名)でーす! よろしくー!」


 と、右後部座席から茶髪のマイと名乗る女の子は、元気よく名乗ると俺に可愛く手を振ってくる。そう、俺だけに。


「あ、あたしはアミ(仮名)です! よろしくー!」


 続けて真後ろに座っているショートボブのアミという名の女の子は、笑顔で助手席のシートに抱き付く仕草で俺の肩に手を乗せて挨拶して来る。そう、俺の肩に。


 か――



 かわえぇ……


「はい、マイちゃんにアミちゃんね? 猫ですよろしく」


 心の中という異世界では、気持ち悪いとしか例えようが無い程の変顔での笑みを浮かべながらも、彼女達の前というこの現実世界では、COOLな極め顔で微笑み返す俺は最高にイケメーン。


「でもでもお友達のお兄さんもカッコイー人でよかったよー」


「うん! ずっとキモい奴らにまとわりつかれててウザかった時にお兄さんが声掛けてくれて助かったッスよ!」


 と、いい感じのテンションで話す彼女達の言葉を聞いた俺は心の中で、超元気な玉を作り上げる某在日サイヤ人の如く盛大なガッツポーズを取りながら、どういった経緯で知り合ったのか然り気無く聞いてみると、彼の話しはこうだった。


 パチンコ屋の帰りにたまたま駅のロータリーでしつこくナンパされていた彼女達を見掛け、知り合いのふりをして声を掛けたとのこと。


 で、そのまま家まで送ってあげようとしたが彼女達と話が盛り上がり、もう一人友達を呼んで四人で遊ぼうという流れになったらしい。


 ……いや、お前絶対送る気なんて更々無かっただろう。


 てか相変わらずスゲーな親友。


 形はどうあれ毎回、いやもう百発百中じゃね?


 そんな女好きのどうしようもない性格のナンパ野郎のチャラい彼に、俺は心底こう言いたい。




 Nice!! 心の友よ!!



 ……と、そんな話しを車内でしていると親友はタバコを買い忘れたと言い出したので、じゃあとりあえず目に付いたコンビニへ入ろうか、という事になった。




 ――だがここでコンビニに寄るという選択肢こそが、これから起こる悲劇への入り口だったなどと、一体誰が予測出来たであろうか……



 コンビニの駐車場に車を停めると彼は直ぐに戻ると一言告げ、一人で店内へと入って行く。


 なので彼が戻る迄の間、俺は彼女達と今から何をしようか? とか地元は何処なのか? マイちゃん(仮名)は身長が低いのがコンプレックスらしい等の他愛もない会話をしていた。


 そして真後ろのアミちゃん(仮名)は凄くおっぱいが大きい事を知った。


 暫くおっぱ……アミちゃん(仮名)のおっP……会話をしていると袋をぶら下げた親友がニコニコしながら車へと戻ってくる。


「ん? お前タバコだけじゃなかったんか?」


 持っていたコンビニ袋に目をやり、そう尋ねると彼は軽く摘まめるパン類やお菓子、飲み物を皆に手渡すと一冊のパンフレットにも見える雑誌の様なものを取り出した。


「おう。ホントはカラオケオールしようと思ったけどちょっと面白そうなもん見付けてな、予定変更な」


 そう言うと彼はルームランプを点け、購入したその薄い本(如何わしい本ではない)を指差す。


「面白そうな物って何ですかー?」


「えーなになにー? 何買ってきたのー?」



 後部座席の二人は興味津々に前のめりになって尋ねている。


 おぉふ……アミちゃん(仮名)シートごと俺に抱き付いてくるだと!? くっ! このシートさえ無ければ背中に女のおっP――


「ほら、レジの前にこんなん売ってやがっててさ!」


 皆に見えるようルームランプの下に翳す一冊の黒く薄い本。そのタイトルに目を向ける。


 するとそこには……



【地元心霊スポット全集】



「わ! こんなの売ってたの!?」


「すっご! めっちゃ気になる! 今から行くの!?」



 後ろの二人はその本を見るなりテンションが急上昇し始める。


 アミちゃん(仮名)なんてもう後ろから乗り出して顔をぴったりくっ付けてきている。クンカクンカスーハースーハーヒーッスヒーッス!!


「おう、時季も今が旬って事でちょっとこの中のどれか行ってみようぜ!」


「うん! ウチちょー行ってみたい!」


 親友の言葉にマイちゃん(仮名)は俄然乗り気で心霊スポット全集に釘付けになっている。


「うわー! 面白そう! けどあたしちょっと恐いッス……お兄さんこーゆーの大丈夫?」


 と、後ろから抱き付いたままコトンと可愛く首を傾け聞いてくるおっP……アミちゃん(仮名)。あぁ、ええ匂いや……


 あ、いや。話が脱線するところだった。


 閑話休題……


 確かにその場の雰囲気は恐いと思うが実際お化けなんて視たことも感じたこともないし何とも言えないが……でもまあ恐らくその現場に行くとまた違うのだろう、でもここはやはり恐くないアピールをして男らしさを見せておいた方が後々良いかもな、等と邪な思いが芽生える。


 だがしかし恐いか恐くないかで聞かれると、本音を吐けばはっきり言って恐い! ええ、恐いですとも! なのでやっぱりここは正直に恐いと答えるのが妥当だろう。下手に意気がっていざ現場で情けない姿を晒してしまっては基も子もない。


「ああ、俺は――」

「そう言えばお前の母ちゃんめっちゃ霊感とか強かったよな? 何度も体験して追い払った事もあるって昔お前の母ちゃんからいっぱい聞いたぞ!」






 爆弾投下キター



「うっそ!? マジ!? 猫くんママ最強っしょそれ!」


 何か物凄く尊敬と期待の眼差しで見つめてくるマイちゃん(仮名)Bカップ(予想)


