エピローグ
ゆっくりと目を開けると、そこは見覚えのある懐かしい部屋だった。隣にはファンメモの十巻が落ちている。
あたし、三次元に戻って来たんだ……。
あたしは体を起こした。髪も伸びてるし、服もあの時のままだった。
時計に目をやると、夜の八時四十分。
暫くボーっとしてから床に落ちたマンガを元に戻し、部屋を出てリビングに向かった。すると、ママとパパが手を組んだまま暗い顔をして椅子に座っていた。
「ママ、パパ……?」
あたしの声に気付き、二人がぱっと顔を上げる。ママはあたしを見るなり瞳に涙を浮かべる。
「恋……! 今までどこにいたの!? 晩御飯できたって呼んだ時は返事したくせに、部屋に行ってもいないんだもの。どこ探してもいないし、警察に連絡しようかと思っていたところよ」
ママはそう言うなり立ち上がって、あたしを強く抱きしめた。
「でも、無事で良かった……!」
「ママ……」
あたしもママをぎゅっと抱きしめた。たった一時間四十分いなかっただけで、こんなにも心配してくれる人がこの世界にはいるんだ。この世界も案外捨てたもんじゃないと思った。
次の日、あたしは凄く久しぶりな感覚の中、大学へ向かった。
通い慣れた道のはずなのに、自分が今三次元の世界にいるという奇妙な感覚が押し寄せてくる。立体の建物の間に道があり、凸凹の空間の中に自分が存在している。ファンメモの世界でも立体だったけど、何故だか見え方が違う。
これがあたしの世界。
どうしてファンメモの中に入ってしまうという不思議体験ができたのか分からない。だけど、それはきっとあたしの気持ちが塞ぎ切っていて、自分に自信が無くて、この世界に嫌気がさしていて、二次元の世界に強い憧れを抱いていたからなんだと思う。
正直、自分の世界に戻って来た時は残念に思った。やっと雅と両想いになれて、その先も雅と生きていきたいと思った。だけど、やっぱりあれは非現実なんだと思う。
残念だとは思ったけど、不思議と嫌じゃなかった。清々しい、晴れ晴れとした気分があたしを満たしていた。あたしでも頑張ればマンガの主人公のようになることができるんだって分かったから。
そう、きっと誰もが自分が主人公のストーリーを歩んでいるんだ。
あたしは空に浮かぶ眩しい太陽を見上げて、にっと微笑んだ。
今日も、あたしが主人公のストーリーが始まるんです!!
二次元の世界に入ってみたい思ったこと、少しくらいはあると思います。
現実は結構ルーティンで、二次元の世界のようなドキドキワクワクはそうありません。そんな現実に嫌気がさしている子が、大好きな二次元の世界に、現実の自分そのままで入ったらどうなるのだろうと思いました。
今回は女の子に焦点を当てて書きました。ごく普通の、と言っても、マンガのような青春を送れずに強い後悔を抱いている女の子が、少女マンガの主人公として入る。彼女の理想とする青春時代を経験できるのか、経験した結果どうなるのか……。
当たり前ですが、自分の人生は自分しか経験できません。だからこそ、自分の人生の主人公は必ず自分。本作の主人公「恋」も、二次元の世界から戻ってきてそのことに気づきます。その自分だけのストーリーを明るくするのも暗くするのも自分次第。これからの「恋」は過去にばかり囚われないで、明るく楽しく生きていくのではないかと思います。というか、強くそう願っています。
長々と書いてしまいましたが、拙い文章を最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。




