第39話
「いよいよ後半戦に入ってまいりました! 続いては第四試合、料理対決でございます!」
会場にバッとライトが当たる。厨房のセットが設置され、白い料理人の制服を身に纏った雅と昴が立つ。
「それではお題を発表致します。今回お二人に作っていただくのは――日本料理です」
「――日本料理!?」
二人がほぼ同時に言葉を漏らす。これは意外と難しい。
制限時間は四十分。その短い間にどれだけのものを作れるのか。
「それでは始めて下さい!」
二人は一斉に山ほど用意された食材の中から目ぼしいものを手に取って調理を始める。
雅は食材を宙に投げたかと思うと、包丁を目にも留まらぬ速さで動かした。すると、それらは丁度良い大きさに切られて俎板に着地した。昴も卵を片手割して、素早くかき混ぜている。どちらも華麗な手捌き。こんなの初めて見たよ。
タイムアップになり、まずは昴が自分の作品を審査員の前へ運ぶ。料理は見た目は勿論、味も審査対象になる。
昴の料理は、あたしがイメージしていた日本料理だった。天ぷら、お刺身、煮物、茶碗蒸し、ご飯、お吸い物。五人の審査員はそれぞれ一口ずつ食す。ゆっくりと咀嚼しながら頷き、紙に点数や感想を書き込む。
続いては雅だった。彼が料理を審査員の前へ運ぶと、彼らは眉を顰めた。
「これは……?」
雅が彼らの前に運んだ料理は、小ぶりの鯛一匹、煮物、揚げ出し豆腐、十五穀米のご飯、蜆のお味噌汁、香の物だった。一見、ちょっと上品な家庭料理といった感じだ。
「日本料理と言われて皆さんが思い浮かべるもので勝負しても面白くないと思いましたので、少し違う角度で俺なりの日本料理を表現してみました」
雅の台詞に顔を顰めながらも、審査員たちは一口ずつ口に運んだ。
「この鯛柔らかいな。しかもほんのりと塩の甘みが……。まさか――」
審査員の一人は箸を手に持ったまま、雅を見上げた。
「さっき君は大量に塩を使っているようだったが、もしかしてこの鯛に使ったのかね!?」
「はい、鯛の塩釜焼にさせていただきました。ただ、塩が付いたままお出しすると今回の俺の料理のコンセプトが崩れてしまうと思ったので、敢えて塩は砕いて払わせていただきました」
雅がにっこりと微笑む。
審査員は煮物やご飯も口に運ぶ。
「煮物も美味しい。ご飯も炊飯器に用意されていた白米を使わず、敢えて十五穀米にしガスコンロで炊かれている。汁物も蜆を使っているところを見ると、健康を考えた美しい日本食だな」
「ありがとうございます」
雅の隣で昴が滅茶苦茶睨んでいる。
試食タイムが終わり、結果発表。審査員たちが学校名の書かれたどちらかの札を上げる。先ほど紙で提出したものは、それぞれの総合点に加算される。
「それでは審査員の方々、どうぞお出し下さい!」
五人がそれぞれ思い思いの札を上げる。
「秀麗、絢爛、絢爛、秀麗、秀麗! この勝負、秀麗学院の藤堂雅くんの勝利です!!」
二人は一礼して、更衣室で制服に着替えた。控室に戻る途中、昴は深く溜息をついた。
「……結局、俺はお前には敵わないんだな」
雅が昴に目をやる。
「本当は遥チャンのことだって本気じゃなかったんだ。前言った、一緒にいたら楽しいっていうのも、困難でも乗り越えていけそうっていうのもホント。けど、お前が遥チャンにホの字になってたから、俺が彼女を奪っちゃおうって思ったんだ。そしたら、お前相当悔しがって俺のこと羨ましく思うだろ?」
「…………………」
「いつも自由に空を飛ぶお前を地に落としてやりたかった。俺の行動理由なんてそんな陳腐なもんだよ。それを遥チャンに見破られた。正直驚いたし、腹が立った。お前に何が分かる、ってな。だけど、救われたんだ。俺の行動の裏にある心理に気付いてくれる人がいたんだ、俺のことを理解してくれる人がいたんだって」
そう話す昴は苦笑していた。雅は彼の表情を見て、一つの可能性に気付きながらも静かに言い放つ。
「昴、悪いが勝負で勝ったからには、約束通り俺が西條に告わせてもらう」
昴は一瞬目を見開いたが、すぐに、にやっと笑った。
「何言ってんだ? 俺の好みのタイプはナイスバディーな大人の女なんだよ。あんな寸胴に興味なんてこれっぽっちもねぇよ。頼まれたって願い下げだバーカ」
ついに最終試合、何が出るか分からないオールマイティーが始まる。
あたしと漣流が対峙するように会場に設置された席に座る。まるで教室の机と椅子だ。机の上には一枚の紙と鉛筆、消しゴムが用意されていた。
まさかペーパーテストじゃないですよね? と若干青白くなっていると、司会の声が聞こえてきた。
「さて、いよいよ〝真の男子競技会〟も最後となりました! 現在二勝二敗。得点は絢爛学園二八五点、対する秀麗学院は二七〇点。十五点差となっております! 第五試合オールマイティーの競技で全てが決まります!! 気になる最後の戦いは――」
バチン。
司会が言い終わる前に会場が暗くなった。停電かと思いきや、後ろでジーという音を立ててスクリーンが下りてくるのが分かる。
薄暗くてはっきりとは分からないが、司会も動揺しているようだった。企画の人と忙しそうに話している。どうやらプログラムにない演出らしい。
一体誰がそんなことを? と思っていたら、聞き覚えのある声が鼓膜に振動した。
「皆さん、どうぞ驚かないで聞いて下さい。秀麗学院、西條遥は――女性ですわ!」
何だって――――――――――――――――――――!?
会場は明らかに動揺し、ざわつき始めた。流も驚いた表情であたしを見つめる。控室で様子を見ていた雅と昴は、急いで部屋を飛び出し会場へと向かう。隼、麗、奏も事情をまだ呑み込めないままそれに続き、絢爛学園の残りのメンバーも倣って控室を飛び出した。
この声は花宮桜子……。一体、どうして彼女がそんなことを――!?
あたしがその場に固まっていると、スクリーンが急に明るくなった。すぐに振り返り映像を見て、あたしは息が止まりそうになった。
「――この写真は……!」
右半分はいつもの秀麗学院に通う学ラン姿のあたし。だけど、左半分はこの間の漣ホールディングスのパーティーでのドレス姿のあたし。しかも、どちらも顔がアップで映っている。
「そこのスクリーンに映っているのがその証拠ですわ。西條遥さんは、何故だか性別を偽って男子校である秀麗学院に潜り込み、このコンペに参加していますの。わたくしは、彼……違いますわね、彼女のコンペ失格および秀麗学院の退学を要求します!」