「ええっ!? 凄い! そーなのお兄さん!? じゃあお兄さん居たら楽勝じゃん!」


 そして万勉の笑みでより一層後ろからシート越しにギューッと抱き締めてくる良い香りの小悪魔アミちゃん(仮名)Eカップ(予想)

 そして片方の口角を吊り上げ、いやらしいほどの笑いを見せる悪魔将軍トオルちゃん……お前なんちゅうイラン事を口走ってやがるんですかコン畜生。


 確かにうちの母親は昔、何度もそういった体験をしたと話を聞いたことはある。


 とある病院では、いきなり病室から廊下に弾き飛ばされ、看護師さんやその病室の患者さんに助けてもらったりとか、曰く付きの踏切付近のアパートで独り暮らしをしていた時は大雨の日、布団の中で寝ていると電車の走っていない夜中にいきなり遮断機の警告音が部屋に鳴り響き、突如現れた自殺者であろうスーツ姿の男性の霊に首を絞められ、それでも自力で金縛りをほどき何とか追い払ったとか信じられない体験をしたらしいが、それはあくまで母親の話しである。


 そう、母親の話しであってそれは俺ではない。


 俺には霊感なんて物は鼻くそ程も持ち合わせていないのだ。


 生まれてこの方お化けと言うものはテレビや本の中のフィクションしか知らないのだ。俺自身、見えない、聞こえない、感じない、ある意味経験がないだけに無敵なのだ! そこをちゃんと理解してもらわないとこれは大変な事になる! 事件が勃発する! 確実に!



 こんな北の将軍様に勝るとも劣らない核ミサイルのスイッチを本気でpush! push! しやがった太陽の親友angel……いや、悪友のまんまでいいわこんなヤツ! に、勝手無いほどの憎悪を込めながら反論の口を開こうと――


「じゃあじゃあ何かあってもお兄さん助けてくれるよね?」


 シート越しに後ろから抱き付く形で肩に顎を乗せ、俺の頬に頭をスリスリしながらそう言ってくる小悪魔アミちゃん(仮名)Eカップ(予想)。


「せ……せやな」


 あかあぁぁあぁあんっっ!! そんなんゆったらあかんやん俺ええぇぇぇおえっっっ!!


「よっしゃ! じゃあ今から出発チンコー!」


「「おチンコおおーっ!」」


「いやチンコて」



 ――かくして、俺の真相という名のイージス艦は、この悪友の核ミサイルを撃墜することなく……そしてこのフルスモークセダンは、俺という子牛を売りに出す荷馬車の如く心霊スポットという未だ誰も見ぬ食肉工場へとドナドナするのであった。




 ―――


 ――


 ―



「で、結局これから行くとこは決まった訳か?」


 暗い夜の国道を他愛ない会話が飛び交う中、ひたすら道なりに走ること小一時間。


 俺はこれで十本目になるタバコに火を着け、悪友に尋ねる。


 すると既に行き先は決めているらしく、彼は一言「おう」と頷く。



「そこに載ってる中でも一番有名でテレビでも取り上げられた事ある病院。てかお前タバコ吸いすぎ! 灰パンパン!」


 だまらっしゃい。誰の所為でこんなにタバコ吸ってると思ってるの!? あ、俺か。自業自得か。


「うわーお兄さんそれ何本目? 身体に悪いよ? 吸いすぎいくない!」


 そう言うとまた後ろから手を回し食わえていたタバコを口から優しく取り上げ――


 ――ようとするが、唇にフィルターがくっ付いて離れず、スッと彼女の指が火元までズレる。


「――あっ! 熱っ!」


 直に火を触ってしまった彼女が慌てて手を引っ込めた瞬間、上手い具合に唇と一体化していた筈のタバコが膝に落下していく。


「痛っ!? 熱っ!? あちゃちゃちゃちゃああぁあっっ!!」



 おおよそ7〜800℃はあると言われるタバコの火は、ポリエステル製の薄っぺらい短パンなど一瞬で溶かし太股に到達。


 フィルターに持っていかれた唇の痛みと太股の火傷に軽くパニックに陥る俺に、同じく指を火傷してパニクる小悪魔アミちゃん(仮名)Fカップ(マイちゃん談)が超涙目で、どういう発想でそこに行き着いたのか咄嗟に俺の口内目掛け自身の指を突き入れる。



「あっつ! あっつ! 消火! 消火!」


「あっつ! あっつ! えっ!? オエェエッ!?」


 そんな俺も当然超涙目。


「ぷっ! お前タバコ拾っとけよ!?」


「あはははははははは!」



 こうして、勢いが良すぎで俺の喉チンコという名の径絡秘孔に、一子相伝の如く必殺の指突を放った世紀末Fカップ神拳との死闘が繰り広げられ――




 ――エズく声と大爆笑の炎に包まれた車は遂に目的地の廃病院へと到着したのであった。



 ―――


 ――


「……結構人いてるね」



「うん……これやっぱりみんな肝試しの人達かなー」


「おう……流石に有名スポットだけあってギャラリーすっげーな」



「あー喉痛……てかこんなに人いてたら逆に恐くなくないか?」


「そりゃお前、あんな打ち合わせ無しの神拳勝舞とかしてりゃあ痛いわな」


「やかましいわ」


「猫くんの力はその程度か!」


「黙れガセC」

「あ?」


「サーセン」


「お兄さんお兄さんゴメンね? まだ痛い?」


「いいよいいよ大丈夫大丈夫」


 最強の上目遣いで謝罪してくる小悪魔な彼女の頭に優しく手を乗せる。


「ウチとの差有りすぎじゃね?」


「……にしてもめちゃくちゃギャラリーいてるな、どうするよ? トオル」


「無視すんな猫!」



 目的地の廃病院に到着した俺達は、その周りの光景に唖然とする。


 そう、人が多いのだ。


 それも十人、二十人とかの話しじゃない。路上に駐車している車が二十台近くあり、もうこの廃病院の前は御祭り騒ぎなのである。


 皆、歩道やらそこらの空いたスペースを陣取り、軽く酒盛りしてたり、花火をしながら走り回っている連中等、近隣の住民に通報されてもおかしくない状況だった。俺なら確実に110番する。



「何か聞いた話しじゃあ此処で別々の他人同士のグループが一緒になって中に入ったりするって聞いたことあるな」


「へー、じゃあウチらもそうするの?」



 茶髪マイちゃん(仮名)Cカップ(本人談)が悪友にそう尋ねると、彼は「うーん」と唸り考え出す。そのやり取りを横目に俺と小悪魔ちゃんは改めてこの廃病院に目を向け、車中で読んだ本の内容と、悪友が人伝に聞いたという話しを思い出す。



 ――この廃病院はバリケードで周りは封鎖されているのだが、その敷地はかなりの面積を誇っており、本館である新館と、別館として扱われていた旧館に区分されているらしい。



 それにかなり前から使われていないので、この周囲に居る様な肝試しに訪れた者達や近所の不良達の溜まり場と化しており、院内は落書きやそういった連中が持ち込んだ塵やらで酷い有り様だそうだ。


 そしてどちらも肝試しには打ってつけの場所なのだが、特に別館として使用されていた旧館の方は更に酷い状態になっていると言う。



 どう言った経緯で廃院になったのかは詳しく知らないが、旧館の方は診察室や病室、それに手術室等そのままの状態で放置されているらしい。


 当然ベッドは勿論のこと、担架やカルテ、手術室に至ってはその時に使用された器具等に血痕がこびり付いたまま散乱しているらしい。


 そして最後の極めつけは、過去に肝試しに訪れた人が謎の大怪我をしたというらしいのだが、一体院内で何が起きたのか? と、周囲の者達は何度も被害者達に問い詰めたのだが、彼等は皆口を揃えて「あそこはヤバい、話したくない、早く忘れたい」と繰り返すだけで、真実を聞き出すことが出来なかった……これも〝らしい〟……らしいばっかで真相は分からない。あくまで噂。




 いや。これ……絶対駄目なヤツじゃね?


「お兄さんお兄さん、これ絶対駄目なヤツじゃない?」


 バリケードの先を見つめながら不安げに話す彼女の横顔……否、横おっぱいをチラ見しながら言葉を返す。



「うん、俺も同じこと考えてた【半分横乳見てただけですけど】」



 お互い頭の中のアラートがこれでもか! と鳴り響く中、頭のネジがこれほどにもか!? と緩みまくった悪友と自称ギリギリCカップのマイちゃん(仮名)もうBカップ(でいいじゃん)は二人仲良く笑顔で俺達の元へ歩み寄ってきた。


「おう、さっき何人かバリケード乗り越えて入って行ったし俺らもそろそろ行こーや」



「「まじっすか」」


 悪友の言葉に声が重なった俺達はお互いを見つめ合う。彼女は一応笑ってはいるがどちらかと言うと乾いた笑いだったので俺も釣られて苦笑いをした。


「おー? 猫くんとアミ息がピッタリじゃね? いつの間にそんな距離縮まったのー? てか猫くんさっきアミのどこ見てたの?」



 ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながら目の前に立つマイちゃん(仮名)Bカップ(決定!)の言葉にサッと胸元を手で隠し、悲しげな表情で俺を見つめるアミちゃん(仮名)Fカップ(確定!)……死にたい。


 密かな楽しみ(最低)を潰された事に少しイラッときた俺はマイの一点に視線を向けながら反撃を開始する。


「ドコってお前に無いとこ以外ドコがある?」


「おい猫ウチのドコ見て言ってる」


「言ってほしいか? ほぼBカップ」




 グーで殴られた。



 ―――


 ――


 ―



「おう、みんな暗いし足下気ぃ付けろよ?」


「うわぁ……めっちゃ恐いんですけど」


「……お兄さんお兄さんあたしやっぱり無理かも」


「うわ、財布置いてきたら良かった……俺落としそう」


「……もう、ウチのズボンポケットにボタン付いてるし持っといてあげるよ猫くん!」


 ポケットの浅い短パンを履いていた為にちょっぴり不安になっていると、少し呆れた感じでマイは俺に財布を渡せと手を出してきたのでマイに預けることにした。何だかんだでコイツ優しいな、グーパンするくせに。


 だがしかしその程度の優しさでは、俺はお前にフラグなど立たない。俺にマイルートなど存在しない。


「抜くなよ? び――」


「シバくよ? どら猫」


「サーセン」


 コイツ年下の癖にマジ恐い。



 現在俺達はバリケードを乗り越え、暗い敷地内に侵入。


 噂の真相を確かめるべく旧館へと続くはずの道のりを、重い足取りでゆっくりと進んでいた。


 周りには人工的な光源といった物は一切無く、月の僅かな光りさえも生憎の雲に遮られており、唯一の灯りである百円ライターと携帯電話のディスプレイに至っても、それぞれの上半身をぼんやりと照らすのが限界で、気休め程度にもなりはしない。


 ま、当然だわな。


 俺達の目の前にはただ真っ黒なペンキをぶち巻けた壁があるだけだと認識してしまっているのか、二つの目からは何も情報を得られない。


 ――だが目的の建物がこの遥か先にあるという事は俺達より前に出発した連中の持つ何かの明かりなのかうっすらと分かるのだが、俺達のごく僅かな周囲だけが――


 〝まるで別の空間に隔離されている〝


 ――かの様に、全くと言って良いほど分からないのだ。



「……ちょっとこれマジヤバくない?」


 これでもかという程ストラップをジャラジャラ付けた目立つ携帯電話を胸元で祈るように持ちながら、マイは誰に尋ねるもなく不安を口にする。


 目立つのは胸元のストラップだ。Bカップは目立たない。



「ねえねえお兄さんお兄さん……手……繋ぐ?」



 俺の隣で首を傾けた仕草でシャツの裾をチョイチョイと引っ張ってくる小悪魔アミちゃん。


「せ……せやな」



 上目遣いは正義だ。


 小悪魔ではなく彼女は天使だったのだ。



 天使な彼女はにへらと笑うと俺の手を取りそのままキュッと腕にしがみ付く。


 ……当たっています。


 腕が埋もれています。


 俺の二の腕は今天国に到着しています。ラノベの転生チート主人公の小説じゃなくても人は天界には逝けるのです。女神に出逢えるのです。女神は傍にいたのです。


 彼女が女神だったのです。



 そんな脳内Go! Go! Heavenでペカッ☆ とドコまでも逝こうとする俺の妄想を突き刺す様な忌々しいマイの腐った視線が飛んでくる。



「うっわ。この状況でよくそんな顔出来るね猫くん……ああ、そんな状態だから出来るんか。じゃあウチも」



 と、いちいちカンに障る事をほざくとヤツは悪友の腕を取ると、「めっちゃ恐いよぉー」とか抜かしながら自身の似非Cカップに強引に埋めようと努力する。


 悪友は自分の腕に今起きている状況を他人事の様に暫く見つめると口を開いた。


「悪いけど、普通に歩きにくいわ」


「え」


「いや、だから歩きにくいし危ないからな?」


「えぇえ……」


「ここではとりあえず離れて」


「つめた!」


 確かに。


 だがしかし彼の言ってることは正論である。



 こんな暗闇の中、ピッタリくっついて歩くなんて何かあったら咄嗟に対処しづらい。しかも彼女と悪友の身長は二十センチ以上差があるので、はっきり言って邪魔でしかない。彼女もこういうシチュエーションでの吊り橋効果を期待したのだろうが返って逆効果である。ホント「残念極まりないざまぁ! なチンチクリン」だな、こいつは。


「誰が残念なチンチクリンだ糞猫!!」



「おほおぅっっ!?」


 瞬間彼女は二メートル以上あった距離からワンステップで俺の土手っ腹に拳を突き刺す。


「うわ! お兄さん!?」


 しまった。肝心なとこだけ口に出てたみたいだ。


 その場に蹲る俺を殺さんとする形相で見下ろす貧乳と、その場で呆然とする悪友に状況を飲み込めない巨乳女神。


「まさかリアルにバーンナックルを喰らう日が来るとは……」


「いやさすがに今のはお前が悪いし」



「うん、ウチは絶対悪くないし!」


 いやでも殴るか? 普通?


「あたしもお兄さんが悪いと思うかなー」


 なんと女神は俺を見放された……死のう。



 こんなやり取りで、一向に先に進まない俺達だったが――



『ぎゃああぁああーーっ!!』



 ――この突如聞こえた壮絶な悲鳴から事態は急展開する!



「なななになに!? 今の何!?」


「――!? 俺達の前に入った奴らか!?」


 先程までのだらけたやり取りがまるで嘘のように、突如響き渡った叫び声に緊張が走る。


「おっお兄さんお兄さん危ないから! あたしから離れたらダメっ!」


 俺を護るかの様に抱き付き、悲鳴がした方をじっと見つめるアミだが、ただ単に自分が怖いだけなんだろうな。


 可愛いヤツめ。と、今のうちに彼女の柔らかい二つの国宝をしっかり堪能する。役得役得。



 てか何と言うか……わりとまだ余裕あるな、俺。



「おう、とにかく中で何かあったのは確実みたいだな」


「ううう……うん……ヤバいよ!? もう戻ろーよ!?」


「確かに何かあってからじゃさすがに対処仕切れんぞトオル? どうするよ?」


「ほほほ……ほら! 猫くんもヤバいって言ってるしもう戻ろう!?」


 俺と同じくまだ落ち着いた様子を見せる悪友の服を引っ張りながらチンチクリンは早く戻りたいと悲願する。俺もその案には賛成だ! ……賛成だがもう少し、もう少しだけおっぱいを味わっていたいのもまた事実だ。


 しかしテンパり具合半端ないなチンチクリン。


 俺にしがみついて(護ってるつもり)いるアミは、ただ真っ直ぐに悲鳴のした方……つまり目的地であった旧館を無言のまま見つめている。


「ん?」


 と、その時旧館の入り口であろう場所から何かをひっくり返したような音と硝子の割れる音が同時に聞こえ、中から人が数人飛び出してきたのが窺えた。



「うわああぁああーーっ!!」


「助けてくれぇっっ!!」


 必死に叫びながら此方へ向かって走ってくる連中を見てギョッとした俺達だが、悪友は「あ!」と声を出す。



「コイツらさっき入ってった奴ら……うおっ!?」



 すれ違い際にその男達が目に入ったのだが、彼等は皆口……というか顔面血塗れだった。


「うきゃっ!?」


「退けやクソガキ!」


 その時、突っ込んできた血塗れの一人がマイを押し倒し、捨て台詞を吐いて走り去る。


 チッ! コイツら……


「おい! 待てや! お前らあぁっっ!!」


 瞬間、悪友は声を張り上げると、その捨て台詞を吐いた男を捕まえようと走り出す――




 ――前に何とか悪友を後ろから捕まえることに成功した俺。グッジョブ。


「待て待て。今それどころじゃないって。ドウドウドウ」


「おう! 放せや! アイツボコボコの半殺しにしてやる!」


「やめんかいアホンダラ。もう既にボコボコなってますがな」


「クソッ! あのボケが!」


 何とか悪友を宥めた俺はマイの様子を窺うと、彼女はアミの手を借り何とか立ち上がろうとしてる最中だったので、大したことなくて良かったとホッとする。


「よいしょ……マイマイ大丈夫?」


「いったたた……絶対お尻割れたぁ……」


 割れとるわ。意外と余裕あるのな……お前。


 彼女の無事も確認出来、これからどうするか考えながら旧館に目を向けると……



 ――そこで思考が停止した。



 雲に隠れていた月が顔を出し、二十メートルほど先にある旧館の入り口付近を照らす……


 すると何てことでしょう!


 そこに黒い人影の様な物が立っているのが見えたのです!


 俺は生まれてこの方お化けとか人魂のようなこちら側ではない〝あちら側〝の存在など視たことは無かった。


 だが今はどうだ? 俺の見据えるその先には、ユラユラと揺れる黒い人形の塊がハッキリ見えているのだ。


 今までそういった類いのものが視えるのは、自分の母親だけで俺は絶対にそんな能力(ちから)は持っていないと思っていた。


 なのに今は視えている……否、見えているのだ! こういった【出る】と言われる霊的な場所が俺の中に眠っていた能力(ちから)を目覚めさせたのか? とにかくヤバい! 多分今あの存在を確認出来るのは俺だけだろう……そう、今この状況を打破出来るのは俺一人だけ――



「おう、アソコ何か動いてるぞ」


「うわ……何あれ」


「誰? 誰? さっきの人達の仲間?」




な ん で す と !?



 なんてことでしょう! 自分だけにしか見えないと思っていたあの黒い人影は皆さんにも見えていたのです!


「お……お前らにもアレの存在がわかるのか!?」


 皆のあまりのチート能力の開花っぷりに驚愕する俺はつい聞き返す。


「お? ……おう。今明るいしバッチリ見えてるぞ」


「マジか相棒!」


「いや、マジかって何言ってんの猫くん!? あれ見えてなかったら目……おかしいよ? てか頭壊れた? 大丈夫!?」


「お前いちいちムカつくなあっ!?」


「お兄さんお兄さん! ドウドウドウ」


「Yes! my’angel!!」


「きもっ」


「黙れペタピン!」


 ぎゃあぎゃあと皆で騒いでいると向こうも俺達の気配に気が付いたのか、ゆっくりと此方に近付いて来ているのが分かった。


 ヤバい! 生きた人間に被害を与える事の出来る悪霊的なアチラさんに存在がバレてしまったか! と、その揺れる黒い影をジッと見つめ、覚悟を決める……すると――


 完全に月明かりの下まで出てきたのは黒い――




 ――スエットとスーツ姿の木刀らしきアイテムを装備した――



「おい! まだ誰かおるぞ!」


「ゴラァッ! 餓鬼共おぉっ! 誰の許可得ていちびっとんねんっ!」


「おお! 女おるぞ女! 捕まえろお前ら!」


「「「へいっ!」」」


アチラさんAが現れた!


アチラさんBが現れた!


アチラさんCが現れた!


アチラさん兄貴が現れた!



 ……や



ヤwwwwwwザwwwキwwwターwwwwww



「これはアカンッ!! 逃げるぞお前らっ!!」


「「「イエッ・サー!!」」」



 悪友のその言葉を合図に皆、一斉にクイックターン&猛ダッシュ!


「走れ走れ! 車まで止まるなお前ら!」


「猫くん早く行って!」


「ちょ! 押すな貧乳!」


「貧っ!? 後で覚えとけどら猫――うきゃっ!?」


 ここでまさかのチンチクリン本日二度目の転倒!


 うっは! ざまあ! お前は生け贄じゃ! good-bye洗濯板!



 ――ってあかあぁぁぁあんっっ!!



 コイツ俺の財布持っとるるるるうぅうーーっっ!!


「あぁあーっ!! クソォッ!! トオルッ!! アミちゃん連れて先行け!!」


「おうっっ!!」


「お――!? お兄さんお兄さん!?」


「アイツは絶対心配ない! 俺らは先行くぞアミ!」


「!!」


 転倒したことにより視界から消失したチンチクリンを救助すべく、悪友達にそう告げると再度クイックターン!


 前のめりに転んでいる彼女を担ぎ上げ、全身に力を込めると全力でダッシュする!


「わきゃっ!? ちょ! 猫く――どこ触っ……ぁあんんっーー!?」


「じゃかぁしぃわあぁあーーっっ!!」


「っ――!?」


 捕まればどうなるかなんて想像したくもない恐怖を無理矢理振り払い、チンチクリンを助けるため勢いよく担ぎ上げると、この状況でまさかの喘ぎ声なんてモンを出しやがったことにブチキレる! が、担いでみると彼女の身体が予想以上に軽い事が分かり、これならイケると確信した俺は力の限り走り続ける!


「猫! マイ! 早く乗れ!」


 バリケードを蹴り開け、廃病院の敷地から脱出すると悪友は目の前に車を着けて後部座席のドアを開けておいてくれていた。


「お兄さん早く早く!」


 うひゃっ!? と声を上げるチンチクリンをシートに放り投げると、再度蹴り開けたバリケードを固定。


 そして俺はそのまま開けっ放しにしていた後部座席に飛び込むと勢いよくドアを閉める。


「よっしゃ! 出せ出せ!」


「おう! お前ら掴まっとけよ!」


 その言葉と同時に俺達の車は颯爽と走り出す。周囲の者達も先に逃げた血塗れの連中を見たのだろう、ここに居た全てのギャラリー達は車に駆け込むと一目散にその場を離れようと車をシューマッハの如く急発進させている。すると後方から――



 ガシャアァアンッ!


 ……あ、誰か事故りやがった……ドンマイ。


 やはり一般人はシューマッハにはなれなかったみたいだ。


 その壮絶なクラッシュ音を聞いた悪友は車を停車させ、開いた窓から顔を出す。


 それに釣られ俺達もパワーウインドウを開け、外の様子を伺うと――



 そこには、クラッシュしてボコボコになった車から運転手が〝アチラさん〝に引きずり出され、ボコボコにされているという惨劇が繰り広げられていた……



「……おう、じゃあメシでも食いにファミレスでも行くか」


「「「イエッ・サー!!」」」


 ――こうして、俺達の心霊スポット体験は――





 ――ある意味ホンモノのアチラさんとの遭遇からの逃亡と言ったガチ恐怖体験で幕を下ろしたのであった。


 突撃! 隣の廃病院!


     完。






 ――


 ―


  ――車内にて――




 何とか廃病院から生還した俺達は、悪友の運転で暗い国道を走り続け、現在途中にあったコンビニの駐車場で休憩中。悪友はライターを落としたとの事で、そのついでに皆の飲み物を買いに、店内にて買い物中である。


 俺はタバコを喰わえたまま、マイと後部座席で一気に抜けた緊張感の反動でぐったりしていた。


 アミは余程疲れたのか、結構なボリュームでカーステから流れているはずのj-POPを子守唄に、助手席で小さな寝息をたてている。


 すると不意に隣のマイが話しかけてきた。



「……ねぇ、猫くん」


「あ? どしたん? タバコか?」


「違うし! ウチらはタバコ吸いません! てか未成年ですから!」


「あ、そか。うっかり」



 そういやコイツら年下だったな。


「だからアミも俺の事をお兄さんっ呼ぶの?」


「ん? ああ、言ってなかったか。ウチら猫くんの事結構前から知……って! そうじゃなくてさ、あの……」



 下を向いたままモジモジし出すチンチクリンで気が強い筈の可愛い女の子。てか前から何?


「何よ? どしたん? 気持ち悪いな……」


「ちょ……気持ち悪いとか酷くない? じゃなくて!」


 そう言うと彼女は顔を耳まで真っ赤にしながらシートに両手を付き、グッと俺に近付く。


「さっき……ありがとうね? 嬉しかった」



 ……




     !?


 ウホッ! デレた!? 問答無用でグーパンする女がデレに走った!?



 恥ずかしそうにそう告げる彼女の少し開いたシャツの胸元からチラリと見える谷間――



「――とかが少しはあれば俺もドキッとしたのに」


「はあ? ……もう。このどら猫サイテー」


「どいたしまして〜」


「あはは。ま、いーや! とにかくありがとうね?」


「気にすんな、当然の事したまでよ? 事のついでってやつな」



「え――そんな当然の事って……っ! 猫くんって……ウチのこと……?」


「当たり前じゃないっスか! ほらほら、感謝の気持ちがあるなら出すモン出さんかーい」


「――ちょ!? 胸元引っ張んな変態!」


「ならサッサと出せよ」


「――なっ!? え!? ウソ!? こんなトコで本気で言ってんの!?」


「いや、当たり前っしょ。普通常識よ? それ」


「じょっ――そんな常識聞いたことないわ! うぅ……助けて貰ったの……ホントに嬉しかったし……分かった……だ、出すよ」


「おう、分かりゃあいいよ! ならチャチャッと出してくれ、俺もコンビニ行きたいし」


「チャチャッとて! ちょ……酷くない? ウチにも心の準備ってものが」


「何で俺のモンにお前が心の準備必要なん? アホかお前は?」


「えぇえーーっ!? 何時からっ!? ――何時から猫くんのモノになったん!?」


「は? だから何時からも何も最初から俺のモン! しつこいなお前も!」


「うっ……最初からって……猫くん……そんな強引な性格してたなんて……わ、分かったよ……出すよ……でも……少し……だけにして?」


「アホか。少してお前全部出さんかい。お前は俺の何ですか?」


「な――何って……ウチ……は……猫くんの……ウチは……猫くんは……ウチの……」


「早よせんかい。ズボン脱がすぞお前」


「――ひゃあっ!? ……分かった! 分かったよ! 分かったから! 自分で出すから!」


「あ……お前トロトロしてるからアイツ店から出てきたし」


「えっ――!? そ……出せって言ったり遅いって言ったり! じゃあ二人きりになれる所ですればいいじゃん!! こんなん酷いよっ!!」


「とりあえずココでいーわ。てかお前服捲り上げてヘソ出して何してんの? 暑いの?」


「はぁっ!? 猫く……え? 何って……猫くんが……出せって? ……え?」


「え? お前ズボンのケツポケじゃないん? 財布」


「……さ……財布?」


「うん。財布」


「え?」


「だから財布」


「え?」


「キミハーボクノオサイフーオシリニーソウニュウトカイテーイレテルデショー?」


「さ……いふ? ウチの……事好……きとか……ウチのお尻好……き……ささ……財……布!?」


「だからさっきから言ってるやろが! 早よ返せやこのガセ乳B地区のみが突起物つるとんたんが!」





 財布で殴られた。


 ―――


 ――


 ―



 凶悪勘違い貧乳娘の物理強攻撃がクリティカルヒットしてから半時ほど……現在四人でゴロゴロしながら今日の出来事を振り返っていた。


「ああ、それでお兄さん鼻にティッシュ詰めてたの?」


「いやマジコイツ鬼畜。加減て言葉ママのお腹に忘れてきたんじゃね? チンコと一緒に」


「どーゆー意味かな? どら猫くん?」


「いやまあ、俺はお前も悪いと思うぞ? あ。猫、ライター貸してくれ」


「お前何しにコンビニ行った」


 現在時刻は午前二時。当初の流れでは、ファミレスで食事をしてから解散の予定だったのだが、思わぬアクシデント(鼻血)により急遽予定を変更して全員俺の家に転がり込んでいる。



「とりあえず今日は疲れたしちょっとここで寝てから二人共送るわ。ゴメンな? こんなトコで。猫、エアコン強くしてくれ」


「あたしもちょっと疲れたーお兄さんお兄さん毛布貸してくれたら嬉しいな?」


「アミ、毛布じゃなくて布団借りよ? いくら畳の部屋でも毛布だけじゃ余計疲れるし! 猫くん布団ちょーだい」



 ……コイツら(特にトオルとマイ)人ん家で何このド厚かましい態度?


 しかしやっぱり女の子をそのまま畳の上で雑魚寝させるのも可哀想だなと思い、俺は押し入れからセミダブルの布団を二枚取り出すとそこに敷いてやる。


「ほら、敷いたぞ。さっさと寝腐れ招かれざる珍客よ」


「猫くんさんきゅー!」


「ありがとうお兄さん!」


「うひょーっ! ア〜ミ子ちゃ〜ん!」


「ちょ!? マイ! 揉むな!」


 と、布団に寝転がるアミ目掛け某怪盗三世ダイブをかます貧乳。こんな時間に止めろや。


「いやぁ、若いってすばらしいな。猫……ゲプッ」


 振り返ると、買い置きしていた新品のコーラを冷蔵庫から取り出して、さも当たり前の様にらっぱ飲みしてた悪友。お前勝手に開けんなや。


「てゆーかてゆーか走ったから汗ベタベタで気持ち悪いー」


「うーん、確かにめっちゃ汗かいたねぇ。ま、特にアミは汗溜まるもんね〜」



 と、チンチクリンはアミの胸元を引っ張り、深い谷間に手を突っ込む。


 Niceだチンチクリン!



「ちょ!? ダメダメ挟むな挟むな!」


 このクソ夜中のクソ疲れてる時に女性陣は大変羨まし……元気である。


「うっは! この汗のペタペタ感がまたエロっぽい……じゃなくて色っぽい」


「うぅ……マイのアホぉ」


 女の子座りで胸元を手で覆い隠しながら変態ちっパイをキッと睨むアミ。


 う〜ん。グッジョブ。


 でも確かに今日も暑かったし、ましてや女の子なので汗でベトベトのままは嫌なのだろうな……と、考えているとチンチクリンは「よしっ!」と大きな声を上げる。


 だから時間考えろや。


「猫くんお風呂貸して?」


 ……まあ、そう来るとは思っていた。


 俺は「はいはい」と、立ち上がると風呂場にタオルを準備しに行く。


「お! 気が利くねー! 出来る男アピってる?」


「アホか。ビッチャビチャのまんま出て来られたらコッチが迷惑なんじゃ!」



「あー。納得」


 俺はバスタオルをチンチクリンの頭に被せるとサッサと行ってこいと告げ、シッシと追い払う。


「うきゃ!? 女の子もっと丁寧に扱え!」


 俺にギャンギャン噛みついた後、マイはアミに一緒に入ろうと催促する。


「え〜マイ絶対揉むから止めとく〜」


 このバカ断られてやがる! ざまぁ!


「ダメダメ! あんた一人でこの部屋居てる方が何かと危ないから! ほら! 見て! そこの泥棒猫の獲物を狙う不埒な目付き! きっしょ」


「シバくぞお前!!」


 なんちゅうこと抜かしやがるこの洗濯板は! てかきしょいとか言うなや! とにかくそんなことするか! とチンチクリンに言い返すが、このバカは疑いの眼差しを突き返してくる。


「ほぉー、へえー、じゃあどんなシチュエーションでもアミに手を出す事は無いと?」


 廊下の前で腕を組みながらエラそうに言い返してくるチンチクリンに少しムッとする。


「おう、例え全裸で寝られてても朝まで優しく頭ポンポンしながらテトリスレベル99クリア出来るわい!」


「いや、お前……テトリスて流石にそれはないわ……何で数ある新作ゲームの中から今更テトリスチョイスした?」


「うわ。猫くんテトリスてそれ一昔前のヤンキーじゃん……」


「……お兄さんお兄さん流石にあたしもそれはヘコむ……ってか引く」


 なんということでしょう!


 紳士を貫かんと強調するあまり、善かれと思った発言が逆効果になってしまったのです! これには流石の匠もお手上げです!


「い……いや、これは言葉のあやっつーか何つーかそんなやましいってかやらしい気持ちは無いとゆーかもっと気持ちは大事にしたいとゆーか決してアミちゃんに魅力が無いとかそんなんじゃなくて至ってフツーに清らかな――」


「「猫テンパ乙。そして超ざまぁ!!」」


「じゃあかぁしぃわっ! 外野っっ!」


 俺の自分でも何言っちゃってんのコイツ? イッちゃってんの? 発言に爆笑する悪友と貧乳。コイツらめっちゃ殴りたい!!


 すると俺の前に陣取り、正座をしたアミが口を開く。


「うんうん、分かったよお兄さん! お兄さんはあたしに変なことは絶対しない宣言してるのだね? だね?」


「だね!!」


「じゃあじゃあ絶対胸触ったり強引にエッチな事とかしたりしないのだね? だね?」


「だね!!」


「じゃあじゃあ胸じゃなくてあたしのこと大好きなのだね? だね?」


「だね!!」


「じゃあじゃああたしのこと大切にしてくれるのだね? だね?」


「だね!!」


「じゃあじゃあお兄さん一緒に入ろ!」


「だね!!」


「だね!! っじゃねーわどら猫!!」


 瞬間チンチクリンの振るったタオルは、しなる鞭の様に俺の顔面を強打する。


「ぶはあっ!? 何すんねん! チンチクリン!」


「どさくさ紛れで変なこと言うからっしょ! バカ猫!」


「う〜ん、やっぱりあたし一人で入ってきます」


「な……んだと……!?」


 そう言うとアミは自分の分のタオルを手に、廊下を歩いて行くのだった。


「ガッデム!!」


「いやお前そら当然だわ。あ、猫タバコ一本くれ」


「ガッデム!!」


「猫くん残ね〜ん! 可哀想だしウチが一緒に入ったげよか? ん〜?」


「ガッデム!! あ、俺もタバコ吸お〜っと」


「無視すんなクソ猫!!」


「痛オルっっっ!?」


 無駄に高い攻撃力を誇るタオルを二度受け、今日一日の疲労も重なってか、俺は倒れこむとそのまま朝まで布団と一体化した。


 翌朝、目が覚めると両腕に何か絡み付かれている感覚がしたので見てみると、左右の腕には――




 ――普通に腕に巻き付いた毛布と、悪友がしがみ付いていた。



   ガッデム!!



「あ、お兄さんおはよう」


「猫くん寝覚め乙」



 まあ、期待はしていなかったが当然の如く彼女らは隣の布団で寝ていたらしい。


「うわぁ……マジ寝覚め最悪」



「あはは! ウチらじゃなくて残念無念〜ん!」


「お前の残念胸〜ん! には負けるけどな」


「くっ」


「あはは、お兄さんはやっぱり全然似てないねー」


「うん、ほーんと全然似てないよこのお兄さん」


「え?」


 何のことだろう? そう言や昨日も何か意味深な事言ってたな。ちょっと気になる。


 俺は彼女達に答えを求めようとした時、隣で爆睡をかましていた悪友がバイオバリのゾンビのように腹筋だけの力で起き上がり口を開く。軽くホラーだわ。


「おは。そうそう言うの忘れてたけどこの娘達……お前の義理の妹のクラスメートな」


「ん?」



「クラスメートのアミでーすサイズぴったりなんで猫妹ちゃんとよく学校で服交換して遊んでまーす」


「同じくクラスメートのマイでーす……ってかウチ小学生の時遊びに行った事あったよ? やっぱ憶えてない?」



「……全く」


「まあ、七、八年前の事なんて憶えてないか!」


「……全く」


 なんとこの二人は妹の友達だったそうな。まあ、俺も妹と一緒に住んでたのはは五年も前の話しなので彼女達の事を知る術もない……ってゆーかそもそも血の繋がりもないのに似るわけないわ……


 にしても世間て狭いよね? みたいな?



「さて、それじゃあみんな起きたし……コンビニの袋、袋……っと」


 悪友はまた俺のタバコに火を着けると、紫煙を吐き出す。だからお前昨日二回もコンビニ何しに行ったん?


 そしてコンビニ袋の中から、俺達の前にポンと放り投げた週刊誌サイズの大きな本に目を向けると――



【最恐!の廃旅館全国編】



「今日はどれ行く?」


「「「行かんわっっ!!!」」」





 ……しかしこれはフラグであり伏線でもあった。



    END


 最後までお付き合い頂き誠にありがとうございました。



 心霊スポットとか突撃したことあるよーって人、一体何人いるんでしょうか?怖かった?面白かった?ガチでヤバかった?……すごく気になります。そんなお話聞いてみたいです。


 自分は何度か友人に連れられて突撃する羽目になったことはありました。ですが一度もアチラさんとは遭遇することはなかったので本当に運が良かったと思います。


 ま、自分は霊感無いし見えない聞こえない感じないなのでww


 しかし突撃シリーズはまだ墓場、トンネル、タクシーの乗客が消えた山、廃旅館、曰く付きラブホなどあるので、機会があれば書きたいと思います。リクエストされればシッポ立てて喜びます。猫だけに。はい。




 では皆さん、また何処かでお会いできたらいいですね!




 ちなみに生きた方のアチラさん遭遇はガチですwww



 それではごきげんよう!

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[良い点] 描写がおもしろい 主人公の(本人?)(笑)の心の声がとくによくわかる [気になる点] 主人公の心の声 いろんな例えが使われているが(まんがとか?) 知らないものがあったので そこだけわから…
[良い点] わらたww テンポよく 読めたww ありそでありえない…が あるんだろなぁ日常リアルが あった(* ̄ー ̄)
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